解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部 第2章 §4.2.5 ★★ H が2次式なら、位置と運動量の2次のモーメントの方程式が閉じ、古典の相空間の集団とまったく同じ式に従う。波束の広がりは「運動量のばらつき×時間」
2次のモーメントの方程式
4.2.4節の計算を、q^2・q^p^+p^q^・p^2 の期待値に広げる。調和振動子 H^=p^2/(2m)+mω2q^2/2 について、式 (4.2.15) の交換子を計算すると
dtd⟨q^2⟩=m⟨q^p^+p^q^⟩,dtd⟨q^p^+p^q^⟩=m2⟨p^2⟩−2mω2⟨q^2⟩,dtd⟨p^2⟩=−mω2⟨q^p^+p^q^⟩(4.2.18)
となる(ω=0 が自由粒子)。右辺には同じ3つの量しか現れないので、この3本だけで閉じた連立方程式になる。
古典の側では、相空間に点の集団(確率密度 ρ(q,p,t))を置き、各点を Hamilton 方程式で動かす。集団の平均 ⟨q2⟩, ⟨2qp⟩, ⟨p2⟩ を時間で微分すると、dtdq2=2qq˙=2qp/m などから式 (4.2.18) と同じ3本が出る(q^p^+p^q^ が古典の 2qp にあたる)。したがって、H が2次式なら、量子の波束の2次のモーメントは、同じ初期の平均と分散を持つ古典の集団のモーメントと、すべての時刻で一致する。H が3次以上の項を含むと、式 (4.2.18) の右辺に3次以上のモーメントが入り、さらにその式に4次のモーメントが入る、という形で連鎖して閉じない。量子と古典の違いは、この連鎖の中の ℏ を含む項から現れる。
自由粒子の波束
自由粒子(ω=0)で、時刻 0 に実数の Gauss 波束
ψ(q,0)=(2πσ02)−1/4exp(−4σ02q2)
を置く。この波束では ⟨q^2⟩=σ02、⟨q^p^+p^q^⟩=0(ψ が実数なので)、⟨p^2⟩=ℏ2/(4σ02) である。式 (4.2.18) を ω=0 で解くと ⟨p^2⟩ は一定、⟨q^p^+p^q^⟩=2⟨p^2⟩t/m で、
σ(t)2=σ02+(2mσ0ℏt)2=σ02(1+τ2t2),τ=ℏ2mσ02(4.2.19)
を得る。実際、ψ(q,t)=(2πσ02)−1/4(1+it/τ)−1/2exp(−q2/(4σ02(1+it/τ))) は式 (4.2.6) を満たし、その ∣ψ∣2 の分散は式 (4.2.19) になる。
古典の集団で読むと、初めの位置のばらつき σ0 と運動量のばらつき σp=ℏ/(2σ0) が独立なとき、q(t)=q0+p0t/m の分散は σ02+(σpt/m)2 で、式 (4.2.19) と同じである(図 4.2.3)。波束が広がるのは、運動量のばらつきを持つ粒子の集団が、速い粒子ほど遠くまで進むためである。量子力学に固有なのは σp の大きさだけで、最小の運動量のばらつきは、不確定性関係 σ0σp≥ℏ/2 の等号で決まる。狭い波束ほど σp が大きいので速く広がり、τ は σ02 に比例する。

図 4.2.3 自由粒子の Gauss 波束の幅。点線は式 (4.2.19)(厳密)、○は位置を分散 σ02、運動量を分散 (ℏ/2σ0)2 で独立にばらまいた古典の点を Hamilton 方程式で動かしたときの標準偏差。両者は一致し、長い時間では破線 σpt/m に近づく
調和振動子(ω=0)では、同じ初期条件から式 (4.2.18) を解いて
σ(t)2=σ02cos2ωt+(mωσp)2sin2ωt
となる。古典の集団では、相空間の楕円の分布が角振動数 ω で回転し、q 軸への影の幅が変わることに対応する。σp=mωσ0 なら幅は変わらない(総合問題)。この場合、波束の中心は式 (4.2.16) により古典の軌道を厳密にたどり、形を保ったまま振動する。時間発展の写像 e−iH^t/ℏ を、古典の流れ ϕt(第1部第12章)を状態の空間に移したものとして見たとき、2次の H では両者が「平均と分散」の水準で完全に重なる。
例題 4.2.6 電子と微粒子の波束が2倍に広がる時間 ★★
オリジナル式 (4.2.19) を使う(ℏ=1.055×10−34Js)。
- (1) 幅が初めの2倍になる時刻を τ で表せ。
- (2) 電子(m=9.109×10−31kg)を σ0=0.1nm(原子1個ほど)に閉じ込めて放したとき、τ と幅が2倍になる時刻を求めよ。
- (3) 質量 10−15kg の微粒子(直径 1μm ほど)を σ0=1μm の波束にしたとき、τ を求めよ。
- (4) (2) と (3) の結果から、古典力学で物の位置を「点」として扱ってよい理由を、τ の式の形から説明せよ。
解答
(1) 1+t2/τ2=4 から t=3τ。
(2) τ=2mσ02/ℏ=2×9.109×10−31×10−20/(1.055×10−34)s=1.73×10−16s、幅が2倍になるのは 3τ=2.99×10−16s である。原子の大きさに閉じ込めた電子の波束は、1フェムト秒もたたないうちに広がる。
(3) τ=2×10−15×10−12/(1.055×10−34)s=1.90×107s で、約 0.6 年である。
(4) τ=2mσ02/ℏ は質量に比例し、ℏ に反比例する。日常の物体では mσ02 が ℏ に比べて桁違いに大きく、運動量のばらつき ℏ/(2σ0) による広がりは観測の時間の間には無視することができる。古典力学は、位置と運動量を同時に「ばらつきが無視できる精度」で指定できる状況の記述で、その条件が mσ02/ℏ≫t という形で書くことができる。
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