光学と量子エレクトロニクス 第5章 §5.5 ★★★ 1周で振幅に r1r2 がかかると、光子の寿命 τc と共鳴の幅 1/(2πτc) が決まる。共振器のモードは減衰のある調和振動子で、Q 値は Lorentz 振動子と同じ定義
光子の寿命
鏡の振幅の反射率を r1, r2(0<ri<1)とする。強度の反射率は ri2 で、鏡が光を吸わなければ残りの Ti=1−ri2 が透過する(正本に無い記号 Ti を使うのは、温度 T と行列 T(d) との紛れを避けるため)。外から光を入れずに、共振器の中にモードの光を用意して放すと、1周(時間 trt=2L/c)ごとにエネルギーは r12r22 倍になる。N 周後の時刻 t=Ntrt でU(t)=U(0)(r12r22)t/trt=U(0)e−t/τc となるので、
τc=−ln(r12r22)trt=c[−ln(r12r22)]2L≈cηrt2L,ηrt=1−r12r22(5.16)
である。τc を光子の寿命(共振器の寿命)、ηrt を1周の損失の割合と呼ぶ。近似の等号は ηrt≪1 で −ln(1−ηrt)≈ηrt としたものである。ここでは周回ごとのとびとびの減衰を、時間について一様な指数関数の減衰に均した。均してよいのは、1周の時間 trt が寿命 τc より十分短い(trt/τc≈ηrt≪1)ときである。
外から光を入れたときの共鳴:Airy 関数
鏡1の外から、振幅 Ein、周波数 ν の光をモードの形に合わせて入れる。鏡1を抜けた直後の振幅は T1Ein で、これが1周ごとに r1r2eiϕ(ϕ は1周の位相。基本モードなら ϕ=2kL−θ)をかけられて重なるので、鏡1の内側を回る場は等比級数の和
Ec=T1EinN=0∑∞(r1r2eiϕ)N=1−r1r2eiϕT1Ein
になる。∣1−reiϕ∣2=(1−r)2+4rsin2(ϕ/2) を使い、r12=r1r2 と書くと、共振器の中を回るパワー Pc は
PinPc=(1−r12)2T1⋅1+(1−r12)24r12sin22ϕ1(5.17)
である。右辺の2つ目の因子を Airy 関数と呼ぶ。ϕ が 2π の整数倍、すなわち式 (5.14) の共鳴周波数で最大値 1 をとり、その間で小さくなる。共鳴では中を回るパワーが入射の T1/(1−r12)2 倍に増える。r1=r2 で鏡が光を吸わなければ、この倍率は 1/T1 になり、透過する光 T2Pc は入射と等しくなる(反射と透過の釣り合いは 第9章で扱う)。
Airy 関数が 1/2 になる ϕ は sin(ϕ/2)=(1−r12)/(2r12) で、共鳴の山の半値全幅は位相で 4arcsin[(1−r12)/(2r12)] である。山の間隔(2π)と幅の比をフィネスと呼ぶ。
F=Δν1/2νFSR=2arcsin[(1−r12)/(2r12)]π≈1−r12πr12≈ηrt2π.(5.18)
Δν1/2 は周波数で測った共鳴の半値全幅(線幅)である。最後の近似は r12→1 で 1−r122≈2(1−r12) を使った。フィネスは、光が消えるまでに共振器を往復するおおよその回数に 2π を掛けたもの(F≈2πτc/trt)である。
共振器のモードは減衰のある調和振動子
共鳴 ϕ=2πℓ の近くで ϕ=2πℓ+φ とおき、sin2(φ/2)≈φ2/4 とすると、Airy 関数は
1+r12φ2/(1−r12)21=1+[2(ω−ωℓ)τc]21(5.19)
の Lorentz 形になる。ここで φ=(ω−ωℓ)trt(ωℓ は共鳴の角周波数)とし、式 (5.16) の trt/τc=−2lnr12≈2(1−r12) から1−r12≈trt/(2τc) として、r12φ2/(1−r12)2≈(ω−ωℓ)2trt2⋅4τc2/trt2 と書き直した(r12≈1)。半値全幅は角周波数で 1/τc、周波数で
Δν1/2=2πτc1(5.20)
である。これは、エネルギーが率 1/τc で減る振動子の共鳴の幅にほかならない。第1章の Lorentz 振動子(第1章)は減衰率 γ で振幅が e−γt/2、エネルギーが e−γt で減り、吸収の線の半値全幅は角周波数で γ だった。共振器のモードは γ=1/τc の減衰のある調和振動子で、エネルギーの減衰率と線幅が等しいという関係は、振動子の種類によらない。
振動子の鋭さを表すQ 値は、共鳴の周波数と線幅の比、または1ラジアンの振動のあいだに失うエネルギーに対する蓄えたエネルギーの比として定義する。
Q=Δν1/2ν=ωτc=νFSRνF≈ℓF.(5.21)
フィネスは共振器の長さによらない鏡の質の指標で、Q 値は長さ(縦モードの番号 ℓ)を掛けたものである。同じ鏡でも長い共振器ほど Q 値は高い。Lorentz 振動子の Q 値も同じ定義で Q=ω0/γ と書け、光共振器と原子の吸収の線を同じ物差しで比べることができる。共振器の中に原子を置いたとき、原子の自然放出の速さが共振器の Q 値とモードの体積で変わる Purcell 効果は、この2つの振動子の結合の問題である(第34章)。

図 5.4 r12=0.7 の共振器の共鳴の形。点線は式 (5.17) の Airy 関数(厳密。ϕ=2π ごとに同じ山が繰り返す)、実線は共鳴の近くの Lorentz 形 (5.19)。このフィネスの低い例(F=8.71)でも山の頂上付近はよく合い、裾で離れる。フィネスが高いほど山は細くなり、山の全体で2つの式の差は小さくなる
例題 5.5 フィネス・寿命・Q 値の数を出す ★★
オリジナル長さ L=10cm の共振器の両方の鏡の強度の反射率が 0.99 で、光の波長は 1064nm とする。
- (1) 自由スペクトル領域と、式 (5.18) の厳密な式によるフィネス、線幅を求めよ。
- (2) 光子の寿命 τc を求め、1/(2πτc) が (1) の線幅に一致することを確かめよ。
- (3) Q 値を求めよ。近似 F≈2π/ηrt はどの程度合うか。
解答
(1) νFSR=c/(2L)=1.499GHz。r12=r1r2=0.99 なのでF=π/(2arcsin[0.01/(20.99)])=312.6、線幅は Δν1/2=νFSR/F=4.80MHz である。
(2) −ln(r12r22)=−ln(0.9801)=0.0201 なので、式 (5.16) から τc=0.2m/(c×0.0201)=33.2ns。1/(2πτc)=4.80MHz で、(1) と3桁で一致する(2つの式の比は 1+8×10−6 で、差は 1−r12 の高い冪の桁)。光は消えるまでに τc/trt=49.8 回往復し、その間に 2×49.8×10cm≈10m 進む。
(3) ν=c/λ=2.818×1014Hz なので Q=ν/Δν1/2=5.88×107。ηrt=1−0.992=0.0199 で 2π/ηrt=315.7 となり、厳密な 312.6 と1パーセントの差である。この差は 1−r122=(1−r12)(1+r12) の 1+r12=1.99 を 2 とした分で、反射率がさらに 1 に近いほど小さくなる。
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