解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部 第6章 §4.6.3 ★★★ 速度の2成分の交換子から調和振動子の上げ下げ演算子が作れ、エネルギーは ℏωc(n+21)。円の中心の自由度が縮退度 qBS/(2πℏ) を与える
上げ下げ演算子を作る
一様な磁場 B=Bez(q>0, B>0)の中で xy 平面を動く粒子の Hamiltonian は H^=2m(v^x2+v^y2) である。式 (4.6.5) により [mv^x,mv^y]=iℏqB は定数なので、mv^x と mv^y は、定数倍を除いて1次元の調和振動子の位置と運動量と同じ交換関係を満たす。H^ がその2乗の和であることから、第4部第4章の調和振動子の手順をそのまま使うことができる。
a^:=2ℏqBmv^x+imv^y,a^†=2ℏqBmv^x−imv^y(4.6.10)
と定めると、[a^,a^†]=2ℏqB1(−i[mv^x,mv^y]+i[mv^y,mv^x])=2ℏqB2ℏqB=1 である。a^†a^=2ℏqB1(m2v^x2+m2v^y2+i[mv^x,mv^y])=2ℏqBm2(v^x2+v^y2)−ℏqB から
H^=ℏωc(a^†a^+21),ωc=mqB(4.6.11)
を得る。a^†a^ の固有値は n=0,1,2,… なので、エネルギーは
En=ℏωc(n+21)(n=0,1,2,…)(4.6.12)
に限られる。これを Landau 準位と呼ぶ(Landau が導いた1L. Landau (1930), Zeitschrift für Physik 64, 629–637.)。この導き方ではゲージを一度も選んでいない。使ったのは、ゲージによらない交換関係 (4.6.5) だけである。
古典の H は 2m(vx2+vy2) で、サイクロトロン運動のエネルギーはどんな正の値でも取れた。エネルギーが離散的になったのは、2つの速度成分が交換せず、片方が「位置」、もう片方が「運動量」の役をする1自由度の振動子になったためである。電子(q=−e)では qB<0 となるので、a^ の定義で i の符号を反対にし、ωc=eB/m と大きさで書けば同じ結果になる。
残りの自由度:円の中心
xy 平面の粒子は2自由度なので、振動子1つでは足りない。残りの自由度は、例題 4.6.2 の円の中心 (x^g,y^g) である。x^g=x^+v^y/ωc と mv^x, mv^y の交換子は、式 (4.6.5) から
[x^g,mv^x]=iℏ+ωc1[v^y,mv^x]=iℏ−iℏ=0,[x^g,mv^y]=0
で、y^g も同じである。したがって x^g, y^g は a^, a^† と交換し、エネルギーを変えない。その一方で
[x^g,y^g]=−qBiℏ(4.6.13)
なので、(x^g,y^g) はもう1組の「位置と運動量」になっている。2自由度の系は、エネルギーを担う振動子(a^, a^†)と、エネルギーに入らない中心の自由度に分かれた。エネルギーに入らない自由度があるので、各 Landau 準位は大きく縮退する。
縮退の数は、中心の位置の数を数えれば分かる。式 (4.6.13) は、x^g と y^g が ℏ→ℏ/(qB) とした位置と運動量の関係にあることを言っている。Bohr–Sommerfeld の数え方(相空間の面積 2πℏ に1つの状態)を当てはめると、面積 S の試料の中では中心の状態の数が
N=2πℏ/(qB)S=2πℏqBS=h/qΦB(4.6.14)
になる。ΦB=BS は試料を貫く磁束で、1つの Landau 準位には、磁束を単位 h/q で数えた数だけの状態がある。長さの目安として 磁気長 ℓB:=ℏ/(qB) を定めると、中心1つあたりの面積は 2πℓB2 で、最低準位の波動関数の広がりも ℓB 程度である。
Landau ゲージで書いた固有関数
数え方 (4.6.14) を具体的な波動関数で確かめる。Landau ゲージ A=(0,Bx,0) を選ぶと H^ は y を含まないので、p^y と交換する。固有関数を ψ=eikyyφ(x) とおくと、p^y−qBx は ℏky−qBx に置き換わり、
H^ψ=eikyy[−2mℏ2dx2d2φ+2m(ℏky−qBx)2φ]=eikyy[−2mℏ2dx2d2φ+21mωc2(x−xk)2φ]
となる。ここで xk:=ℏky/(qB)=kyℓB2 とおいた。これは中心 xk の1次元の調和振動子で、固有関数は振動子の固有関数 φn(x−xk)、固有値は式 (4.6.12) の En である。固有値は ky によらない。このゲージでは x^g=x^+(p^y−qBx^)/(qB)=p^y/(qB) なので、xk は円の中心の x 座標の固有値そのもので、y^g のほうは不定になっている(図 4.6.1)。
3次元では H^ が z も含まない。そのため固有関数は ei(kyy+kzz)φ(x) の形に置け、エネルギーには ℏ2kz2/(2m) が足される。y と z は循環座標で、対応する運動量は保存する。一方 H^ は座標 x を含むので、その方向の運動量は保存しない。
試料を 0<x<Lx, 0<y<Ly の長方形とし、y 方向に周期境界条件を課すと、ky=2πny/Ly(ny は整数)である。中心 xk が試料の中にある条件 0<ℏky/(qB)<Lx を満たす ny の数は LxqBLy/(2πℏ) で、式 (4.6.14) と一致する。古典力学で一様な磁場の円運動を考えると、円の大きさ(エネルギー)は1つの連続なパラメータ、円の中心の位置は2つの連続なパラメータだった。量子力学では、前者が n で離散的になり、後者が面積 2πℓB2 ごとに1つ数えられる状態になった。

図 4.6.1 Landau ゲージの固有関数の確率密度 ∣φn(x−xk)∣2(n=0,1,2)を、エネルギー En の高さに描いたもの。中心 xk=kyℓB2 の違う2組を並べた。中心を動かしてもエネルギーは変わらないので、各準位は中心の数だけ縮退する。曲線は厳密解(点線)で、近似は入っていない
例題 4.6.3 半導体の2次元電子の Landau 準位 ★★
オリジナルGaAs の界面に閉じ込めた2次元電子は、結晶の中で有効質量 m∗=0.067me の自由な粒子のように動く(me=9.109×10−31kg、電荷 −e、e=1.602×10−19C)。ℏ=1.055×10−34Js、h=6.626×10−34Js、kB=1.381×10−23J/K とし、B=10T とする。
- (1) 準位の間隔 ℏωc=ℏeB/m∗ を meV で求め、温度 ℏωc/kB に直せ。
- (2) 磁気長 ℓB=ℏ/(eB) を求めよ。1T ではいくらか。
- (3) 1つの Landau 準位に入る状態の面密度 eB/h を求めよ。(2)(3) の量が質量によらない理由を述べよ。
解答
自由な電子(me)の 1T での値 ℏωc=0.116meV・1準位あたり 1μm2 に 242 個は第4部第4章の4.4.7節の総合問題 (5) で求めた。
(1) ℏωc=1.055×10−34×1.602×10−19×10/(0.067×9.109×10−31)=2.769×10−21J=17.3meV。温度に直すと 2.769×10−21/1.381×10−23=200K である。自由な電子の 10T の間隔(1.16meV)の 1/0.067≈15 倍で、有効質量が小さいほど同じ磁場で準位の間隔が広がる。準位が分かれて見えるには、熱のエネルギー kBT がこれより十分小さい必要がある(ほかに、散乱による準位の幅も ℏωc より小さい必要がある)ので、液体ヘリウムの温度(4K)なら余裕をもって分かれる。
(2) ℓB=1.055×10−34/(1.602×10−19×10)=8.11nm。ℓB∝B−1/2 なので 1T では 10 倍の 25.7nm である。
(3) eB/h=1.602×10−19×10/6.626×10−34=2.42×1015m−2(=2.42×1011cm−2)。ℓB と縮退度 N=qBS/(2πℏ)(式 (4.6.14))には m が入らない。縮退度は円の中心の2つの座標の交換関係 [x^g,y^g]=−iℏ/(qB) だけで決まり、中心の位置は質量によらない量だからである。半導体の界面の2次元電子の面密度はこれと同じ程度の大きさなので、10T 程度の磁場で、電子が数個の Landau 準位だけを占める状態を作ることができる。これが量子 Hall 効果の舞台になる(Berry 曲率との関係は第4部第11章)。
1 L. Landau (1930), Zeitschrift für Physik 64, 629–637.
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