光学と量子エレクトロニクス 第4章 §4.1 ★★★ Helmholtz 方程式から速い位相 eikz を抜き出し、包絡線の2階微分を捨てると、光軸の向き z を時刻とする2次元の Schrödinger 方程式になる
第2章と第3章(第2章・第3章)は光を光線として扱った。光線の Hamiltonian を光軸からのずれの2次で打ち切ると、光学系は行列式 1 の ABCD 行列で書け、物体の1点を出た光線は像の1点に集まる。ところがレーザーの光は、どれほど良いレンズで絞っても1点には集まらず、波長で決まる大きさの焦点を作り、焦点から離れると決まった角度で広がる。この広がりは光線の理論の外にあり、光の波としての性質の現れである。
この章で取り出すモードは、光軸の近くを進むビームの横モードである。物質のモデルは第2・3章と同じく屈折率 n(r) とレンズ・鏡で、結合は屈折率が波の位相の進み方を変えることに尽きる。解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第2部第10章(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第2部第10章)で、光学と力学の対応では ℏ の役を 1/k0(k0=2π/λ0、λ0 は真空の波長)が担うことを見た。この章の中心の事実は、近軸の光線の Hamiltonian H2 をこの対応で量子化すると、Helmholtz 方程式を近軸で近似した近軸波動方程式がちょうど得られることである。光線の言葉の近軸光学と、波の言葉の近軸光学は、古典力学と量子力学の関係にある。
4.1節で Helmholtz 方程式から近軸波動方程式を出し、それが2次元の Schrödinger 方程式と同じ形であることを示す。4.2節では自由粒子の伝搬関数に当たる Fresnel の伝搬核を当て、ガウス型の解の複素数のパラメータ q が、第2章の ABCD 行列でそのまま変換されること(ABCD 則)を示す。4.3節と4.4節が「出てくるもの」で、ガウスビームの幅・波面の曲率・Gouy 位相・集光を順に出し、高次の横モード(Hermite–Gauss モード)が調和振動子の固有関数であること、Gouy 位相が調和振動子の位相の進みであることを見る。4.5節で近軸近似の範囲と、ビームの幅を測る量を述べ、4.6節で学部の光学で習うガウスビームの公式と並べる。
Helmholtz 方程式から近軸波動方程式へ
角周波数 ω の単色の光を考え、電場を記法の正本の流儀で E(r,t)=Re[eE(r)e−iωt] と書く。e は偏光の単位ベクトルで、この章では1つの向きに固定し、電場を1成分の複素数の場 E(r) として扱う(スカラー近似。4.5節で範囲を述べる)。屈折率 n(r) がゆっくり変わる媒質の中で、E は Helmholtz 方程式
∇2E+k02n(r)2E=0(4.1)
に従う。光が全体として z の正の向きに進み、光軸の上の屈折率を n0 とすると、場は速く振動する eikz(k=n0k0)と、ゆっくり変わる包絡線 u の積に分けて
E(r)=u(x,z)eikz,x=(x,y)(4.2)
と書ける。x は第3章と同じく光軸に垂直な面の中の位置である。式 (4.1) に入れると、∇⊥2=∂x2+∂y2 として
∇⊥2u+2ik∂z∂u+∂z2∂2u+k02(n2−n02)u=0(4.3)
を得る。ここまでは近似していない。
包絡線 u が z の向きに波長の程度では変わらず、ビームの太さや焦点の長さの程度でゆっくり変わるなら、∂z2u は 2k∂zu に比べて小さい。この項を捨てたものが近軸波動方程式である:
∇⊥2u+2ik∂z∂u+k02(n2−n02)u=0.(4.4)
どれだけ小さいかは、傾いた平面波で見積もることができる。光軸と角 θ をなす平面波 eik(xsinθ+zcosθ) の包絡線は u=eikxsinθeik(cosθ−1)z で、∂z2u と 2k∂zu の比は (1−cosθ)/2≈θ2/4 である。近軸近似の小さいパラメータは光の進む向きと光軸のなす角の2乗で、太さ w0 のビームは角 θ≈1/(kw0) の程度の平面波を重ねたものなので(4.3節)、小さいのは (kw0)−2 である。
2次元の Schrödinger 方程式と同じ形
式 (4.4) を 2n0k02 で割って並べ替えると
k0i∂z∂u=[2n01(−k0i∇⊥)2−2n0n2−n02]u(4.5)
となる。これは質量 m の粒子の2次元の Schrödinger 方程式 iℏ∂tψ=[p^2/(2m)+V]ψ と、表 4.1 の置き換えで同じ形である。第3章の光線の Hamiltonian H=−n2−∣p∣2 を、n=n0+δn の δn と ∣p∣ の2次まで展開するとH≈−n0+∣p∣2/(2n0)−(n2−n02)/(2n0) で、定数 −n0 を除いた部分が近軸の H2 である。式 (4.5) の右辺の演算子は、この H2 の p を p^=−(i/k0)∇⊥ に置き換えたものにほかならない。定数 −n0 は位相 e−ik0(−n0)z=eikz になり、式 (4.2) で抜き出した速い位相に当たる。
表 4.1 近軸の波の光学と量子力学の対応(この本の流儀。x は光軸に垂直な面の中の位置)| 量子力学 | 近軸の波の光学 | 注意 |
| 時刻 t | 光軸の向きの位置 z | |
| ℏ | 1/k0=λ0/(2π) | 633 nm で 0.101μm |
| 質量 m | 光軸の上の屈折率 n0 | |
| ポテンシャル V(x) | −(n2−n02)/(2n0) | 屈折率の高い所がポテンシャルの谷 |
| 波動関数 ψ(x,t) | 包絡線 u(x,z) | |
| 確率の保存 ∫∣ψ∣2d2x | 出力の保存 ∫∣u∣2d2x | 強度は ∣u∣2 に比例 |
| [x^,p^]=iℏ | [x^,p^]=i/k0 | p^=−(i/k0)∂x |
| 古典極限 ℏ→0 | 幾何光学 λ0→0 | |
対応の中身は2つある。1つ目は、包絡線の時間発展(z についての変化)が1つの線形の演算子で決まることで、光学系の中の波の伝搬は、量子力学の時間発展の演算子と同じく重ね合わせを保つユニタリーな写像になる(出力が保存する)。2つ目は、光線の位置と傾きが量子力学の位置と運動量のように交換しないことで、ビームを細くすると傾き(広がりの角)が大きくなり、その積の下限が 1/(2k0) になる(4.3節)。この章の残りは、量子力学で調和振動子と自由粒子について知られている結果を、この対応で光へ写すことに当てる。
この章の式には n と n0 の2つが出る。一様な媒質では n=n0 で、式 (4.4) の最後の項は消え、∇⊥2u+2ik∂zu=0 になる。放物型の媒質 n2=n02(1−α2∣x∣2)(第3章の最初の例題)では、ポテンシャルは n0α2∣x∣2/2 で、質量 n0、角振動数 α の2次元の調和振動子になる。
例題 4.1 傾いた平面波で近軸近似の誤差を見積もる ★★
オリジナル真空(n0=1)を波長 λ0=633nm の光が進む。
- (1) 光軸と角 θ をなす平面波の包絡線 u=eikθx−ikθ2z/2 が近軸波動方程式 ∇⊥2u+2ik∂zu=0 を満たすことを示せ(sinθ≈θ とした形)。
- (2) 厳密な平面波の z の向きの波数 kcosθ と、近軸の k(1−θ2/2) の差を θ の最低次で求めよ。
- (3) 距離 z=1m 進んだときの位相の差が 1rad になる角を求めよ。横の波数 kx で書いたとき、近軸の分散 kz≈k−kx2/(2k) の次の項を求めよ。
解答
(1) ∂x2u=−k2θ2u、2ik∂zu=2ik(−ikθ2/2)u=k2θ2u で、和は 0 である。
(2) cosθ=1−θ2/2+θ4/24−⋯ なので、差は kθ4/24 である。ただし近軸の式では sinθ も θ に置き換えているので、横の波数 kx=ksinθ を固定して比べるほうが物理に合う。それが (3) の後半である。
(3) 横の波数 kx を決めると、厳密には kz=k2−kx2=k−2kkx2−8k3kx4−⋯ で、近軸の方程式は第2項までを残す。位相の差は kx4z/(8k3)=kθ4z/8(θ=kx/k)で、これが 1rad になるのは θ=(8/(kz))1/4。k=2π/λ0=9.93×106m−1, z=1m で θ=0.0300rad である。近軸近似の位相の誤差は距離に比例してたまるので、位相まで問題にする干渉の実験では、2∘ に満たない傾きでも近軸の式の位相が 1rad ずれる。ビームの太さ(強度の分布)は位相の誤差を直接には含まないので、ずっと大きな角まで近軸の式で表せる(4.5節の図 4.4)。
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