光学と量子エレクトロニクス 第5章 §5.3 ★★★ 周回の ABCD 則で自分に戻る q は、安定な共振器でだけ存在する。そのビームの波面は両方の鏡の面に重なる
借りる道具:ガウスビームと ABCD 則
第4章(第4章)で、近軸の波動方程式 ∇⊥2u+2ik∂zu=0 の解として、次のガウスビーム(第4章の式 (4.16))を導いた。この章ではその結果だけを使う。
u(x,z)∝q(z)1exp(2q(z)ik∣x∣2),q1=R(z)1+ikw(z)22=R(z)1+iπw(z)2λ.(5.7)
これは第4章の式 (4.9) と同じ q で、λ は媒質の中の波長である。w(z) は強度が中心の e−2 倍になる半径(ビーム半径)、R(z) は波面の曲率半径である。複素数の q をこの形に取るのは、速い位相を ei(kz−ωt) と書くこの本の流儀による(eiωt−ikz の流儀で書く光学の教科書では 1/q=1/R−iλ/(πw2) と、虚部の符号が逆になる)。自由な空間では q(z)=z−izR(z はビームの腰からの距離、zR=πw02/λ は Rayleigh 長、w0 は腰の半径)で、
w(z)2=w02(1+zR2z2),R(z)=z+zzR2,ψG(z)=arctanzRz(5.8)
となる。ψG(z) は Gouy 位相で、ガウスビームの位相は kz−ψG(z) である。
第4章のもう1つの結果は、近軸の光学系を通るとき、光線の行列 (AmathbbCBD) がそのまま q の変換を決めることである(ABCD 則)。
q′=Cq+DAq+B,u′=A+B/q1⋅(新しい q′ の形の分布).(5.9)
2つ目の式の前の因子は、光学系を通る前後で場の全体のパワーを保つ規格化と、系を通るあいだに積もる Gouy 位相を合わせたものである。自由な伝搬 T(d) では 1/(1+d/q)=q/(q+d)=q/q′ となり、その偏角は −(ψG(z+d)−ψG(z)) で、式 (5.8) の Gouy 位相の差に一致する。高次の Hermite–Gauss のモード uml∝Hm(2x/w)Hl(2y/w)u(Hm は Hermite 多項式)は、同じ q で形を保ったまま伝わり、Gouy 位相だけが (m+l+1) 倍になる(第4章の式 (4.24))。添字 m, l は第4章の uml(式 (4.24))と同じ添字である。
周回で自分に戻る q
定義 5.1 のモードをガウスビームの中から探す。周回で形が変わらないためには、ABCD 則 (5.9) で q が自分に戻ればよい。
命題 5.4(共振器の固有の q ★★★)
周回行列 Mrt=(AmathbbCBD)(detMrt=1, m=(A+D)/2)について、q=(Aq+B)/(Cq+D) を満たし、かつビーム半径が有限(Im(1/q)>0)な q が存在するための条件は ∣m∣<1 で、そのとき
q1=2BD−A+i∣B∣1−m2,w2=π1−m2λ∣B∣,R=D−A2B(5.10)
である(w, R は基準の面でのビーム半径と波面の曲率半径)。さらに B>0 のとき、この q について A+B/q=eiθ(θ は周回の角)が成り立つ。
証明
q=(Aq+B)/(Cq+D) を 1/q について書き直すと B(1/q)2+(A−D)(1/q)−C=0 で、解は
q1=2BD−A±(A−D)2+4BC.
detM=AD−BC=1 を使うと (A−D)2+4BC=(A+D)2−4=4(m2−1) なので、根号の中が負になる ∣m∣<1 のときに限り 1/q は虚部を持ち、4(m2−1)=2i1−m2 から1/q=(D−A)/(2B)±i1−m2/B となる。Im(1/q)=λ/(πw2)>0 になる符号を選ぶと式 (5.10) を得る。∣m∣≥1 では 1/q は実数で、w=∞ の平面波の極限しか残らない。B>0 のとき A+B/q=A+(D−A)/2+i1−m2=m+i1−m2=cosθ+isinθ である。
光線の言葉の安定条件(定理 5.2)と、波の言葉のモードの存在が、同じ不等式 ∣m∣<1 になった。不安定な共振器でも鏡の間に光は残るが、それは鏡の縁で決まる別の種類のモード(鏡の外へ光を出し続ける不安定共振器のモード)で、ガウスビームの形にはならない。
2枚の鏡の共振器のビーム
式 (5.4) を式 (5.10) に入れると、鏡1の上のビーム半径は
w12=πλLg1(1−g1g2)g2,w22=πλLg2(1−g1g2)g1(5.11)
となる(w2 は添字の 1 と 2 を入れ替えて得る)。基準の面での波面の曲率半径は ∣R∣=R1 で、ビームの波面は鏡1の面にぴったり重なる。同じことを腰の位置から言い直すと、ビームの腰は鏡1から距離
z1=g1+g2−2g1g2g2(1−g1)L,zR2=(g1+g2−2g1g2)2g1g2(1−g1g2)L2(5.12)
の所にあり(腰が鏡2の側にあるとき z1>0)、腰から鏡1までの距離 z1 と鏡2までの距離 z2=L−z1 で式 (5.8) の R(z) がそれぞれ R1, R2 に等しい。
波面が鏡に重なること
共振器のモードの波面は、両端で鏡の面と同じ曲率を持つ。鏡に当たった波面は、鏡の面と同じ形なので、形を変えずに逆向きに折り返される。こうして往復しても形の変わらない波が自分に重なり続ける。式 (5.12) は「R(z1)=R1 かつ R(L−z1)=R2」の2つの式を z1 と zR について解いたものである。zR2>0 になる条件がちょうど 0<g1g2<1 で、不安定な配置では両方の鏡に合う曲率のガウスビームが無い。

図 5.2 間隔 L=0.5m の対称な共振器の中のビーム半径 w(z)(波長 1064nm。式 (5.8) と (5.12))。実線は曲率半径 1m の鏡(g=0.5)、破線は共焦点の配置(g=0)。共焦点の配置のほうが腰は細く、鏡の上の半径も小さい(例題 5.3)。横軸は m、縦軸は mm で目盛った
例題 5.3 対称な共振器のビームの太さ ★★
オリジナル曲率半径 R の凹面鏡2枚を間隔 L で置いた対称な共振器(g1=g2=g)で、波長は λ=1064nm とする。
- (1) 腰の位置と Rayleigh 長、鏡の上のビーム半径を g で表せ。
- (2) R=1m, L=0.5m のときの腰の半径 w0 と鏡の上の半径 wm を求めよ。
- (3) 間隔 L を固定して R を変えるとき、鏡の上のビーム半径が最小になる配置と、そのときの w0, wm を求めよ。
解答
(1) 式 (5.12) で g1=g2=g とおくと、z1=g(1−g)L/(2g(1−g))=L/2 で腰は中央にあり、
zR2=4g2(1−g)2g2(1−g2)L2=1−g1+g⋅4L2,wm2=πλL1−g21
である(2つ目は式 (5.11))。
(2) g=0.5 では (1+g)/(1−g)=3 なので zR2=3L2/4、zR=3L/2=0.433m である。w0=λzR/π=0.383mm、鏡の上は wm=w01+(L/2)2/zR2=w04/3=0.442mm である。
(3) wm2∝1/1−g2 は g=0 で最小になる。これは共焦点の配置 R=L で、zR=L/2、w0=λL/(2π)=0.291mm、wm=2w0=0.412mm となる。腰からの距離が Rayleigh 長に等しい所に鏡があるので、鏡の上の半径は腰の 2 倍になる。共焦点の配置は鏡の上のビームが最も細く、同じ大きさの鏡で回折による損失(5.6節)を最も小さくすることができる。ただし5.2節で見たとおり安定な領域の境目にあり、2枚の鏡の曲率半径が逆の向きに少しずれる(片方が L より長く、もう片方が短い)だけで g1g2<0 となり不安定になる。実際に g=±1 に近づけると、式 (5.11) から wm→∞ になる。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com