解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部 第4章 §4.4.3 ★★★ n^ の固有値は 0,1,2,…、En=ℏω(n+21)。作用変数は Jn=(n+21)ℏ で、Bohr–Sommerfeld の条件が調和振動子では厳密に成り立つ
代数だけで準位を決める
[a^,a^†]=1 だけから、n^=a^†a^ の固有値がすべて決まる。手順は3段である。
第1に、n^ の固有値は負でない。n^∣ν⟩=ν∣ν⟩、⟨ν∣ν⟩=1 とするとν=⟨ν∣a^†a^∣ν⟩=∥a^∣ν⟩∥2≥0 で、等号は a^∣ν⟩=0 のときに限る。
第2に、a^ は固有値を 1 だけ下げ、a^† は 1 だけ上げる。[n^,a^]=−a^, [n^,a^†]=a^† から
n^a^∣ν⟩=(a^n^−a^)∣ν⟩=(ν−1)a^∣ν⟩,n^a^†∣ν⟩=(ν+1)a^†∣ν⟩
である。式 (4.4.15) の言葉では、n^ が生成する回転で a^ は位相 e−iφ を受け取るので、n^ の固有値を1つずらす。
第3に、ν が整数でないと矛盾する。a^ を繰り返し掛けると固有値は ν,ν−1,ν−2,… と下がり、いずれ負になって第1の結果に反する。これを止めるには、ある段で a^∣ν−k⟩=0 になる必要があり、そのとき第1の結果から ν−k=0 である。したがって ν は負でない整数 n=0,1,2,… で、最低の状態 ∣0⟩ は a^∣0⟩=0 で決まる。
定理 4.4.1(調和振動子の準位 ★★★)
[a^,a^†]=1 のとき、n^=a^†a^ の固有値は n=0,1,2,… で、規格化された固有状態は
∣n⟩=n!(a^†)n∣0⟩,a^∣n⟩=n∣n−1⟩,a^†∣n⟩=n+1∣n+1⟩(4.4.17)
である。エネルギー準位は
En=ℏω(n+21),n=0,1,2,…(4.4.18)
で、間隔は一定の ℏω である。
係数 n は ∥a^∣n⟩∥2=⟨n∣n^∣n⟩=n から、n+1 は ∥a^†∣n⟩∥2=⟨n∣a^a^†∣n⟩=n+1 から決まる(位相は実正に選ぶ)。
作用変数の量子化は厳密
式 (4.4.14) から、∣n⟩ の作用変数の値は
Jn=(n+21)ℏ(4.4.19)
である。第1部第14章では、滑らかな転回点を持つポテンシャルについて Bohr–Sommerfeld の条件 J=(n+21)ℏ を、ℏ/J→0 の極限で成り立つ近似として述べた。調和振動子では、この条件が近似でなく、すべての n で厳密に成り立つ。言い換えると、古典の相空間で面積が 2πℏ(n+21)=h(n+21) の楕円を選ぶと、そのエネルギー ωJ がちょうど量子の準位になる。隣り合う楕円の間の帯の面積は h で、1つの量子状態が相空間の面積 h を占めることが目で見える(図 4.4.1)。第3部第3章(第3部第3章)で相空間の測度を dqdp/h に選んだのは、この数え方に合わせるためだった。

図 4.4.1 調和振動子の相空間(q を ℓ、p を ℏ/ℓ で測ると楕円は円になる)。n 番目の準位は面積 2πℏ(n+21) の円(実線)に対応する。点線の円 J=nℏ で区切った帯は、どれも面積が h=2πℏ で、実線の円はその帯の真ん中(面積の意味で)を通る
零点エネルギーと不確定性
最低のエネルギー E0=21ℏω は、古典の最低エネルギー 0(q=p=0 で静止)と違う。古典では相空間の1点に止まれるが、量子では q と p を同時に確定できないので、楕円の面積を 0 にすることができない。この下限は不確定性関係から直接出る。どの状態でも ⟨q^2⟩≥(Δq)2、⟨p^2⟩≥(Δp)2、ΔqΔp≥ℏ/2 なので
⟨H^⟩≥2m(Δp)2+21mω2(Δq)2≥8m(Δq)2ℏ2+21mω2(Δq)2≥2ℏω
で、最後の不等号は相加相乗平均である。等号は (Δq)2=ℏ/(2mω)=ℓ2/2 のときで、これが ∣0⟩ の幅になる(4.4.4節)。
位置と運動量の行列要素
式 (4.4.12) と (4.4.17) から、q^ と p^ は隣り合う準位の間にだけ 0 でない行列要素を持つ。
⟨n−1∣q^∣n⟩=ℓ2n,⟨n−1∣p^∣n⟩=−iℓℏ2n(4.4.20)
である。q^ は a^ と a^† の1次式なので、準位を1つずつしか動かすことができない。電気双極子の遷移(第4部第12章)では、この性質が「調和振動子は Δn=±1 の遷移しか起こさず、吸収・放出の光の振動数は ω ただ1つ」という選択則になる。古典の調和振動子の q(t) が振動数 ω の正弦波1つで、倍音を含まないことの量子版である(4.4.6節)。
例題 4.4.3 零点エネルギーの大きさ ★★
オリジナル角振動数 ω=2π×1.0×1013s−1、質量 m=1.0×10−26kg の調和振動子を考える(分子の振動に近い大きさの値を選んだ)。ℏ=1.0546×10−34Js、kB=1.3806×10−23JK−1、1eV=1.6022×10−19J とする。
- (1) 準位の間隔 ℏω と零点エネルギー E0 を meV で求め、300K の kBT と比べよ。
- (2) ⟨H^⟩ を Δq の関数として最小化する本文の計算をたどり、基底状態の位置の幅 Δq を数値で求めよ。
- (3) 古典の振動子が零点エネルギー E0 を持つとしたときの振幅 A を求め、Δq と比べよ。
解答
(1) ℏω=1.0546×10−34×6.283×1013=6.63×10−21J、eV で割って 41.4meV。E0=ℏω/2=20.7meV。300K の kBT=25.9meV なので ℏω/(kBT)=1.60 で、準位の間隔は熱のエネルギーと同じ程度である。
(2) f(Δq)=8m(Δq)2ℏ2+21mω2(Δq)2 を微分して 0 とおくと (Δq)4=ℏ2/(4m2ω2)、(Δq)2=ℏ/(2mω)。そのとき f=4ℏω+4ℏω=2ℏω で、本文の下限に一致する。数値はΔq=1.0546×10−34/(2×10−26×6.283×1013)=9.16×10−12m。
(3) 21mω2A2=21ℏω から A=ℏ/(mω)=ℓ=2Δq=1.30×10−11m。古典の振動子の ⟨q2⟩ は時間平均で A2/2=ℓ2/2 なので、量子の基底状態の (Δq)2=ℓ2/2 と一致する。零点の揺れは、作用変数 J=ℏ/2 の古典の楕円と同じ広がりを持つ。
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