光学と量子エレクトロニクス 第5章 §5.2 ★★★ 行列式 1 の周回行列は、∣A+D∣<2 なら光線を位相空間の楕円の上で回し、∣A+D∣>2 なら指数関数的に逃がす。2枚の鏡では 0<g1g2<1
安定条件
N 周後の光線は MrtN で決まる。鏡の大きさは有限なので、光線が閉じ込められるには、どの初期条件の光線も N→∞ で有界にとどまらなければならない。行列式が 1 であることを使うと、この条件は周回行列の対角成分の和だけで判定することができる。
定理 5.2(周回行列の安定条件 ★★★)
実の 2×2 行列 M が detM=1 を満たすとし、m=(A+D)/2 とおく。
- (1) ∣m∣<1 なら、m=cosθ(0<θ<π)とおくと M の固有値は e±iθ で、すべての N について
MN=sinθsinNθM−sinθsin(N−1)θI(5.5)
が成り立つ。したがって MN の成分は N によらない定数で押さえられる。2. (2) ∣m∣>1 なら、M は絶対値が 1 より大きい実の固有値 λ=m+sgn(m)m2−1 を持ち、その固有ベクトルの向きの光線は ∣λ∣N で大きくなる。3. (3) ∣m∣=1 のときは、M=±I でない限り MN の成分の少なくとも1つが N に比例して大きくなる。
証明
固有方程式は λ2−2mλ+detM=λ2−2mλ+1=0 で、固有値は λ=m±m2−1、2つの積は 1 である。
(1) ∣m∣<1 では λ=cosθ±isinθ=e±iθ である。Cayley–Hamilton の定理から M2=2mM−I で、これを繰り返し使うと MN=aNM−bNI の形に書け、係数は aN+1=2maN−bN, bN+1=aN を満たす。aN=sinNθ/sinθ, bN=sin(N−1)θ/sinθ は N=1 で a1=1, b1=0 を満たし、三角関数の加法定理 sin(N+1)θ=2cosθsinNθ−sin(N−1)θ から漸化式も満たすので、式 (5.5) が成り立つ。∣sinNθ∣≤1 なので成分は (∥M∥+1)/sinθ の桁で押さえられる。
(2) ∣m∣>1 では2つの固有値は実数で積が 1 なので、片方の絶対値は 1 より大きい。その固有ベクトル v について MNv=λNv である。
(3) m=±1 では固有値は ±1 の重根である。M=±I なら M は対角化できず、M=±(I+K)(K=0, K2=0)と書けるので、MN=(±1)N(I+NK) となり、K の成分が N 倍される。
固有値 e±iθ の意味は、位相空間 (x,p) で考えると見やすい。安定な M は、ある正定値の2次形式 Q(x,p) を保つ(M を回転行列に移す座標の取り替えで、回転が保つ円 x′2+p′2 を戻したもの)。したがって周回ごとの光線の点 (xN,pN) は、Q(x,p)= 一定 の楕円の上を、1周あたり角 θ ずつ回る。θ を周回の角と呼ぶ。楕円の大きさは初期条件で決まり、鏡の大きさより小さい楕円に乗った光線はいつまでも閉じ込められる。∣m∣>1 では楕円が双曲線に変わり、光線は双曲線に沿って遠ざかる。これは、調和振動子の相空間の軌道(楕円)と、逆さの振り子の軌道(双曲線)の違いと同じである。
系 5.3(2枚の鏡の共振器の安定条件 ★★★)
2枚の鏡の共振器が安定(すべての光線が有界)であるための条件は
0<g1g2<1(5.6)
である。このとき周回の角 θ は cosθ=2g1g2−1 で決まる。境目の g1g2=0 と g1g2=1 は定理 5.2 の (3) に当たる。
証明
式 (5.4) から m=2g1g2−1 で、−1<m<1 は 0<g1g2<1 と同じである。
境目の配置には代表的なものが並ぶ。平面鏡2枚(g1=g2=1)、同じ曲率の凹面鏡2枚を曲率半径の2倍の間隔で置いた共心の配置(g1=g2=−1)、曲率半径に等しい間隔の共焦点の配置(g1=g2=0)はどれも g1g2 が 0 か 1 で、安定な領域の境目にある。共焦点の配置は g1=g2=0 で境目にあるが、g1g2=0 の境目のうち2本の軸の交点という特別な点で、ここでは Mrt=−I となって光線は2周で元に戻る(θ=π)。共焦点の配置は鏡の曲率半径や間隔が少しずれると不安定な領域に出ることがあるので、実際の共振器は少し内側の 0<g1g2<1 に置く。

図 5.1 2枚の鏡の共振器の安定な領域(色を付けた部分。0<g1g2<1)。境目は2本の座標軸と双曲線 g1g2=1 で、平面鏡2枚・共焦点・共心の配置はどれも境目の上にある。破線は対称な共振器 g1=g2。赤い点は5.3節の例題の対称な共振器と、総合問題の平面-凹の共振器
例題 5.2 3周で戻る光線と、平面-凹の共振器の安定な長さ ★★
オリジナル
- (1) 曲率半径 R=1m の凹面鏡2枚を L=0.5m の間隔で置いた共振器で、周回の角 θ を求め、どの光線も3周で元の位置と傾きに戻ること(Mrt3=I)を示せ。
- (2) 平面鏡と曲率半径 R2=0.5m の凹面鏡で作る共振器が安定な間隔 L の範囲を求めよ。
解答
(1) g1=g2=1−0.5/1=0.5 なので m=2g1g2−1=−1/2、cosθ=−1/2 から θ=2π/3 である。式 (5.5) で N=3 とおくと、sin3θ=sin2π=0, sin2θ=sin(4π/3)=−sinθ なので Mrt3=0⋅Mrt+I=I となる。位相空間の楕円の上を1周あたり 120∘ ずつ回るので、3周でちょうど1回りする。鏡の上では光線は3つの点を順に打ち、4周目に最初の点に戻る。このように周回の角が 2π の有理数倍になる配置では、光線が決まった数の周回で元に戻り、5.4節で見るように横モードの共鳴周波数が縦モードの周波数と重なる。光を何度も往復させて長い光路を作る多重反射のセル(ガスの吸収を測る)は、この性質を使って入射の穴と出射の穴を同じ場所に置く。
(2) g1=1, g2=1−L/R2 なので、条件 0<g1g2<1 は 0<1−L/R2<1、すなわち 0<L<R2=0.5m である。間隔を曲率半径より長くすると、凹面鏡が光線を光軸へ戻す力より、間隔を進むあいだに光線が広がるほうが勝って、光線は逃げる。
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