解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第2部 第4章 §2.4.4 ★★★ 離散 Fourier 変換で L は N 個の独立な調和振動子の和になる。k=0 の振動子が全運動量で、各モードのエネルギーは別々に保存する
基準座標
前の節では運動方程式に平面波を入れた。ここでは同じことを L の段階で行い、L そのものを独立な部分に分ける。基準座標 Qk を、ずれ uj の離散 Fourier 変換
Qk=N1j=0∑N−1uje−ikja,uj=N1k∑Qkeikja(2.4.10)
で定める(k は Brillouin 域の中の N 個の値)。前に 1/N を振り分けたので、この変換はユニタリで、逆変換で元に戻る。指数の符号は記法の約束(空間の順変換は e−ikx)に合わせた。uj は実数なので Q−k=Qk∗ で、N 個の複素数 Qk が持つ独立な実数の個数は N のままである。
式 (2.4.10) を L に代入する。直交関係 N1∑jei(k−k′)ja=δkk′ を使うと、運動エネルギーは∑j21mu˙j2=∑k21mQ˙kQ˙−k になる。ばねの伸びは uj+1−uj=N1∑kQk(eika−1)eikja で、∣eika−1∣2=4sin2(ka/2) から
L=k∑21m(Q˙kQ˙−k−ω(k)2QkQ−k)=k∑21m(∣Q˙k∣2−ω(k)2∣Qk∣2)(2.4.11)
になる。ω(k) は式 (2.4.7) である。原子の座標では隣どうしが結びついていた L が、基準座標では k ごとの和に分かれた。Qk と Q−k だけは互いに結びつくが、これは1つの実数の振動子を複素数で書いた結果で、Qk の実部と虚部に分ければ実数の振動子2個になる。
Hamiltonian と各モードのエネルギー
Qk に共役な運動量は、式 (2.4.11) で Q˙k が k の項と −k の項の2か所に現れることに注意して
Pk=∂Q˙k∂L=mQ˙−k
である。第1部第8章の Legendre 変換 H=∑kPkQ˙k−L から
H=k∑(2mPkP−k+21mω(k)2QkQ−k)=k∑Ek,Ek=21m(∣Q˙k∣2+ω(k)2∣Qk∣2)(2.4.12)
を得る。Hamilton 方程式 Q˙k=∂H/∂Pk=P−k/m、P˙k=−∂H/∂Qk=−mω(k)2Q−k から Q¨k=−ω(k)2Qk で、Ek は k ごとに保存する。列のエネルギーは N 個の振動子に分かれて入り、調和近似の範囲では、ある振動子から別の振動子へは移らない。
k=0 のモードと Noether の保存量
k=0 では ω(0)=0 で、式 (2.4.11) の k=0 の項は 21mQ˙02 だけになる。Q0 は L に現れない循環座標で、共役な運動量 P0=mQ˙0 が保存する。式 (2.4.10) から Q0=N1∑juj なので、
NP0=j∑mu˙j
は列の全運動量である。第2節の要点の箱で、一様な並進 uj→uj+ϵ に Noether の定理を当てて得た保存量と同じものが、基準座標では「角振動数 0 のモードの運動量」として現れた。連続的な対称性があると、その向きに動かしても位置エネルギーが変わらないので、角振動数 0 のモードが必ず1つある。
例題 2.4.4 1個だけずらして放したときのエネルギーの分かれ方 ★★
オリジナルN 個の原子の輪で、時刻 0 に原子 j=0 だけを d ずらし、ほかの原子は動かさず、全部を静かに放す。
- (1) 各モードのエネルギー Ek を求めよ。
- (2) ∑kEk が初めの位置エネルギーに等しいことを確かめよ。
- (3) いちばん多くのエネルギーを受け取るモードはどれか。その後の時刻で、そのモードのエネルギーはどうなるか。
解答
(1) 式 (2.4.10) で uj=dδj0 なので Qk(0)=d/N。静かに放したので Q˙k(0)=0。式 (2.4.12) から
Ek=21mω(k)2Nd2=N2Kd2sin22ka.
(2) k=2πl/(Na) について ∑l=0N−1sin2(πl/N)=N/2(sin2=21(1−cos) と、cos(2πl/N) の和が 0 であることから)。よって ∑kEk=Kd2。初めの位置エネルギーは、原子 0 の左右の2本のばねがそれぞれ d だけ伸び縮みしているので 2×21Kd2=Kd2 で、一致する。
(3) sin2(ka/2) が最大の k=π/a(N が偶数のとき。隣どうしが逆向きに動くモード)が最大の 2Kd2/N を受け取る。1個だけをずらした変位は短い波長の成分を多く含むからである。各 Ek は保存するので、後の時刻でもこのモードのエネルギーは 2Kd2/N のままで、原子の運動が複雑に見えても、エネルギーのモードへの分かれ方は最初に決まったまま変わらない。N=6 で運動方程式を時刻 20m/K まで数値積分しても、各 Ek は初期値から変わらないことを確かめた(検算 scripts/verify_ch2-04.py)。
エネルギーがモードの間で混ざらないこと
統計力学では、十分長く待つとエネルギーがすべての自由度に等しく分かれる(等分配)と考える。ところが調和近似の列では、各 Ek が別々に保存するので、エネルギーは最初に入ったモードにとどまり、等分配は起こらない。混ぜる役は、捨てた3次以上の項(非調和項)にある。Fermi・Pasta・Ulam は、弱い非調和項を足した列を計算機で解き、予想に反してエネルギーがなかなか等分配されないことを見つけた(E. Fermi, J. Pasta, S. Ulam (1955), Los Alamos Scientific Laboratory Report LA-1940)。等分配の問題は 第3部第6章で扱う。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com