この章で選ぶハミルトニアン:π電子だけを残す
AI 生成・木下が未勉強
ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第2部 第2章 §2.2.1 ★★★ 平面の共役分子では、面に垂直な 軌道が対称性で σ軌道から分かれる。各炭素に1個の 軌道を置き、隣どうしの飛び移り だけを残す
前の章(第2部第1章)では、原子2個の軌道から結合軌道と反結合軌道を作った。この章では原子の数を数個から十数個に増やし、エチレン・ブタジエン・ベンゼンのような平面の炭化水素を扱う。これらの分子には炭素1個あたり4個の価電子があるが、この章で残すのはそのうち1個、分子の面に垂直な 軌道に入るπ電子だけである。さらに、π電子の飛び移りは隣り合う炭素の間だけに限り、その大きさをすべての結合で同じ値 とする。こうして選んだハミルトニアンが Hückel 法のハミルトニアンで、その行列は分子の骨格のつながり方(グラフ)だけで決まる。
Hückel 法は大胆に削った模型であるが、削った後に残る問題は小さな実対称行列の固有値問題になり、手で解くことができる。解いて出てくるものは3つある。1つ目は、π電子が分子全体に広がることで生じる安定化(非局在化エネルギー)で、ベンゼンでは になる。2つ目は、環の π電子が 個のときだけ閉殻になるという規則(Hückel 則)である。3つ目は、最高被占軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)のエネルギー差で、これは分子が吸収する光の色の目安になる。直鎖の分子を長くするとこの差は小さくなり、無限に長い鎖では になる。この最後の事実が、次の章で原子 個の輪の準位が帯になる話と、第2部第8章のポリアセチレンの Peierls 転移への入口になる。
2.2.1節で選ぶハミルトニアンを書き、2.2.2節で当てる道具(永年方程式と、鎖・環・2部グラフの対称性)を用意する。2.2.3節で鎖と環の分子を解いて上の3つを導く。2.2.4節で何を削ったかを書き出して裏付けの札を置き、2.2.5節で水素化熱と吸収の色という2つの実験の量で確かめる。2.2.6節で化学の授業で習う ・ の書き方と対応させ、2.2.7節でまとめる。
σ電子とπ電子は鏡映の対称性で分かれる
エチレン ・ブタジエン ・ベンゼン の炭素は、どれも3つの隣の原子と結合し、すべての原子が1つの平面に乗っている。この面を 面とする。炭素の4つの価電子の軌道のうち ・・ の3つは混ざって面内の3方向へ伸びる 混成軌道を作り、隣の原子との間に面内の強い結合(σ結合)を作る。残る 軌道は面に垂直に伸び、面の上下で符号が反対である。
分子の面についての鏡映 を考える。原子核はすべて面の上にあるので、この鏡映で全体のハミルトニアンは変わらない。 軌道とσ結合の軌道は鏡映で符号を変えない(偶)が、 軌道は符号を変える(奇)。1電子のハミルトニアンが鏡映と交換するとき、偶の軌道と奇の軌道の間の行列要素は になる。偶の関数と奇の関数の積を鏡映で対になる2点で足し合わせると打ち消し合うからである。したがって1電子の問題は、σ軌道の組(偶)と π軌道の組(奇)に厳密に分かれる。ここまでは近似を使っていない。
σ結合の結合軌道は深く(エネルギーが低く)、反結合軌道は高い。そのため分子の HOMO と LUMO はふつう π軌道の組から現れ、光の吸収や化学反応のような低いエネルギーの現象は π電子が担う。Hückel 法は、σ電子を「分子の骨格を固定する変わらない背景」とみなして削り、π電子だけを残す(何を削ったかは 2.2.4節でまとめる)。
Hückel のハミルトニアン
分子の炭素に と番号を付け、炭素 の 軌道を と書く。Hückel 法は次の3つを置く。第一に、 は互いに直交し規格化されているとする(隣どうしの重なり を とする)。第二に、対角要素 はすべての炭素で同じ値 とする。第三に、非対角要素は と が結合で隣り合うときだけ ()で、それ以外は とする。
和 は結合ごとに1回とる。これは序章(第1部第1章)で書いた tight-binding 模型を、1つの分子の1電子の問題に限ったものと同じ形である。
分子の骨格を、炭素を頂点、結合を辺とするグラフとみなす。頂点 と が辺で結ばれるとき 、そうでないとき とした の対称行列 を、そのグラフの隣接行列と呼ぶ。式 (2.2.1) の行列は
と書ける。 は単位行列である。したがって の固有値を とすると、π軌道のエネルギーは になり、固有ベクトルは と共通である。Hückel 法の固有値問題は、分子のグラフの隣接行列の固有値問題と同じものであり、エネルギーの物差しを と で与えるだけである。 が大きい軌道ほどエネルギーが低い(結合性が強い)。
電子の詰め方と全エネルギー
中性の分子では各炭素が π電子を1個ずつ出すので、π電子は 個ある。Hückel 法は電子どうしの相互作用を個別には扱わず、電子をエネルギーの低い軌道から順に1軌道あたり2個(上向きと下向きのスピン)ずつ詰める。π電子の全エネルギーは占有した軌道のエネルギーの和
とする。 は 番目の軌道のエネルギー、 はその軌道の電子の数である。
もっとも小さな例はエチレン()である。行列は
で、前の章の結合軌道 と反結合軌道 そのものである。2個の π電子が に入るので で、2個の電子が別々の炭素にいるとき()より 低い。この が1本の π結合のエネルギーにあたる。HOMO は 、LUMO は で、その差は である。
例題 2.2.1 エチレンをねじると π結合が切れる ★★
オリジナルエチレンの2つの 基を、C=C 結合を軸として互いに角 だけねじる。 軌道の向きも だけずれるので、飛び移りは に変わるとする(2つの 軌道の重なりが向きの余弦に比例するという模型)。
- (1) π電子2個の全エネルギー を求めよ。
- (2) と のエネルギーの差(ねじれの障壁)を で表せ。 のとき2つの電子はどうなっているか。
- (3) を から まで変えたとき、HOMO と LUMO の差はどう変わるか。
解答
(1) 行列は式 (2.2.4) の を に替えたもので、固有値は である。 では なので低い方は で、2個の電子をそこへ入れて
(2) である。 では2つの 軌道が直交して飛び移りが になり、2つの準位は で縮退する。電子は2つの炭素に1個ずつ局在し、π結合は切れている。障壁 は1本の π結合のエネルギーそのものであり、二重結合のまわりの回転が室温で起きにくいことを Hückel 法はこの形で表す。
(3) 差は で、 の から の まで単調に小さくなる。ねじれた二重結合は HOMO と LUMO が近づき、より長い波長の光を吸収する方向へずれる。
木下の勉強ステータス
木下はまだこの記事を勉強していません。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com
← AI生成教科書『虎の巻』の記事一覧へ