光学と量子エレクトロニクス 第31章 §31.4 ★★★ スクイーズド真空 S^(ζ)∣0⟩ は一方の直交位相の分散が e−2r/4 と真空より小さく、光子は偶数個だけで平均 sinh2r、分散 2sinh2rcosh2r。2モードに分けると片方は熱分布になる
スクイーズド真空の揺らぎ
真空にスクイーズ演算子を当てた状態 ∣ζ⟩=S^(ζ)∣0⟩ をスクイーズド真空と呼ぶ。命題 31.2 から ⟨X^θ⟩ はすべて 0 のままで、揺らぎは
(ΔXθ)2=4e−2r,(ΔXθ+π/2)2=4e2r,ΔXθΔXθ+π/2=41(31.21)
である。不確定性の下限をちょうど満たしたまま、向き θ の揺らぎが真空の e−r 倍になる(図 31.1 の楕円)。中間の向き θ+ψ では(ΔXθ+ψ)2=41(e−2rcos2ψ+e2rsin2ψ) で、縮めた向きから少しずれるだけで、伸ばした向きの大きな揺らぎが混ざる(31.5節の図 31.3)。揺らぎを dB で表すときは、真空の分散 41 との比を 10log10 で書く。r のスクイーズは −10log10e−2r=8.69rdB で、10dB は分散を 101 にすること、r=21ln10=1.151 に当たる。
光子数の分布
スクイーズの変換の逆 S^a^S^†=a^coshr+a^†e2iθsinhr(式 (31.12) で r→−r)と a^∣0⟩=0 から、スクイーズド真空は
(a^coshr+a^†e2iθsinhr)∣ζ⟩=0(31.22)
を満たす。∣ζ⟩=∑ncn∣n⟩ を入れて ∣n⟩ の係数を比べると cn+1n+1coshr+cn−1ne2iθsinhr=0 である。c1=0 から奇数の係数はすべて 0 で、偶数の係数は c2m+2=−e2iθtanhr(2m+1)/(2m+2)c2m でつながる。これを解いて規格化すると
∣ζ⟩=coshr1m=0∑∞(−e2iθtanhr)m2mm!(2m)!∣2m⟩,P(2m)=4m(m!)2(2m)!coshrtanh2mr(31.23)
を得る(規格化は ∑m4m(m!)2(2m)!xm=(1−x)−1/2 を x=tanh2r で使う)。光子は偶数個しか無い。2個ずつ作ったり消したりする相互作用 (31.9) で真空から作った状態なので、光子数の偶奇は変わらない。
平均と分散は、式 (31.12) で a^ を変換してから真空の期待値をとると
⟨n^⟩=sinh2r,(Δn)2=2sinh2rcosh2r=2⟨n^⟩(⟨n^⟩+1)(31.24)
である。分散は同じ平均のコヒーレント状態(Poisson)の 2(⟨n^⟩+1) 倍で、光子数の揺らぎは大きい。一方の直交位相の揺らぎを小さくした状態は、光子数で見ると揺らぎの大きい状態であり、「揺らぎが小さい」は向きを指定して初めて意味を持つ。光子数の揺らぎの小さい光(アンチバンチングした光)は第32章で扱う。

図 31.2 平均の光子数が同じ 2.025 のコヒーレント状態(青緑・左の棒)とスクイーズド真空(赤・右の棒)の光子数の分布。スクイーズド真空は偶数だけに分布し、n=0 の確率が 0.575 と大きく、裾が長い(分散 12.25。Poisson は 2.025)。
スクイーズしたコヒーレント状態
スクイーズド真空を変位させた D^(α)S^(ζ)∣0⟩ をスクイーズしたコヒーレント状態と呼ぶ。期待値は ⟨a^⟩=α でコヒーレント状態と同じ古典の振動をし、揺らぎは式 (31.21) の楕円のままである。θ を argα にそろえて動径の向きを縮めると光子数の揺らぎが Poisson より小さい光(振幅スクイーズ)、θ=argα+π/2 にして接線の向きを縮めると位相の揺らぎが小さい光(位相スクイーズ)になる。干渉計で使うのは、強いコヒーレント状態の光とスクイーズド真空を別々の入口から入れる配置で、ビームスプリッタで重ねた後の各腕の光は、スクイーズしたコヒーレント状態に近いものになる(総合問題)。
2モードのスクイーズと熱分布
第17章の縮退していないパラメトリック過程では、ポンプ光子1個がシグナル光とアイドラー光の2つのモード a^、b^ に光子を1個ずつ作る。同じ手順で相互作用は a^†b^† と a^b^ の和になり、時間発展は
S^2(ζ)=exp[ζa^†b^†−ζ∗a^b^],S^2(ζ)∣0,0⟩=coshr1n=0∑∞tanhnr∣n,n⟩(31.25)
である。引数は1モードと同じく複素のスクイーズ・パラメータ ζ=re2iθ で、位相を選んで ζ=r(実数)とすると右の式になる。光子は2つのモードに同じ数ずつ入るので、光子数の差 n^a−n^b は揺らがない。これを2モードのスクイーズド真空と呼ぶ。片方のモードだけを見て b^ について部分トレースをとると
ρ^a=cosh2r1n∑tanh2nr∣n⟩⟨n∣,tanh2r=e−ℏω/(kBT),⟨n^a⟩=sinh2r(31.26)
で、温度 T の熱分布(Planck 分布)そのものになる。全体は純粋状態なのに、片方だけを見ると熱い。解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部第12章(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部第12章)で、一様に加速する観測者の見る真空が Rindler の左右の楔のモードの対の状態(熱場二重状態)になり、片方の楔では Unruh 温度の熱分布に見えることを示した。その状態は、この式で tanhr=e−ℏΩ/(2kBTU) とおいた2モードのスクイーズド真空である。
例題 31.4 10dB のスクイーズド真空 ★★★
オリジナルX^1 の分散を真空の 101 にしたスクイーズド真空(θ=0)を考える。
- (1) r、ΔX1、ΔX2 を求めよ。
- (2) 平均の光子数と、光子数が 0・2・4 個である確率を求めよ。光子数の分散を、同じ平均のコヒーレント状態と比べよ。
- (3) 同じ r の2モードのスクイーズド真空を、角周波数 ω/2π=5GHz の2つのモードに作った。片方のモードだけを見ると何 K の熱分布に見えるか。
解答
(1) e−2r=101 から r=21ln10=1.151。ΔX1=e−r/2=0.158、ΔX2=er/2=1.58 で、積は 41 のままである。
(2) sinh2r=(e2r+e−2r−2)/4=(10+0.1−2)/4=2.025。cosh2r=3.025、tanh2r=2.025/3.025=0.669 で、式 (31.23) からP(0)=1/coshr=0.575、P(2)=21tanh2r/coshr=0.192、P(4)=83tanh4r/coshr=0.0966 である。分散は 2×2.025×3.025=12.25 で、同じ平均のコヒーレント状態の分散 2.025 の約6倍である(図 31.2)。半分以上の確率で光子は1個も無いのに、平均は2個を超える。
(3) e−ℏω/(kBT)=tanh2r=0.669 から ℏω/(kBT)=0.401、T=h×5×109/(kB×0.401)=0.598K である。この温度の Planck 分布の平均 1/(e0.401−1)=2.025 は sinh2r と一致する。2つのモードの光子数を同時に測ると、値はいつも等しい。片方だけでは温度 0.6K の雑音に見える光が、もう片方と合わせると完全に相関している。
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