ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第2部 第3章 §2.3.6 ★★ 化学の Hückel 法の α,β、固体物理の tight-binding の式・周期境界条件・重なり積分、格子振動の分散を、この章の形と式で並べる
Hückel 法。化学の授業では、π電子の分子の軌道エネルギーをクーロン積分 α と共鳴積分 β(どちらも負)で書き、N 員環の軌道エネルギーを
Eν=α+2βcosN2πν(ν=0,±1,…)
と習う。この章の記号とは α=εa、β=−t で対応し、式 (2.3.8) と同じものである。
この式の図による覚え方として、半径 2∣β∣ の円に頂点を真下に向けた正 N 角形を内接させ、頂点の高さを準位とする方法(Frost の円)がある(図 2.3.4)。頂点 ν は真下から角度 2πν/N だけ回った位置にあり、高さは −2∣β∣cos(2πν/N) なので、式 (2.3.8) をそのまま絵にしたものである。円の上の角度が ka に当たり、正多角形の頂点が k の許される値に当たる。N→∞ で頂点が円を埋めることが、準位が帯になることの図の上での姿である。

図 2.3.4 Frost の円。半径 2t の円に頂点を真下に向けた正 N 角形を内接させると、頂点の高さが N 個の輪の準位になる(左 N=6、右 N=5)。頂点の角度が ka に当たる。
固体物理の tight-binding。固体物理の授業では、原子軌道 ϕ を並べた Bloch 和 ψk(x)=N−1/2∑jeikjaϕ(x−ja) を試行関数とし、エネルギーの期待値を計算して E(k)=E0−A−2Bcos(ka) の形を得ることが多い(E0 は孤立原子の準位、A は他の原子のポテンシャルによる準位のずれ、B は隣への移り込みの積分で、教科書によって記号が違う)。この章との対応は εa=E0−A、t=B である。授業の式は、試行関数をはじめから Bloch 和に選ぶので、k が良い量子数であることを前提にしている。この章では、k が並進の固有値として出てくること(2.3.2節)を先に示したので、Bloch 和を選んでよい理由が分かる。
周期境界条件。授業では ψ(x+Na)=ψ(x)(Born–von Kármán の周期境界条件)を課して eikNa=1 から k=2πν/(Na) を得る。これはこの章の T^N=1 と同じ条件で、「長さ Na の鎖の両端をつないで輪にする」と読める。輪の分子では実際に輪になっているので、この条件は仮定でなく事実である。
重なり積分。授業によっては、隣どうしの原子軌道の重なり s=∫ϕ∗(x)ϕ(x−a)dx を残し、一般化固有値問題 Hc=εSc を解く。重なりの行列 S も巡回行列なので同じ ∣k⟩ で対角化でき、
ε(k)=1+2scos(ka)εa−2tcos(ka)(2.3.17)
になる(ここで εa と −t は直交化する前の基底での H^ の行列要素)。s>0 では帯の底(coska=1)は分母が大きくなって浅くなり、天井(coska=−1)は分母が小さくなって高く持ち上がる。帯は上下に非対称になり、上半分が広がる。2原子分子で反結合軌道が結合軌道より大きく持ち上がること(第2部第1章)の帯版である。
格子振動。同じ質量 M の原子 N 個を輪に並べ、隣どうしをばね定数 K のばねでつなぐと、運動方程式は Mu¨j=−K(2uj−uj−1−uj+1) である。係数の行列はこの章の巡回行列と同じ形で、uj∝eikja を入れると
ω2(k)=M2K(1−coska)
を得る(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第2部第4章)。電子の帯 ε(k) とフォノンの分散 ω2(k) は、どちらも並進対称な行列を離散 Fourier 変換で対角化した結果で、ω2 の「帯」は [0,4K/M] である。違いは、ばねの行列が ω=0(全体の平行移動)を必ず持つことで、これが音響モードの ω→0 になる。
例題 2.3.7 重なり積分で帯が非対称になる ★
オリジナルεa=0、t>0、s=0.2 とする。
- (1) 式 (2.3.17) を導け(H と S が同じ ∣k⟩ で対角化されることを使う)。
- (2) 帯の底・天井・幅を求め、s=0 と比べよ。
- (3) 帯の中で ε(k)=εa となる k は s でずれるか。
解答
(1) S の行列要素は ⟨j∣S∣j⟩=1、⟨j∣S∣j±1⟩=s で、番号の差だけで決まる巡回行列である。2.3.2節の議論から、S∣k⟩=(1+2scoska)∣k⟩、H∣k⟩=(εa−2tcoska)∣k⟩。一般化固有値問題 H∣k⟩=εS∣k⟩ に入れると、εa−2tcoska=ε(1+2scoska) で、式 (2.3.17) を得る。
(2) 底(k=0)は −2t/(1+0.4)=−1.429t、天井(ka=π)は 2t/(1−0.4)=3.333t、幅は 4.762t である。s=0 では底 −2t、天井 2t、幅 4t であった。底は 0.571t 浅くなり、天井は 1.333t 高くなって、上半分の方が大きく伸びる。
(3) ε(k)=0 は分子 −2tcoska=0 で決まり、ka=π/2 のままずれない。重なりは帯の中心の位置を変えず、上下の伸び方だけを変える。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com