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「解けない」とはどういうことか

2026年10月9日6分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第2章 解けない方程式を調べる方法(定性的理論の基礎)
目次
  1. 閉じた式で書けないことと、解が存在しないこと
  2. Hadamard の適切性
  3. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

近似の数理 第2章 §2.1 ★★ 「閉じた式で書けない」と「解が無い」を区別し、問うべきことを Hadamard の3条件に整理する

物理に現れる微分方程式のほとんどは、閉じた式では解けない。それでも「解は存在するか」「一意か」「初期値を少し変えると解はどれだけ変わるか」「時間がたつとどうなるか」には答えられることが多い。この章では、解を書き下さずに解の性質を調べるための道具を、関数解析を未習の読者に向けて原理から用意する。後の章で近似(Galerkin、平均場極限、均質化など)を正当化するとき、使われるのはほぼすべてこの章の道具である。

閉じた式で書けないことと、解が存在しないこと

「この方程式は解けない」という言い方には、意味の違う二つの主張が混ざっている。一つは、解を有限個の初等関数と積分の組み合わせ(求積)で書けないという主張である。もう一つは、そもそも条件を満たす関数が存在しないという主張である。前者は表現の問題、後者は存在の問題で、両者はまったく別物である。

前者の典型は Riccati 方程式 y′=x2+y2y'=x^2+y^2 で、Liouville はこれが求積では解けないことを示した。それでもこの方程式の解は存在し、実際には Bessel 関数を使って書ける。「閉じた式」の範囲をどこまで広げるかで、解けるかどうかの判定は変わる。三体問題も同じで、一般の初期条件に対して軌道を既知の関数で書く方法は無いが、衝突が起きない間は解が存在して一意であることは、次節の Picard–Lindelöf の定理から直ちに従う。

物理の近似について考えるとき、問題にすべきは後者の側である。近似解が「真の解」に近いと言うには、まず真の解が存在して意味をもっていなければならない。真の解が存在しない(あるいは一意でない)方程式を近似しても、近似解が何に近いのかが定まらない。

定性的理論という発想

Poincaré は天体力学(三体問題)の研究の中で、解を式で書くことを諦め、解の集合の幾何学的な性質(周期軌道があるか、軌道が有界か、どこへ近づくか)を直接調べる方法を始めた。これが微分方程式の定性的理論である。「解を書かずに性質を調べる」というこの発想は、この巻全体の基調でもある。物理の近似を数学から意味づけるとは、多くの場合、真の解を書かないまま「近似解と真の解の距離が小さい」ことを示すことだからである。

Hadamard の適切性

定義 2.1(適切性)

微分方程式の問題(初期値問題や境界値問題)が適切(well-posed)であるとは、次の3条件がすべて成り立つことをいう。

  1. 存在:与えられたデータ(初期値、境界値、外力など)に対して解が存在する。
  2. 一意性:解はただ一つである。
  3. データへの連続依存:データを少し変えると、解も少ししか変わらない。

どれか一つでも破れる問題を非適切(ill-posed)という。

3条件の意味は物理の側から読むとわかりやすい。存在と一意性が無ければ「この初期状態からの時間発展」という言葉が意味をもたない。第3の連続依存が無ければ、測定誤差や丸め誤差を含むデータから計算した解は、真の解と何の関係も無くなる。物理で使う方程式が「正しい」と言えるのは、この3条件を満たすときに限られる。注意すべき点として、第3条件の「少し」は何で測るか(どのノルムか)を指定して初めて意味をもつ。この「何で測るか」が第2.5節以降の主題になる。

Hadamard の例:連続依存の破れ

平面の上半分 y>0y>0 で Laplace 方程式 uxx+uyy=0u_{xx}+u_{yy}=0 を考え、y=0y=0 で uu と uyu_y の両方を与える(Cauchy 問題)。データ u(x,0)=0u(x,0)=0、uy(x,0)=sin⁡(nx)/nu_y(x,0)=\sin(nx)/n に対する解は

un(x,y)=sinh⁡(ny)sin⁡(nx)n2u_n(x,y)=\frac{\sinh(ny)\sin(nx)}{n^2}

である。n→∞n\to\infty でデータは一様に 00 へ近づく(振幅 1/n1/n)のに、y=1y=1 での解の振幅は sinh⁡(n)/n2\sinh(n)/n^2 で指数関数的に大きくなる。n=10n=10 でデータの振幅は 0.10.1、y=1y=1 での振幅は約 110110 である(検算スクリプト)。データ 00 に対する解は u=0u=0 なので、データがいくら 00 に近くても解は 00 に近くない。存在も一意性も成り立つが、連続依存が破れている。

同じ型の破れは、時間を逆向きに解く熱方程式(拡散を巻き戻す問題)でも起こる。高い波数の成分ほど速く減衰する方程式を逆に解けば、高い波数の成分ほど速く増幅されるからである。物理の「逆問題」(観測から原因を推定する問題)が難しいのは、多くがこの意味で非適切だからである。

例題 2.1 時間を巻き戻す熱方程式の非適切性 ★★

オリジナル区間 (0,π)(0,\pi) の熱方程式 ut=uxxu_t=u_{xx}、境界条件 u(0,t)=u(π,t)=0u(0,t)=u(\pi,t)=0 を考える。

  1. 初期値 u(x,0)=sin⁡(nx)/nu(x,0)=\sin(nx)/n に対する解を求め、時刻 T>0T>0 での振幅が初期値の振幅以下であることを示せ。
  2. 逆に、時刻 TT での値 u(x,T)=sin⁡(nx)/nu(x,T)=\sin(nx)/n が与えられたとき、時刻 00 での値を求めよ。T=0.1T=0.1、n=10n=10 のときの時刻 00 での振幅を数値で答えよ。
  3. 時刻 T=0.1T=0.1 の観測値の各正弦係数に、大きさ 10−310^{-3} までの誤差が含まれているとする。時刻 00 へ巻き戻したときに第 nn 成分の誤差が 11 以下に収まる最大の nn を求め、この問題が Hadamard の意味で非適切であることと結びつけて説明せよ。
解答

(1) u=e−n2tsin⁡(nx)/nu=\mathrm{e}^{-n^2t}\sin(nx)/n とおくと ut=−n2uu_t=-n^2u、uxx=−n2uu_{xx}=-n^2u で方程式を満たし、x=0,πx=0,\pi で 00 になる。時刻 TT での振幅は e−n2T/n≤1/n\mathrm{e}^{-n^2T}/n\le1/n で、初期値の振幅以下である。一般の初期値は正弦級数 ∑nbnsin⁡(nx)\sum_nb_n\sin(nx) に展開でき、各係数が時刻 TT までに e−n2T≤1\mathrm{e}^{-n^2T}\le1 倍されるだけなので、Parseval の等式から ∥u(⋅,T)∥≤∥u(⋅,0)∥\lVert u(\cdot,T)\rVert \le\lVert u(\cdot,0)\rVert である。前向きの問題では、初期値の誤差は時間とともに大きくならない(第2.5節のエネルギー法と同じ結論である)。

(2) 時刻 00 の値を csin⁡(nx)c\sin(nx) とすると、(1) により時刻 TT の値は c e−n2Tsin⁡(nx)c\,\mathrm{e}^{-n^2T}\sin(nx) なので、c=en2T/nc=\mathrm{e}^{n^2T}/n、すなわち u(x,0)=en2Tsin⁡(nx)/nu(x,0)=\mathrm{e}^{n^2T}\sin(nx)/n である。T=0.1T=0.1、n=10n=10 では振幅は e10/10≈2202.6\mathrm{e}^{10}/10\approx2202.6 で、時刻 TT でのデータの振幅 0.10.1 の約 2.2×1042.2\times10^4 倍になる(検算スクリプト)。

(3) 問題は線形なので、時刻 TT の第 nn 係数の誤差 δ=10−3\delta=10^{-3} は、時刻 00 では en2Tδ\mathrm{e}^{n^2T}\delta になる。e0.1n2×10−3≤1\mathrm{e}^{0.1n^2}\times10^{-3}\le1 は n2≤10ln⁡1000≈69.1n^2\le10\ln1000\approx69.1 と同値なので、最大の nn は 88 である。実際 n=8n=8 では誤差は約 0.600.60、n=9n=9 では約 3.33.3 になる。増幅率 en2T\mathrm{e}^{n^2T} には上限が無いので、データの誤差をどれほど小さくしても、それを何倍にも増幅する高い波数の成分が必ずある。データへの連続依存が破れているのである。さらに、時刻 TT のデータの係数が e−n2T\mathrm{e}^{-n^2T} より速く減っていなければ巻き戻した級数は収束しないので、存在も一般には成り立たない。観測から復元できるのは低い波数の成分だけで、実際の逆問題では高い波数を切り捨てる(正則化する)ことで問題を適切なものに作り替えて扱う。

木下の勉強ステータス

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