光学と量子エレクトロニクス 第32章 §32.1 ★★★ 検出器は光子を吸収して鳴るので、計数の速さは正の周波数の場 E^(+) だけで書け、⟨E^(−)E^(+)⟩ になる。2回鳴る確率は正規順序の4つの積 G(2) で、その規格化が g(2)
第30章と第31章(第30章・第31章)では、電磁場の1つのモードを1つの調和振動子として量子化し、光子数状態 ∣n⟩ とコヒーレント状態 ∣α⟩ を作った。第9章(第9章)では、干渉の縞の濃さを場の1次の相関関数 g(1)(τ) で書き、その Fourier 変換がスペクトルであることを示した。g(1) はスペクトルと同じ情報しか持たないので、同じスペクトルの光を、熱的な光源の光とレーザーの光と1個の原子の光とで区別することができない。この章では、2つの時刻(または2つの場所)で光を数えた結果の相関、つまり強度の相関を使うと、この3つが区別できることを示す。
この章で取り出すモードは、検出器に届く自由な場のモードの集まりで、必要なときは1つのモードに絞る。物質のモデルは2つある。1つは光を数える側で、光を吸収して電子を1個出す検出器を、場と弱く結合した吸収体とみなす。もう1つは光を出す側で、互いに独立な多数の放射体(熱的な光源)と、共鳴の光で揺らした1個の2準位原子(第19章の光 Bloch 方程式に従う原子)を扱う。結合は双極子相互作用で、検出器の側では吸収だけを残す回転波近似をとる。
32.1節で、検出器の計数の速さが場の正規順序の積の期待値で書けることを示し、2回の検出の相関として G(2) と g(2) を定義する。32.2節で、1つのモードの g(2)(0) が光子数の分布の幅で決まること、古典の光では g(2)(0)≥1 であることを示す。32.3節で熱的な光の g(2)(τ)=1+∣g(1)(τ)∣2(Siegert の関係)を、32.4節でその空間版である Hanbury Brown–Twiss の強度干渉計を扱う。32.5節では、1個の原子の共鳴蛍光で g(2)(0)=0 になることを、光 Bloch 方程式の解から出し、単一光子源の評価に使う。32.6節で置いた近似と測る量を述べ、学部の授業の光子計数の式と並べる。
この章では屈折率を使わないので、光子数を n と書く。温度の記号 T は使わず、熱平衡の光は平均光子数 nˉ で指定する。時間の長さは添字つきの t で書く(検出器の時間分解能 td、数える窓の長さ tw、測定の時間 tm)。時間の因子は記法の正本どおり e−iωt にとる。
正の周波数の部分と負の周波数の部分
量子化した場(記法の正本 §9)を、時間とともに e−iωkt で回る消滅演算子の項と、e+iωkt で回る生成演算子の項に分ける。偏光を1つにそろえ、場を数で書くと
E^(r,t)=E^(+)(r,t)+E^(−)(r,t),E^(+)=ik∑2ε0Vℏωka^kei(k⋅r−ωkt),E^(−)=(E^(+))†(32.1)
である。E^(+) を正の周波数の部分、E^(−) を負の周波数の部分と呼ぶ。古典の場の複素表示 Re[E0e−iωt] の 21E0e−iωt に当たるのが E^(+) で、第9章の解析信号 E(t) の量子版である。1つのモードに絞ったときは、Eph=ℏω/(2ε0V) と置いて E^(+)=iEpha^ei(kz−ωt) と書く。Eph は、体積 V の箱の1つのモードに光子が1個あるときの場の大きさの目安である。これは第30章の光子1個の電場(式 (30.9))で、箱の平面波のモードでは Vm=V である。
検出器の計数の速さ
検出器を、はじめ基底状態 ∣b⟩ にある吸収体(光電面の電子、半導体の価電子など)とし、光を吸収して終わりの状態 ∣f⟩ へ移ると1回鳴るものとする。吸収体と場の結合は双極子相互作用 −d^⋅E^ である。吸収体が ∣b⟩ から上の状態へ上がる過程では、吸収体の演算子が e+iωfbt で回るので、それと打ち消し合って時間について積分しても残るのは場の e−iωt の項、つまり E^(+) だけである。E^(−) の項は吸収体を上げながら光子を1個増やす過程で、エネルギーが合わないので回転波近似で無視する(第18章(第18章)で2準位原子に使った近似と同じ)。
場のはじめの状態を ∣i⟩ とし、吸収の後の場の状態 ∣f⟩ を区別しないで和をとると、1次の摂動での遷移の確率は
f∑∣⟨f∣E^(+)(r,t)∣i⟩∣2=f∑⟨i∣E^(−)(r,t)∣f⟩⟨f∣E^(+)(r,t)∣i⟩=⟨i∣E^(−)(r,t)E^(+)(r,t)∣i⟩
に比例する(∑f∣f⟩⟨f∣=1 を使った)。吸収体の終わりの状態が連続に分布し、その幅が光のスペクトルより広い(広帯域の検出器)とすると、Fermi の黄金律(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部第12章)で、計数の速さは
w(r,t)=sD⟨E^(−)(r,t)E^(+)(r,t)⟩(32.2)
になる。sD は検出器の感度を表す定数である。これを Glauber の光検出の理論と呼ぶ(R. J. Glauber (1963), Phys. Rev. 130, 2529)。
式 (32.2) で、生成演算子が左に、消滅演算子が右に並んでいる。この並べ方を正規順序と呼ぶ。正規順序の期待値は真空 ∣0⟩ で 0 になる(a^∣0⟩=0)。真空の場の2乗の平均 ⟨E^2⟩ は 0 でない(真空の揺らぎ。第30章)が、真空の揺らぎは検出器を鳴らさない。真空の揺らぎで吸収体が上へ上がるには、どこかからエネルギーをもらう必要があり、真空にはもらうエネルギーが無いからである。
2回鳴る確率と G(2)
時刻 t に場所 r1 で、時刻 t+τ に場所 r2 で検出器が鳴る同時の確率(単位時間あたり2回分)は、同じ考え方で2個の吸収を2次の摂動で扱うと、
G(2)(r1,t;r2,t+τ)=⟨E^(−)(r1,t)E^(−)(r2,t+τ)E^(+)(r2,t+τ)E^(+)(r1,t)⟩(32.3)
に比例する。先に起きた吸収の演算子が外側に来る並べ方(時間順序)と正規順序の両方を満たしている。第9章の G(1) も量子の場では G(1)(τ)=⟨E^(−)(t)E^(+)(t+τ)⟩ と書く。定常な光(期待値が時刻の原点によらない光)で、同じ場所の2回の検出を考えるとき、強度の相関関数(2次の相関関数)を
g(2)(τ)=(G(1)(0))2G(2)(τ)=⟨E^(−)(t)E^(+)(t)⟩2⟨E^(−)(t)E^(−)(t+τ)E^(+)(t+τ)E^(+)(t)⟩(32.4)
で定義する。分母は2つの検出器が独立に鳴る確率の積なので、g(2)(τ) は、時刻 t に1回鳴ったという条件のもとで、時刻 t+τ にもう1回鳴る確率が、条件の無いときの何倍になるかを表す。τ が光の相関の時間より十分長いと、2つの検出は無関係になり g(2)(τ)→1 である。
場を古典の確率変数とみなせる光では、演算子の順序は問題にならず、式 (32.4) は強度 I(t)∝∣E(t)∣2 の相関
g(2)(τ)=⟨I⟩2⟨I(t)I(t+τ)⟩(32.5)
になる。g(1) が場の振幅の相関であるのに対し、g(2) は強度の揺らぎの相関である。
例題 32.1 真空は鳴らず、光子1個は2回鳴らない ★★
オリジナル1つのモードの場を、ある点・ある時刻で E^=iEph(a^−a^†) と書く(位相の因子は省く)。E^(+)=iEpha^ である。
- (1) 光子数状態 ∣n⟩ で、⟨E^2⟩、⟨E^(−)E^(+)⟩、⟨E^(−)E^(−)E^(+)E^(+)⟩ を求めよ。
- (2) n=0,1 の結果から、真空と光子1個の状態で検出器がどう鳴るかを述べよ。
- (3) 波長 780nm、体積 V=1cm3 のモードの Eph を求めよ。
解答
(1) E^2=−Eph2(a^2−a^a^†−a^†a^+a^†2) で、∣n⟩ では a^2 と a^†2 の期待値が 0 なので⟨E^2⟩=Eph2(⟨a^a^†⟩+⟨a^†a^⟩)=Eph2(2n+1) である。正規順序の積は E^(−)E^(+)=Eph2a^†a^ なので ⟨E^(−)E^(+)⟩=Eph2n、4つの積は Eph4a^†2a^2=Eph4n^(n^−1) なので Eph4n(n−1) である。
(2) 真空(n=0)では ⟨E^2⟩=Eph2 で場は揺らいでいるが、計数の速さ ∝Eph2n は 0 で、検出器は鳴らない。n=1 では1回鳴る速さは 0 でないが、2回鳴る確率 ∝n(n−1) は 0 である。光子1個は吸収されると無くなるので、2つ目の検出器を鳴らすものが残らない。⟨E^2⟩ の +1 の部分は a^a^† の並べ替えから出た真空の寄与で、正規順序にするとこの部分が消える。
(3) ω=2πc/λ=2.42×1015s−1、ℏω=2.55×10−19J で、Eph=ℏω/(2ε0V)=0.120Vm−1 である。1cm3 の箱の中の光子1個の場はこの程度の大きさで、箱を小さくするほど大きくなる(第34章の共振器 QED で使う)。
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