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出てくるもの (2):Aharonov–Bohm 効果

2026年10月15日12分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第4部 第6章 電磁場中の量子力学
目次
  1. 磁束を囲む輪の上の粒子
  2. ゲージで消せない理由
  3. 永久電流
  4. 輪を1次元とみなす近似
  5. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部 第6章 §4.6.4 ★★★ 磁場の無い輪の上の粒子のエネルギーは、輪が囲む磁束 ΦB\Phi_B によって周期 h/∣q∣h/\lvert q\rvert で変わる。ゲージ関数が1価に選べないことが理由

磁束を囲む輪の上の粒子

第2部第8章では、無限に長いソレノイドの外では B=0\bm{B}=0 なのに A=ΦB/(2πρ) eφ\bm{A}=\Phi_B/(2\pi\rho)\,\bm{e}_\varphi が 00 でないこと、ソレノイドの両側を通る2本の経路の作用が qΦBq\Phi_B だけ違うことを見た。ここではその量子力学の扱いを、最も簡単な系で行う。半径 RR の細い輪の上だけを動ける粒子を考え、輪の中心を細いソレノイドが貫いて磁束 ΦB\Phi_B を通しているとする。粒子のいる場所では B=0\bm{B}=0 である。

輪の上の位置は角度 θ\theta で表される。A\bm{A} の接線成分は Aθ=ΦB/(2πR)A_\theta=\Phi_B/(2\pi R) で、接線方向の正準運動量の演算子は −(iℏ/R) ∂θ-(\mathrm{i}\hbar/R)\,\partial_\theta なので

H^=12m(−iℏR∂∂θ−qΦB2πR)2=ℏ22mR2(−i∂∂θ−qΦB2πℏ)2(4.6.15)\hat H=\frac{1}{2m}\Bigl(-\frac{\mathrm{i}\hbar}{R}\frac{\partial }{\partial \theta}-\frac{q\Phi_B}{2\pi R}\Bigr)^2=\frac{\hbar^2}{2mR^2}\Bigl(-\mathrm{i}\frac{\partial }{\partial \theta}-\frac{q\Phi_B}{2\pi\hbar}\Bigr)^2\tag{4.6.15}

である。波動関数は θ\theta の1価関数なので ψ(θ+2π)=ψ(θ)\psi(\theta+2\pi)=\psi(\theta) を満たし、固有関数は einθ\mathrm{e}^{\mathrm{i} n\theta}(nn は整数)に限られる。固有値は

En(ΦB)=ℏ22mR2(n−qΦBh)2(n=0,±1,±2,… )(4.6.16)E_n(\Phi_B)=\frac{\hbar^2}{2mR^2}\Bigl(n-\frac{q\Phi_B}{h}\Bigr)^2\qquad(n=0,\pm1,\pm2,\dots)\tag{4.6.16}

である。粒子は磁場に一度も触れていないのに、エネルギー準位が磁束 ΦB\Phi_B で変わる。

図

図 4.6.2 磁束を囲む輪の上の粒子のエネルギー準位 (4.6.16)。単位は εR≔ℏ2/(2mR2)\varepsilon _R\coloneqq\hbar^2/(2mR^2)。nn ごとの放物線を h/qh/q ずつずらして重ねた形で、スペクトル全体は ΦB\Phi_B について周期 h/qh/q を持つ。qΦB/h=±12q\Phi_B/h=\pm\frac12 で隣の nn と交差し、最低の準位になる nn が入れ替わる。厳密解(点線)

ゲージで消せない理由

輪の上では B=0\bm{B}=0 なので、局所的には A\bm{A} をゲージ変換で消すことができる。実際、Λ=ΦBθ/(2π)\Lambda=\Phi_B\theta/(2\pi) とすれば∇Λ=1R∂θΛ eθ=ΦB2πReθ=A\nabla\Lambda=\frac{1}{R}\partial_\theta\Lambda\,\bm{e}_\theta=\frac{\Phi_B}{2\pi R}\bm{e}_\theta=\bm{A} なので、A′=A−∇Λ=0\bm{A}'=\bm{A}-\nabla\Lambda=0 にできる(ここでは −Λ-\Lambda で変換した)。変換後の波動関数は ψ0=e−iqΛ/ℏψ\psi_0=\mathrm{e}^{-\mathrm{i} q\Lambda/\hbar}\psi で、自由粒子の Hamiltonian −ℏ22mR2∂θ2-\frac{\hbar^2}{2mR^2}\partial_\theta^2 に従う。

しかしこの Λ\Lambda は、輪を1周すると ΦB\Phi_B だけ増える多価の関数である。そのため、ψ\psi が1価でも ψ0\psi_0 は1価でなく

ψ0(θ+2π)=e−iqΦB/ℏ ψ0(θ)(4.6.17)\psi_0(\theta+2\pi)=\mathrm{e}^{-\mathrm{i} q\Phi_B/\hbar}\,\psi_0(\theta)\tag{4.6.17}

というねじれた境界条件を満たす。自由粒子の固有関数 eiκθ\mathrm{e}^{\mathrm{i}\kappa\theta} がこれを満たすには κ=n−qΦB/h\kappa=n-q\Phi_B/h でなければならず、固有値は ℏ22mR2κ2\frac{\hbar^2}{2mR^2}\kappa^2 で式 (4.6.16) と一致する。ゲージ変換で A\bm{A} を消すと、その代わりに磁束が境界条件の中に移る。どちらの書き方でも、磁束を消すことはできない。

ここで物理的な意味を持つのは、1周の線積分 ∮A⋅dl=ΦB\oint\bm{A}\cdot\mathrm{d}\bm{l}=\Phi_B を位相に直した eiqΦB/ℏ\mathrm{e}^{\mathrm{i} q\Phi_B/\hbar} である。これは1価なゲージ変換では変わらず(1周の積分に ∮∇Λ⋅dl=0\oint\nabla\Lambda\cdot\mathrm{d}\bm{l}=0 が足されるだけ)、局所的な B\bm{B} の値で表すことはできない。例題 4.6.1 の直線の上の一定の A0A_0 がゲージで消せたのは、直線には1周という操作が無いからである。輪の上の一定の AθA_\theta は、同じ「磁場の無いベクトルポテンシャル」でも、1周の線積分を持つ点で違う。

スペクトルは ΦB→ΦB+h/q\Phi_B\to\Phi_B+h/q で En→En−1E_n\to E_{n-1} となって元に戻る。これは eiqΦB/ℏ\mathrm{e}^{\mathrm{i} q\Phi_B/\hbar} が周期 h/qh/q を持つことの反映で、囲んだ磁束に対する物理量の周期性として Byers と Yang が一般的に示した1N. Byers and C. N. Yang (1961), Physical Review Letters 7, 46–49.下の脚注へ。2本の経路で干渉させる元の Aharonov–Bohm の配置2Y. Aharonov and D. Bohm (1959), Physical Review 115, 485–491.下の脚注へでは、干渉縞のずれ qΦB/ℏq\Phi_B/\hbar(第2部第8章)が同じ周期を持つ。経路積分では、各経路の重み eiS/ℏ\mathrm{e}^{\mathrm{i} S/\hbar} にq∫A⋅dlq\int\bm{A}\cdot\mathrm{d}\bm{l} が入ることからこの位相差が直接出る(第4部第8章)。

永久電流

輪の上の電流は、確率の流れ (4.6.9) に電荷を掛けて輪の周で割ったものである。固有状態 einθ\mathrm{e}^{\mathrm{i} n\theta} の速度はvθ=ℏmR(n−qΦB/h)v_\theta=\frac{\hbar}{mR}\bigl(n-q\Phi_B/h\bigr) なので、電流は

In=qvθ2πR=qℏ2πmR2(n−qΦBh)=−∂En∂ΦB(4.6.18)I_n=\frac{qv_\theta}{2\pi R}=\frac{q\hbar}{2\pi mR^2}\Bigl(n-\frac{q\Phi_B}{h}\Bigr)=-\frac{\partial E_n}{\partial \Phi_B}\tag{4.6.18}

になる。最後の等号は式 (4.6.16) を微分して確かめることができる。電流が磁束についてのエネルギーの微分で書けることは、磁気モーメントがエネルギーの磁場についての微分で書けることと同じ形の関係である。最低の準位にいる粒子は、ΦB\Phi_B が 00 でも h/qh/q の整数倍でもなければ、電圧をかけなくても輪を回る電流を持ち続ける。これを永久電流と呼び、超伝導でない普通の金属の小さな輪でも起きることを Büttiker・Imry・Landauer が指摘した3M. Büttiker, Y. Imry and R. Landauer (1983), Physics Letters A 96, 365–367.下の脚注へ。図 4.6.3 のように、最低の準位の電流は ΦB\Phi_B について鋸の歯の形をとる。

図

図 4.6.3 最低の準位の永久電流(式 (4.6.18)、I1≔qℏ/(2πmR2)I_1\coloneqq q\hbar/(2\pi mR^2))。最低の準位になる nn は qΦB/hq\Phi_B/h に最も近い整数で、qΦB/h=±12q\Phi_B/h=\pm\frac12 で nn が入れ替わるところで電流の向きが跳ぶ。厳密解(点線)

輪を1次元とみなす近似

ここでは輪の幅を 00 とし、粒子が半径 RR の円の上だけを動くとした。実際の輪には幅 ww があり、半径方向の運動は幅の中に閉じ込められる。半径方向の閉じ込めのエネルギー ℏ2/(mw2)\hbar^2/(mw^2) 程度が周方向のエネルギー εR\varepsilon _R よりはるかに大きければ、半径方向は最低の状態に留まり、周方向の運動だけが残ると考えた。これは速い自由度を最低の状態に固定する近似である。

近似の裏付け

型 B(極限) | 小さいもの w/R→0w/R\to0(半径方向の閉じ込めのエネルギーが周方向のエネルギーに比べて大きい) | 証明 要確認(細い管への閉じ込めの極限で有効1次元 Hamiltonian が得られる前提を原論文で確かめていない) | 行き先 近似の数理 第7章

例題 4.6.4 半径 1 μm の金属の輪の永久電流 ★★

オリジナル電子(q=−eq=-e)が半径 R=1 μmR=1\,\mu\mathrm m の細い輪の上にある。me=9.109×10−31 kgm_{\mathrm e}=9.109\times10^{-31}\,\mathrm{kg}、ℏ=1.055×10−34 J s\hbar=1.055\times10^{-34}\,\mathrm{J\,s}、e=1.602×10−19 Ce=1.602\times10^{-19}\,\mathrm C とする。

  1. (1) エネルギーの単位 εR=ℏ2/(2meR2)\varepsilon _R=\hbar^2/(2m_{\mathrm e}R^2) を eV\mathrm{eV} と温度 εR/kB\varepsilon _R/ k_{\mathrm B} で求めよ。
  2. (2) 磁束の周期 h/eh/e を求め、輪の内側全体に一様な磁場をかけて h/eh/e を通すには何 T\mathrm{T} 要るかを求めよ。
  3. (3) 最低の準位の電流の大きさの最大値(eΦB/h=12e\Phi_B/h=\frac12 の手前)を求めよ。
  4. (4) 電子の向きの規約に注意して、ΦB\Phi_B を 00 から少し増やしたとき最低の準位の nn と電流の向きを述べよ。
解答

(1) εR=(1.055×10−34)2/(2×9.109×10−31×10−12)=6.10×10−27 J=3.81×10−8 eV\varepsilon _R=(1.055\times10^{-34})^2/(2\times9.109\times10^{-31}\times10^{-12})=6.10\times10^{-27}\,\mathrm J=3.81\times10^{-8}\,\mathrm{eV}。温度に直すと 6.10×10−27/1.381×10−23=4.42×10−4 K=0.442 mK6.10\times10^{-27}/1.381\times10^{-23}=4.42\times10^{-4}\,\mathrm K=0.442\,\mathrm{mK} である。準位の間隔は εR\varepsilon _R 程度なので、永久電流を見るには 1 mK1\,\mathrm{mK} を下回る低温が要る(実際の金属の輪では電子が多数あり、Fermi 準位の近くの準位の間隔が目安になるが、ここでは1粒子で考える)。

(2) h/e=6.626×10−34/1.602×10−19=4.14×10−15 Wbh/e=6.626\times10^{-34}/1.602\times10^{-19}=4.14\times10^{-15}\,\mathrm{Wb}。面積 πR2=3.14×10−12 m2\pi R^2=3.14\times10^{-12}\,\mathrm{m^2} で割って 1.32×10−3 T=1.32 mT1.32\times10^{-3}\,\mathrm T=1.32\,\mathrm{mT}。地磁気(5×10−5 T5\times10^{-5}\,\mathrm T 程度)の数十倍で1周期が終わる。

(3) 式 (4.6.18) で ∣n−qΦB/h∣\lvert n-q\Phi_B/h\rvert は最低の準位では 12\frac12 を超えないので、最大値は

∣I∣max⁡=eℏ2πmeR2⋅12=1.602×10−19×1.055×10−342π×9.109×10−31×10−12×12=1.48×10−12 A.\lvert I\rvert _{\max}=\frac{e\hbar}{2\pi m_{\mathrm e}R^2}\cdot\frac12=\frac{1.602\times10^{-19}\times1.055\times10^{-34}}{2\pi\times9.109\times10^{-31}\times10^{-12}}\times\frac12=1.48\times10^{-12}\,\mathrm A .

1.5 pA1.5\,\mathrm{pA} 程度である。

(4) q=−eq=-e なので qΦB/h=−eΦB/hq\Phi_B/h=-e\Phi_B/h で、ΦB>0\Phi_B>0 を少し増やすと qΦB/hq\Phi_B/h は 00 から少し負になる。最も近い整数は n=0n=0 のままで、電流は I0=qℏ2πmR2(0−qΦB/h)=−q2ℏΦB2πmR2h<0I_0=\frac{q\hbar}{2\pi mR^2}\bigl(0-q\Phi_B/h\bigr)=-\frac{q^2\hbar\Phi_B}{2\pi mR^2h}<0。−∂E0/∂ΦB<0-\partial E_0/\partial\Phi_B<0 は、磁束を増やすとエネルギーが上がることを言っている。電流は θ\theta の負の向き、つまり外から加えた磁束を打ち消す磁場を作る向きに流れ、小さな磁束に対して輪は反磁性を示す。q2q^2 の形なので、この向きは電荷の符号によらない。

1 N. Byers and C. N. Yang (1961), Physical Review Letters 7, 46–49.

2 Y. Aharonov and D. Bohm (1959), Physical Review 115, 485–491.

3 M. Büttiker, Y. Imry and R. Landauer (1983), Physics Letters A 96, 365–367.

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