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選ぶ H^\hat H と当てる道具:蜂の巣格子の tight-binding

2026年10月15日12分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第2部 第9章 2次元・3次元の実例:グラフェンの Dirac コーンと Si・GaAs のバンド図
目次
  1. 選ぶ
  2. 蜂の巣格子は2つの副格子からなる
  3. 当てる道具:副格子ごとの Bloch 和
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第2部 第9章 §2.9.1 ★★★ 単位胞に原子が2個ある格子では、副格子ごとに Bloch 和を作ると、波数ごとに 2×22\times2 の行列が残る

第2部のここまでの章では、原子の鎖や輪という1次元の模型で、原子の数を増やすと準位が帯に詰まること、並進対称性を使うと問題が波数 k\bm{k} ごとの小さな行列に分かれること、バンドの埋まり方で金属と絶縁体が分かれることを見てきた。この章ではその道具を、2次元と3次元の実在の物質に当てる。

題材は2つ選ぶ。1つ目は炭素原子が蜂の巣の形に並んだ1枚の層、グラフェンである。蜂の巣格子は単位胞に原子を2個含むので、波数ごとの行列は 2×22\times2 になる。この 2×22\times2 行列の2本のバンドが Brillouin 域の角でちょうど接し、そのまわりでエネルギーが波数に比例する円錐(Dirac コーン)を作る。電子が質量を持たない粒子のように動くというグラフェンの性質は、この1点での接し方で決まる。2つ目は3次元の半導体、シリコン(Si)とヒ化ガリウム(GaAs)である。これらのバンドは多くの軌道を残した計算で求めるもので、この章で一から対角化はしない。その代わり、単純な面心立方格子の模型で「バンド図の横軸と縦軸が何を表すか」を確かめ、そのうえで Si と GaAs のバンド図から、ギャップの大きさ、直接か間接か、有効質量を読み取る。

2.9.1節で蜂の巣格子の tight-binding 模型を選び、副格子ごとの Bloch 和で 2×22\times2 の行列にする。2.9.2節でそのバンドを求め、Dirac コーンと状態密度を出す。2.9.3節で3次元のバンド図の読み方を述べる。2.9.4節で何を削ったかを書き出して近似の裏付けの札を置き、2.9.5節で何の実験の量で確かめるかを述べる。その節の最後で、バンドの電子が外場の中でどう動くかという半古典運動の話を「解析力学から様々な理論分野を組み立てる」へ送る。2.9.6節で授業で習った形と対応させ、2.9.7節でまとめる。

この章で使う前の章の結果は次の3つである。第2部第3章で、NN 個の輪の tight-binding が波数 k=2πν/(Na)k=2\pi\nu/(Na) ごとに分かれることを見た。第2部第4章で、周期ポテンシャルの中の固有状態が Bloch の定理で波数 k\bm{k} をラベルに持つことを一般に示した。第2部第6章で、Brillouin 域と状態密度、とくに状態密度が発散する van Hove 特異点を扱った。この章ではこれらを結果として使い、導き直さない。

選ぶ H^\hat H

グラフェンの炭素原子は4個の価電子を持つ。そのうち3個は 2s2s・2px2p_x・2py2p_y 軌道を混ぜた sp2sp^2 混成軌道に入り、面内の隣の原子と強い σ\sigma 結合を作る。残りの1個は面に垂直な 2pz2p_z 軌道に入る。σ\sigma 結合の結合軌道と反結合軌道はエネルギーが大きく離れており、Fermi 準位の近くに現れるのは 2pz2p_z 軌道から作られる π\pi バンドだけである。そこで各原子に 2pz2p_z 軌道を1個だけ残し、最近接の原子の間の飛び移りだけを残した tight-binding 模型を選ぶ。

H^=εa∑j,σc^jσ†c^jσ−t∑⟨jl⟩,σ(c^jσ†c^lσ+h.c.)(t>0)(2.9.1)\hat H=\varepsilon _{\mathrm a}\sum_{j,\sigma}\hat c^\dagger_{j\sigma}\hat c_{j\sigma}-t\sum_{\langle jl\rangle,\sigma}\bigl(\hat c^\dagger_{j\sigma}\hat c_{l\sigma}+\mathrm{h.c.}\bigr)\qquad(t>0)\tag{2.9.1}

ここで j,lj,l は炭素原子の番号、⟨jl⟩\langle jl\rangle は最近接の組、σ\sigma はスピンである。これは第2部第2章の Hückel 法でベンゼンに使った模型を、無限に広い蜂の巣格子に広げたものである。H^\hat H はスピンを変えないので、この章ではスピンの添字を省き、状態を数えるときに2倍する。

蜂の巣格子は2つの副格子からなる

蜂の巣格子は、第1部第2章の言葉ではそれ自体が Bravais 格子でない。蜂の巣の頂点を2色に塗り分けると、同じ色の頂点だけが三角格子を作り、蜂の巣格子は2つの三角格子(A と B の副格子)を重ねたものになる(図 2.9.1)。三角格子の基本並進を

a1=a (1, 0),a2=a(12, 32)(2.9.2)\bm{a}_1=a\,(1,\,0),\qquad \bm{a}_2=a\Bigl(\frac12,\,\frac{\sqrt3}{2}\Bigr)\tag{2.9.2}

とする。aa は格子定数で、グラフェンでは a=0.246 nma=0.246\,\mathrm{nm} である。最近接の炭素原子の距離(結合の長さ)は aCC=a/3=0.142 nma_{\mathrm{CC}}=a/\sqrt3=0.142\,\mathrm{nm} になる。A の原子から最近接の3個の B の原子へ向かうベクトルは

δ1=aCC(0, 1),δ2=aCC(32, −12),δ3=aCC(−32, −12)(2.9.3)\bm{\delta}_1=a_{\mathrm{CC}}(0,\,1),\qquad \bm{\delta}_2=a_{\mathrm{CC}}\Bigl(\frac{\sqrt3}{2},\,-\frac12\Bigr),\qquad \bm{\delta}_3=a_{\mathrm{CC}}\Bigl(-\frac{\sqrt3}{2},\,-\frac12\Bigr)\tag{2.9.3}

で、互いに 120∘120^\circ をなす。差を取ると δ2−δ3=a1\bm{\delta}_2-\bm{\delta}_3=\bm{a}_1、δ1−δ3=a2\bm{\delta}_1-\bm{\delta}_3=\bm{a}_2 となり、3つの B の原子が同じ副格子に属することが確かめられる。逆格子ベクトルは ai⋅bj=2πδij\bm{a}_i\cdot\bm{b}_j=2\pi\delta_{ij} から

b1=2πa(1, −13),b2=2πa(0, 23)(2.9.4)\bm{b}_1=\frac{2\pi}{a}\Bigl(1,\,-\frac{1}{\sqrt3}\Bigr),\qquad \bm{b}_2=\frac{2\pi}{a}\Bigl(0,\,\frac{2}{\sqrt3}\Bigr)\tag{2.9.4}

である。第1 Brillouin 域は正六角形で、中心が Γ\Gamma、6つの角のうち1つおきの3つが同じ点(逆格子ベクトルの分だけずれた点)にあたり、2種類の角を K と K′' と呼ぶ。辺の中点を M と呼ぶ。座標は

K=(4π3a, 0),K′=−K,M=(πa, π3a)(2.9.5)\mathrm K=\Bigl(\frac{4\pi}{3a},\,0\Bigr),\qquad \mathrm K'=-\mathrm K,\qquad \mathrm M=\Bigl(\frac{\pi}{a},\,\frac{\pi}{\sqrt3a}\Bigr)\tag{2.9.5}

である。

図

図 2.9.1 左:蜂の巣格子。黒丸が副格子 A、白丸が副格子 B で、どちらも三角格子を作る。a1\bm{a}_1、a2\bm{a}_2 は基本並進、δ1,2,3\bm{\delta}_{1,2,3} は A から最近接の B へのベクトルである。右:第1 Brillouin 域(正六角形)と高い対称性の点。K と K′' は交互に並び、同じ記号の角は逆格子ベクトルの分だけずれた同じ点である。破線は 2.9.2節の図で使う経路 Γ\Gamma→K→M→Γ\Gamma。

当てる道具:副格子ごとの Bloch 和

第2部第4章の Bloch の定理により、固有状態は波数 k\bm{k} をラベルに持つ。単位胞に原子が1個なら、Bloch 和 N−1/2∑Reik⋅R∣R⟩N^{-1/2}\sum_{\bm{R}}\mathrm{e}^{\mathrm{i}\bm{k}\cdot\bm{R}}| \bm{R} \rangle がそのまま固有状態になった。単位胞に原子が2個あるときは、副格子ごとに Bloch 和を1つずつ作る。A の原子の位置を格子ベクトル R\bm{R}、B の原子の位置を R+δ1\bm{R}+\bm{\delta}_1 として

∣k,A⟩=1N∑Reik⋅R∣R,A⟩,∣k,B⟩=1N∑Reik⋅(R+δ1)∣R+δ1,B⟩(2.9.6)| \bm{k},\mathrm A \rangle =\frac{1}{\sqrt N}\sum_{\bm{R}}\mathrm{e}^{\mathrm{i}\bm{k}\cdot\bm{R}}| \bm{R},\mathrm A \rangle ,\qquad | \bm{k},\mathrm B \rangle =\frac{1}{\sqrt N}\sum_{\bm{R}}\mathrm{e}^{\mathrm{i}\bm{k}\cdot(\bm{R}+\bm{\delta}_1)}| \bm{R}+\bm{\delta}_1,\mathrm B \rangle\tag{2.9.6}

とする(NN は単位胞の数)。H^\hat H は並進と交換するので、違う k\bm{k} の Bloch 和の間には行列要素が無い。同じ k\bm{k} の中で残るのは 2×22\times2 の行列

H(k)=(εa−tf(k)−tf(k)∗εa),f(k)=∑j=13eik⋅δj(2.9.7)H(\bm{k})=\begin{pmatrix}\varepsilon _{\mathrm a} & -t f(\bm{k})\\ -t f(\bm{k})^* & \varepsilon _{\mathrm a}\end{pmatrix},\qquad f(\bm{k})=\sum_{j=1}^{3}\mathrm{e}^{\mathrm{i}\bm{k}\cdot\bm{\delta}_j}\tag{2.9.7}

である。非対角要素は、A の原子1個から最近接の B の原子3個への飛び移りを、その B の原子の位置の位相 eik⋅δj\mathrm{e}^{\mathrm{i}\bm{k}\cdot\bm{\delta}_j} を付けて足し合わせたものである。H(k)H(\bm{k}) は帽子の付いた演算子ではなく、k\bm{k} ごとの 2×22\times2 の数の行列で、Bloch ハミルトニアンと呼ぶ。固有値は

ε±(k)=εa±t∣f(k)∣,∣f(k)∣2=3+2cos⁡(k⋅a1)+2cos⁡(k⋅a2)+2cos⁡(k⋅(a2−a1))(2.9.8)\varepsilon _\pm(\bm{k})=\varepsilon _{\mathrm a}\pm t\lvert f(\bm{k})\rvert ,\qquad \lvert f(\bm{k})\rvert ^2=3+2\cos(\bm{k}\cdot\bm{a}_1)+2\cos(\bm{k}\cdot\bm{a}_2)+2\cos\bigl(\bm{k}\cdot(\bm{a}_2-\bm{a}_1)\bigr)\tag{2.9.8}

の2本である。∣f∣2\lvert f\rvert ^2 の式は、∣f∣2=∑j,leik⋅(δj−δl)\lvert f\rvert ^2=\sum_{j,l}\mathrm{e}^{\mathrm{i}\bm{k}\cdot(\bm{\delta}_j-\bm{\delta}_l)} の j=lj=l の3項と、δj−δl\bm{\delta}_j-\bm{\delta}_l が ±a1\pm\bm{a}_1、±a2\pm\bm{a}_2、±(a2−a1)\pm(\bm{a}_2-\bm{a}_1) になる6項をまとめると得られる。∣f∣\lvert f\rvert は逆格子ベクトルだけずらしても変わらないので、バンドは第1 Brillouin 域で考えれば足りる。

ε+\varepsilon _+ と ε−\varepsilon _- は εa\varepsilon _{\mathrm a} について上下対称である。炭素1個は π\pi 電子を1個出すので、単位胞(原子2個)あたりの π\pi 電子は2個で、スピンを数えると下のバンド ε−\varepsilon _- がちょうど満ちる。したがって Fermi 準位は εa\varepsilon _{\mathrm a} にある。この先は εa=0\varepsilon _{\mathrm a}=0 とエネルギーの原点を取る。2本のバンドが ε=0\varepsilon =0 で離れていれば絶縁体、接していればギャップの無い物質になる。どちらになるかは f(k)=0f(\bm{k})=0 となる k\bm{k} があるかどうかで決まる。

例題 2.9.1 高い対称性の点でのバンドのエネルギー ★★★

オリジナル式 (2.9.7) の模型(εa=0\varepsilon _{\mathrm a}=0)について、次を求めよ。

  1. (1) Γ\Gamma 点での ff と2本のバンドのエネルギー、およびそれぞれの固有ベクトル。
  2. (2) K 点での ff。2本のバンドがどうなっているかを述べよ。
  3. (3) M 点での ff と2本のバンドのエネルギー。
解答

(1) k=0\bm{k}=0 ではすべての位相が 11 なので f(0)=3f(0)=3。H(0)=(0−3t−3t0)H(0)=\begin{pmatrix}0&-3t\\-3t&0\end{pmatrix} の固有値は ∓3t\mp3t で、下のバンド −3t-3t の固有ベクトルは (1,1)/2(1,1)/\sqrt2(A と B が同符号=結合的)、上のバンド +3t+3t は (1,−1)/2(1,-1)/\sqrt2(反結合的)である。各原子が3個の隣と同符号でつながる状態が最も低い。これは第2部第1章の結合軌道と同じ形で、隣の数が3なので結合の利得が 3t3t になる。

(2) K =(4π/(3a),0)=(4\pi/(3a),0) では、k⋅δ1=0\bm{k}\cdot\bm{\delta}_1=0、k⋅δ2=4π3a⋅a3⋅32=2π3\bm{k}\cdot\bm{\delta}_2=\frac{4\pi}{3a}\cdot\frac{a}{\sqrt3}\cdot\frac{\sqrt3}{2}=\frac{2\pi}{3}、k⋅δ3=−2π3\bm{k}\cdot\bm{\delta}_3=-\frac{2\pi}{3} なので

f(K)=1+e2πi/3+e−2πi/3=1+2cos⁡2π3=0f(\mathrm K)=1+\mathrm{e}^{2\pi\mathrm{i}/3}+\mathrm{e}^{-2\pi\mathrm{i}/3}=1+2\cos\frac{2\pi}{3}=0

である。H(K)H(\mathrm K) は零行列になり、2本のバンドがエネルギー 00 で重なる。3つの位相が 120∘120^\circ ずつずれて打ち消し合うので、A と B の間の飛び移りがちょうど相殺している。K′=−'=-K でも位相の符号が反転するだけで f=0f=0 である。

(3) M =(π/a,π/(3a))=(\pi/a,\pi/(\sqrt3a)) では k⋅δ1=π/3\bm{k}\cdot\bm{\delta}_1=\pi/3、k⋅δ2=π/2−π/6=π/3\bm{k}\cdot\bm{\delta}_2=\pi/2-\pi/6=\pi/3、k⋅δ3=−π/2−π/6=−2π/3\bm{k}\cdot\bm{\delta}_3=-\pi/2-\pi/6=-2\pi/3 なのでf(M)=2eiπ/3+e−2πi/3=eiπ/3(2−1)=eiπ/3f(\mathrm M)=2\mathrm{e}^{\mathrm{i}\pi/3}+\mathrm{e}^{-2\pi\mathrm{i}/3}=\mathrm{e}^{\mathrm{i}\pi/3}(2-1)=\mathrm{e}^{\mathrm{i}\pi/3}、∣f∣=1\lvert f\rvert =1 で、バンドのエネルギーは ±t\pm t である。以上の値は、6×66\times6 個の単位胞(72 個の原子)を周期境界で並べた実空間の行列を数値で対角化した固有値とも一致する(verify_ch2-09.py)。

木下の勉強ステータス

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