解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第2部 第4章 §2.4.5 ★★★ a→0 で ρ=m/a と Y=Ka を固定すると、列の L は Lagrangian 密度の積分になり、運動方程式は波動方程式になる
何を固定して a を 0 に送るか
列の全長 ℓ=Na を固定し、原子を細かく多くしていく(a→0、N→∞)。このとき m と K をそのままにすると、列全体の質量 Nm は無限大になり、音速 v=aK/m は 0 になってしまう。意味のある極限を取るには、巨視的に測れる量を固定する。
ρ=am(単位の長さあたりの質量),Y=Ka(単位の伸び率あたりの張力)(2.4.13)
の2つである。ρ は線密度、Y は張力・Young 率×断面積をまとめた1次元の弾性率である。Y の意味は次のとおり。長さ a のばねを Δ だけ伸ばすと張力は KΔ=Ka⋅(Δ/a) で、伸び率 Δ/a に掛かる係数が Y になる。同じ材料の棒なら、原子の間隔をどう刻んでも ρ と Y は変わらない。
和が積分に、差が微分になる
原子 j のずれ uj(t) を、位置 x=ja の関数の値 u(x,t) とみなす。関数 u(x,t) が場で、x は場の値に付けた名札(添字)であって、力学変数ではない。a→0 で隣どうしの差は微分になり、和は積分になる。
uj+1−uj=a∂x∂u(ja,t)+O(a2),j∑af(ja)→∫0ℓf(x)dx.
これを式 (2.4.1) に入れ、和の中に a を1つずつ作ると
L=j∑a[21amu˙j2−21Ka(auj+1−uj)2] ⟶ ∫0ℓ[21ρ(∂t∂u)2−21Y(∂x∂u)2]dx
となる。
定義 2.4.2(弦の Lagrangian 密度)
L=∫0ℓLdx,L=21ρ(∂t∂u)2−21Y(∂x∂u)2(2.4.14)
の L をLagrangian 密度と呼ぶ。作用は S[u]=∫dt∫dxL である。
運動エネルギーの密度 21ρ(∂tu)2 は原子の運動エネルギーを均したもの、位置エネルギーの密度 21Y(∂xu)2 はばねのエネルギーを均したものである。L が u の空間微分を含むことが、場の Lagrangian の新しい点で、離散の列で隣どうしの差だった項がそのまま空間微分になった。
運動方程式も極限で波動方程式になる
運動方程式 (2.4.3) の両辺を a で割り、ρ と Y で書き直すと
ρu¨j=Ya2uj+1+uj−1−2uj
になる。右辺の分数は2階微分の差分近似で、a→0 で ∂x2u になる。したがって
ρ∂t2∂2u=Y∂x2∂2u,v=ρY=amK(2.4.15)
で、速さ v の波動方程式になる。v は式 (2.4.8) の音速と同じである。
同じ方程式は、極限の L (2.4.14) に直接変分を当てても出る。u を u+δu にずらすと(端と始めと終わりの時刻では δu=0)、
δS=∫dt∫dx(ρ∂tu∂tδu−Y∂xu∂xδu)=∫dt∫dx(−ρ∂t2u+Y∂x2u)δu
(t と x のそれぞれで部分積分し、端の項は δu=0 で消える)。任意の δu で δS=0 なので式 (2.4.15) を得る。第1部第4章の Euler–Lagrange 方程式を、時間と空間の2つの変数について同時に行ったものである。一般の L(ϕ,∂μϕ) に対するこの手続きは 第2部第5章で場の Euler–Lagrange 方程式として整える。
極限で捨てたもの
極限の弦の分散関係は ω=v∣k∣ で、図 2.4.2 の実線である。列の分散関係を ka について展開すると
ω(k)2=v2k2(1−12(ka)2+O((ka)4)),v∣k∣ω(k)=1−24(ka)2+⋯(2.4.16)
で、弦との違いは (ka)2 の大きさである。ずれが 1% 以内に収まるのは ∣ka∣<0.491、つまり波長が 12.8a より長い波である(検算 scripts/verify_ch2-04.py)。捨てたものは2つある。1つは分散関係のこの曲がりで、L に 24Ya2(∂x2u)2 という空間の2階微分の項を足すと (ka)2 の補正まで再現することができる。もう1つは Brillouin 域の外のモードの扱いで、列には ∣k∣≤π/a のモードしか無いのに、弦には ∣k∣ がいくらでも大きいモードがある。弦の場は、格子定数より細かい構造を持たない理想化で、波数に上限が無い。場の量子論で積分が大きい k で発散するのは、この上限を取り払ったためで、π/a のような上限(切断)を入れ直す話は第5部のくりこみの章(第5部第9章)で扱う。
高階の微分の項は短い波長では使えない
L に 24Ya2(∂x2u)2 を足した理論の分散関係は ω2=v2(k2−a2k4/12) で、k2>12/a2 では ω2<0 になり、振幅が指数関数的に増える解が出てしまう。補正項は ka≪1 での展開の1項にすぎず、ka が 1 程度の波に当てると意味を失う。展開した L が使えるのは、展開のパラメータが小さい範囲だけである。
両端を固定した列と弦
周期境界条件の代わりに、原子 j=1,…,N の両側に壁を置き、u0=uN+1=0 とする。運動方程式 (2.4.3) は同じで、解は
uj∝sinN+1πljcosωlt,ωl=2mKsin2(N+1)πl(l=1,…,N)
である(sin は j=0 と j=N+1 で 0 になる)。全長を ℓ=(N+1)a として a→0 にすると ωl→πlv/ℓ で、両端を固定した弦の固有振動数になる。図 2.4.3 のように、モードの形は弦の正弦波を原子の位置で拾ったものに厳密に一致し、違うのは角振動数だけである。ただし l が N に近いモードでは、原子の位置で拾った値は波長の長い別の正弦波の値と符号を交互に変えたものに等しく、弦の短い波長の形とは見かけが大きく違う。

図 2.4.3 両端を固定した N=7 の列の基準振動の形(黒丸)と、同じ l の弦のモード sin(πlx/8a)(実線)。黒丸は実線の上に厳密に乗る。l=2 では弦と見分けがつかないが、l=6 の黒丸は l=2 の形の符号を1つおきに反転したもので、実線の細かい振動は原子の位置では見えない
横に揺れる弦
ここまでは原子が列の向きに動く縦波を考えた。張力 Ts で張った糸に、間隔 a で質量 m の玉を付け、玉が糸と垂直な向きに yj だけずれる横波でも、同じ L になる。隣の玉の間の糸の長さは a2+(yj+1−yj)2≈a+(yj+1−yj)2/(2a) で、張力に逆らって糸を伸ばす仕事が位置エネルギーなので2aTs(yj+1−yj)2 になる。これは式 (2.4.1) で K=Ts/a としたものと同じで、Y=Ka=Ts である。極限は張力 Ts・線密度 ρ の弦の波動方程式で、速さは Ts/ρ になる。章の題の「弦の場」はこの横波のことで、縦波の棒と横波の弦は、Y の意味が違うだけで同じ L を持つ。
例題 2.4.5 交互に違うばねの列の音速は調和平均で決まる ★★
オリジナル質量 m の原子が間隔 a で並び、ばね定数が K1,K2,K1,K2,… と交互に変わる列を考える。
- (1) 長さ 2a の区間(K1 と K2 のばねが1本ずつ)を1本のばねとみたときのばね定数を求め、連続の極限での Y と ρ を求めよ。
- (2) 長い波長の音速 v を求め、ばね定数の算術平均 (K1+K2)/2 の一様な列の音速と比べよ。K1=3K2 のときの比を数値で答えよ。
解答
(1) 直列につないだばねは、同じ張力で伸びが足し合わされるので、ばね定数の逆数が足し合わされ、Keff=(K1−1+K2−1)−1=K1K2/(K1+K2)。長さ 2a のばねなので Y=2aKeff=aK1+K22K1K2。K1+K22K1K2 は K1,K2 の調和平均である。質量は区間あたり 2m なので ρ=2m/(2a)=m/a で、一様な列と同じ。
(2) v=Y/ρ=a(K1+K2)m2K1K2。算術平均の列の音速 a(K1+K2)/(2m) との比は、調和平均と算術平均の比の平方根である。K1=3K2 では調和平均 1.5K2、算術平均 2K2 で、比は 0.75=0.866。ばねの硬さの算術平均で一様な列に置き換えると、音速を 15% 大きく見積もる。単位胞 2a の運動方程式を数値で対角化して長い波長の傾きを取ると、同じ値が出る(検算 scripts/verify_ch2-04.py)。細かい構造が周期的に変わる媒質の巨視的な係数が、単純な算術平均でなく調和平均になることは、1次元の均質化の典型例である。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの 格子定数と波長の比 ka→0(ρ=m/a、Y=Ka を固定) | 証明 条件付き(波長が格子間隔より十分長い成分だけの初期値。一様な列では分散のずれ (ka)2/24 を明示式で評価できる。一様でない列は1次元の均質化) | 行き先 近似の数理 第9章
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com