光学と量子エレクトロニクス 第1章 §1.1 ★★★ 境界のある空間の電磁場はとびとびのモードに分かれ、各モードのエネルギーは調和振動子のエネルギーと同じ形になる
光学の授業は、光線の屈折と結像から始まり、回折と干渉、物質中の屈折率と吸収へ進む。量子エレクトロニクスの授業は、光子のエネルギー ℏ ω \hbar\omega ℏ ω と Einstein の係数から始まり、反転分布とレーザー発振、原子の冷却と原子時計へ進む。2つの授業は扱う装置も使う式も違うように見えるが、どちらも同じ3つの部品を組み合わせて書かれている。1つ目は電磁場で、境界のある空間ではとびとびのモード に分かれ、モード1つ1つは調和振動子として振る舞う。2つ目は物質で、光に応答する部分を古典の振動子(Lorentz 振動子)か、量子の2準位系 に縮めてモデル化する。3つ目は両者の結合で、多くの場合は電気双極子と電場の相互作用 − d ^ ⋅ E -\hat{\bm{d}}\cdot\bm{E} − d ^ ⋅ E である。この巻は、光学と量子エレクトロニクスの話題を、この3つの部品の選び方と、そのとき置いた近似で読み直す。
この章は巻全体の見方を示す。1.1節で電磁場をモードに分け、1つのモードが1つの調和振動子であることを示す。1.2 節で物質の2つのモデル(Lorentz 振動子と2準位系)を並べ、両者が弱い光に対して同じ応答を与えることを確かめる。1.3 節で結合の形と、巻を通して使う2つの近似(双極子近似と回転波近似)を述べる。1.4 節では、光子1個のエネルギー ℏ ω \hbar\omega ℏ ω を熱のエネルギー k B T k_{\mathrm B} T k B T と比べ、可視光は室温で量子的に振る舞い、マイクロ波は 50 m K 50\,\mathrm{mK} 50 mK の桁まで冷やさないと量子的に振る舞わない理由を述べる。1.5 節で巻の章の型と6つの部の地図、巻を通して戻ってくる3本の筋を示し、1.6 節で授業で習った形との対応を並べ、1.7 節でまとめる。導出の本体は後の章で行うので、この章では結果を先に借りる所がある。借りた所には、どの章で示すかを書き添える。
2枚の鏡の間の電磁場
最も簡単な例として、z = 0 z=0 z = 0 と z = L z=L z = L に置いた2枚の完全導体の鏡の間で、x x x 方向に偏った電場 E x ( z , t ) E_x(z,t) E x ( z , t ) と y y y 方向の磁場 B y ( z , t ) B_y(z,t) B y ( z , t ) だけを考える。真空の Maxwell 方程式から E x E_x E x は波動方程式 ∂ z 2 E x − c − 2 ∂ t 2 E x = 0 \partial_z^2E_x-c^{-2}\partial_t^2E_x=0 ∂ z 2 E x − c − 2 ∂ t 2 E x = 0 に従い、完全導体の表面で電場の接線成分は 0 0 0 なので E x ( 0 , t ) = E x ( L , t ) = 0 E_x(0,t)=E_x(L,t)=0 E x ( 0 , t ) = E x ( L , t ) = 0 である。この境界条件を満たす関数は sin ( k ℓ z ) \sin(k_\ell z) sin ( k ℓ z ) (k ℓ = ℓ π / L k_\ell=\ell\pi/L k ℓ = ℓ π / L 、ℓ = 1 , 2 , … \ell=1,2,\dots ℓ = 1 , 2 , … )で、これらは [ 0 , L ] [0,L] [ 0 , L ] で完全系をなす。そこで電場を
E x ( z , t ) = ∑ ℓ = 1 ∞ A ℓ ( t ) sin ( k ℓ z ) (1.1) E_x(z,t)=\sum_{\ell=1}^{\infty}A_\ell(t)\sin(k_\ell z)\tag{1.1} E x ( z , t ) = ℓ = 1 ∑ ∞ A ℓ ( t ) sin ( k ℓ z ) ( 1.1 )
と展開して波動方程式に入れると、係数ごとに
d 2 A ℓ d t 2 = − ω ℓ 2 A ℓ , ω ℓ = c k ℓ = ℓ π c L (1.2) \frac{\mathrm{d}^2A_\ell}{\mathrm{d} t^2}=-\omega_\ell^2A_\ell,\qquad\omega_\ell=ck_\ell=\frac{\ell\pi c}{L}\tag{1.2} d t 2 d 2 A ℓ = − ω ℓ 2 A ℓ , ω ℓ = c k ℓ = L ℓ π c ( 1.2 )
に分かれる。係数 A ℓ ( t ) A_\ell(t) A ℓ ( t ) どうしは互いに結びつかず、それぞれが角周波数 ω ℓ \omega_\ell ω ℓ で単振動する。この1つ1つをモード と呼ぶ。隣り合うモードの周波数の間隔は Δ ν = c / ( 2 L ) \Delta\nu=c/(2L) Δ ν = c / ( 2 L ) で、これを自由スペクトル領域(FSR)と呼ぶ。光共振器の縦モードとして第5章で詳しく扱う(第5章 )。
モードのエネルギーは調和振動子のエネルギー
モードが調和振動子であることを、エネルギーで確かめる。磁場は Faraday の法則 ∂ t B y = − ∂ z E x \partial_tB_y=-\partial_zE_x ∂ t B y = − ∂ z E x から決まる。鏡の面積を S S S 、体積を V = S L V=SL V = S L として、電磁場のエネルギー ε 0 2 ∫ ( E x 2 + c 2 B y 2 ) d 3 r \frac{\varepsilon_0}{2}\int(E_x^2+c^2B_y^2)\,\mathrm{d}^3r 2 ε 0 ∫ ( E x 2 + c 2 B y 2 ) d 3 r を計算すると、sin ( k ℓ z ) \sin(k_\ell z) sin ( k ℓ z ) と cos ( k ℓ z ) \cos(k_\ell z) cos ( k ℓ z ) がそれぞれ直交するので、異なるモードの交差項は消えて
U = ∑ ℓ ε 0 V 4 [ A ℓ 2 + ( 1 ω ℓ d A ℓ d t ) 2 ] (1.3) U=\sum_{\ell}\frac{\varepsilon_0V}{4}\Bigl[A_\ell^2+\Bigl(\frac{1}{\omega_\ell}\frac{\mathrm{d} A_\ell}{\mathrm{d} t}\Bigr)^2\Bigr]\tag{1.3} U = ℓ ∑ 4 ε 0 V [ A ℓ 2 + ( ω ℓ 1 d t d A ℓ ) 2 ] ( 1.3 )
になる。ここで新しい変数 q ℓ , p ℓ q_\ell,p_\ell q ℓ , p ℓ を A ℓ = 2 / ( ε 0 V ) p ℓ A_\ell=\sqrt{2/(\varepsilon_0V)}\,p_\ell A ℓ = 2/ ( ε 0 V ) p ℓ 、d p ℓ / d t = − ω ℓ 2 q ℓ \mathrm{d} p_\ell/\mathrm{d} t=-\omega_\ell^2q_\ell d p ℓ / d t = − ω ℓ 2 q ℓ で定めると、d q ℓ / d t = p ℓ \mathrm{d} q_\ell/\mathrm{d} t=p_\ell d q ℓ / d t = p ℓ が成り立ち、
H = ∑ ℓ 1 2 ( p ℓ 2 + ω ℓ 2 q ℓ 2 ) (1.4) H=\sum_\ell\frac12\bigl(p_\ell^2+\omega_\ell^2q_\ell^2\bigr)\tag{1.4} H = ℓ ∑ 2 1 ( p ℓ 2 + ω ℓ 2 q ℓ 2 ) ( 1.4 )
となる。これは質量 1 1 1 、角周波数 ω ℓ \omega_\ell ω ℓ の調和振動子を独立に並べた Hamiltonian そのものである。電場は運動量 p ℓ p_\ell p ℓ に、磁場は座標 q ℓ q_\ell q ℓ に比例する。真空の電磁場が厳密に線形なので、この分解は近似を含まない。
調和振動子を量子化すると、エネルギーは ℏ ω ℓ ( n ℓ + 1 2 ) \hbar\omega_\ell(n_\ell+\frac12) ℏ ω ℓ ( n ℓ + 2 1 ) (n ℓ = 0 , 1 , 2 , … n_\ell=0,1,2,\dots n ℓ = 0 , 1 , 2 , … )のとびとびの値を取る。段の数 n ℓ n_\ell n ℓ をそのモードにいる光子 の数と読む。この読み替えと量子化した場の演算子は 解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部第2章 と解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部第3章 で導いてあり、この巻では第30章で結果を引いて使う(第30章 )。この章では、光子1個のエネルギーが ℏ ω \hbar\omega ℏ ω であることと、熱平衡でモード1つに入っている光子の平均の数が Bose 分布になること(1.4 節)の2つだけを使う。
3次元の箱のモードの数
1辺 L L L の立方体の箱では、波数 k \bm{k} k がとびとびの値を取り、1つの k \bm{k} k に偏光の向きが2つある。周期境界条件で数えると k \bm{k} k は ( 2 π / L ) 3 (2\pi/L)^3 ( 2 π / L ) 3 の体積に1個ずつ並ぶので、角周波数が ω = c ∣ k ∣ \omega=c\lvert \bm{k}\rvert ω = c ∣ k ∣ 以下のモードの数は 2 × 4 π 3 ( ω / c ) 3 / ( 2 π / L ) 3 = V ω 3 / ( 3 π 2 c 3 ) 2\times\frac{4\pi}{3}(\omega/c)^3/(2\pi/L)^3=V\omega^3/(3\pi^2c^3) 2 × 3 4 π ( ω / c ) 3 / ( 2 π / L ) 3 = V ω 3 / ( 3 π 2 c 3 ) である。これを ω \omega ω で微分して、単位角周波数あたりのモードの数
g ( ω ) = V ω 2 π 2 c 3 (1.5) g(\omega)=\frac{V\omega^2}{\pi^2c^3}\tag{1.5} g ( ω ) = π 2 c 3 V ω 2 ( 1.5 )
を得る(壁が完全導体でも、L L L が波長より十分大きければ同じ式になる)。モードの数は周波数の2乗で増える。可視光の周波数では、小さな箱にも膨大な数のモードがあり(例題 1.1 )、レーザーはその中のごく少数のモードに光子を集めた状態である。逆に箱が波長より小さいと、式 (1.5) は成り立たず、その周波数のモードは1つも無いことがある。
例題 1.1 箱と共振器のモードを数える ★★
オリジナル
(1) 体積 V = 1 c m 3 V=1\,\mathrm{cm^3} V = 1 c m 3 の箱の中で、波長 500 n m 500\,\mathrm{nm} 500 nm のまわりの幅 Δ λ = 1 n m \Delta\lambda=1\,\mathrm{nm} Δ λ = 1 nm に入るモードの数を、式 (1.5) から求めよ。
(2) 1辺 1 c m 1\,\mathrm{cm} 1 cm の立方体の完全導体の空洞で、最も低いモードの周波数は ν = c 2 ( 1 / L ) 2 + ( 1 / L ) 2 \nu=\frac{c}{2}\sqrt{(1/L)^2+(1/L)^2} ν = 2 c ( 1/ L ) 2 + ( 1/ L ) 2 である。周波数 5 G H z 5\,\mathrm{GHz} 5 GHz のモードはこの空洞にあるか。
(3) 鏡の間隔 L = 30 c m L=30\,\mathrm{cm} L = 30 cm の1次元の共振器で、FSR を求めよ。利得のある周波数の幅が 1.5 G H z 1.5\,\mathrm{GHz} 1.5 GHz のとき、その幅に入る縦モードはいくつか。
解答 (1) ω = 2 π c / λ \omega=2\pi c/\lambda ω = 2 π c / λ 、Δ ω = 2 π c Δ λ / λ 2 \Delta\omega=2\pi c\Delta\lambda/\lambda^2 Δ ω = 2 π c Δ λ / λ 2 を式 (1.5) に入れると
N = g ( ω ) Δ ω = V π 2 c 3 ( 2 π c λ ) 2 2 π c Δ λ λ 2 = 8 π V Δ λ λ 4 N=g(\omega)\Delta\omega=\frac{V}{\pi^2c^3}\Bigl(\frac{2\pi c}{\lambda}\Bigr)^2\frac{2\pi c\Delta\lambda}{\lambda^2}=\frac{8\pi V\Delta\lambda}{\lambda^4} N = g ( ω ) Δ ω = π 2 c 3 V ( λ 2 π c ) 2 λ 2 2 π c Δ λ = λ 4 8 π V Δ λ
で、N = 8 π × 10 − 6 × 10 − 9 / ( 5 × 10 − 7 ) 4 ≈ 4.02 × 10 11 N=8\pi\times10^{-6}\times10^{-9}/(5\times10^{-7})^4\approx4.02\times10^{11} N = 8 π × 1 0 − 6 × 1 0 − 9 / ( 5 × 1 0 − 7 ) 4 ≈ 4.02 × 1 0 11 である。1 n m 1\,\mathrm{nm} 1 nm の幅だけで約 4 × 10 11 4\times10^{11} 4 × 1 0 11 個のモードがある。
(2) ν = c 2 2 / L = 2.998 × 10 8 × 1.414 / ( 2 × 0.01 ) ≈ 21.2 G H z \nu=\frac{c}{2}\sqrt2/L=2.998\times10^8\times1.414/(2\times0.01)\approx21.2\,\mathrm{GHz} ν = 2 c 2 / L = 2.998 × 1 0 8 × 1.414/ ( 2 × 0.01 ) ≈ 21.2 GHz 。5 G H z 5\,\mathrm{GHz} 5 GHz はこれより低いので、この空洞に 5 G H z 5\,\mathrm{GHz} 5 GHz のモードは無い。波長 6 c m 6\,\mathrm{cm} 6 cm の電磁場は、それより小さな箱の中に定在波を作ることができない。式 (1.5) は箱が波長より十分大きいときに限って使える数え方である。
(3) Δ ν = c / ( 2 L ) = 2.998 × 10 8 / 0.6 ≈ 500 M H z \Delta\nu=c/(2L)=2.998\times10^8/0.6\approx500\,\mathrm{MHz} Δ ν = c / ( 2 L ) = 2.998 × 1 0 8 /0.6 ≈ 500 MHz 。1.5 G H z 1.5\,\mathrm{GHz} 1.5 GHz の幅には 1.5 × 10 9 / ( 5.0 × 10 8 ) ≈ 3 1.5\times10^9/(5.0\times10^8)\approx3 1.5 × 1 0 9 / ( 5.0 × 1 0 8 ) ≈ 3 個の縦モードが入る。(1) の箱では 1 n m 1\,\mathrm{nm} 1 nm (1.2 × 10 12 H z 1.2\times10^{12}\,\mathrm{Hz} 1.2 × 1 0 12 Hz )の幅に 10 11 10^{11} 1 0 11 個を超えるモードがあったのに比べ、共振器は光が往復できる方向を1つに限るので、利得の幅に入るモードを数個まで減らしている。
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