解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部 第4章 §4.4.5 ★★ a^ の固有状態 ∣α⟩ は、中心が古典の軌道 αe−iωt に沿って回り、幅を変えない波束。光子数は Poisson 分布
古典の点に最も近い量子状態
古典の振動子の状態は、相空間の1点、つまり複素振幅 z 1つで決まる。量子の状態で、複素振幅の演算子 a^=z^/ℏ が確定した値を持つものを探す。a^ はエルミートでないが、固有状態は持つ。複素数 α について
∣α⟩=e−∣α∣2/2n=0∑∞n!αn∣n⟩,a^∣α⟩=α∣α⟩(4.4.24)
をコヒーレント状態と呼ぶ。式 (4.4.17) の a^∣n⟩=n∣n−1⟩ を項ごとに当てると、和の番号が1つずれて α が1つ前に出ることを確かめることができる。式 (4.4.11) と比べると、α は古典の複素振幅を ℏ で割った値で、
α=ℏz=iℏJe−iθ,∣α∣2=ℏJ(4.4.25)
である。
中心は古典の軌道を回る
式 (4.4.12) から、∣α⟩ での位置と運動量の期待値は
⟨q^⟩=2ℓ(α+α∗)=mω2ℏReα,⟨p^⟩=2ℓiℏ(α∗−α)=2mωℏImα
で、古典の式 (4.4.5) に z=ℏα を入れたものと同じである。時間発展は、∣n⟩ が e−iω(n+1/2)t の位相を受け取るので
e−iH^t/ℏ∣α⟩=e−iωt/2e−∣α∣2/2n∑n!(αe−iωt)n∣n⟩=e−iωt/2∣αe−iωt⟩(4.4.26)
となる。コヒーレント状態は時間がたってもコヒーレント状態のままで、ラベル α が古典の複素振幅と同じ α(t)=αe−iωt に従って回る。
幅も変わらない。a^∣α⟩=α∣α⟩ から ⟨a^2⟩=α2, ⟨a^†a^⟩=∣α∣2 で、
(Δq)2=2ℓ2(⟨(a^+a^†)2⟩−(α+α∗)2)=2ℓ2⟨[a^,a^†]⟩=2ℓ2
となり、同様に (Δp)2=ℏ2/(2ℓ2) である。ΔqΔp=ℏ/2 はどの時刻でも下限に等しい。コヒーレント状態は、基底状態 ∣0⟩ と同じ形の Gauss 波束を、相空間の点 (⟨q^⟩,⟨p^⟩) に平行移動したもので、その中心が古典の楕円の上を回る。Hamiltonian が2次式なので、Ehrenfest の定理 dtd⟨q^⟩=⟨p^⟩/m, dtd⟨p^⟩=−mω2⟨q^⟩ が閉じた方程式になり、期待値は古典の方程式に厳密に従う。非調和なポテンシャルでは ⟨V′(q^)⟩=V′(⟨q^⟩) となり、この一致は崩れる。
数と位相
式 (4.4.24) から、∣α⟩ で n を見いだす確率は
P(n)=∣⟨n∣α⟩∣2=e−∣α∣2n!∣α∣2n(4.4.27)
で、平均 ∣α∣2 の Poisson 分布である。⟨n^⟩=∣α∣2=J/ℏ、標準偏差 Δn=∣α∣ で、相対的な揺らぎ Δn/⟨n^⟩=1/∣α∣ は作用変数が大きいほど小さい。n が確定した ∣n⟩ は角変数(位相)がまったく決まらない状態で、∣α⟩ は n の幅 ∣α∣ と引き換えに位相の幅を約 1/(2∣α∣) まで狭めた状態である。∣α∣→∞ で両方の相対的な幅が 0 に近づき、古典の「J も θ も決まった1点」に近づく。
角変数の演算子は作れない
古典の {θ,J}=1 をそのまま量子化して [θ^,J^]=iℏ を満たすエルミートな θ^ を作ろうとすると、失敗する。もし作れたとすると、U^=eiθ^ はユニタリで U^†n^U^=n^+1 を満たし(J^=ℏ(n^+21) と交換関係から)、n^ のスペクトル {0,1,2,…} をユニタリ変換で {1,2,3,…} に写すことになる。ユニタリ変換はスペクトルを変えないので矛盾する。原因は J≥0 という下限で、J が下に有界なので、J を平行移動する演算子を作ることができない。量子の振動子で位相を扱うときは、θ^ でなく a^ そのもの(e−iθ に当たる量)を使う。

図 4.4.3 コヒーレント状態 α=3 の数の分布 P(n)(Poisson 分布、平均 9、標準偏差 3)。n=8 と n=9 で最大値 0.132 をとる
例題 4.4.5 α=3 のコヒーレント状態 ★★
オリジナル調和振動子がコヒーレント状態 ∣α⟩、α=3 にある(時刻 t=0)。
- (1) ⟨n^⟩、Δn、エネルギーの期待値を求めよ。数の分布が最大になる n と、そのときの確率、n=0 を見いだす確率を求めよ。
- (2) 対応する古典の振動子の作用変数 J と角変数 θ、振幅 A を求めよ。t=0 に粒子は楕円のどこにいるか。
- (3) 時刻 t の ⟨q^⟩ と Δq を求めよ。
解答
(1) Poisson 分布なので ⟨n^⟩=∣α∣2=9、Δn=∣α∣=3。⟨H^⟩=ℏω(⟨n^⟩+21)=9.5ℏω。P(n+1)/P(n)=9/(n+1) は n<8 で 1 より大きく、n=8 でちょうど 1 なので、P(8)=P(9) が最大で、値は e−999/9!=0.132。P(0)=e−9=1.23×10−4。
(2) 式 (4.4.25) から J=ℏ∣α∣2=9ℏ、i⋅3e−iθ=3 から e−iθ=−i、θ=π/2。振幅は A=2J/(mω)=32ℓ=4.24ℓ。θ=π/2 は q=A, p=0 で、粒子は右の転回点にいる。量子のエネルギーの期待値 9.5ℏω と古典の ωJ=9ℏω の差 21ℏω は、4.4.2節の並べ方の違いそのものである。
(3) α(t)=3e−iωt なので ⟨q^⟩=2ℓ⋅3cosωt=4.24ℓcosωt で、古典の q=Asin(ωt+π/2)=Acosωt と同じ。Δq=ℓ/2=0.707ℓ は時刻によらない。振幅 4.24ℓ の振動を、幅 0.71ℓ の波束が形を変えずに往復する。
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