光学と量子エレクトロニクス 第33章 §33.2 ★★★ 入口の状態を生成演算子の多項式で書き、a^j†=∑kSkjb^k† を代入すると出口の状態になる。コヒーレント状態は積のまま、数状態は二項分布に分かれ、損失は真空の入口を持つビームスプリッタとして書ける
Schrödinger 描像の書き換え
式 (33.3) は演算子の変換(Heisenberg 描像)である。入口の状態を与えて出口の状態を求めるには、逆向きの関係を使う。S がユニタリなので a^j=∑k(S†)jkb^k=∑kSkj∗b^k で、そのエルミート共役をとると
a^j†=k∑Skjb^k†,つまりa^1†=tb^1†+rb^2†,a^2†=r′b^1†+t′b^2†(33.5)
になる。入口の生成演算子は、行列 S の列に沿って出口の生成演算子に分かれる。
光子の状態は、真空 ∣0,0⟩ に生成演算子の多項式 f(a^1†,a^2†) を掛けて書ける。ビームスプリッタは真空を真空に移す(光子の数を保つので、光子 0 個の状態は 0 個のまま)ので、出口の状態は
f(a^1†,a^2†)∣0,0⟩ ⟼ f(tb^1†+rb^2†, r′b^1†+t′b^2†)∣0,0⟩(33.6)
である。この章の計算は、すべてこの代入と、(b^†)n∣0⟩=n!∣n⟩ の書き換えで済む。
コヒーレント状態と数状態
コヒーレント状態(第31章)は、変位演算子 D^(α)=exp(αa^†−α∗a^) を真空に掛けたもので、exp の肩が生成消滅演算子の1次式である。入口1に ∣α⟩、入口2に ∣β⟩ を入れると、肩の1次式に式 (33.5) を代入して
∣α⟩1∣β⟩2 ⟼ ∣tα+r′β⟩1∣rα+t′β⟩2(33.7)
を得る(右辺は出口のモードの状態)。出口の振幅は古典の式 (33.1) の振幅と同じで、状態は2つのコヒーレント状態の積のまま、つまり2つの出口の光子の数は互いに独立な Poisson 分布になる。レーザーの光をビームスプリッタで分けても、2つの出口の光子の数に相関は生じない。熱的な光のようにコヒーレント状態の確率的な混合で書ける光(古典の光)を入れても、出口の状態は積の混合のままである。数状態のように古典の光で書けない光を入れたときに限り、2つの出口の状態は積の混合で書けなくなる(もつれる)。
数状態 ∣N⟩1∣0⟩2=(a^1†)N∣0,0⟩/N! を入れると、二項展開から
∣N,0⟩ ⟼ k=0∑N(kN)tkrN−k∣k,N−k⟩,P(k)=(kN)TkRN−k(33.8)
になる。N 個の光子が、それぞれ独立に確率 T で出口1を選んだときの二項分布である。出口1の光子の数の平均は NT、分散は NTR で、入口の分散 0 の数状態から、分散のある状態が出てくる。
損失はビームスプリッタ
光が途中で一部失われる過程(吸収・散乱・検出器の量子効率が 1 より小さいこと)は、透過率 η のビームスプリッタの一方の出口だけを残し、もう一方を捨てたものとして書ける。捨てた出口の光が戻ってこない限り、損失の詳しい仕組みはこのモデルの結果に入らない。空いている入口には真空が入るので、出口の消滅演算子は b^=ηa^+1−ηv^(v^ は真空のモード)になる。真空の期待値 v^∣0⟩=0 を使うと、正規順序(生成演算子を左に並べた順)の相関は
⟨b^†b^⟩=η⟨a^†a^⟩,⟨b^†2b^2⟩=η2⟨a^†2a^2⟩
になる。第32章の g(2)(0)=⟨a^†2a^2⟩/⟨a^†a^⟩2 では分子と分母がともに η2 倍になるので、損失があっても g(2)(0) は変わらない。効率の低い検出器で測っても、アンチバンチング(g(2)(0)<1)の判定は損なわれない。損失で変わるのは平均の光子の数と、数のゆらぎの大きさ(Fano 因子)である。
例題 33.2 10個の光子の数状態を損失に通す ★★
オリジナル光子数 N=10 の数状態を、透過率 η=0.6 の損失に通す。
- (1) 残った光子の数の分布、平均、分散、Fano 因子(分散/平均)を求めよ。10個すべてが残る確率も求めよ。
- (2) 損失の前と後の g(2)(0) を求めよ。
- (3) 平均 10 のコヒーレント状態を同じ損失に通したときの分布と Fano 因子を求め、(1) と比べよ。
解答
(1) 式 (33.8) で T=η とおくと P(k)=(k10)0.6k0.410−k の二項分布で、平均は Nη=6、分散は Nη(1−η)=2.4、Fano 因子は 1−η=0.4 である。10個すべてが残る確率は 0.610=6.05×10−3 で、光子が1個ずつ独立に残るか失われるかを決めることがここに表れる。
(2) 数状態では ⟨n^(n^−1)⟩=N(N−1) なので g(2)(0)=1−1/N=0.9。損失の後の二項分布では ⟨k(k−1)⟩=N(N−1)η2 で、g(2)(0)=N(N−1)η2/(Nη)2=0.9 と変わらない。
(3) 式 (33.7) から、出口の状態は ∣0.6α⟩ のコヒーレント状態で、分布は平均 6 の Poisson 分布、Fano 因子は 1 のままである。数状態の Fano 因子は損失で 0 から 0.4 に増え、損失を重ねるほど Poisson の 1 に近づく。光子1個ずつの選別は、どんな光もコヒーレント状態の統計に近づける方向に働き、Poisson の光は Poisson のまま変わらない。
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