解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第2部 第10章 §2.10.4 ★★★ 光軸の近くでは光線の H が2次式になり、伝搬・屈折・レンズが行列式 1 の 2×2 行列(線形正準変換)で書ける。屈折率が放物型の媒質は調和振動子
近軸の Hamiltonian
光学系が z 軸(光軸)のまわりに回転対称で、光線が光軸の近くを光軸に近い向きに進むとき、x と px を小さいとして H を展開する。この節では xz 面内の光線だけを扱い、p=px と書く。式 (2.10.8) は
H=−n2−p2=−n+2np2+O(p4)(2.10.16)
で、さらに屈折率を n(x,z)=n0(z)−21n2(z)x2+O(x4) と展開すると(回転対称なので x の1次の項は無い)、2次までで
H≈−n0+2n0p2+2n2x2(2.10.17)
となる。定数 −n0 は光線の形に影響しない(位相 k0S には全体として入る)。p=nsinθ≈nθ(θ は光線が光軸となす角)なので、p は「屈折率を掛けた角」である。H が (x,p) の2次式なので Hamilton 方程式は線形で、z1 から z2 までの流れは 2×2 行列で書ける:
(x2p2)=(AmathbbCBD)(x1p1).(2.10.18)
これが ABCD 行列(光線行列)である。
基本の3つの行列
一様な媒質の中を距離 d 進む。 n2=0 なので x′=p/n, p′=0 で
T(d)=(10d/n1).(2.10.19)
自由粒子の流れ(質量 n)と同じ形である。
平らな境界面で屈折する。 境界面に沿った並進対称性から p=nsinθ が連続(式 (2.10.10))で、位置も連続なので、行列は単位行列である。角 θ そのものは n1θ1=n2θ2 で変わるが、(x,p) は変わらない。
曲率半径 R の球面で屈折する。 球面の中心が光の進む側にあるとき R>0 とする。高さ x の点で球面の法線は光軸に対して x/R だけ傾いているので、法線から測った入射角は θ1+x/R、屈折角は θ2+x/R である。Snell の法則の近軸形 n1(θ1+x/R)=n2(θ2+x/R) から p2=p1−(n2−n1)x/R で、
(1−(n2−n1)/R01).(2.10.20)
厚さの無視できるレンズ(薄いレンズ)は、曲率半径 R1, R2 の2つの球面を続けて通るので、行列の積は
Λ(f)=(1−1/f01),f1=(n−1)(R11−R21)(2.10.21)
となる(両側を空気 n=1 とした。Λ はこの章だけの記号で、ゲージ関数とは関係しない)。レンズは位置を変えずに運動量だけを位置に比例して変える。力学でいえば、短い時間だけ働く撃力 −x/f である。
行列式が 1 であること
定理 2.10.5(ABCD 行列はシンプレクティック ★★★)
変数を (x,p)=(x,nsinθ) にとった近軸光学系の ABCD 行列は、どのような系でも AD−BC=1 を満たす。
証明
z の流れは時刻に依存してよい Hamiltonian の流れなので正準変換であり(第1部第12章)、1自由度の正準変換の Jacobi 行列の行列式は Poisson 括弧 {x2,p2}=1 に等しい。線形の流れでは Jacobi 行列が ABCD 行列そのものなので AD−BC=1。境界面での跳びは、行列 (2.10.20) を見ればそのまま行列式 1 である。行列の積の行列式は行列式の積なので、系全体でも 1 になる。
光軸のまわりに回転対称でない系や、x と y が混ざる系では、(x,y,px,py) の 4×4 行列 M が MTJM=J を満たす(第1部第12章のシンプレクティック条件)。2×2 では、この条件は行列式が 1 であることと同値である。
例題 2.10.4 結像の条件と倍率 ★★
オリジナル空気中に焦点距離 f の薄いレンズを置く。レンズの前 a の物体面からレンズの後ろ b の面までの ABCD 行列を M=T(b)Λ(f)T(a) とする。
- (1) M を計算し、AD−BC=1 を確かめよ。
- (2) 物体面の1点を出たすべての光線(p1 によらず)が後ろの面の1点に集まる条件は B=0 である。これが a1+b1=f1 になることを示せ。
- (3) f=10cm, a=15cm のとき b, A, D を求め、像の倍率 A と、像の点で光線の角が何倍になるかを表す D の関係を述べよ。
解答
(1) 掛け算して
M=(1−b/f−1/fa+b−ab/f1−a/f),AD−BC=(1−fb)(1−fa)+f1(a+b−fab)=1.
(2) x2=Ax1+Bp1 が p1 によらないのは B=0 のときで、a+b=ab/f を ab で割ると a1+b1=f1。
(3) b=1/(1/10−1/15)=30cm、A=1−30/10=−2(倒立で2倍の像)、D=1−15/10=−1/2。B=0 のとき AD=1 なので D=1/A で、像が2倍に広がると光線の角の広がりは半分に縮む。どの結像系でも D=1/A になるのは、行列式が 1 であることの帰結である。
屈折率が放物型の媒質
屈折率が n(x)2=n02(1−α2x2)(α>0)の媒質(屈折率分布型、GRIN と呼ぶ)では、n≈n0(1−α2x2/2) で、式 (2.10.17) は
H≈−n0+2n0p2+2n0α2x2(2.10.22)
になる。質量 n0、角振動数 α の調和振動子で、光線は x=xmaxsin(αz) のように光軸のまわりを振動し、周期 2π/α ごとに元の位置と向きに戻る。
近軸の展開をせずに式 (2.10.6) で厳密に解くこともできる。d2x/dσ2=−n02α2x、dz/dσ=pz(一定)なので、光軸を通る光線はx=xmaxsin(n0ασ), z=pzσ で、引き返す点 x=xmax では p=0 なので pz=n(xmax)=n01−α2xmax2 である。したがって
x(z)=xmaxsin(1−α2xmax2αz),周期 α2π1−α2xmax2(2.10.23)
で、振幅の大きい光線ほど周期が短い。近軸の周期 2π/α は αxmax→0 の極限である(図 2.10.2)。周期が振幅によることは、光軸から離れた光線が1点に集まらないこと(収差)の1つの姿である。

図 2.10.2 屈折率 n2=n02(1−α2x2) の媒質の中で光軸を出る光線。振幅 αxmax=0.5(太線)と 0.15(細線)。実線は近軸の調和振動子 x=xmaxsinαz、点線は厳密な解 (2.10.23)。振幅が小さいと2本はほとんど重なり、振幅が大きいと厳密な光線のほうが早く軸に戻る
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの 光線の傾き ∣p∣/n→0 と光軸からの距離 x/ℓn→0(ℓn は屈折率が変化する長さ) | 証明 条件付き(屈折率が滑らかで、有限の伝搬距離の範囲。誤差は傾きの3次で、解のパラメータへの連続依存で押さえられる) | 行き先 近似の数理 第2章
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