ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第2部 第9章 §2.9.3 ★★★ 3次元のバンドは高い対称性の点を結ぶ折れ線に沿って描く。そこからギャップの大きさ・直接か間接か・有効質量を読み取る
3次元のバンド図は経路に沿った断面である
3次元の結晶では波数 k が3成分あり、バンド εn(k) は3次元の Brillouin 域の上の関数である。これを1枚の図に描くことはできないので、Brillouin 域の中の高い対称性の点を折れ線で結び、その折れ線に沿った断面を並べる。グラフェンの図 2.9.2 は、2次元でこれをしたものだった。
Si も GaAs も、原子の位置は面心立方(fcc)の Bravais 格子に2個の原子を載せた形をしている(Si はダイヤモンド構造、GaAs は2個の原子が Ga と As に分かれた閃亜鉛鉱構造)。fcc の Brillouin 域は切頂八面体で、慣例の点の名前は次のとおりである(立方体の単位胞の辺を a とする)。
Γ=(0,0,0),X=a2π(1,0,0),L=aπ(1,1,1),W=a2π(1,21,0)(2.9.14)
X は正方形の面の中心、L は六角形の面の中心、W は角である。Γ から X への線を Δ 線、Γ から L への線を Λ 線と呼ぶ。バンド図の横軸がたとえば「L Γ X W」と書かれていれば、L から Γ を通って X へ行き、そこから W へ進む経路の断面を並べていることを表す。
最も簡単な模型:fcc の s 帯
バンド図の形に慣れるため、fcc の各格子点に s 軌道を1個置き、12 個の最近接 (a/2)(±1,±1,0) などへの飛び移り t だけを残した模型を考える。単位胞に原子が1個なのでバンドは1本で、
ε(k)=εa−4t[cos2kxacos2kya+cos2kyacos2kza+cos2kzacos2kxa](2.9.15)
となる(12 個の位相 eik⋅δ を組にして余弦の積にまとめた)。図 2.9.4 はこれを L→Γ→X→W に沿って描いたものである。Γ で最も低く(εa−12t)、X と W で最も高い(εa+4t)。X から W へは平らになっている。バンドの幅は 16t で、第2部第3章の1次元の鎖の幅 4t と比べると、隣の数が2から12に増えた分だけ幅が広がっている。
Γ の近くでは cosx≈1−x2/2 として
ε(k)≈εa−12t+ta2∣k∣2,m∗=2ta2ℏ2(2.9.16)
となり、向きによらない有効質量を持つ放物線になる。立方対称な結晶では Γ の非縮退なバンドの端は必ず等方的になる(2階微分のテンソルが立方対称性で単位行列の定数倍に限られるため)。Si の伝導帯の谷のように Γ 以外の点に端があると、その点の対称性は立方体より低いので、有効質量は向きで違ってよい。

図 2.9.4 fcc 格子の s 帯(式 (2.9.15))を L→Γ→X→W の経路に沿って描いたもの。横軸は経路に沿った波数の長さ(1/a 単位)。点線が模型のバンド、実線は Γ のまわりの有効質量の近似 (2.9.16)。Γ を離れると放物線から外れ、X・W で極大になる。
Si と GaAs のバンド図から読むもの
実在の Si と GaAs では、各原子に s 軌道1個と p 軌道3個を残し、単位胞の2個の原子で8個の軌道を混ぜた 8×8 の Bloch ハミルトニアン(またはさらに多くの軌道や平面波を使った計算)がバンドを与える。価電子は単位胞あたり8個(Si は4個ずつ、Ga と As は3個と5個)で、スピンを数えると下の4本のバンド(価電子帯)がちょうど満ちる。5本目から上が伝導帯で、価電子帯の上端と伝導帯の下端の間がバンドギャップになる。バンド図を見るときは、まずこの2つの端が波数のどこにあるかを探す。
GaAs では価電子帯の上端も伝導帯の下端も Γ にある。同じ波数で上下の端が向き合っている半導体を直接ギャップの半導体と呼ぶ。室温のギャップは 1.424eV、伝導帯の下端の有効質量は約 0.067me と小さい(J. S. Blakemore (1982), J. Appl. Phys. 53, R123)。Si では価電子帯の上端は Γ にあるが、伝導帯の下端は Γ から X へ向かう Δ 線の上、ΓX の長さの約 0.85 の所にある(G. Feher (1959), Phys. Rev. 114, 1219 は、ドナーの電子の ENDOR から k0=0.85±0.03 を得た)。上下の端の波数が違う半導体を間接ギャップの半導体と呼ぶ。ギャップは低温で 1.17eV である(W. Bludau, A. Onton and W. Heinke (1974), J. Appl. Phys. 45, 1846)。
Si の伝導帯の下端は、立方体の対称性で同じ点が ±kx,±ky,±kz の6方向に1つずつあり、谷が6個ある。各谷のまわりでバンドは、谷の軸の方向に重い質量 ml、それに垂直な2方向に軽い質量 mt を持つ回転楕円体になる:
ε(k)≈εc+2mlℏ2(k∥−k0)2+2mtℏ2k⊥2,ml=0.98me,mt=0.19me(2.9.17)
(G. Dresselhaus, A. F. Kip and C. Kittel (1955), Phys. Rev. 98, 368 のサイクロトロン共鳴による)。εc は伝導帯の下端のエネルギーである。Si の価電子帯の上端は Γ で縮退していて、重い正孔と軽い正孔の2本が同じエネルギーから出る。縮退しているので、Γ の非縮退なバンドについて述べた等方的な有効質量は当てはまらず、上端の近くは2本を同時に扱う必要がある。

図 2.9.5 直接ギャップと間接ギャップの模式図(数値の計算ではない)。下の曲線が価電子帯の上端、上の曲線が伝導帯。直接ギャップでは同じ k の上下が向き合い、光子1個で遷移できる。間接ギャップでは伝導帯の下端が Γ から離れた所にあり、波数の差をフォノンが運ぶ必要がある。
直接か間接かの違いは、光との結びつきの強さに現れる。光子の波数は電子の波数に比べてずっと小さく(例題 2.9.5)、光を吸っても出しても電子の k はほとんど変わらない。直接ギャップでは、価電子帯の上端の電子が光子1個を吸って同じ k の伝導帯の下端へ移れる。間接ギャップでは、波数の差を運ぶためにフォノンを同時に吸うか出す必要があり、過程が2次になって起こりにくい。発光ダイオードや半導体レーザーに GaAs のような直接ギャップの化合物を使い、Si を使わないのはこのためである。吸収の詳しい形は第4部第6章で扱う。
例題 2.9.4 fcc の s 帯を読む ★★
オリジナル式 (2.9.15) の模型で、t=0.50eV、a=0.40nm とする。
- (1) Γ・X・L・W でのエネルギーを求め、バンドの幅を eV で求めよ。
- (2) Γ の近くの有効質量 m∗=ℏ2/(2ta2) を me の単位で求めよ。
- (3) X の近く、ΓX 方向の2階微分の符号を調べ、X が極大か極小かを述べよ。
解答
(1) Γ では余弦がすべて 1 で εa−12t。X =(2π/a,0,0) では cosπcos0=−1 が2つと cos0cos0=1 が1つで、括弧の中が −1、εa+4t。L =(π/a)(1,1,1) では cos(π/2)=0 なのですべての積が 0 で εa。W =(2π/a)(1,1/2,0) では cosπcos(π/2)=0、cos(π/2)cos0=0、cos0cosπ=−1 で εa+4t。幅は 16t=8.0eV。
(2) m∗=2×0.50×1.602×10−19×(0.40×10−9)2(1.0546×10−34)2≈4.34×10−31kg≈0.476me。
(3) ∂2ε/∂kx2 を X で計算すると、kx を含む2つの項 cos(kxa/2)cos(kya/2) と cos(kza/2)cos(kxa/2) がどちらも cos(kxa/2)=cosπ=−1 の所で2階微分され、∂2ε/∂kx2=−4t⋅(−a2/4)⋅(−1)⋅2=−2ta2<0 となる。ΓX 方向では X は極大である。X から W へは平らなので、X は経路の上では極大、横の方向には動かせる点になっている。バンド図で伝導帯の下端や価電子帯の上端を探すときは、このように経路の上の極値と、経路から外れた方向の曲がり方の両方を見る必要がある。
例題 2.9.5 光子の波数と Brillouin 域の大きさ ★★
オリジナル
- (1) GaAs のギャップ 1.424eV の光子の真空中の波数 kph=ε/(ℏc) を求め、2π/a(a=0.5653nm)と比べよ。
- (2) Si の伝導帯の谷は Γ から 0.85×2π/a(a=0.5431nm)の所にある。この波数を求め、ギャップ 1.17eV の光子の波数の何倍かを求めよ。
- (3) Si の6個の谷の状態密度質量 md=62/3(mlmt2)1/3 と、電気伝導で使う平均 mσ=3/(1/ml+2/mt) を求めよ。
解答
(1) kph=1.0546×10−34×2.998×1081.424×1.602×10−19≈7.22×106m−1。2π/a=1.11×1010m−1 なので比は 6.5×10−4 で、光子の波数は Brillouin 域の大きさの 1/1500 ほどしかない。バンド図の横軸の上では、光の遷移はほぼ垂直な矢印になる。
(2) 0.85×2π/0.5431×10−9≈9.83×109m−1。1.17eV の光子は 5.93×106m−1 なので、約 1.7×103 倍である。光子だけではこの波数の差を埋められないので、同じ大きさの波数を持つフォノンが要る。フォノンのエネルギーは数十 meV なので、エネルギーの収支はほとんど変えずに波数だけを運ぶ。
(3) md=62/3(0.98×0.192)1/3me≈3.30×0.328me≈1.08me。mσ=3/(1/0.98+2/0.19)me≈0.26me。状態の数を数えるときは6個の谷と重い方向がともに状態を増やすので md が大きく、電流を考えるときは軽い方向の寄与が支配的なので mσ が小さい。同じ伝導帯でも、問う量によって「有効質量」の値が4倍違う。キャリアの統計(第4部第5章)では md、Drude の伝導度(第4部第2章)では mσ を使う。
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