解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部 第2章 §4.2.3 ★★★ H が時刻を含まなければ解は φ(q)e−iEt/ℏ に分かれる。これは Hamilton–Jacobi の S=W(q)−Et の量子版で、期待値の振動数は準位の差で決まる
時間の分離
H^ が時刻を含まないとき、解を ψ(q,t)=φ(q)χ(t) と変数分離して式 (4.2.6) に入れると、両辺を φχ で割って
χ(t)iℏχ˙(t)=φ(q)H^φ(q)
となり、左辺は t だけ、右辺は q だけの関数なので両辺は定数である。その定数を E と書くと
ψ(q,t)=φ(q)e−iEt/ℏ,H^φ=Eφ(4.2.11)
を得る。後半を時間に依らない Schrödinger 方程式、この形の解を定常状態と呼ぶ。定常状態では ∣ψ∣2=∣φ∣2 が時間に依らず、どの観測量の期待値も時間に依らない。
第1部第13章では、H が時刻を含まないとき、Hamilton の主関数を S(q,t)=W(q)−Et と分離し、特性関数 W が H(q,∂W/∂q)=E を満たすことを見た(第1部第13章)。ψ≈AeiS/ℏ という対応にこれを入れると ψ≈AeiW(q)/ℏe−iEt/ℏ で、時間依存の因子は式 (4.2.11) とまったく同じ形をしている。量子の e−iEt/ℏ の指数の符号と係数は、古典で時刻 t と組になる量が −E(∂S/∂t=−H)であったことに対応している。違いは E の取り得る値にある。古典の H(q,∂W/∂q)=E は任意の E で解を持つが、H^φ=Eφ は、φ が規格化できる(束縛状態)という条件を付けると特定の E でしか解を持たない。
固有状態の重ね合わせと振動数
H^ の固有値 En と規格直交な固有関数 φn がそろえば、一般の解は
ψ(q,t)=n∑cnφn(q)e−iEnt/ℏ,cn=∫φn∗(q)ψ(q,0)dq(4.2.12)
と書ける。時間発展は、各成分の位相を En/ℏ の速さで回すことだけになる。観測量 A^ の期待値は
⟨A^⟩(t)=n,n′∑cn′∗cn⟨φn′∣A^∣φn⟩e−i(En−En′)t/ℏ(4.2.13)
で、角振動数 (En−En′)/ℏ の振動の重ね合わせである。この角振動数を Bohr の角振動数と呼ぶ。原子が出す光の角振動数もこの差で決まる。
古典の周期運動では、作用変数 J と角変数 θ を使うと θ˙=ω(J)=dJdH で、q は角振動数 ω とその整数倍の成分を持つ(第1部第14章)。Bohr–Sommerfeld の条件 J=(n+21)ℏ で準位を作ると、隣の準位との差は
ℏEn+1−En=ℏH(J+ℏ)−H(J)≈dJdH=ω(J)(4.2.14)
で、ℏ が J に比べて小さい(量子数 n が大きい)とき、Bohr の角振動数は古典の運動の角振動数に近づく。古典の式の「微分」が量子では「差分」になっている。調和振動子では H=ωJ が J の1次式なので、差分と微分が厳密に一致し、Bohr の角振動数はすべての n で ω に等しい(総合問題)。

図 4.2.1 幅 L の箱の中の粒子で、Bohr の角振動数 (En+1−En)/ℏ を、エネルギー En の古典の往復運動の角振動数 ωcl=πv/L で割った比(点は厳密な値、点線は式 (2n+1)/(2n))。n が大きいほど 1 に近づく。例題 4.2.3
例題 4.2.3 箱の中の粒子で Bohr の振動数と古典の振動数を比べる ★★★
オリジナル幅 L の箱(0<q<L で V=0、外では V=∞)に閉じ込めた質量 m の粒子を考える。
- (1) φn(q)=2/Lsin(nπq/L)(n=1,2,…)が H^φ=Eφ を満たすことを確かめ、En を求めよ。L=1nm の電子について E1 と E2−E1 を eV で求め、E2−E1 に対応する角振動数を求めよ(m=9.109×10−31kg)。
- (2) エネルギー E で壁の間を往復する古典の粒子の角振動数 ωcl(E) を求め、E=En での値を求めよ。
- (3) Bohr の角振動数 (En+1−En)/ℏ と ωcl(En) の比を求めよ(図 4.2.1)。また、Bohr の角振動数が ωcl(En+1/2)(n を n+21 に置き換えたエネルギーでの古典の角振動数)に厳密に一致することを示せ。
解答
(1) 箱の中では H^=−2mℏ2∂q2 で、φn′′=−(nπ/L)2φn なので
En=2mℏ2(Lnπ)2=2mL2n2π2ℏ2.
φn(0)=φn(L)=0 で壁の条件も満たす。L=1nm の電子では E1=6.02×10−20J=0.376eV、E2−E1=3E1=1.13eV、角振動数は (E2−E1)/ℏ=1.71×1015s−1 である。
(2) 速さ v=2E/m で幅 L を往復するので周期は 2L/v、角振動数は ωcl(E)=2πv/(2L)=πv/L=Lπ2E/m。E=En では v=nπℏ/(mL) なので ωcl(En)=nπ2ℏ/(mL2)。
(3) (En+1−En)/ℏ=((n+1)2−n2)π2ℏ/(2mL2)=(2n+1)π2ℏ/(2mL2) なので、比は
ωcl(En)(En+1−En)/ℏ=2n2n+1
で、n=1 で 1.5、n=10 で 1.05 と 1 に近づく。n+21 での古典の角振動数は (2) の式で n→n+21 として (n+21)π2ℏ/(mL2)=(2n+1)π2ℏ/(2mL2) で、Bohr の角振動数と一致する。箱では H=π2J2/(2mL2) が J の2次式で、その差分 (H(J+ℏ)−H(J))/ℏ は中点 J+ℏ/2 での微分 dJdH に厳密に等しい。式 (4.2.14) の近似が、中点を取ると箱では等式になる。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの ℏ/J→0(量子数 n が大きい) | 証明 条件付き(ポテンシャルが滑らかで転回点が孤立。箱の壁のように滑らかでない場合は J=nℏ に読み替える) | 行き先 近似の数理 第7章
境界条件も H^ の一部
量子力学では、V の関数形だけでなく、波動関数に課す境界条件まで決めて初めて H^ が決まる。同じ微分演算子 −2mℏ2∂q2 でも、境界条件が違えば固有値も固有関数も違う。
壁の条件は無限に高いポテンシャルの極限
上の例題の壁の条件 φ=0(Dirichlet 条件)は、壁の外のポテンシャルの高さを無限大にした極限である。壁の外の高さを V0 とし、右の壁から外へ測った距離を x とする。エネルギーが壁より低いとき、壁の外の解は
φ∝e−κx,κ=ℏ2m(V0−E)
と減衰する。壁の位置で波動関数とその導関数がつながるので、内側の解は壁で φ′/φ=−κ を満たす。V0→∞ では κ→∞ となる。導関数が有限のまま比が発散するので、壁での値は 0 に近づく。
周期境界条件は空間のつながり方の条件
周期境界条件 φ(q+L)=φ(q) は、これと違う種類の条件である。どんなポテンシャルを選んでもこの条件は作れない。線分の両端を同じ点とみなして空間を輪(3次元なら3次元のトーラス)に変える、空間のつながり方(トポロジー)の条件だからである。2つの条件で V=0 の固有関数を比べると次のようになる。
| 壁 φ(0)=φ(L)=0 | 周期 φ(q+L)=φ(q) |
| 固有関数 | sin(nπq/L) | eikq |
| 波数 | k=nπ/L(n=1,2,…) | k=2πn/L(n=0,±1,±2,…) |
| 縮退 | なし | ±k で2重(k=0 だけ1重) |
| 波の形 | 定在波 | 進行波 |
| 運動量 | 保存しない(壁で反射する) | 保存する(輪に沿った並進の対称性が残る) |
周期境界条件では輪に沿った並進が対称性として残るので、運動量の演算子 p^ が H^ と交換する。そのため固有関数を運動量の固有関数に選ぶことができる。壁があると並進の対称性が壊れ、±k の進行波を重ねた定在波だけが固有関数として残る。
ねじれた周期と磁束
周期の条件はねじることもできる。φ(q+L)=eiαφ(q) とすると、許される波数は k=(2πn+α)/L にずれる。
これは第4部第6章の Aharonov–Bohm 効果で、輪を貫く磁束をゲージ変換で境界条件へ移した式と同じ形である。電荷 qe の粒子が輪を貫く磁束を囲むなら、α=−qeΦB/ℏ にあたる。ベクトルポテンシャルを H^ に書く代わりに、境界条件のねじれとして書いたことになる。
端の条件はほかにもある
半直線 q≥0 の端の条件を考える。実数の定数を1つ選んで φ′(0)=cφ(0) と置くと、どの値でも演算子はエルミートになる。
部分積分で出る端の項 [φ1∗φ2′−φ1∗′φ2]q=0 は、2つの関数が同じ条件を満たせば消えるからである。定数 c の違いは、端に置いた短距離の相互作用の強さの違いにあたる。どの条件で H^ が自己共役になるか(自己共役拡張)の一般論は近似の数理 第3章で扱う。
大きな箱では示量的な量は境界条件によらない
箱が大きいと、エネルギー E 以下の状態の数は壁でも周期でも L2mE/(πℏ) に近づく(次の例題)。違いは端の数個の状態だけで、L に比例する量の中ではその割合が 1/L で消える。固体のバンドの計算で周期境界条件を使うのは、この性質に基づいた計算の都合による選択である。
例題 4.2.4 壁の高さと、壁・周期・ねじれた周期の状態の数え方 ★★
オリジナル質量 m=9.109×10−31kg の電子を考える(ℏ=1.0546×10−34Js)。
- (1) エネルギー E=0.376eV の電子が壁にしみ込む深さ 1/κ を、壁の高さ 1 eV と 100 eV のそれぞれについて求めよ。
- (2) 長さ L の区間で V=0 とし、次の量を定義する。
X=πℏL2mE
エネルギー E 以下の状態の数を、壁の条件と周期境界条件のそれぞれで X を使って表せ。また X=20.4 のときの値を求めよ。3. (3) ねじれた周期 φ(q+L)=eiαφ(q) で α=π(反周期)とする。許される波数を求め、縮退の様子を周期境界条件と比べよ。
解答
(1) V0−E をジュールに直して κ=2m(V0−E)/ℏ に入れる。
V0=1eVV0=100eV:κ=4.05×109m−1,1/κ=0.247nm,:κ=5.11×1010m−1,1/κ=0.0196nm.
壁を100倍高くすると、しみ込む深さは約 1/100 に縮む。壁を無限に高くすると深さは 0 になり、壁の条件 φ=0 に近づく。
(2) 固有値は Ek=ℏ2k2/(2m) なので、エネルギーが E 以下という条件は
∣k∣≤ℏ2mE
と同じである。
- 壁の条件では k=nπ/L なので、条件は 1≤n≤X になる。満たす整数は ⌊X⌋ 個である。X=20.4 では 20 個。
- 周期境界条件では k=2πn/L なので、条件は ∣n∣≤X/2 になる。満たす整数は 2⌊X/2⌋+1 個である。X=20.4 では 21 個。
どちらも X との差は 1 未満で、X∝L が大きくなると比は 1 に近づく。
(3) eikL=eiπ から k=(2n+1)π/L である。k=0 が許されないので、すべての準位が ±k の2重に縮退する。周期境界条件の k=0 の1重の準位が無くなった分だけ、状態の数え方が1つずれる。この差も端の1個分で、L が大きければ示量的な量には現れない。
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