光学と量子エレクトロニクス 第18章 §18.1 ★★★ 古典の単色場と、偶奇性と角運動量の選択則で選んだ2つの準位。偏光が決まると、縮退した励起状態の中で光とつながる組み合わせは1つだけになる
第1章(第1章)では、巻の見通しを立てるために、原子と光の結合 −d^⋅E に双極子近似と回転波近似を当てると問題が時間に依らない 2×2 の行列H^=−2ℏΔσz−2ℏΩσx になることを、結果だけ述べた。この章では、その3つの段をそれぞれ取り出して確かめる。第4部の残りの章(Rabi 振動と光 Bloch 方程式・A と B の係数・レート方程式・レーザー)と第5部(原子を光で操る)は、すべてこの章で作る行列から出発する。
この章で取り出すモードは、1つの角周波数 ωL を持つ古典の平面波で、物質のモデルは2準位原子、結合は電気双極子の相互作用である。18.1節では、多くの準位を持つ原子から2つの準位を選ぶ規則を述べる。選ぶのは原子の準位だけでなく光の偏光でもあり、偏光が決まると励起状態のうち光とつながる組み合わせ(明るい状態)がただ1つに決まる。18.2節は双極子近似で、捨てた多重極の項の大きさを見積もり、さらに2準位に縮約した模型ではゲージの選び方で結果が変わることを示す。18.3節で回転座標への変換を正確に行い、回転波近似が何を捨てるかを、直線偏光を2つの円偏光に分ける見方で説明する。18.4節が「出てくるもの」で、回転座標の行列を対角化して、服を着た状態・一般化 Rabi 周波数・光シフトを出す。18.5節で3つの近似の札を置き、回転波近似の誤差である Bloch–Siegert のずれを Floquet の方法で数値と比べ、実験で確かめる量を述べる。18.6節で量子力学の授業の時間に依存する摂動論と並べ、18.7節でまとめる。
場のモード:古典の単色場
場のモードとして、角周波数 ωL の平面波
E(r,t)=Re[E0eei(k⋅r−ωLt)],e∗⋅e=1(18.1)
を1つだけ取り出す。E0>0 は振幅、e は偏光を表す複素の単位ベクトル(第25・30章と同じ e)で、直線偏光なら実数のベクトル(たとえば ex)、円偏光なら (ex+iey)/2 のような複素のベクトルになる。e=(ex+iey)/2 のとき原点の電場は 2E0(excosωLt+eysinωLt) で、z 軸のまわりを反時計回りに回る。z へ進む光なら、これは第15章の螺旋度 + の円偏光 ∣+⟩(式 (15.13))である。
この場を量子化せず古典の関数として扱うことを半古典の扱いと呼ぶ。レーザー光のモードには非常に多くの光子が入っていて、原子1個が光子を1個吸ったり出したりしても場の振幅はほとんど変わらないので、場を決まった関数とみなすことができる。場の量子化が要るのは、光子が0個か数個のモード(自然放出・共振器 QED)を扱うときで、第34章(第34章)で、この章の Rabi 周波数 Ω が光子の演算子に置き換わる。
物質のモデル:2つの準位を選ぶ
原子の Hamiltonian H^A の固有状態を ∣j⟩、固有値を Ej とする。光の角周波数 ωL が、ある2つの準位 ∣g⟩ と ∣e⟩ の間の遷移角周波数 ω0=(Ee−Eg)/ℏ に近く、ほかのどの遷移からも十分離れているとき、状態を ∣g⟩ と ∣e⟩ が張る2次元の部分空間に限る。射影 P^=∣g⟩⟨g∣+∣e⟩⟨e∣ で Hamiltonian を挟んだ P^H^P^ を新しい Hamiltonian とする、A 型(射影)の近似である。エネルギーの原点を2つの準位の中点に取ると、原子の部分は
H^A=2ℏω0σz,σz=∣e⟩⟨e∣−∣g⟩⟨g∣(18.2)
になる。上げ下げの演算子を σ+=∣e⟩⟨g∣、σ−=∣g⟩⟨e∣ とすると、σx=σ++σ−、σy=−i(σ+−σ−) で、基底を (∣e⟩,∣g⟩) の順に並べた行列は通常の Pauli 行列になる。
双極子の演算子 d^=−er^ を、この部分空間に射影する。r^ は空間反転 r→−r で符号を変えるので、原子の状態が偶奇性(パリティ)の決まった状態なら、同じ偶奇性の状態どうしの行列要素は消える。とくに ⟨g∣d^∣g⟩=⟨e∣d^∣e⟩=0 で、∣g⟩ と ∣e⟩ は偶奇性が逆でなければならない(Laporte の規則)。残る行列要素を deg=⟨e∣d^∣g⟩ と書くと
P^d^P^=degσ++deg∗σ−(18.3)
である。deg は一般に複素のベクトルで、その向きは角運動量で決まる。
角運動量の選択則と明るい状態
原子の状態を角運動量 z 成分の量子数 m で分ける。位置の成分を球面の基底 r^±1=∓(x^±iy^)/2、r^0=z^ で書くと、r^q は z 成分を qℏ だけ上げる演算子なので([L^z,r^q]=qℏr^q)、⟨m′∣r^q∣m⟩ は m′=m+q のときだけ 0 でない。これが Δm=0,±1 の選択則で、q は光の偏光の成分に対応する。導出の全体は解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部第12章 にある。
この選択則から、2準位への縮約について1つの厳密な事実を示すことができる。基底状態 ∣g⟩ が縮退していないとし、励起状態が ∣e1⟩,…,∣eK⟩ と K 重に縮退しているとする(水素の 2p なら m=−1,0,+1 の3つ)。偏光 e の光の吸収の行列要素は ⟨ei∣d^⋅e∣g⟩ なので、光が ∣g⟩ からつなぐ先は
∣b⟩=db1i=1∑K∣ei⟩⟨ei∣d^⋅e∣g⟩,db=(i=1∑K⟨ei∣d^⋅e∣g⟩2)1/2(18.4)
という1つの組み合わせだけである。∣b⟩ を明るい状態と呼ぶ。∣b⟩ に直交する K−1 個の励起状態は、この光の吸収の行列要素がちょうど 0 になり、暗い状態と呼ばれる。∣g⟩ が縮退せず、ほかの準位への遷移が離れていれば、原子の状態は ∣g⟩ と ∣b⟩ の2次元から出ない。2準位への縮約は、縮退した励起状態の中では近似ではない。基底状態も縮退しているとき(アルカリ原子の超微細構造の mF 準位など)は、暗い状態に原子がたまる現象(光ポンピング・コヒーレントな捕獲)が起こり、2準位の模型は使えなくなる。光ポンピングは第26章の偏光勾配冷却(26.3 節)で、2つの基底状態の重ね合わせの暗い状態(コヒーレントな捕獲)は第19章の電磁誘起透明化(19.4 節)で扱う。
例題 18.1 水素の 1s→2p で偏光ごとの明るい状態を求める ★★
オリジナル水素原子の波動関数を原子単位(a0=1)で ψ1s=e−r/π、ψ2p,0=42π1re−r/2cosθ、ψ2p,±1=∓8π1re−r/2sinθe±iφ とする。⟨2p,0∣z^∣1s⟩=C とおく(C=2431282、第1章の例題で用いた値)。
- (1) ⟨2p,±1∣x^∣1s⟩ と ⟨2p,±1∣y^∣1s⟩ を C で表せ。
- (2) x 方向の直線偏光(e=ex)の明るい状態 ∣b⟩ と db を求めよ。
- (3) 円偏光 e=(ex+iey)/2 の明るい状態と db を求めよ。
解答
(1) x=rsinθcosφ、y=rsinθsinφ を使う。φ の積分は ∫02πe∓iφcosφdφ=π、∫02πe∓iφsinφdφ=∓iπ で、残りの r と θ の積分は ⟨2p,0∣z^∣1s⟩ の計算と係数だけが違う。まとめると
⟨2p,±1∣x^∣1s⟩=∓2C,⟨2p,±1∣y^∣1s⟩=+2iC.
(共役を取った ψ2p,±1∗∝∓(x∓iy) を x と y に掛けて積分すると、x2 と y2 の積分だけが残ることから符号が決まる。)3つの m の行列要素の大きさは ∣⟨2p,±1∣r^∣1s⟩∣=C でそろう。
(2) d^⋅ex=−ex^ なので、式 (18.4) の和は −e(−2C∣2p,+1⟩+2C∣2p,−1⟩) で、db=eC、
∣b⟩=21(∣2p,+1⟩−∣2p,−1⟩)
になる。これは実数の軌道 ψ2p,x=−21(ψ2p,+1−ψ2p,−1)∝xe−r/2 に全体の位相 −1 を掛けたもので、明るい状態は光の電場の向きに伸びた 2px 軌道である。2py と 2pz が暗い状態になる。db=eC は z 偏光の場合と同じで、原子が球対称なので偏光の向きによらない。
(3) d^⋅e=−e(x^+iy^)/2 で、(1) から
⟨2p,+1∣x^+iy^∣1s⟩=−2C+i⋅2iC=−2C,⟨2p,−1∣x^+iy^∣1s⟩=2C+i⋅2iC=0.
したがって明るい状態は ∣2p,+1⟩ だけで、db=e2C/2=eC である。x^+iy^=−2r^+1 は m を1上げる演算子なので、m=0 の ∣1s⟩ からは m=+1 にしか移ることができない。直線偏光では明るい状態が m=±1 の重ね合わせだったのが、円偏光では m の決まった1つの状態になる。どちらの場合も、光が見る原子は2準位である。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com