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出てくるもの(2):偏光勾配冷却と反跳限界

2026年10月15日11分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第26章 レーザー冷却
目次
  1. Doppler 限界より冷たい原子
  2. linlin の配置で偏光が場所で変わる
  3. 副準位ごとの光シフト
  4. 光ポンピングとシーシュポスの坂
  5. 反跳限界
  6. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

光学と量子エレクトロニクス 第26章 §26.3 ★★★ 基底状態の副準位ごとに光シフトが違い、偏光が場所で変わると、原子は光シフトの山を登っては光ポンピングで谷へ落とされる。この機構で温度は ℏΩ2/∣Δ∣\hbar\Omega^2/\lvert \Delta\rvert の程度まで下がり、最後は光子1個の反跳で決まる反跳限界に行き着く

Doppler 限界より冷たい原子

1988年に Lett たちは、ナトリウムの光の糖蜜の温度を飛行時間法(26.5節)で測り、43±20 μK43\pm20\,\mu\mathrm K を得た(Lett ほか 1988、Phys. Rev. Lett. 61, 169)。これは前節の例題で求めた Doppler 限界 235 μK235\,\mu\mathrm K より明らかに低く、前節の式 (26.8) はどの離調でもこの温度を許さない。理論を見直すと、2準位原子の模型が捨てていたものが2つあった。実際のアルカリ原子の基底状態は角運動量を持ち、磁気副準位が縮退していること。そして実際の糖蜜では2本の光の偏光が違い、合成した光の偏光が場所によって変わることである。この2つを入れた理論は Dalibard と Cohen-Tannoudji(1989、J. Opt. Soc. Am. B 6, 2023)と、Ungar・Weiss・Riis・Chu(1989、J. Opt. Soc. Am. B 6, 2058)が与えた。この節ではその骨格を最も簡単な配置で示す。

lin⊥\perplin の配置で偏光が場所で変わる

+z+z 向きに xx 方向の直線偏光、−z-z 向きに yy 方向の直線偏光の光を、同じ強さで当てる(直交する直線偏光なので lin⊥\perplin と呼ぶ)。複素振幅(時間の因子 e−iωLt\mathrm{e}^{-\mathrm{i}\omega_{\mathrm L}t} を除いたもの)は、共通の振幅を除いて exeikz+eye−ikz\bm{e}_x\mathrm{e}^{\mathrm{i} kz}+\bm{e}_y\mathrm{e}^{-\mathrm{i} kz} である。zz 軸を量子化軸にとり、円偏光の単位ベクトルを e±=∓(ex±iey)/2\bm{e}_{\pm}=\mp(\bm{e}_x\pm\mathrm{i}\bm{e}_y)/\sqrt2 とすると、σ±\sigma_{\pm} 成分の強さの割合は

p±(z)=∣e±∗⋅(exeikz+eye−ikz)∣22=1∓sin⁡2kz2(26.10)p_{\pm}(z)=\frac{\lvert \bm{e}_{\pm}^*\cdot(\bm{e}_x\mathrm{e}^{\mathrm{i} kz}+\bm{e}_y\mathrm{e}^{-\mathrm{i} kz})\rvert ^2}{2}=\frac{1\mp\sin2kz}{2}\tag{26.10}

となる。全体の強さは場所によらないが、偏光は z=0z=0 で直線偏光、z=λ/8z=\lambda/8 で純粋な σ−\sigma_-、z=λ/4z=\lambda/4 で再び直線偏光、z=3λ/8z=3\lambda/8 で純粋な σ+\sigma_+ と、半波長ごとに同じ並びをくり返す。

副準位ごとの光シフト

基底状態が角運動量 Jg=1/2J_g=1/2(副準位 m=±1/2m=\pm1/2)、励起状態が Je=3/2J_e=3/2 の原子を考える。円偏光の光は副準位を σ+\sigma_+ なら Δm=+1\Delta m=+1、σ−\sigma_- なら Δm=−1\Delta m=-1 で結ぶ。遷移の強さは Clebsch–Gordan 係数の2乗で重みがつき、∣m=+1/2⟩→∣3/2⟩| m=+1/2 \rangle \to| 3/2 \rangle が 11、∣m=−1/2⟩→∣+1/2⟩| m=-1/2 \rangle \to| +1/2 \rangle が 1/31/3 である(σ−\sigma_- では mm の符号を入れ替えたもの)。離調が大きい(∣Δ∣≫Γ,Ω\lvert \Delta\rvert \gg\Gamma,\Omega)とき、第25章で求めたとおり、基底状態は光シフト ℏΩ2/(4Δ)\hbar\Omega^2/(4\Delta) だけずれる。ここでの Ω\Omega は全体の強さで係数 11 の遷移を駆動したときの Rabi 周波数とする。各副準位のずれは、結ばれる遷移ごとに強さの割合と係数の2乗を掛けて足したものになり、

U±1/2(z)=ℏΩ24Δ(p±+13p∓)=ℏΩ24Δ(23∓13sin⁡2kz)(26.11)U_{\pm1/2}(z)=\frac{\hbar\Omega^2}{4\Delta}\Bigl(p_{\pm}+\frac13p_{\mp}\Bigr)=\frac{\hbar\Omega^2}{4\Delta}\Bigl(\frac23\mp\frac13\sin2kz\Bigr)\tag{26.11}

となる。2つの副準位のエネルギーは互いに逆の位相で振動し、その山と谷の差は

U0=23⋅ℏΩ24∣Δ∣=ℏΩ26∣Δ∣(26.12)U_0=\frac23\cdot\frac{\hbar\Omega^2}{4\lvert \Delta\rvert }=\frac{\hbar\Omega^2}{6\lvert \Delta\rvert }\tag{26.12}

である(図 26.3)。

図

図 26.3 lin⊥\perplin の配置で、赤い離調(Δ<0\Delta<0)の光が作る2つの副準位のエネルギー(式 (26.11)、点線)。z=λ/8z=\lambda/8 では光が純粋な σ−\sigma_- で、原子は m=−1/2m=-1/2 へ光ポンピングされ、それはちょうどその副準位の谷である。z=3λ/8z=3\lambda/8 では σ+\sigma_+ で、m=+1/2m=+1/2 の谷へ落とされる。矢印は、山の頂上近くにいる原子が光ポンピングで谷へ移る向きを示す

光ポンピングとシーシュポスの坂

光は光シフトだけでなく、副準位の間で原子を移す。σ+\sigma_+ の光の中では、m=−1/2m=-1/2 の原子は ∣+1/2⟩| +1/2 \rangle の励起状態へ上がり、そこから ∣m=+1/2⟩| m=+1/2 \rangle へ落ちることがある。∣m=+1/2⟩| m=+1/2 \rangle に入った原子は ∣3/2⟩| 3/2 \rangle へ上がって ∣m=+1/2⟩| m=+1/2 \rangle へ戻るしかない。したがって純粋な σ+\sigma_+ の中では原子はいずれ m=+1/2m=+1/2 に集まる。σ−\sigma_- の中では m=−1/2m=-1/2 に集まる。これが光ポンピングで、その速さは散乱の速さの程度、離調が大きいときは Γ′≈ΓΩ2/(4Δ2)\Gamma'\approx\Gamma\Omega^2/(4\Delta^2) である(式 (26.1) で s=2Ω2/Γ2s=2\Omega^2/\Gamma^2, ∣Δ∣≫Γ\lvert \Delta\rvert \gg\Gamma とした値)。光ポンピングは副準位の1つへ原子がたまる現象で、第18章(第18章)で2準位の模型が使えなくなると述べた場合にあたる。典型は光が吸収されない副準位(第18章の暗い状態)にたまる場合で、この節の J=1/2→3/2J=1/2\to3/2 では行き先の m=+1/2m=+1/2 は暗い状態でなく、閉じた遷移を回り続けて m=−1/2m=-1/2 へ戻れない副準位である。

式 (26.11) と式 (26.10) を突き合わせると、Δ<0\Delta<0 では、純粋な σ+\sigma_+ の場所(sin⁡2kz=−1\sin2kz=-1)で U+1/2U_{+1/2} が最小になる。つまり光ポンピングの行き先は、いつもその場所で低いほうの副準位である。zz 方向に動く原子は、谷を出て坂を登るにつれて運動エネルギーを失う。坂の上の近くでは偏光が逆の円偏光になっているので、そこで光ポンピングが起こると原子は反対の副準位、つまりその場所の谷へ移される。原子は再び坂を登ることになり、登っては落とされることをくり返す。1回の移り変わりで失うエネルギーは U0U_0 の程度で、そのエネルギーは自然放出の光子が持ち去る。放出された光子は吸収した光子より U0U_0 だけ高い周波数を持つ。この機構を、ギリシャ神話で岩を山の上へ押し上げ続ける罰を受けた人物の名を取って Sisyphus 冷却と呼ぶ。

摩擦がよく働くのは、原子が坂を1つ登る時間 λ/(4v)\lambda/(4v) と光ポンピングの時間 1/Γ′1/\Gamma' が同じ程度のときである。速すぎる原子は光ポンピングの前にいくつもの山を越えてしまい、遅すぎる原子は坂の途中で谷に戻される。冷却で到達する温度は、原子が坂を登れなくなる所、すなわち kBTk_{\mathrm B} T が U0U_0 の程度になる所である。したがって温度は U0∝Ω2/∣Δ∣∝I/∣Δ∣U_0\propto\Omega^2/\lvert \Delta\rvert \propto I/\lvert \Delta\rvert に比例して下がり、光を弱くするか離調を大きくするほど低い。この傾向は、強い光でも大きな離調でも温度が上がる Doppler 冷却の式 (26.8) とは違う。前に引いた2本の論文は、この機構の摩擦係数と拡散係数を光 Bloch 方程式から出し、温度が I/∣Δ∣I/\lvert \Delta\rvert に比例することを示した。もう1つの配置 σ+σ−\sigma_+\sigma_-(向かい合う光が逆回りの円偏光)では、合成した光は場所によって向きの回る直線偏光になり、光シフトの坂はできない。それでも動く原子の副準位の分布が偏るので、片方の光をよく散乱するようになり、Doppler 限界より低い温度が出る。機構の詳細は上の論文に譲る。

反跳限界

U0U_0 をいくら小さくしても、温度は0にはならない。冷却の最後の段階でも原子は光子を散乱し、自然放出のたびに向きのでたらめな ℏk\hbar k の蹴りを受けるからである。運動量の揺らぎが ℏk\hbar k を下回ることはできないので、温度は

kBTrec=ℏ2k2m=2Erec,Erec=ℏ2k22m(26.13)k_{\mathrm B} T_{\mathrm{rec}}=\frac{\hbar^2k^2}{m}=2E_{\mathrm{rec}},\qquad E_{\mathrm{rec}}=\frac{\hbar^2k^2}{2m}\tag{26.13}

の程度で止まる。ErecE_{\mathrm{rec}} は静止した原子が光子1個を吸収したときの運動エネルギーで反跳エネルギーと呼び(第25章と同じ)、TrecT_{\mathrm{rec}} を反跳温度と呼ぶ(Erec/kBE_{\mathrm{rec}}/ k_{\mathrm B} を反跳温度と呼ぶ文献もあるので、引くときは定義を確かめる)。87Rb{}^{87}\mathrm{Rb} では Trec=362 nKT_{\mathrm{rec}}=362\,\mathrm{nK} である。Doppler 限界との比は TD/Trec=ℏΓ/(4Erec)T_{\mathrm D}/T_{\mathrm{rec}}=\hbar\Gamma/(4E_{\mathrm{rec}}) で、87Rb{}^{87}\mathrm{Rb} では約 400400 である。ℏΓ≫Erec\hbar\Gamma\gg E_{\mathrm{rec}}(幅の広い線)が、この章の半古典の扱いが成り立つ条件でもある(26.5節)。U0U_0 が ErecE_{\mathrm{rec}} に近づくと、谷の中の原子の運動を量子化して扱う必要があり、この節の古典的な坂の描像は成り立たない。

反跳限界より下へは、光子を散乱しない状態に原子をためる方法(速度選択的なコヒーレント・ポピュレーション・トラッピング、Raman 冷却)や、光を使わず速い原子を逃がす蒸発冷却で進む。蒸発冷却で Bose–Einstein 凝縮に達したのが Anderson たち(1995、Science 269, 198)の 87Rb{}^{87}\mathrm{Rb} の実験である。光で捕まえた原子を格子に並べる話は第27章(第27章)で扱う。

例題 26.4 Sisyphus の坂の高さと反跳 ★★

オリジナル87Rb{}^{87}\mathrm{Rb} を lin⊥\perplin の光の糖蜜で冷やす。Ω=Γ\Omega=\Gamma, Δ=−10Γ\Delta=-10\Gamma とし、原子を Jg=1/2→Je=3/2J_g=1/2\to J_e=3/2 の模型で扱う。

  1. (1) 坂の高さ U0U_0 を温度に換算し(U0/kBU_0/ k_{\mathrm B})、Doppler 限界 TDT_{\mathrm D} と反跳エネルギー ErecE_{\mathrm{rec}} と比べよ。
  2. (2) 光ポンピングの速さ Γ′\Gamma' を求め、原子が 1/Γ′1/\Gamma' の間にちょうど λ/4\lambda/4(坂1つ分)進む速さを求めよ。
解答

(1) 式 (26.12) から U0=ℏΓ2/(60Γ)=ℏΓ/60U_0=\hbar\Gamma^2/(60\Gamma)=\hbar\Gamma/60 である。ℏΓ/kB=2TD\hbar\Gamma/ k_{\mathrm B}=2T_{\mathrm D} なので

U0kB=2TD60=TD30=146 μK30=4.85 μK\frac{U_0}{ k_{\mathrm B}}=\frac{2T_{\mathrm D}}{60}=\frac{T_{\mathrm D}}{30}=\frac{146\,\mu\mathrm K}{30}=4.85\,\mu\mathrm K

で、Doppler 限界の 1/301/30 である。Erec/kB=181 nKE_{\mathrm{rec}}/ k_{\mathrm B}=181\,\mathrm{nK} と比べると U0=26.8 ErecU_0=26.8\,E_{\mathrm{rec}} で、坂は反跳エネルギーよりまだ十分高く、古典的な坂の描像が使える範囲にある。

(2) Γ′=ΓΩ2/(4Δ2)=Γ/400=(3.81×107 s−1)/400=9.53×104 s−1\Gamma'=\Gamma\Omega^2/(4\Delta^2)=\Gamma/400=(3.81\times10^{7}\,\mathrm{s^{-1}})/400=9.53\times10^{4}\,\mathrm{s^{-1}} である。λ/4=195 nm\lambda/4=195\,\mathrm{nm} をこの時間で進む速さは (λ/4)Γ′=1.86 cm s−1(\lambda/4)\Gamma'=1.86\,\mathrm{cm\,s^{-1}} で、反跳速度の約3倍である。Sisyphus の摩擦が最もよく働くのはこの程度の遅い原子で、Doppler 限界の速度 0.118 m s−10.118\,\mathrm{m\,s^{-1}}(26.2 の例題)より1桁遅い。偏光勾配冷却は、Doppler 冷却で遅くした原子をさらに冷やす段として働く。

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