光学と量子エレクトロニクス 第4章 §4.2 ★★★ 一様な媒質の伝搬は自由粒子の伝搬関数で書け、ガウス型の解の複素パラメータ q は光線と同じ ABCD 行列の1次分数変換で移る
Fresnel の伝搬核
一様な媒質(屈折率 n、k=nk0)の近軸波動方程式 ∇⊥2u+2ik∂zu=0 は、質量 m の自由粒子の Schrödinger 方程式の m/ℏ を k に置き換えたものである。自由粒子の伝搬関数 2πiℏtmeim∣x−x′∣2/(2ℏt) を同じ置き換えで写すと、z=0 の包絡線から距離 z 先の包絡線が
u(x,z)=∫K(x,x′;z)u(x′,0)d2x′,K(x,x′;z)=2πizkexp(2zik∣x−x′∣2)(4.6)
で決まる。K をFresnel の伝搬核と呼ぶ。K の位相 k∣x−x′∣2/(2z) は、点 x′ から点 x までの直線の光路長 z2+∣x−x′∣2 を2次まで展開した余りに k を掛けたもので、各点から出る球面波を放物面で近似した Huygens の原理の式になっている。回折の一般論は第6章(第6章)で扱い、この章ではガウス型の包絡線に限る。
ガウス型の解と q パラメータ
包絡線を、複素数のパラメータ q を持つガウス関数
u(x,z)=q(z)q(0)exp(2q(z)ik∣x∣2)(4.7)
の形に置いて ∇⊥2u+2ik∂zu=0 に入れると、∣x∣2 の係数から d(1/q)/dz=−1/q2、つまり
q(z)=q(0)+z(4.8)
が出て、残りの項から前の因子 q(0)/q(z) が決まる。式 (4.6) の積分を直接実行しても同じ結果になる(verify で数値積分と比べた)。1/q の実部と虚部をそれぞれ
q(z)1=R(z)1+ikw(z)22(4.9)
と書くと、式 (4.7) の指数は −∣x∣2/w2+ik∣x∣2/(2R) になる。w(z) は振幅が中心の 1/e になる半径(ビームの半径)、R(z) は波面の曲率半径である。q をq パラメータと呼ぶ。w が実数で正であるためには Im(1/q)>0 が要る。この本の流儀(e−iωt と e+ikz)では虚部の前の符号が + で、工学流の e+iωt を使う教科書とは符号が逆になる(4.6節)。
ABCD 則
第2章の ABCD 行列は、光線の位置 x と運動量 p=nsinθ(屈折率を掛けた傾き)を組にした (x,p) に掛かる行列で、伝搬は (10d/n1) だった。式 (4.8) は q が距離 d をそのまま足すことを言うので、(x,p) の行列と合わせるには q を屈折率で割った
qˉ:=nq,u∝exp(2qˉik0∣x∣2)(4.10)
を使う(この章では換算した q と呼ぶ。第2章の換算距離 d/n と同じ考え方)。伝搬で qˉ→qˉ+d/n である。
定理 4.1(ガウスビームの ABCD 則 ★★★)
近軸の光学系の (x,p) の ABCD 行列を M=(AmathbbCBD)(AD−BC=1)とする。入口の包絡線が exp(ik0∣x∣2/(2qˉ1)) なら、出口の包絡線は
u2=A+B/qˉ11exp(2qˉ2ik0∣x∣2),qˉ2=Cqˉ1+DAqˉ1+B(4.11)
である。さらに Im(1/qˉ2)=Im(1/qˉ1)∣qˉ1∣2/∣Aqˉ1+B∣2>0 で、ガウス型は崩れない。
証明
第2章の近軸の系は、伝搬 (10d/n1) と、屈折力 Φ の薄い要素 (1−Φ01)(薄いレンズ・球面での屈折・凹面鏡)の積で書ける。伝搬は式 (4.8) と前の因子 qˉ1/(qˉ1+d/n)=1/(1+B/qˉ1) で、式 (4.11) の形をしている。薄い要素は、光軸から高さ ∣x∣ の所の光路長を −Φ∣x∣2/2 だけ変える(中心の厚い凸レンズで縁の光路が短い)ので、包絡線に exp(−ik0Φ∣x∣2/2) を掛ける。これは 1/qˉ→1/qˉ−Φ で、(Aqˉ+B)/(Cqˉ+D) に A=D=1, B=0, C=−Φ を入れたものと同じであり、前の因子は 1 である。1次分数変換 qˉ↦(Aqˉ+B)/(Cqˉ+D) を2つ続けたものは、行列の積の1次分数変換になる。前の因子 qˉ/(Aqˉ+B) も、続けて掛けると積の行列の因子になる(verify で記号計算した)。したがって要素の積で書けるどの系でも式 (4.11) が成り立つ。虚部の式は1/qˉ2=(Cqˉ1+D)(Aqˉ1∗+B)/∣Aqˉ1+B∣2 の虚部が (BC−AD)Imqˉ1/∣Aqˉ1+B∣2=−Imqˉ1/∣Aqˉ1+B∣2 であることと、Im(1/qˉ1)=−Imqˉ1/∣qˉ1∣2 から出る。
光線の行列が波の q をそのまま変換することは、次のように読める。近軸の光線は H2 の Hamilton 方程式に従い、近軸の波は H2 を量子化した Schrödinger 方程式に従う。H2 が2次式のとき、量子力学の Heisenberg の運動方程式 dx^/dz=[x^,H^2]/(i/k0) は古典の Hamilton 方程式と同じ線形の式になり、演算子 (x^,p^) も光線と同じ行列で変換される。2次の Hamiltonian では、量子の時間発展が古典の線形の正準変換で完全に決まる。ガウス型の波がガウス型のまま進むのはこのためで、行列式 1(シンプレクティック)であることが幅を実数に保つ。
複素光線
ABCD 則には、光線の言葉の読み方がもう1つある。qˉ=xc/pc と、複素数の組 (xc,pc) の比に書き、この組を光線と同じ行列で(xc,pc)→(Axc+Bpc,Cxc+Dpc) と動かせば、比は式 (4.11) のとおりに変わる。(xc,pc) を複素光線と呼ぶ(この章の呼び名)。複素光線とその複素共役の組に、第2章の Lagrange の不変量 I(a,b)=xapb−xbpa(第2章)を当てると
I(c,c∗)=xcpc∗−xc∗pc=−2iIm(pcxc∗)
で、これは行列式 1 の行列で保存する。一方 Im(1/qˉ)=Im(pcxc∗)/∣xc∣2 で、式 (4.9) と k/q=k0/qˉ から Im(1/qˉ)=2/(k0w2) なので
w2=k02Im(pcxc∗)∣xc∣2.(4.12)
分母は不変量なので、複素光線の規格を Im(pcxc∗)=2/k0 に選べば、ビームの半径は複素光線の大きさ w=∣xc∣ そのものになる。
くびれ(R=∞ の所)で半径 w0 のビームは、qˉ=−ik0w02/2 なので、この規格で xc=w0, pc=iλ0/(πw0) と選べる。実部と虚部はどちらも実際の光線で、1本目は高さ w0 で光軸に平行な光線、2本目は光軸から運動量 p=λ0/(πw0) で出る光線である。系を通った後の半径は、この2本の実の光線の高さ x1, x2 の2乗和の平方根
w2=x12+x22=A2w02+B2(πw0λ0)2(4.13)
になる。2本の光線の Lagrange の不変量は I(1,2)=w0⋅λ0/(πw0)=λ0/π で、ビームの太さと広がりの積は波長だけで決まる。
例題 4.2 平行なビームをレンズで絞る ★★★
オリジナル波長 λ0=1.064μm、半径 w0=1mm のくびれがレンズ(焦点距離 f=1m、空気中)の位置にある。
- (1) レンズから距離 d の所の半径 w(d) を式 (4.13) で求めよ。
- (2) w(d) が最小になる d と、そのときの半径を求め、幾何光学の焦点 d=f と比べよ。
- (3) 同じ答えを qˉ の ABCD 則で確かめよ。
解答
(1) レンズの後に距離 d 進む行列は (10d1)(1−1/f01)=(1−d/f−1/fd1) なので、θ0=λ0/(πw0)=3.39×10−4 として w(d)2=(1−d/f)2w02+d2θ02 である。1本目の光線(平行光線)は焦点 d=f で光軸を横切り、2本目(光軸から出る光線)は dθ0 で離れていく。
(2) d(w2)/dd=0 から
d∗=1+(fθ0/w0)2f=1+(f/zR)2f,zR=λ0πw02=2.95m.
数値では f/zR=0.339 で d∗=0.897m、半径は w(d∗)=0.321mm である。くびれは幾何光学の焦点より 10cm 手前にできる。焦点 d=f では1本目の光線の高さが 0 になるが、2本目の光線の高さ fθ0=0.339mm が残り、これを少し手前で両者の和が小さくなる所がくびれである。f≪zR ならくびれは焦点にでき、半径は fθ0=λ0f/(πw0) になる(4.3節)。
(3) くびれでは qˉ1=−iπw02/λ0=−izR。レンズで 1/qˉ=1/qˉ1−1/f、さらに d 進んで qˉ+d が純虚数になる d がくびれの位置で、1/(1/qˉ1−1/f) の実部の符号を変えたものとして d∗=0.897m、その虚部から w=−Im(qˉ)λ0/π=0.321mm になり、(2) と一致する。
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