何を削ったか・何の実験の量で確かめるか
AI 生成・木下が未勉強
ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第2部 第3章 §2.3.5 ★★ 原子1個に軌道1つ・最近接のみ・直交基底・電子間の相互作用なし・等間隔に固定、の5つを削った。軌道を絞ったことと に札を置き、準位の間隔・帯の分散・環の構造を実験の量として挙げる
削ったもの
この章の (2.3.1) は、実在の原子の輪や鎖から次の5つを削っている。
1つめは原子1個に軌道1つとしたことである。炭素の π電子なら、各原子の 軌道だけを残し、σ結合を作る軌道と内殻をすべて捨てている。残した軌道が張る部分空間に を射影したので、近似の型は A(射影)である。この射影がよい近似になるのは、残した軌道の準位が他の軌道の準位から離れていて、混ざりが小さいときである(π電子では、平面の分子の鏡映の対称性で π と σ が厳密に分かれるので、混ざりは である)。
2つめは最近接だけを残したことである。2つ隣へのホッピングがあっても帯の幅は変わらず形が非対称になるだけであることは、例題 2.3.2 で見た。
3つめは異なる原子の軌道を直交させたことである。実際の原子軌道は隣どうしで重なり、重なり積分 は でない。重なりを入れると帯の形がどう変わるかは2.3.6節で述べる。
4つめは電子どうしの相互作用である。電子を準位に詰めるとき、1つの原子に電子が2個入る配置の Coulomb 反発を考えなかった。反発 を戻したものが Hubbard 模型で(第1部第1章)、 が帯の幅 より大きいと半分埋まった帯でも絶縁体になりうる。この話は第5部で扱う。
5つめは原子を等間隔に固定したことである。原子の位置が動けるなら、半分埋まった1次元の帯では、原子が2個ずつ近づいて結合が長短交互になる方がエネルギーが下がる(Peierls 転移、第2部第8章)。この章の等間隔の輪は、その不安定性を見る前の出発点である。
最後に、輪(周期境界条件)を使ったことは、 で端のある鎖と同じ答えを与えることを2.3.4節で示した。
近似の裏付け
型 A(射影) | 小さいもの 各原子に1つずつ局在した軌道(π電子なら )が張る 次元の部分空間 | 証明 条件付き(原子間距離が大きい深い井戸の極限で、トンネル積分の形まで証明されている〔Simon 1984、Helffer–Sjöstrand 1984〕。実在の分子・結晶の原子間距離での誤差の大きさは要確認) | 行き先 近似の数理 第4章・近似の数理 第12章
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの (端の原子の割合) | 証明 証明済み(この模型では、輪と鎖の固有値を陽に求め、状態密度と1原子あたりのエネルギーが で一致することを本文で示した。一般の周期 Schrödinger 作用素でも、積分した状態密度は境界条件によらず同じ極限になる(第V巻 第12章)) | 行き先 近似の数理 第12章
何の実験の量で確かめるか
この章の結論は「準位の間隔は に反比例して狭くなり、 で帯になる」「帯の中の状態は で区別され、エネルギーは に従う」の2つである。それぞれを確かめる実験の量がある。
準位の間隔。金属の微粒子では、伝導電子の準位がとびとびに残り、その間隔はおおよそ Fermi エネルギーを電子の数で割った大きさになる。この間隔が熱エネルギー より大きくなると、比熱や磁化率が塊の金属と違う振る舞いをすることが Kubo によって指摘された(R. Kubo (1962), J. Phys. Soc. Jpn. 17, 975)。準位の間隔が で狭くなるというこの章の結論は、粒子を小さくしていくと金属らしさが失われる大きさを見積もる式として使われる(例題 2.3.6)。
共役鎖の吸収。π電子の鎖(ポリエン)の光の吸収は、HOMO と LUMO の差のおよその目安になる。鎖を長くすると吸収はより長い波長へ移り、色が付くようになる。これはこの章の「HOMO と LUMO の差が とともに小さくなる」という結論と同じ向きである。ただし、鎖を長くしても吸収端は に近づかず有限の値に留まることが知られており、これは5つめに削った格子の歪み(結合の長短交互)を戻さないと説明できない。この食い違いは第2部第8章の主題である。
炭素の輪の構造。炭素原子18個の輪の分子 cyclo[18]carbon は、表面の上で作られ、原子間力顕微鏡で構造が観察された(K. Kaiser et al. (2019), Science 365, 1299)。観察された輪は、すべての結合が等しい形でなく、結合が長短交互になった形であった。等間隔の輪は で Hückel 則の上では安定な閉殻であるが、それでも格子(原子の位置)の自由度を戻すと交互の形の方が選ばれる。等間隔に固定したことが、帯の物理にとって無害な仮定ではないことを示す例である。
帯の分散。結晶では、光で電子を叩き出し、出てくる電子のエネルギーと運動量を測ることで、 を直接描くことができる(角度分解光電子分光)。この方法で測った帯の形と幅から、 を実験の量として決めることができる。測定の原理と実在の結晶のバンド図は第2部第9章で扱う。
例題 2.3.6 準位のとびとびが見える大きさ ★★
オリジナル、 の輪に電子を半分詰めた場合を考える。 とする。
- (1) Fermi 準位(帯の中央)の付近の準位間隔 が、 の熱エネルギー と等しくなる を求めよ。
- (2) 温度を に下げると、その はいくらになるか。
- (3) (1) の で、帯の底の準位間隔はいくらか。底の準位が熱で見分けられなくなるのはどちらが先か。
解答
(1) 。 から 。原子が数百個より少ない輪では、室温でも準位がとびとびに見える。
(2) で、。低温ほど、大きな粒子でも準位の離散が見える。
(3) 帯の底の間隔は で、中央の間隔 より2桁小さい。帯の底の準位の方が先に詰まって連続に見える。ただし金属の性質(電流・比熱)を決めるのは Fermi 準位の付近の準位なので、金属らしさが現れる大きさは (1) の見積もりで決まる。
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