光学と量子エレクトロニクス 第30章 §30.4 ★★★ −d^⋅E^ に回転波近似を当てると ℏg0(σ+a^+σ−a^†)。吸収の行列要素は n、放出は n+1 で、+1 が自然放出。光子が多いと古典の Rabi 周波数に戻る
結合の Hamiltonian
物質のモデルは第18章の2準位原子 H^A=2ℏω0σz で、結合は双極子近似の −d^⋅E^(r0)(r0 は原子の位置)である。第18章との違いは、E が古典の関数から式 (30.8) の演算子に替わることだけである。原子と共鳴に近い1つのモードだけを残し、deg を実数でモードの偏光に平行、u(r0) を実数に選ぶと、Schrödinger 描像で
−d^⋅E^(r0)=−idEph(r0)(σ++σ−)(a^−a^†),Eph(r0)=2ε0ℏω∣u(r0)∣
になる(d=∣deg∣)。右辺を展開した4つの項のうち、σ+a^(原子が上がり光子が1個減る)と σ−a^†(原子が下がり光子が1個増える)は相互作用描像で e±i(ω0−ω)t とゆっくり回り、σ+a^† と σ−a^ は e±i(ω0+ω)t と速く回る。回転波近似で後の2つを捨て、モードの位相の原点を選び直して a^→ia^ とすると
H^=2ℏω0σz+ℏωa^†a^+ℏg0(σ+a^+σ−a^†),g0=ℏdEph(r0)(30.18)
を得る(場の零点のエネルギーは定数なので省いた)。g0 を結合定数と呼ぶ。これが第34章で扱う Jaynes–Cummings の模型の Hamiltonian である。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの g0n+1/ω0→0 かつ ∣ω−ω0∣/ω0→0(速く回る σ+a^† と σ−a^ を捨てる) | 証明 要確認(古典の場では周期的な係数の常微分方程式に対する平均化の定理で条件付きに示せる。量子化した場の Rabi 模型で、光子数の上限を置かずに誤差を押さえる定理の形は原論文で確かめていない) | 行き先 近似の数理 第7章
吸収は n、放出は n+1
a^∣n⟩=n∣n−1⟩、a^†∣n⟩=n+1∣n+1⟩ から、式 (30.18) の結合の行列要素は
⟨e,n−1∣H^∣g,n⟩=ℏg0n(吸収),⟨g,n+1∣H^∣e,n⟩=ℏg0n+1(放出)(30.19)
である。結合は ∣e,n⟩ と ∣g,n+1⟩ の2つの状態だけをつなぎ、その組の中で問題は第18章の 2×2 の行列と同じ形になる。共鳴で ∣e,n⟩ から出発すると
Pe(t)=cos2(g0n+1t),Ωn=2g0n+1(30.20)
で、Rabi 振動の角周波数 Ωn は光子数で決まる。n=0(真空)でも Ω0=2g0 で振動し、これを真空 Rabi 振動と呼ぶ(第34章)。
古典の場の振幅 E0 のモードのエネルギーは、時間平均で ε0E02Vm/2(電場と磁場の分を合わせる)である。これを nℏω に等しいとおくと E0=2Ephn で、古典の Rabi 周波数は Ω=dE0/ℏ=2g0n になる。式 (30.20) の n+1 と古典の n の比は 1+1/n で、光子が多いモードでは2つを区別することができない。第4・5部の半古典の扱いは、この n→∞ の極限を使っていた(光子数が揺らいだレーザー光での正確な戻り方は第31章で扱う)。
放出の +1 が自然放出
光子数 n のモードへの放出の確率は、行列要素の2乗 ∣ℏg0∣2(n+1) に比例し、吸収は ∣ℏg0∣2n に比例する。放出のうち n に比例する分は、すでにある光子が原子を下へ押す誘導放出で、吸収と同じ係数を持つ。残りの 1 は光子が無くても起こる放出で、これが自然放出である。第20章で Einstein が熱平衡の条件から導いた3つの過程(B12・B21・A21)は、行列要素の n と n+1 から1つの規則として出る。
原子が多くのモードに結合しているときは、原子の遷移の近くにある各モードへの速さを足す。モードの光子数の平均が nB の熱放射なら、
Wem=A21(nB(ω0)+1),Wabs=A21nB(ω0)(30.21)
になる(縮退の無い2準位)。ここで A21 は真空のモードに放出する速さで、すべてのモードについての和を第34章で実行する。u(ω)=π2c3ℏω3nB を使うとB21u(ω0)=A21nB は A21=π2c3ℏω03B21 と同じ式で、記法の正本と第20章の関係に一致する。第20章では Planck の分布を前提にこの関係を出したが、この章では逆に、行列要素の n+1 と n から熱平衡の占有の比が出る(例題 30.4)。
自然放出の光は、どのモードに出るかも位相も決まっていない。レーザーの発振のモードに入る自然放出の光子が、発振の線幅を決める(第22章の Schawlow–Townes の線幅)。場を古典の関数にすると n+1 が n になるので、半古典のレーザー理論ではこの線幅が出ない。
例題 30.4 n+1 と n から熱平衡を出す ★★
オリジナル
- (1) モードの光子数が幾何分布 p(n)=(1−q)qn(q=e−ℏω/kBT、解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部第3章)のとき、⟨n⟩=nB と ⟨n+1⟩=nB+1 を示し、吸収と放出の速さがつり合う原子の占有の比 Pe/Pg を求めよ。共鳴(ω=ω0)とする。
- (2) 例題 30.1 の光の微小共振器の腹に、d=2.5ea0 の2準位原子(遷移の波長 780nm)を置く。g0/2π を求めよ。
- (3) 光子数 n の状態の Rabi 角周波数 2g0n+1 と、同じエネルギーの古典の場の 2g0n の違いが 1% 未満になる最小の n を求めよ。
解答
(1) ∑nn(1−q)qn=q/(1−q)=1/(q−1−1)=nB、したがって ⟨n+1⟩=nB+1。吸収の速さは Pg⟨n⟩、放出の速さは Pe⟨n+1⟩ に比例し、比例の係数は同じ ∣g0∣2 なので、つり合いの条件は
PgPe=nB+1nB=ex/(ex−1)1/(ex−1)=e−x,x=kBTℏω0
で、Boltzmann 因子になる。放出に +1 が無ければ比は 1 になり、原子は場と同じ温度にならない。
(2) Eph=3.83×103Vm−1、d=2.5×1.602×10−19×5.292×10−11=2.12×10−29Cm で、g0=dEph/ℏ=7.69×108s−1、g0/2π=122MHz。
(3) (n+1)/n<1.01 は 1+1/n<1.0201、n>49.75 なので、n=50 から。光子が50個入れば、この模型の Rabi 振動は古典の場の計算と 1% 以内で一致する。
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