光学と量子エレクトロニクス 第5章 §5.1 ★★★ 鏡の間の往復は、行列式 1 の周回行列1つにまとまる。モードは、周回で形を変えずに複素数の因子だけがかかる場の分布として定義する
第1章(第1章)では、平らな2枚の鏡の間の電磁場がとびとびのモードに分かれ、1つ1つのモードが1つの調和振動子になることを見た。そこでは鏡を無限に広い平面とし、場を光軸方向の定在波 sin(ℓπz/L) としてだけ扱った。実際のレーザーの共振器は曲がった鏡を使い、光は鏡の間を細いビームとして往復する。この章では、第2章から第4章で作った光線の行列とガウスビームの道具をこの往復に当て、鏡の間に閉じ込められる場の分布(モード)を求める。
この章で取り出すモードは、近軸のビーム(第4章の Hermite–Gauss のモード)を光軸方向にも閉じ込めたもので、物質のモデルは鏡だけである。鏡は、曲率半径 Ri と振幅の反射率 ri の2つの数で表す。光と鏡の結合は「1周回って戻った場が元の場に比例する」という境界の条件に尽き、利得を持つ媒質(レーザーの媒質)はまだ入れない(第22章で入れる)。5.1節で鏡の間の往復を1つの行列(周回行列)にまとめ、5.2節でその行列の対角成分の和だけから、光線が鏡の間に閉じ込められるか逃げ出すかが決まることを示す。5.3節から5.5節が「出てくるもの」で、横モード(ビームの太さと波面)、縦モードと共鳴周波数(自由スペクトル領域と横モードの間隔)、損失から決まる光子の寿命・Q 値・フィネスを順に出す。共鳴周波数のずれを決める Gouy 位相が、光線の周回行列の固有値の角と同じ数になることが、この章の中心の結果である。5.6節で置いた近似と測る量を述べ、学部の光学で習う g パラメータの式と並べる。
2枚の鏡と展開した光路
光軸を z にとり、鏡1(曲率半径 R1)と鏡2(曲率半径 R2)を距離 L だけ離して向かい合わせる。鏡の間は空気(屈折率 1)とする。曲率半径の符号は第2章(第2章)の流儀に従い、共振器の内側から見て凹んだ鏡で Ri>0、平面鏡で Ri=∞、凸面鏡で Ri<0 とする。
光線は光軸からの高さ x と運動量 p(空気中では光軸に対する傾きの角)の組 (x,p) で表し、距離 d の自由な伝搬と曲率半径 R の鏡での反射を、それぞれ
T(d)=(10d1),Mmirror(R)=(1−2/R01)(5.1)
の行列で表す(第2章の式。反射は光路を鏡の所で折り返して、光が z の正の向きに進み続けるとみなす展開した光路で数える)。凹面鏡は焦点距離 R/2 の薄いレンズと同じ行列を持つので、展開した光路の上では、2枚の鏡の間の往復は、焦点距離 R1/2 と R2/2 のレンズを間隔 L で交互に無限に並べた列(レンズの導波路)を進むことと同じになる。
鏡1で反射した直後の面を基準の面にとる。光はそこから L 進んで鏡2で反射し、また L 進んで鏡1で反射して、基準の面に戻る。行列は右から順に掛けるので、1周の行列は
Mrt=Mmirror(R1)T(L)Mmirror(R2)T(L)(5.2)
である。この章ではこれを周回行列と呼ぶ。各因子の行列式が 1 なので detMrt=1 で、これは光線の写像が線形の正準変換(シンプレクティック)であることの表れである(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第2部第10章)。2枚の鏡の配置は、次の2つの無次元の数にまとめるのが便利である。
g1=1−R1L,g2=1−R2L.(5.3)
平面鏡は g=1、鏡の間隔が曲率半径に等しい凹面鏡(L=R)は g=0、間隔が曲率半径の2倍(L=2R)は g=−1 である。式 (5.2) を g1, g2 で書くと
Mrt=2g2−1L2(2g1g2−g1−g2)2g2L4g1g2−2g2−1,2A+D=2g1g2−1(5.4)
となる(例題 5.1)。行列の各成分は基準の面の選び方で変わるが、対角成分の和 A+D は基準の面を変えても変わらない。基準の面を別の場所に移すことは、周回行列を SMrtS−1 の形の行列(S は2つの面の間の行列)に取り替えることで、対角成分の和はこの変換で保たれるからである。共振器の性質のうち基準の面によらないものは、すべて A+D だけで決まるはずで、実際に次の節の安定条件と5.4節の共鳴周波数のずれは g1g2 だけで書ける。
モードの定義
周回行列は光線の行き先を決めるが、共振器のモードは光線でなく波の分布である。場の複素振幅を、光軸方向の速い位相 eikz を抜き出して E=Re[u(x,z)ei(kz−ωt)] と書く(この本の流儀。x=(x,y) は光軸に垂直な面の上の位置で、偏光の向きは固定してスカラーの u だけを追う)。
定義 5.1(共振器のモード)
基準の面の上の横の分布 u(x) が、共振器を1周したあとに
u(x) ⟼ γu(x)(γ は x によらない複素数)
となるとき、u を共振器のモードと呼ぶ。∣γ∣ は1周で振幅に残る割合、argγ は1周の位相である。
∣γ∣<1 なら場は周回ごとに小さくなり、外から光を入れ続けない限り消える。周回の位相 argγ に、速い位相 e2ikL を合わせたものが 2π の整数倍になる周波数でだけ、周回ごとの場が同じ位相で重なって大きくなる。これが共振器の共鳴である。モードの定義は、周回の写像の固有関数を探すことにほかならない。第1章の平面鏡の定在波 sin(kℓz), kℓ=ℓπ/L は、横の分布を一様な平面波とした特別な場合で、1周の位相 2kℓL=2πℓ がちょうど 2π の整数倍になっている。
物質のモデルとしての鏡は、曲率半径 Ri で横の分布の形を、振幅の反射率 ri(0<ri<1 の実数とする。鏡の反射の位相は周回ごとに一定なので、共鳴の条件の整数を数え直すだけで済み、ここでは 0 とおく)で ∣γ∣ を決める。5.3節と5.4節では鏡を完全な反射(ri=1)とみなして横の形と共鳴周波数を求め、5.5節で ri<1 を入れる。
例題 5.1 周回行列を g パラメータで書く ★★
オリジナル
- (1) 式 (5.2) を計算して式 (5.4) を確かめ、行列式が 1 であることを示せ。
- (2) 平面鏡2枚(g1=g2=1)の周回行列を求め、光軸に対して傾き p0 で出た光線が N 周後にどこにいるかを求めよ。
解答
(1) 右の2つの因子から計算する。
Mmirror(R2)T(L)=(1−2/R2L1−2L/R2)=(1−2(1−g2)/LL2g2−1).
これに左から T(L) を掛けると (2g2−1−2(1−g2)/L2g2L2g2−1)、さらに Mmirror(R1)(2/R1=2(1−g1)/L)を掛けると、A=2g2−1, B=2g2L はそのままで、
C=−L2(1−g1)(2g2−1)−L2(1−g2)=L2(2g1g2−g1−g2),D=−2(1−g1)⋅2g2+2g2−1=4g1g2−2g2−1
となる。AD−BC=(2g2−1)(4g1g2−2g2−1)−4g2(2g1g2−g1−g2) を展開すると、g1g22 の項 8g1g22−8g1g22、g1g2 の項 −4g1g2+4g1g2、g22 の項 −4g22+4g22、g2 の項 −2g2+2g2 がそれぞれ消え、1 が残る。(A+D)/2=(4g1g2−2)/2=2g1g2−1 である。
(2) g1=g2=1 を入れると Mrt=(102L1)=T(2L) で、鏡は光線を曲げず、展開した光路は長さ 2L のまっすぐな道になる。N 周の行列は T(2NL) なので、(0,p0) から出た光線は N 周後に (2NLp0,p0) にいる。高さは周回の数に比例して増え、どれほど小さい傾き p0 でも、いずれ鏡の縁から外へ出る。平面鏡の共振器は、光軸にちょうど平行な光線だけを閉じ込める境目の配置である。
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