解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第1部 第13章 §1.13.2 ★★★ 真の経路に沿った作用を終点の関数とみなすと Hamilton–Jacobi 方程式の解になり、時間発展という正準変換の母関数になる
終点を動かしたときの作用の変化
前の節では Hamilton–Jacobi 方程式を母関数の条件として導いたが、その解 S が何を表すかはまだ分からない。ここでは第1部第3章・第4章の変分の道具を当てて、S が作用であることを示す。
時刻 t0 に点 q0 を出て時刻 t に点 q に着く真の経路(Euler–Lagrange 方程式の解)が1本だけあるとし、その経路に沿った作用
S(q,t;q0,t0):=∫t0tL(q(t′),q˙(t′),t′)dt′(q(t′) は真の経路)(1.13.5)
を、終点 (q,t) と始点 (q0,t0) の普通の関数とみなす。作用汎関数 S[q] が「経路を入れて数を返す」のに対して、この S は「端点を入れて、その端点を結ぶ真の経路の作用を返す」。
終点の位置を q から q+δq へ動かすと、真の経路も少し変わる。第1部第4章で示したとおり、作用の第1変分は内部の Euler–Lagrange 方程式の項と端の項に分かれ、真の経路では内部の項が消えて端の項だけが残る。始点を固定し終点だけを動かすので
δS=i∑piδqit,すなわち∂qi∂S=pi(1.13.6)
を得る。pi=∂L/∂q˙i は終点に着いたときの正準運動量である。
時刻 t についての微分は次のように出す。終点を真の経路そのものに沿って動かすと、S は被積分関数の値 L の割合で増える。一方、そのとき (q,t) は dqi=q˙idt だけ動くので、連鎖律から
L=dtdS経路に沿って=∂t∂S+i∑∂qi∂Sq˙i=∂t∂S+i∑piq˙i.
よって ∂S/∂t=L−∑ipiq˙i=−H である。これと式 (1.13.6) を合わせると H(q,∂S/∂q,t)+∂S/∂t=0 となり、真の経路の作用 (1.13.5) は Hamilton–Jacobi 方程式 (1.13.2) を満たす。始点についても同じ計算で、端の項の符号が逆になるので ∂S/∂q0i=−p0i, ∂S/∂t0=H(q0,p0,t0) となる。まとめると
dS=i∑pidqi−Hdt−i∑p0idq0i+H0dt0.(1.13.7)
時間発展の母関数
式 (1.13.7) を前の章の母関数の言葉で読む。始点 t0 を固定し、始点の位置 q0 を新しい座標 Q とみなすと、S(q,t;Q) は旧い座標 q と新しい座標 Q を引数にとる母関数 F1(q,Q,t) の形をしている。F1 の規則 p=∂F1/∂q, P=−∂F1/∂Q に式 (1.13.7) を当てると、新しい運動量は P=−∂S/∂q0=p0 になり、新しい Hamiltonian は K=H+∂S/∂t=0 になる。つまり、真の経路の作用は「時刻 t の状態 (q,p) を時刻 t0 の状態 (q0,p0) へ戻す正準変換」の母関数である。前の章で「時間発展は正準変換」と述べたが、その変換の母関数を具体的に書くと作用になる。始点の位置 q0 を定数 α とみなせば、S(q,t;q0,t0) は1.13.1節の意味での完全解の1つで、Jacobi の定理の β=∂S/∂α=−p0 は始点の運動量(の符号を変えたもの)である。
真の経路が1本でなくなる所
この構成は、端点を結ぶ真の経路が1本だけ、という仮定に頼っている。調和振動子 L=21mq˙2−21mω2q2 では、q0 を出る真の経路は q(t′)=q0cosωt′+(p0/mω)sinωt′ で、ωt=π では p0 によらず q(t)=−q0 になる(図 1.13.1)。この時刻には q=−q0 を通る真の経路が無数にあり、それ以外の q を通る真の経路は1本もないので、S(q,t;q0) は定義できない。完全解の条件 (1.13.3) で言えば、例題 1.13.2 で扱う主関数では ∂2S/∂q∂q0=−mω/sinωt が ωt→π で発散する。同じ始点を出た近くの経路が再び集まるこの点は、第1部第5章で焦点と呼んだもの(図 1.5.2)と同じで、ここでは始点の共役点と呼ぶ。第1部第3章では、端を固定した ∫(21q˙2−21ω2q2)dt の停留点が、区間の長さ T が π/ω を超えると最小点でなくなることを2次の変分で見た。その境目の T=π/ω が、ここで経路が再び集まる時刻と一致している。

図 1.13.1 調和振動子で、同じ点 q0 を時刻 0 に出る真の経路(初めの運動量 p0/(mωq0)=−1.5,−0.75,0,0.75,1.5。厳密な解なので点線)。すべての経路が ωt=π で −q0 に集まる。この時刻には、(q0,0) と (q,t) を結ぶ真の経路が1本に決まらず、主関数 S(q,t;q0) が定義できない
例題 1.13.2 調和振動子の主関数が Hamilton–Jacobi 方程式を満たすことを確かめる ★★★
オリジナル調和振動子 L=21mq˙2−21mω2q2 の真の経路の作用は、第1部第5章の式 (1.5.8) でqa→q0, qb→q, T→t と読み替えた
S(q,t;q0)=2sinωtmω[(q2+q02)cosωt−2qq0](0<ωt<π)
である(∂S/∂q=p と ∂S/∂t=−E は第5章の例題 1.5.5 で q0=0 の場合を確かめた)。
- (1) ∂S/∂q と ∂S/∂t を計算し、S が Hamilton–Jacobi 方程式 (1.13.2) を満たすことを代入で確かめよ。
- (2) m=ω=1, q0=1, q=21, t=π/3 のとき、S・p=∂S/∂q・−∂S/∂t の値を求め、(1) の式が数値でも成り立つことを確かめよ。
- (3) q0=1, q=21 を止めて ωt→π とすると、p0=−∂S/∂q0 と ∂2S/∂q∂q0 はどうなるか。その結果を共役点(図 1.13.1)と結びつけて読め。
解答
(1) q で微分すると
∂q∂S=sinωtmω(qcosωt−q0).
t で微分するには S=2mω[(q2+q02)cotωt−2qq0/sinωt] と書き、(cotx)′=−1/sin2x, (1/sinx)′=−cosx/sin2x を使って
∂t∂S=−2sin2ωtmω2[q2+q02−2qq0cosωt].
一方 2m1(∂q∂S)2=2sin2ωtmω2[q2cos2ωt−2qq0cosωt+q02] なので、2つを足すと qq0 と q02 の項が消え、
∂t∂S+2m1(∂q∂S)2=2sin2ωtmω2q2(cos2ωt−1)=−21mω2q2.
よって ∂t∂S+2m1(∂q∂S)2+21mω2q2=0 で、Hamilton–Jacobi 方程式が成り立つ。
(2) cos(π/3)=21, sin(π/3)=23 を入れると
S=31[45⋅21−1]=−83≈−0.2165,p=3/21/4−1=−23,−∂t∂S=2⋅431[41+1−21]=21.
21p2+21q2=83+81=21 なので ∂t∂S+H=−21+21=0 となり、(1) の式が数値でも成り立つ。このとき p0=(q−q0cosωt)/sinωt=0 で、経路は q(t′)=cost′、エネルギーは 21q02=21 である。
(3) p0=−∂q0∂S=sinωtmω(q−q0cosωt) で、ωt→π では分子が mω(q+q0)=23mω=0、分母が +0 に近づくので p0→+∞ である。また ∂2S/∂q∂q0=−mω/sinωt→−∞ で、完全解の条件 (1.13.3) の行列式が発散する。ωt=π には q0 を出たすべての経路が −q0=−1 に集まるので、q=21 に着くには初めの運動量を限りなく大きくするしかなく、ωt=π ちょうどではそのような経路が無い。主関数が ωt→π で発散するのは、終点 q と始点 q0 を結ぶ真の経路が1本に決まらなくなる共役点を、式の側から見たものである。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com