光学と量子エレクトロニクス 第31章 §31.3 ★★★ ∣α⟩=D^(α)∣0⟩ は a^ の固有状態で、光子数は平均 ∣α∣2 の Poisson 分布、場の期待値は古典の振動そのもの、揺らぎは真空と同じ。位相の揺らぎは 1/(2∣α∣)
定義と固有値の式
古典の電流で真空を揺すった状態
∣α⟩=D^(α)∣0⟩(31.13)
をコヒーレント状態と呼ぶ。R. J. Glauber (1963), Phys. Rev. 131, 2766 が、古典の電流が放射する光の量子状態としてこの状態を調べ、光の干渉性(コヒーレンス)の量子論の基礎にした。式 (31.8) から a^D^(α)=D^(α)(a^+α) なので
a^∣α⟩=D^(α)(a^+α)∣0⟩=α∣α⟩(31.14)
で、コヒーレント状態は消滅演算子の固有状態である。a^ はエルミートでないので、固有値 α は複素数でよく、固有状態どうしは直交しない(下で見る)。
光子数の状態で展開する。式 (31.14) を ∣α⟩=∑ncn∣n⟩ に当てると cn+1n+1=αcn で、cn=c0αn/n!。規格化から ∣c0∣2e∣α∣2=1 なので
∣α⟩=e−∣α∣2/2n=0∑∞n!αn∣n⟩,P(n)=∣⟨n∣α⟩∣2=e−∣α∣2n!∣α∣2n(31.15)
を得る(c0 の位相は D^(α)∣0⟩ の定義で実数に決まる)。光子数の分布は平均 ∣α∣2 の Poisson 分布で、
⟨n^⟩=∣α∣2,(Δn)2=∣α∣2,⟨n^⟩Δn=∣α∣1(31.16)
である。Poisson 分布は、たがいに独立な出来事を数えた回数の分布である。古典の電流が光子を1個ずつたがいに相関なく放つと読むことができる。
場の期待値と揺らぎ
時間発展は e−iH^t/ℏ∣α⟩=e−iωt/2∣αe−iωt⟩ で(各項 ∣n⟩ に e−inωt が掛かる)、コヒーレント状態はコヒーレント状態のまま、α が位相平面の上を角速度 ω で回る。電場の期待値は式 (31.4) と ⟨X^1⟩=Reα、⟨X^2⟩=Imα から
⟨E^(t)⟩=2Eph∣α∣esin(ωt−argα)(31.17)
で、振幅 2Eph∣α∣=2Eph⟨n^⟩ の古典の振動そのものである(例題 31.1 の E0=2Ephn)。揺らぎは、D^(α) が直交位相を数だけずらすので真空と同じで、どの向きにも (ΔXθ)2=41、場では ΔE=Eph である。コヒーレント状態は、真空の揺らぎの円を (Reα,Imα) へ平行移動したものである(図 31.1)。
光子数と位相の揺らぎは、図から読める。中心から距離 ∣α∣ にある半径 21 の円を見込む角度の半分が位相の揺らぎで、
Δϕ≈∣α∣1/2=2∣α∣1,ΔnΔϕ≈21(31.18)
である(∣α∣≫1)。動径の向きの揺らぎ 21 は振幅 ∣α∣ の揺らぎで、n=∣α∣2 の揺らぎに直すと Δn≈2∣α∣⋅21=∣α∣ となり、式 (31.16) と一致する。この位相の揺らぎは、相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第3部第8章(相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第3部第8章)の量子 Fisher 情報からも出る。位相の推移 e−iϕn^ の生成子は n^ で、JQ=4(Δn)2=4∣α∣2 なので、1回の測定の誤差の下限は 1/JQ=1/(2∣α∣) である。
直交しないことと完全性
2つのコヒーレント状態の内積は式 (31.15) から
⟨β∣α⟩=e−∣α∣2/2−∣β∣2/2+β∗α,∣⟨β∣α⟩∣2=e−∣α−β∣2(31.19)
で、0 にならない。位相平面で2つの円が重なっている間は、2つの状態を確実に見分けることはできない。円の中心が直径 1 より十分離れると、重なりは指数関数で小さくなる。直交しないのに、コヒーレント状態の全体は
π1∫∣α⟩⟨α∣d2α=1^(d2α=d(Reα)d(Imα))(31.20)
を満たす(∣n⟩⟨m∣ の係数の角度の積分で n=m が消え、動径の積分が πn! になる)。基底としては余分を含む(過剰完全)が、任意の状態をコヒーレント状態で展開することができる。第32章(第32章)で光の状態を古典の分布と比べるときにこの式を使う。
例題 31.3 He–Ne レーザーの光子数の揺らぎと位相 ★★★
オリジナル波長 632.8nm・出力 1mW のレーザー光を 1μs の間だけ切り出し、その中の光子の数を数える。光はコヒーレント状態にあるとする。
- (1) 平均の光子数 N、その揺らぎ Δn、相対的な揺らぎを求めよ。
- (2) 位相だけが δ 違う2つのコヒーレント状態 ∣α⟩ と ∣αeiδ⟩ の重なり ∣⟨αeiδ∣α⟩∣2 を ∣α∣ と δ で書け。重なりが e−1 になる δ を (1) の N で求めよ。
- (3) (2) の δ と式 (31.18) の Δϕ を比べよ。
解答
(1) 光子1個のエネルギーは hc/λ=3.139×10−19J、切り出したエネルギーは 10−9J なので N=3.19×109。Poisson 分布なので Δn=N=5.64×104、相対的な揺らぎは 1/N=1.77×10−5 である。光の強度を測ると、この揺らぎがそのまま雑音になる(31.6節のショット雑音)。
(2) 式 (31.19) で ∣α−αeiδ∣2=∣α∣2∣1−eiδ∣2=4∣α∣2sin2(δ/2) なので、重なりは exp[−4∣α∣2sin2(δ/2)]≈exp(−∣α∣2δ2)。e−1 になるのは δ=1/∣α∣=1/N=1.77×10−5rad である。
(3) (2) の δ=1/∣α∣ は Δϕ=1/(2∣α∣) の2倍で、2つの円の中心が円の直径 1 だけ離れる角度である。位相をこれより細かく変えても、1回の測定ではほとんど見分けることができない。光子数を N 倍にすると見分けられる位相は 1/N 倍にしかならない。これが標準量子限界の形で、31.7節の総合問題で干渉計に当てはめる。
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