解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部 第4章 §4.4.1 ★★★ 作用角変数 (θ,J) を複素数 z=iJe−iθ にまとめると、H=ω∣z∣2、運動は z∝e−iωt になる
調和振動子 H=2mp2+21mω2q2 は、量子力学の中で最も多く使われる Hamiltonian である。分子の振動、結晶の格子振動(フォノン)、電磁場の1つのモード(光子)、ゲージ場の量子化まで、平衡点のまわりの小さな揺れはすべてこの形に帰着する。授業では、Schrödinger 方程式を級数で解いて Hermite 多項式を出すか、昇降演算子 a^, a^† を天下りに定義して代数で解く。どちらの道でも答えは En=ℏω(n+21) だが、なぜ a^ という組み合わせを作るのか、なぜ 21 が付くのかは説明されないことが多い。
この章では、第1部第14章(第1部第14章)で作った作用角変数 (θ,J) から出発する。古典の調和振動子では、相空間の点を複素数 z=iJe−iθ 1つで表すと、Hamiltonian は H=ω∣z∣2=ωJ、運動は z(t)=z(0)e−iωt になる。昇降演算子 a^ は、この z を ℏ で割って演算子に置き換えたものにほかならない。Poisson 括弧 {z,z∗}=−i を交換子に移すと [a^,a^†]=1 が出て、そこから準位・波動関数・コヒーレント状態まで、すべてが代数で決まる。21 は、古典では区別のなかった z∗z と zz∗ が演算子では区別されることから現れる。
4.4.1節で古典の調和振動子を複素振幅で書き直し、4.4.2節で第4部第1章の正準量子化(第4部第1章)を当てる。4.4.3節から4.4.5節が「出てくるもの」で、エネルギー準位と作用変数の量子化、位置表示の波動関数と古典の分布の比較、古典の軌道をそのまま追うコヒーレント状態を順に扱う。4.4.6節では、級数解と Hermite 多項式、前期量子論の ∮pdq=nh、行列要素と古典の Fourier 成分の対応を、この章の式と並べる。
選ぶ Hamiltonian
この章で選ぶのは、自由度1の調和振動子
H(q,p)=2mp2+21mω2q2(4.4.1)
である。古典の運動は第1部で何度も解いた。第1部第14章の結果をまとめておくと、作用変数 J と角変数 θ を
q=mω2Jsinθ,p=2mωJcosθ(4.4.2)
で定めると、H=ωJ、{θ,J}=1、運動は J 一定・θ=ωt+θ0 になる。J=E/ω は相空間の楕円の面積を 2π で割ったものだった。
複素振幅
式 (4.4.2) の q と p は、楕円を円に引き伸ばしたときの直交座標になっている。そこで2つを1つの複素数にまとめ、
z=2mωmωq+ip(4.4.3)
と定める。この z を複素振幅と呼ぶ。係数は ∣z∣2 がちょうど作用変数になるように選んである。実際、
∣z∣2=z∗z=2mωm2ω2q2+p2=ωH=J
であり、式 (4.4.2) を入れると
z=2mωmω2J/(mω)sinθ+i2mωJcosθ=J(sinθ+icosθ)=iJe−iθ(4.4.4)
となる。z の絶対値の2乗が作用変数、偏角が(定数 π/2 を除いて)角変数の符号を変えたものである。逆向きには
q=mω2Rez,p=2mωImz(4.4.5)
で戻る。
Poisson 括弧と運動
z と z∗ の Poisson 括弧を計算する(第1部第11章)。{q,p}=1 と括弧の双線形性から
{z,z∗}=2mω1{mωq+ip,mωq−ip}=2mω1(−imω{q,p}+imω{p,q})=−i(4.4.6)
である。z と z∗ は、実の正準変数の組 (q,p) を複素数の組に組み替えたもので、括弧が 1 でなく −i になる。
時間発展は z˙={z,H} で、H=ωzz∗ と括弧の Leibniz 則から
z˙=ω{z,zz∗}=ωz{z,z∗}=−iωz,z(t)=z(0)e−iωt(4.4.7)
となる。q と p の連立微分方程式が、1つの複素数の1階の方程式になった。z は複素平面の原点のまわりを角速度 ω で時計回りに回り、絶対値 J は変わらない。式 (4.4.4) の e−iθ と比べれば、これは θ=ωt+θ0 と同じことを言っている。
J は角をずらす生成子
第1部第9章(第1部第9章)の言葉で言い直すと、量 G を生成子とする無限小変換は δA=ϵ{A,G} だった。G=J=zz∗ を生成子に選ぶと
δz=ϵ{z,J}=ϵz{z,z∗}=−iϵz,δθ=ϵ{θ,J}=ϵ(4.4.8)
で、J は角変数を ϵ だけ進める変換、つまり相空間の楕円に沿った回転を生成する。H=ωJ なので、時間発展(生成子 H、ϵ=dt)は角を ωdt だけ進める回転である。調和振動子の時間発展が「相空間の回転」であることと、「J が回転の生成子」であることは同じ内容を述べている。この関係は量子力学でもそのまま残る(4.4.2節)。
例題 4.4.1 複素振幅で振動子を追う ★★
オリジナルm=1, ω=1 の調和振動子が、時刻 t=0 に q=3, p=1 にある。
- (1) 複素振幅 z、作用変数 J、エネルギー E を求めよ。
- (2) 式 (4.4.4) から角変数 θ を求め、式 (4.4.2) で (q,p)=(3,1) に戻ることを確かめよ。
- (3) 式 (4.4.7) を使って、粒子が初めて q=0 を通る時刻と、そのときの p の符号を求めよ。
解答
(1) 式 (4.4.3) に入れて z=(3+i)/2。J=∣z∣2=(3+1)/2=2、E=ωJ=2。直接 2mp2+21mω2q2=21+23=2 で確かめることもできる。
(2) iJe−iθ=z から e−iθ=i2z=2i3+i=21−i3=e−iπ/3、よって θ=π/3。式 (4.4.2) は q=2⋅2sin3π=3、p=2⋅2cos3π=1 で、初めの値に戻る。
(3) z(t)=z(0)e−it なので、z(t)=i2e−i(t+π/3) で角変数は θ=t+π/3 と進む。q∝Rez=2sin(t+π/3) が初めて 0 になるのは t+π/3=π、つまり t=2π/3≈2.09 である。このとき p∝Imz=2cosπ=−2<0 で、粒子は負の向きに原点を通過する。q と p の連立方程式を解かなくても、複素平面上で点を時計回りに角度 2π/3 だけ回すだけで答えが出る。
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