ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第2部 第3章 §2.3.2 ★★★ H^ と並進 T^ が交換することから、T^ の固有ベクトル(離散 Fourier の波)がそのまま H^ の固有ベクトルになり、固有値が ε(k)=εa−2tcos(ka) にまとまる
並進の演算子とその固有値
輪のすべての原子を1つ隣へずらす演算子 T^ を
T^∣j⟩=∣j+1⟩(j=1,…,N, ∣N+1⟩=∣1⟩)(2.3.4)
で定める。T^ は基底の番号を入れ替えるだけなので、内積を保つユニタリ演算子である。N 回ずらすと元に戻るので T^N=1 が成り立つ。
H^ は「どの原子も同じ εa を持ち、どの隣どうしも同じ t でつながる」形をしているので、全体を1つずらしても変わらない。式で書くとT^H^T^−1=H^、つまり
[H^,T^]=0(2.3.5)
である。実際、T^∣j⟩⟨j+1∣T^−1=∣j+1⟩⟨j+2∣ となって、和 (2.3.1) の項が番号を1つずらした項に移るだけである。
T^ の固有値 λ は T^N=1 から λN=1 を満たすので、1の N 乗根である。これを
λ=e−ika,k=Na2πν(ν=0,1,…,N−1)(2.3.6)
と書く。N 個の λ はすべて異なる。対応する固有ベクトルは
∣k⟩=N1j=1∑Neikja∣j⟩(2.3.7)
である。確かめると、T^∣k⟩=N−1/2∑jeikja∣j+1⟩=N−1/2∑j′eik(j′−1)a∣j′⟩=e−ika∣k⟩ となる。ここで j′=j+1 と置き直した和が再び 1 から N を一巡するのは、eikNa=e2πiν=1 だからで、これが k を式 (2.3.6) の値に限る条件そのものである。N 個の ∣k⟩ は互いに直交し(⟨k∣k′⟩=N−1∑jei(k′−k)ja=δkk′。等比級数の和が k=k′ で 0 になる)、N 次元の空間の基底をなす。基底 ∣j⟩ から ∣k⟩ への変換は離散 Fourier 変換である。
交換する演算子は固有ベクトルを共有する
命題 2.3.1(並進の固有ベクトルは H^ の固有ベクトル)
[H^,T^]=0 で、T^ の固有値がすべて異なるなら、T^ の固有ベクトル ∣k⟩ は H^ の固有ベクトルでもある。
証明
T^∣k⟩=λ∣k⟩ とすると、T^(H^∣k⟩)=H^T^∣k⟩=λ(H^∣k⟩) なので、H^∣k⟩ も T^ の固有値 λ の固有ベクトルか零ベクトルである。λ の固有空間は1次元なので、H^∣k⟩ は ∣k⟩ の定数倍であり、その定数が H^ の固有値になる。
この命題から、固有値は ε(k)=⟨k∣H^∣k⟩ を計算するだけで求まる。H^∣k⟩ の ∣j⟩ の係数はN−1/2[εaeikja−t(eik(j+1)a+eik(j−1)a)]=N−1/2eikja[εa−t(eika+e−ika)]なので、
H^∣k⟩=ε(k)∣k⟩,ε(k)=εa−2tcos(ka)(2.3.8)
を得る。N×N の固有値問題が、k ごとの 1×1 の問題に分かれた。図 2.3.1 の横棒はすべて εa−2tcos(2πν/N) に一致する(検算スクリプトで N=3 から 60 まで確かめた)。
k の取り方には自由度がある。ν と ν+N は同じ λ を与えるので、ν は N 個の連続した整数ならどこから数えてもよい。0≤ν<N の代わりに −N/2<ν≤N/2 と取ると、k は −π/a<k≤π/a を動く。これは第1部第2章で定義した1次元の第1 Brillouin 域である。この取り方では ε(k)=ε(−k) が目に見え、k=0,π/a の準位は k と −k の2重に縮退している(例題 2.3.1 の N=4 の 0 の2重縮退がこれである)。縮退した ∣k⟩ と ∣−k⟩ の和と差を取ると、成分が cos(kja) と sin(kja) の実数の定在波になる。例題 2.3.1 の (1,0,−1,0) と (0,1,0,−1) は、ka=π/2 の cos 型と sin 型である。
巡回行列はどれも同じ方法で対角化できる
上の議論で使ったのは [H^,T^]=0 だけで、ホッピングが隣どうしに限ることは使っていない。H^ の行列要素が番号の差だけで決まる(⟨j∣H^∣l⟩=hl−j、番号の差は N を法として読む)行列を巡回行列と呼ぶ。巡回行列は必ず T^ と交換し、その固有値は
ε(k)=m∑hmeikma(2.3.9)
になる(和は N 個の差 m について取る)。最近接だけなら h0=εa、h±1=−t で式 (2.3.8) に戻る。離散 Fourier 変換は、並進の対称性を持つあらゆる行列を一度に対角化する道具である。固体ではこれが Bloch の定理になり(第2部第4章)、格子振動では同じ巡回行列がばねの行列として現れる(2.3.6節)。
例題 2.3.2 2つ隣へのホッピングを足した6個の輪 ★★
オリジナル6個の輪で、隣どうしのホッピング −t に加えて、2つ隣どうし(j と j±2)にもホッピング −t′(t′=0.2t)があるとする(εa=0)。
- (1) 式 (2.3.9) から ε(k) を求めよ。
- (2) 6個の固有値を求め、t′=0 の場合(−2t,−t,−t,t,t,2t)と比べよ。
- (3) 帯の幅(いちばん高い準位といちばん低い準位の差)は t′ で変わるか。帯の形はどう変わるか。
解答
(1) h0=0、h±1=−t、h±2=−t′ なので、ε(k)=−2tcos(ka)−2t′cos(2ka)。6個の輪では j+2 と j−2 は異なる原子(差が 4≡0)なので、2つの項は別々に数えてよい。
(2) ka=2πν/6 を入れる。ν=0:−2t−0.4t=−2.4t。ν=±1(cos=21、cos2ka=−21):−t+0.2t=−0.8t(2重)。ν=±2(cos=−21、cos2ka=−21):t+0.2t=1.2t(2重)。ν=3(cos=−1、cos2ka=1):2t−0.4t=1.6t。固有値は −2.4t,−0.8t,−0.8t,1.2t,1.2t,1.6t で、数値の対角化と一致する。
(3) 幅は ε(π/a)−ε(0)=(2t−2t′)−(−2t−2t′)=4t で、t′ によらない。t′ は k=0 と k=π/a の両端を同じ −2t′ だけ下げ、ka=±2π/3 のあたりを +t′ だけ上げるので、帯は εa について上下対称でなくなり、下半分が広がって上半分が詰まる。状態の数(6個)と形の非対称は、2つ隣のつながりの有無を見分ける手がかりになる。
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