解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第1部 第13章 §1.13.1 ★★★ K≡0 となる母関数を探す条件が Hamilton–Jacobi 方程式。解が見つかれば、運動は微分だけで取り出せる
前の章(第1部第12章)では、時間発展そのものが正準変換の連続であることから入り、母関数で正準変換を作る方法を見た。この章では、その母関数を1つの目的に使う。新しい変数 (Q,P) での Hamiltonian K が恒等的に 0 になるように母関数を選べば、新しい変数の Hamilton 方程式は Q˙=P˙=0 となり、新しい変数はすべて定数になる。運動を解く問題は、そのような母関数を見つける問題に置き換わる。母関数が満たすべき条件を書き下すと、1本の偏微分方程式
H(q,∂q∂S,t)+∂t∂S=0
が出る。これが Hamilton–Jacobi 方程式で、未知関数 S(q,t) を Hamilton の主関数と呼ぶ。
この章で作る道具と出てくるものは次のとおりである。1.13.1節で上の方程式を母関数の条件として導き、その解から運動を取り出す手順(Jacobi の定理)を示す。1.13.2節では同じ S を別の側から作る。真の経路に沿った作用を終点の関数とみなすと、それが Hamilton–Jacobi 方程式を満たし、しかも時間発展という正準変換の母関数になっている。1.13.3節から1.13.5節が「出てくるもの」で、時間を分離した特性関数 W(q) による1次元の運動、中心力の変数分離による Kepler の軌道、そして S を波の位相とみなす見方(作用の波面・特性曲線・Schrödinger 方程式の古典極限)を順に扱う。1.13.6節では、エネルギー保存から時間を積分で出す学部の解き方、WKB 近似の公式が、この章の式のどこにあたるかを並べる。
母関数への条件
自由度 f の系を一般化座標 q=(q1,…,qf) と正準運動量 p=(p1,…,pf) で書き、Hamiltonian を H(q,p,t) とする。前の章で、旧い座標 q と新しい運動量 P を引数にとる母関数 F2(q,P,t) から
pi=∂qi∂F2,Qi=∂Pi∂F2,K=H+∂t∂F2(1.13.1)
によって正準変換 (q,p)→(Q,P) が作れることを見た。新しい変数の時間発展は新しい Hamiltonian K の Hamilton 方程式 Q˙i=∂K/∂Pi, P˙i=−∂K/∂Qi に従う。
ここで K≡0 となる F2 を選べたとする。右辺がどちらも 0 なので Q˙i=P˙i=0 で、2f 個の新しい変数はすべて定数になる。新しい運動量の値を Pi=αi、新しい座標の値を Qi=βi と書くと、式 (1.13.1) の2番目の式 βi=∂F2/∂αi はq と t と 2f 個の定数の関係になり、これを q について解いたものが運動 q(t) である。K≡0 の条件は、式 (1.13.1) の1番目の式で p を ∂F2/∂q に置き換えると
H(q1,…,qf, ∂q1∂S,…,∂qf∂S, t)+∂t∂S=0(1.13.2)
になる。ここで F2 を S(q,α,t) と書き直した。式 (1.13.2) を Hamilton–Jacobi 方程式、その解 S を Hamilton の主関数と呼ぶ。S は q と t の関数として引数つきで書き、作用汎関数 S[q](角括弧)と区別する。両者の関係は1.13.2節で明らかになる。
式 (1.13.2) は f+1 個の変数 (q,t) についての1階の偏微分方程式で、未知関数 S の微分について一般に非線型である。2f 本の連立常微分方程式(Hamilton 方程式)を、1本の偏微分方程式に置き換えたことになる。偏微分方程式を解くほうが易しいとは限らないが、変数が分離できる系(1.13.3節・1.13.4節)では、積分を並べるだけで運動が求まる。
完全解と Jacobi の定理
偏微分方程式には解がいくらでもあるので、運動を取り出すにはどのような解が要るかを決めておく。
定義 1.13.1(完全解)
Hamilton–Jacobi 方程式 (1.13.2) の解 S(q,α,t) が f 個の定数 α=(α1,…,αf) を含み、
det(∂qi∂αj∂2S)=0(1.13.3)
を満たすとき、S を完全解と呼ぶ。S に定数を足しても式 (1.13.2) は満たされるが、その足し算の定数は α に数えない。
条件 (1.13.3) は、f 個の定数が互いに独立に S の q 依存性に入っていることを表す。これが成り立てば、βi=∂S/∂αi を q について解くことができる(陰関数定理)。
定理 1.13.2(Jacobi の定理 ★★★)
S(q,α,t) を完全解とし、β=(β1,…,βf) を定数とする。
∂αi∂S(q,α,t)=βi,pi=∂qi∂S(q,α,t)(i=1,…,f)(1.13.4)
の1番目の式を q について解いて得た q(t) と、それを2番目の式に入れた p(t) は、Hamilton 方程式を満たす。2f 個の定数 (α,β) を動かすと、Hamilton 方程式の解がすべて得られる。
証明
K≡0 の正準変換として前の章の結果から従うが、ここでは式 (1.13.2) だけを使って直接確かめる。q(t) に沿って ∂S/∂αi が一定なので、その時間微分は
0=dtd∂αi∂S=∂t∂αi∂2S+j∑∂qj∂αi∂2Sq˙j.
一方、式 (1.13.2) は α の値によらず恒等的に成り立つので、αi で微分してよく、連鎖律から
∂t∂αi∂2S+j∑∂pj∂H∂qj∂αi∂2S=0
を得る(∂H/∂pj は p=∂S/∂q で評価する)。2式を引くと ∑j(∂2S/∂qj∂αi)(q˙j−∂H/∂pj)=0 で、条件 (1.13.3) から q˙j=∂H/∂pj が従う。
次に pi(t)=∂S/∂qi を時間で微分すると p˙i=∂2S/∂t∂qi+∑j(∂2S/∂qj∂qi)q˙j である。式 (1.13.2) を qi で微分すると、H は qi に直接と p=∂S/∂q を通しての2通りで依存するので
∂t∂qi∂2S+∂qi∂H+j∑∂pj∂H∂qj∂qi∂2S=0.
いま示した q˙j=∂H/∂pj を使って2式を比べると p˙i=−∂H/∂qi を得る。最後に、任意の初期値 (q(t0),p(t0)) に対して、p(t0)=∂S/∂q を満たす α が選べれば(条件 (1.13.3) がその点の近くでこれを保証する)、β は βi=∂S/∂αi で決まり、その初期値を通る解が得られる。
定理の手順は、微分方程式を解く操作を一切含まない。完全解が手に入れば、あとは偏微分と代数方程式だけで運動が決まる。手間はすべて、完全解を見つける段階にある。
自由粒子の完全解
1次元の自由粒子 H=p2/(2m) の Hamilton–Jacobi 方程式は 2m1(∂S/∂q)2+∂S/∂t=0 である。S=αq+g(t) と置くと α2/(2m)+g′(t)=0 なので、S(q,α,t)=αq−α2t/(2m) は完全解になる(∂2S/∂q∂α=1=0)。Jacobi の定理から β=∂S/∂α=q−αt/m で q(t)=β+αt/m、p=∂S/∂q=α となる。定数 α は運動量、β は時刻 0 での位置である。
例題 1.13.1 自由粒子の別の完全解 ★★
オリジナル1次元の自由粒子 H=p2/(2m) について、a を定数として S(q,a,t)=2tm(q−a)2(t>0)を考える。
- (1) S が Hamilton–Jacobi 方程式を満たし、完全解の条件 (1.13.3) を満たすことを示せ。
- (2) Jacobi の定理で q(t) と p(t) を求めよ。
- (3) (2) の定数 a, β は物理的に何を表すか。本文の例の (α,β) と比べよ。
解答
(1) ∂S/∂q=m(q−a)/t, ∂S/∂t=−m(q−a)2/(2t2) なので
2m1(∂q∂S)2+∂t∂S=2t2m(q−a)2−2t2m(q−a)2=0.
∂2S/∂q∂a=−m/t=0 なので完全解である。
(2) β=∂S/∂a=−m(q−a)/t を q について解くと q(t)=a−βt/m。p=∂S/∂q=m(q−a)/t=−β で、運動量は一定である。
(3) t→0 で q→a なので、a は時刻 0 での位置、−β は運動量である。本文の例では α が運動量、β が時刻 0 の位置で、役割が入れ替わっている。どちらからも同じ自由粒子の運動が得られるが、完全解の選び方によって、定数のうちどれを新しい運動量 P と呼び、どれを新しい座標 Q と呼ぶかが変わる。完全解は1つに決まらず、どの完全解を使っても、Jacobi の定理で得られる運動の全体は同じである。
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