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この章で選ぶハミルトニアン:π電子だけを残す

2026年10月15日8分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第2部 第2章 π電子と Hückel 法
目次
  1. σ電子とπ電子は鏡映の対称性で分かれる
  2. Hückel のハミルトニアン
  3. 電子の詰め方と全エネルギー
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第2部 第2章 §2.2.1 ★★★ 平面の共役分子では、面に垂直な 2pz2p_z 軌道が対称性で σ軌道から分かれる。各炭素に1個の 2pz2p_z 軌道を置き、隣どうしの飛び移り tt だけを残す

前の章(第2部第1章)では、原子2個の軌道から結合軌道と反結合軌道を作った。この章では原子の数を数個から十数個に増やし、エチレン・ブタジエン・ベンゼンのような平面の炭化水素を扱う。これらの分子には炭素1個あたり4個の価電子があるが、この章で残すのはそのうち1個、分子の面に垂直な 2pz2p_z 軌道に入るπ電子だけである。さらに、π電子の飛び移りは隣り合う炭素の間だけに限り、その大きさをすべての結合で同じ値 tt とする。こうして選んだハミルトニアンが Hückel 法のハミルトニアンで、その行列は分子の骨格のつながり方(グラフ)だけで決まる。

Hückel 法は大胆に削った模型であるが、削った後に残る問題は小さな実対称行列の固有値問題になり、手で解くことができる。解いて出てくるものは3つある。1つ目は、π電子が分子全体に広がることで生じる安定化(非局在化エネルギー)で、ベンゼンでは 2t2t になる。2つ目は、環の π電子が 4n+24n+2 個のときだけ閉殻になるという規則(Hückel 則)である。3つ目は、最高被占軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)のエネルギー差で、これは分子が吸収する光の色の目安になる。直鎖の分子を長くするとこの差は小さくなり、無限に長い鎖では 00 になる。この最後の事実が、次の章で原子 NN 個の輪の準位が帯になる話と、第2部第8章のポリアセチレンの Peierls 転移への入口になる。

2.2.1節で選ぶハミルトニアンを書き、2.2.2節で当てる道具(永年方程式と、鎖・環・2部グラフの対称性)を用意する。2.2.3節で鎖と環の分子を解いて上の3つを導く。2.2.4節で何を削ったかを書き出して裏付けの札を置き、2.2.5節で水素化熱と吸収の色という2つの実験の量で確かめる。2.2.6節で化学の授業で習う α\alpha・β\beta の書き方と対応させ、2.2.7節でまとめる。

σ電子とπ電子は鏡映の対称性で分かれる

エチレン C2H4\mathrm{C_2H_4}・ブタジエン C4H6\mathrm{C_4H_6}・ベンゼン C6H6\mathrm{C_6H_6} の炭素は、どれも3つの隣の原子と結合し、すべての原子が1つの平面に乗っている。この面を xyxy 面とする。炭素の4つの価電子の軌道のうち 2s2s・2px2p_x・2py2p_y の3つは混ざって面内の3方向へ伸びる sp2sp^2 混成軌道を作り、隣の原子との間に面内の強い結合(σ結合)を作る。残る 2pz2p_z 軌道は面に垂直に伸び、面の上下で符号が反対である。

分子の面についての鏡映 z→−zz\to-z を考える。原子核はすべて面の上にあるので、この鏡映で全体のハミルトニアンは変わらない。sp2sp^2 軌道とσ結合の軌道は鏡映で符号を変えない(偶)が、2pz2p_z 軌道は符号を変える(奇)。1電子のハミルトニアンが鏡映と交換するとき、偶の軌道と奇の軌道の間の行列要素は 00 になる。偶の関数と奇の関数の積を鏡映で対になる2点で足し合わせると打ち消し合うからである。したがって1電子の問題は、σ軌道の組(偶)と π軌道の組(奇)に厳密に分かれる。ここまでは近似を使っていない。

σ結合の結合軌道は深く(エネルギーが低く)、反結合軌道は高い。そのため分子の HOMO と LUMO はふつう π軌道の組から現れ、光の吸収や化学反応のような低いエネルギーの現象は π電子が担う。Hückel 法は、σ電子を「分子の骨格を固定する変わらない背景」とみなして削り、π電子だけを残す(何を削ったかは 2.2.4節でまとめる)。

Hückel のハミルトニアン

分子の炭素に 1,2,…,N1,2,\dots,N と番号を付け、炭素 jj の 2pz2p_z 軌道を ∣j⟩| j \rangle と書く。Hückel 法は次の3つを置く。第一に、∣j⟩| j \rangle は互いに直交し規格化されているとする(隣どうしの重なり ⟨j∣l⟩\langle j | l \rangle を 00 とする)。第二に、対角要素 ⟨j∣H^π∣j⟩\langle j | \hat H_\pi | j \rangle はすべての炭素で同じ値 εa\varepsilon _{\mathrm a} とする。第三に、非対角要素は jj と ll が結合で隣り合うときだけ −t-t(t>0t>0)で、それ以外は 00 とする。

H^π=∑j=1Nεa∣j⟩⟨j∣−t∑⟨jl⟩(∣j⟩⟨l∣+∣l⟩⟨j∣).(2.2.1)\hat H_\pi=\sum_{j=1}^N\varepsilon _{\mathrm a}| j \rangle \langle j |-t\sum_{\langle jl\rangle}\bigl(| j \rangle \langle l |+| l \rangle \langle j |\bigr).\tag{2.2.1}

和 ∑⟨jl⟩\sum_{\langle jl\rangle} は結合ごとに1回とる。これは序章(第1部第1章)で書いた tight-binding 模型を、1つの分子の1電子の問題に限ったものと同じ形である。

分子の骨格を、炭素を頂点、結合を辺とするグラフとみなす。頂点 jj と ll が辺で結ばれるとき Ajl=1A_{jl}=1、そうでないとき Ajl=0A_{jl}=0 とした N×NN\times N の対称行列 AA を、そのグラフの隣接行列と呼ぶ。式 (2.2.1) の行列は

H=εa I−t A(2.2.2)H=\varepsilon _{\mathrm a}\,I-t\,A\tag{2.2.2}

と書ける。II は単位行列である。したがって AA の固有値を λ\lambda とすると、π軌道のエネルギーは ε=εa−tλ\varepsilon =\varepsilon _{\mathrm a}-t\lambda になり、固有ベクトルは AA と共通である。Hückel 法の固有値問題は、分子のグラフの隣接行列の固有値問題と同じものであり、エネルギーの物差しを εa\varepsilon _{\mathrm a} と tt で与えるだけである。λ\lambda が大きい軌道ほどエネルギーが低い(結合性が強い)。

電子の詰め方と全エネルギー

中性の分子では各炭素が π電子を1個ずつ出すので、π電子は NN 個ある。Hückel 法は電子どうしの相互作用を個別には扱わず、電子をエネルギーの低い軌道から順に1軌道あたり2個(上向きと下向きのスピン)ずつ詰める。π電子の全エネルギーは占有した軌道のエネルギーの和

Eπ=∑νnνεν(nν=0,1,2)(2.2.3)E_\pi=\sum_{\nu}n_\nu\varepsilon _\nu\qquad(n_\nu=0,1,2)\tag{2.2.3}

とする。εν\varepsilon _\nu は ν\nu 番目の軌道のエネルギー、nνn_\nu はその軌道の電子の数である。

もっとも小さな例はエチレン(N=2N=2)である。行列は

H=(εa−t−tεa),ε±=εa∓t,∣±⟩=12(∣1⟩±∣2⟩)(2.2.4)H=\begin{pmatrix}\varepsilon _{\mathrm a}&-t\\-t&\varepsilon _{\mathrm a}\end{pmatrix},\qquad \varepsilon _\pm=\varepsilon _{\mathrm a}\mp t,\qquad | \pm \rangle =\frac{1}{\sqrt2}\bigl(| 1 \rangle \pm| 2 \rangle \bigr)\tag{2.2.4}

で、前の章の結合軌道 ∣+⟩| + \rangle と反結合軌道 ∣−⟩| - \rangle そのものである。2個の π電子が ∣+⟩| + \rangle に入るので Eπ=2εa−2tE_\pi=2\varepsilon _{\mathrm a}-2t で、2個の電子が別々の炭素にいるとき(2εa2\varepsilon _{\mathrm a})より 2t2t 低い。この 2t2t が1本の π結合のエネルギーにあたる。HOMO は ∣+⟩| + \rangle、LUMO は ∣−⟩| - \rangle で、その差は 2t2t である。

例題 2.2.1 エチレンをねじると π結合が切れる ★★

オリジナルエチレンの2つの CH2\mathrm{CH_2} 基を、C=C 結合を軸として互いに角 θ\theta だけねじる。2pz2p_z 軌道の向きも θ\theta だけずれるので、飛び移りは t(θ)=tcos⁡θt(\theta)=t\cos\theta に変わるとする(2つの pp 軌道の重なりが向きの余弦に比例するという模型)。

  1. (1) π電子2個の全エネルギー Eπ(θ)E_\pi(\theta) を求めよ。
  2. (2) θ=0\theta=0 と θ=π/2\theta=\pi/2 のエネルギーの差(ねじれの障壁)を tt で表せ。θ=π/2\theta=\pi/2 のとき2つの電子はどうなっているか。
  3. (3) θ\theta を 00 から π/2\pi/2 まで変えたとき、HOMO と LUMO の差はどう変わるか。
解答

(1) 行列は式 (2.2.4) の tt を tcos⁡θt\cos\theta に替えたもので、固有値は εa∓tcos⁡θ\varepsilon _{\mathrm a}\mp t\cos\theta である。0≤θ≤π/20\le\theta\le\pi/2 では cos⁡θ≥0\cos\theta\ge0 なので低い方は εa−tcos⁡θ\varepsilon _{\mathrm a}-t\cos\theta で、2個の電子をそこへ入れて

Eπ(θ)=2εa−2tcos⁡θ.E_\pi(\theta)=2\varepsilon _{\mathrm a}-2t\cos\theta .

(2) Eπ(π/2)−Eπ(0)=2tE_\pi(\pi/2)-E_\pi(0)=2t である。θ=π/2\theta=\pi/2 では2つの pzp_z 軌道が直交して飛び移りが 00 になり、2つの準位は εa\varepsilon _{\mathrm a} で縮退する。電子は2つの炭素に1個ずつ局在し、π結合は切れている。障壁 2t2t は1本の π結合のエネルギーそのものであり、二重結合のまわりの回転が室温で起きにくいことを Hückel 法はこの形で表す。

(3) 差は 2tcos⁡θ2t\cos\theta で、θ=0\theta=0 の 2t2t から θ=π/2\theta=\pi/2 の 00 まで単調に小さくなる。ねじれた二重結合は HOMO と LUMO が近づき、より長い波長の光を吸収する方向へずれる。

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