光学と量子エレクトロニクス 第34章 §34.1 ★★★ 量子化したモードに2準位をつなぐと、回転波近似の後の結合は ℏg(a^σ++a^†σ−) になり、光子を1個足す行列要素が n+1 になる。自然放出は光子0個のモードへの誘導放出として読める
第4部と第5部では、自然放出の速さ Γ を結果だけ借りて使ってきた。光 Bloch 方程式の縦緩和(第19章)、Einstein の A21(第20章)、自然幅(第24章)、散乱力(第25章)は、どれも Γ=ω03deg2/(3πε0ℏc3) という式を出発点にしていた。この式は、場を古典の振幅として扱う限り導けない。古典の場の無い所に置いた励起状態の原子は、半古典の理論ではいつまでも励起状態にとどまる。第30章で場を量子化し、1つのモードが1つの調和振動子で、光子が0個の状態にも場の揺らぎが残ることを示した(第30章)。この章では、その真空のモードに2準位の原子をつなぎ、自然放出を Schrödinger 方程式の解として導く。
章の型(第1章)に当てはめると、取り出す場のモードは2通りある。1つは自由空間のすべてのモード(連続体)で、もう1つは共振器の中の1つのモードである。物質のモデルは2準位の原子で、結合は双極子近似と回転波近似のもとで ℏg(a^σ++a^†σ−) の形になる。34.1節で、この結合を量子化した場から作り、放出の行列要素が光子数 n に対して n+1 に比例することを示す。34.2節で、原子を連続体につなぎ、Wigner–Weisskopf の方法で指数関数の減衰と自然幅を出す。34.3節で、連続体の代わりに損失のある共振器のモードを置くと、自然放出の速さが共振器の Q 値とモードの体積で決まる値に変わること(Purcell 効果)を示す。34.4節で、共振器の損失が小さい極限に進み、Jaynes–Cummings 模型の着衣状態、真空 Rabi 分裂、Rabi 振動の崩壊と復活を出す。34.5節で近似と実験を、34.6節で黄金律と古典の双極子放射との対応を述べ、34.7節でまとめる。
モード・物質・結合
第30章では、体積 V の箱の中の電場を
E^(r)=ik,s∑2ε0Vℏωkeks(a^kseik⋅r−a^ks†e−ik⋅r)(34.1)
と量子化した(Schrödinger 描像で書いた。記法の正本 §9 の形で t=0 と置いたもの)。各モード (k,s) の Hamiltonian は ℏωk(a^ks†a^ks+21) である。根号の中の量の箱の体積 V を一般のモードの体積 Vm に置き換えた(箱の平面波のモードでは Vm=V)
Eph=2ε0Vmℏω(34.2)
は、モードが光子0個の状態にあるときの電場の揺らぎの大きさを表す。実際、定在波の1つのモード E^=Ephf(r)e(a^+a^†)(f はモードの形で最大値 1、∫∣f∣2d3r=Vm。Eph と Vm は第30章の光子1個の電場とモードの体積(式 (30.9))で、f の最大値を 1 にとると Vm はこの積分になる)では⟨0∣E^2∣0⟩=Eph2f2 で、電場のエネルギー 2ε0∫⟨0∣E^2∣0⟩d3r=ℏω/4 は真空のエネルギー ℏω/2 の半分(残りの半分は磁場)になる。Vm を小さくすると Eph が大きくなる。この点が共振器 QED のすべての出発点である。
物質のモデルは、第18章と同じ2準位の原子 H^A=2ℏω0σz、σ+=∣e⟩⟨g∣、σ−=∣g⟩⟨e∣ で、双極子の演算子は d^=degσ++deg∗σ− である(第18章)。結合は双極子近似の H^int=−d^⋅E^(r0) で、原子の位置 r0 の場だけを見る。これを展開すると σ+a^、σ−a^†、σ+a^†、σ−a^ の4種類の項が出る。相互作用描像で前の2つは e±i(ω0−ωk)t でゆっくり回り、後の2つは e±i(ω0+ωk)t で速く回る。第18章と同じ回転波近似で後の2つを捨てると
H^int=ℏk,s∑(gksσ+a^ks+gks∗a^ks†σ−),ℏgks=−i2ε0Vℏωk(deg⋅eks)eik⋅r0(34.3)
を得る。gks は角周波数の次元を持ち、結合定数と呼ぶ。σ+a^ は「光子を1個消して原子を上げる」吸収、a^†σ− は「原子を下げて光子を1個作る」放出である。回転波近似の後の Hamiltonian では、原子の励起の数と光子の数の和 N^exc=σ+σ−+∑a^ks†a^ks が保存する。
共振器の中の1つのモードだけを取り出すときは、和を1項にして、定在波のモードの形 f(r) を使う。原子が腹(f=1)にいて、双極子がモードの偏光にそろっていれば
g=ℏ∣deg∣Eph=∣deg∣2ε0ℏVmωc(34.4)
になる(位相は状態の取り方で g>0 にそろえる)。モードの腹に原子を置いたときのこの g は、第30章の g0(式 (30.18))と同じである。ωc は共振器のモードの角周波数である。この1モードの Hamiltonian
H^JC=ℏωca^†a^+2ℏω0σz+ℏg(a^σ++a^†σ−)(34.5)
を Jaynes–Cummings 模型と呼ぶ1E. T. Jaynes and F. W. Cummings (1963), Proceedings of the IEEE 51, 89–109.。34.4節で解く。
放出は n+1、吸収は n
モード (k,s) に光子が n 個いて原子が ∣e⟩ にある状態から、放出で光子が n+1 個になる行列要素は
⟨g,n+1∣H^int∣e,n⟩=ℏgks∗n+1,⟨e,n−1∣H^int∣g,n⟩=ℏgksn(34.6)
である。a^†∣n⟩=n+1∣n+1⟩ の +1 のために、光子が1個もいないモードへも放出が起きる。遷移の速さは行列要素の2乗に比例するので、放出の速さは n+1 に、吸収の速さは n に比例する。n に比例する部分が誘導放出、1 の部分が自然放出である。第20章で熱平衡から出した B21u/A21=nˉph(第20章)は、この n+1 を熱の光子数で平均した結果にほかならない。自然放出は「光子が0個のモードへの誘導放出」で、その相手は真空の揺らぎ Eph である。
古典の場との対応も式 (34.6) から読める。光子数が大きいコヒーレント状態 ∣α⟩(第31章)では、定在波の電場の振幅は E0=2Eph∣α∣ で、第18章の Rabi 周波数は Ω=∣deg∣E0/ℏ=2gnˉ になる。量子化したモードの ∣e,n⟩ と ∣g,n+1⟩ の間の振動の角周波数は 2gn+1 で(34.4節)、n が大きいと古典の値に一致する。古典の場の Rabi 周波数 Ω は、光子の演算子 2ga^ の期待値に置き換わったものである。
例題 34.1 小さな共振器の真空の場 ★★
オリジナルRb 原子の 780 nm の遷移(自然放出の速さ Γ0/2π=6.07MHz)を、双極子が1つの向きにそろった2準位とみなす。この原子を、長さ L=50μm、ビームの腰 w0=12μm の Fabry–Perot 共振器の腹に置く。モードの体積は Vm=πw02L/4 とする(第5章のガウスビームの定在波)。
- (1) 第20章の関係 Γ0=ω03∣deg∣2/(3πε0ℏc3) から ∣deg∣ を ea0 単位で求めよ。
- (2) Vm、Eph、g/2π を求めよ。
- (3) 光子が n 個のときの Rabi 振動の角周波数 2gn+1 と、同じ平均光子数の古典の場の Ω=2gn の比を、n=100 について求めよ。
解答
(1) ω0=2πc/λ=2.415×1015s−1、Γ0=3.81×107s−1 で、∣deg∣=3πε0ℏc3Γ0/ω03=2.99ea0=2.53×10−29Cm である。
(2) Vm=π(12μm)2(50μm)/4=5.65×10−15m3。式 (34.2) から Eph=1.59×103Vm−1 で、式 (34.4) から g=∣deg∣Eph/ℏ、g/2π=61.0MHz である。光子1個も無いのに、原子は1秒に 1.2×108 回の割合で場と励起をやり取りすることができる。g は自然放出の速さ Γ0/2π=6.07MHz の10倍あり、この共振器では原子の励起が自由空間へ逃げる前に共振器のモードと何度も行き来する(34.4節)。
(3) 比は n/(n+1)=100/101=0.995 で、光子が100個あれば古典の値と 0.5 パーセントしか違わない。違いが目立つのは n が数個以下のときで、n=0 では古典の場の Ω=0 に対して量子化したモードの 2g が残る。
1 E. T. Jaynes and F. W. Cummings (1963), Proceedings of the IEEE 51, 89–109.
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com