解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部 第2章 §4.2.4 ★★★ dtd⟨q^⟩=⟨p^⟩/m、dtd⟨p^⟩=−⟨V′(q^)⟩。⟨V′(q^)⟩ と V′(⟨q^⟩) の差が古典からのずれになる
期待値の運動方程式
観測量 A^(時刻を陽に含まないもの)の期待値 ⟨A^⟩=⟨ψ∣A^∣ψ⟩ を時間で微分し、式 (4.2.4) とその共役を使うと
dtd⟨A^⟩=iℏ1⟨[A^,H^]⟩(4.2.15)
を得る。古典の dtdA={A,H}(第1部第11章)で、Poisson 括弧を [⋅,⋅]/(iℏ) に替え、両辺の期待値を取った形である。A^=q^ と A^=p^ について交換子を計算する。式 (4.2.2) から [q^,p^2]=p^[q^,p^]+[q^,p^]p^=2iℏp^、位置表示で [p^,V(q^)]f=−iℏ((Vf)′−Vf′)=−iℏV′(q)f なので
[q^,H^]=miℏp^,[p^,H^]=−iℏV′(q^)
となり、
dtd⟨q^⟩=m⟨p^⟩,dtd⟨p^⟩=−⟨V′(q^)⟩(4.2.16)
となる。これは第4部第1章の式 (4.1.18) で出した Ehrenfest の定理で、式 (4.2.15) に A^=q^,p^ を入れるだけで1行で出る。古典の Hamilton 方程式 q˙=∂H/∂p=p/m, p˙=−∂H/∂q=−V′(q) と、形がほとんど同じである。A^=H^ とおけば [H^,H^]=0 なので ⟨H^⟩ は時間に依らない。古典の dtdH={H,H}=0 の量子版である。
古典の運動とのずれ
式 (4.2.16) の2本目の右辺は ⟨V′(q^)⟩ で、V′(⟨q^⟩) ではない。両者が等しければ、⟨q^⟩ と ⟨p^⟩ は古典の Hamilton 方程式そのものに従う。平均 qˉ=⟨q^⟩ のまわりで V′ を Taylor 展開し、⟨q^−qˉ⟩=0 を使うと
⟨V′(q^)⟩=V′(qˉ)+21V′′′(qˉ)σ2+O(σ3),σ2=⟨(q^−qˉ)2⟩(4.2.17)
となる。ずれは波束の幅の2乗とポテンシャルの3階微分の積で決まる。V が q の2次式以下(自由粒子・一様な力・調和振動子)なら V′′′=0 で、式 (4.2.16) は qˉ について古典の運動方程式と厳密に同じになる。それ以外では、波束の幅 σ が、ポテンシャルの力が変わる長さ ∣V′/V′′′∣1/2 に比べて小さい間だけ、期待値は古典の軌道に近い。
図 4.2.2 は、4次のポテンシャル V=λq4/4 の中で、静止した Gauss 波束を q=2 から放したときの ⟨q^⟩(t) を、式 (4.2.6) を数値で解いて求めたものである。単位を m=λ=1 に取り、ℏ を無次元の数 ℏ~ として変えた。初めの幅は σ02=ℏ~/2 とした。ℏ~=0.02 では1周期の間は古典の軌道と 0.01 程度で重なるが、ℏ~=0.5 では1周目から遅れ、t≈7 以降は振動がほぼ消える。4次のポテンシャルでは振幅が大きいほど周期が短く(古典の周期は E−1/4 に比例)、波束の各部分が異なる周期で回るため、波束がエネルギーの方向に広がった分だけ位相がそろわなくなる。これは波束の広がりによる平均のずれで、ℏ~ が小さいほど遅く起きるが、ℏ~=0.02 でも t=11 では古典の振幅の6割まで減っている。

図 4.2.2 4次のポテンシャル V=q4/4(m=1)の中で、q=2 に静止させた幅 σ0=ℏ~/2 の Gauss 波束の ⟨q^⟩(t)。点線は Schrödinger 方程式の数値解(厳密)、実線は同じ初期値の古典の軌道(ℏ~→0 の近似)。数値解では全確率と ⟨H^⟩ が保たれていることも確かめた。古典の集団の平均との比較は第4部第3章の図で行う
例題 4.2.5 振り子の波束に働く力は幅の分だけ縮む ★★
オリジナル振り子 H^=p^2/(2ml2)−mglcosq^(q は鉛直からの角度、p^ はそれに共役な角運動量)の波束を考える。角度の確率密度が、平均 qˉ、分散 σ2 の Gauss 分布で、σ が π に比べて十分小さく、角度の周期性を無視してよいとする。
- (1) ⟨sinq^⟩=e−σ2/2sinqˉ を示せ。
- (2) 式 (4.2.16) の2本目を書き、期待値に働く力が古典の力 −mglsinqˉ の e−σ2/2 倍になることを示せ。式 (4.2.17) の第2項までの近似と比べよ。
- (3) σ=0.3 のとき、力は古典の値より何 % 小さいか。式 (4.2.17) の第2項までで見積もった値と比べよ。
解答
(1) q=qˉ+u とおくと、u は平均 0、分散 σ2 の Gauss 分布である。Gauss 分布の特性関数は ⟨eiu⟩=e−σ2/2(実数)なので、⟨cosu⟩=e−σ2/2、⟨sinu⟩=0 である。加法定理から
⟨sinq^⟩=sinqˉ⟨cosu⟩+cosqˉ⟨sinu⟩=e−σ2/2sinqˉ.
(2) V(q)=−mglcosq で V′(q)=mglsinq なので、式 (4.2.16) の2本目は
dtd⟨p^⟩=−mgl⟨sinq^⟩=−e−σ2/2mglsinqˉ
となり、期待値に働く力は古典の力 −mglsinqˉ の e−σ2/2 倍である。式 (4.2.17) では V′′′(q)=−mglsinq なので、第2項までで ⟨V′⟩≈mglsinqˉ(1−σ2/2) となり、e−σ2/2 の展開の初めの2項に一致する。4次のポテンシャルなら V′ は3次式で、展開は第2項で終わる。cosq はどの階数の微分も 0 にならないので、展開は σ4,σ6,… の項を持ち続け、それを足し上げたものが e−σ2/2 である。波束が広がると、波束の各部分が感じる力の向きがそろわなくなり、平均の力が小さくなる。
(3) e−0.045=0.9560 なので、力は古典の値より 4.40% 小さい。式 (4.2.17) の第2項までで見積もると σ2/2=4.50% で、σ4/8≈0.1% だけ大きく見積もる。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの σ2∣V′′′/V′∣→0(波束の幅が力の変わる長さに比べて小さい) | 証明 要確認(有限の時間を固定して ℏ→0 とする古典極限の厳密な結果があるとされるが、前提を原論文で確かめていない。時間を長く取ると図 4.2.2 のようにずれる) | 行き先 近似の数理 第7章
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com