光学と量子エレクトロニクス 第33章 §33.1 ★★★ 損失の無いビームスプリッタは出口の消滅演算子を b^=Sa^ と入口の消滅演算子の線形結合にし、S がユニタリであることが交換関係を保つ条件になる。光を入れない入口にも真空のモードがあり、それを省くと交換関係が成り立たない
第9章(第9章)では、ビームスプリッタを古典的な場の複素振幅を混ぜる 2×2 のユニタリ行列として扱い、Mach–Zehnder 干渉計の縞を出した。第32章(第32章)では、1つのモードの光子の数の統計を g(2) で測り、光子が1個ずつ来る光と古典の光を区別した。この章では、同じユニタリ行列を量子化した場の消滅演算子に当て、2つのモードにまたがる光子の状態を調べる。古典の干渉計では見えなかったことが2つ出てくる。1つは、区別できない2個の光子を 50:50 のビームスプリッタの2つの入口から同時に入れると、2個がいつも同じ出口から出てくることである(Hong–Ou–Mandel 干渉)。もう1つは、2つのモードにまたがる光子の対が、片方を測ると他方の状態が決まる相関を持てることである(光子対ともつれ)。
この章で取り出すモードは、ビームスプリッタの2つの入口と2つの出口の進行波のモードである。各モードを第30章(第30章)の1つの振動子として量子化し、消滅演算子 a^1, a^2(入口)と b^1, b^2(出口)で書く。物質のモデルは2つある。1つは光を吸わない線形の素子(ビームスプリッタ)で、光子の数を変えずにモードを混ぜる。もう1つは光子の対を作る源で、第17章(第17章)の χ(2) の結晶(ポンプ光子1個を2個に分ける)と、第18章(第18章)の2準位を2段に重ねた原子のカスケード(上の準位から2個の光子を続けて出す)を扱う。結合は、ビームスプリッタではモードどうしの1次の結合 a^1†a^2+h.c.、結晶ではポンプの古典の振幅を掛けた a^s†a^i†+h.c.、原子では第18章の双極子相互作用である。
33.1節でビームスプリッタの演算子の変換を作り、空いている入口の真空を省けない理由を示す。33.2節で、入口の状態を出口の状態に書き換える手順(生成演算子の置き換え)を作り、コヒーレント状態・数状態・損失に当てる。33.3節と33.4節が「出てくるもの」で、Hong–Ou–Mandel 干渉の谷と、光子対の状態(2モードのスクイーズド真空と偏光のもつれた対)を出す。33.5節で置いた近似と確かめる実験の量を述べ、33.6節で古典の光学と量子力学の授業の式と並べ、33.7節でまとめる。
古典の散乱行列を演算子に当てる
第9章では、2つの入口の平面波の複素振幅 a1, a2 を2つの出口の振幅 b1, b2 に移す散乱行列
(b1b2)=S(a1a2),S=(trr′t′)(33.1)
を考え、光を吸わない素子では S がユニタリであることを示した(第9章の命題)。対称な素子では t=t′, r=r′ で、反射は透過から位相が π/2 ずれる。この章では位相を t=T(実数)、r=iR に選び、T+R=1 とする。50:50 の素子では
S50=21(1ii1)(33.2)
である。
場を量子化すると、各モードの複素振幅は消滅演算子に置き換わる(第30章)。進行波の1つのモードの電場は、記法の正本の展開のうちそのモードの項だけを取り出して E^∝i(a^ei(kz−ωt)−h.c.) と書ける。ビームスプリッタは Maxwell 方程式の線形な境界条件で入口の場を出口の場に移すので、場の演算子にも同じ線形の関係が成り立つ。したがって
b^1=ta^1+r′a^2,b^2=ra^1+t′a^2(33.3)
である。古典の式 (33.1) の振幅を、そのまま演算子に読み替えたものになっている。
出口のモードも1つの振動子なので、[b^j,b^k†]=δjk と [b^j,b^k]=0 が成り立たなければならない。式 (33.3) に入口の交換関係 [a^j,a^k†]=δjk を入れると
[b^j,b^k†]=l∑SjlSkl∗=(SS†)jk
なので、交換関係が保たれる条件は SS†=1、つまり S がユニタリであることである。古典の議論では「エネルギーが保存する」ことからユニタリ性を出したが、量子論では「出口も振動子である」ことからも同じ条件が出る。
空いている入口の真空
古典の干渉計で入口2に光を入れないときは、a2=0 とおいて b1=ta1, b2=ra1 と書けばよかった。量子論で同じことをして b^1=ta^1 だけを残すと、
[b^1,b^1†]=∣t∣2[a^1,a^1†]=T<1
となり、出口のモードが振動子でなくなる。光を入れない入口2にも、光子の数が 0 の状態(真空)にあるモード a^2 があり、その寄与 r′a^2 を省くことはできない。真空のモードの演算子は、光子の数の期待値には寄与しない(a^2∣0⟩=0)が、出口の光子の数のゆらぎと交換関係には寄与する。第31章(第31章)のスクイーズド光で、この入口に真空の代わりにスクイーズド真空を入れて干渉計の雑音を下げる。

図 33.1 ビームスプリッタの2つの入口のモード a^1, a^2 と2つの出口のモード b^1, b^2。光を入れない入口 2 にも真空のモードがあり、出口の演算子に r′a^2, t′a^2 として入る。
ビームスプリッタを生成子で書く
ユニタリな S を、2つのモードの空間のユニタリ演算子 U^ で b^j=U^†a^jU^ と書くこともできる。G^=a^1†a^2+a^2†a^1 とおき、
U^(θ)=exp[iθ(a^1†a^2+a^2†a^1)](33.4)
とする。[G^,a^1]=−a^2、[G^,a^2]=−a^1 なので、U^†a^1U^ を θ で展開した級数は cosθ と sinθ の級数にまとまり、
U^†a^1U^=a^1cosθ+ia^2sinθ,U^†a^2U^=ia^1sinθ+a^2cosθ
を得る。これは式 (33.3) で t=t′=cosθ, r=r′=isinθ とおいたもので、θ=π/4 が 50:50 である。生成子 G^ は光子を一方のモードから他方へ移す項だけからなり、全光子数 a^1†a^1+a^2†a^2 と交換する。ビームスプリッタは光子を作りも消しもせず、光子の数の和を保つ。G^ は第15章(第15章)の Stokes パラメータの1つと同じ形をしていて、2つのモードの空間でのビームスプリッタは、Poincaré 球の上の回転として書ける(偏光の2つのモードを混ぜる波長板が同じ形になる)。
例題 33.1 1個の光子を T=0.3 のビームスプリッタに入れる ★★
オリジナルT=0.3, R=0.7 の対称なビームスプリッタ(t=0.3, r=i0.7)の入口1に光子を1個入れ、入口2は真空とする。
- (1) 出口の状態を求め、出口1・出口2で光子を見つける確率を求めよ。
- (2) 2つの出口に置いた検出器が同時に鳴る確率を求めよ。古典の光(強度 I がゆらいでよい)を同じ素子に入れたとき、2つの出口の強度の積の平均 ⟨I1I2⟩ が 0 にならないことと比べよ。
- (3) 出口1の演算子を b^1=ta^1 だけにした場合の [b^1,b^1†] を求めよ。
解答
(1) 入口の状態は a^1†∣0,0⟩ である。33.2節の式 (33.5) で a^1†=tb^1†+rb^2† と書き換えると、出口の状態は0.3∣1,0⟩+i0.7∣0,1⟩ になる(出口の光子の数を ∣n1,n2⟩ と書いた)。出口1で見つける確率は 0.3、出口2で 0.7 で、古典の強度の分け方と同じである。
(2) 状態に ∣1,1⟩ の成分は無いので、同時に鳴る確率は 0 である。光子は2つに分かれず、どちらか一方の出口にだけ現れる。古典の光では出口の強度は I1=TI, I2=RI なので ⟨I1I2⟩=TR⟨I2⟩>0 になる。第32章の言葉では、2つの出口の相関 ⟨b^1†b^2†b^2b^1⟩ が 0 になることが1光子の状態のしるしで、古典の光ではこの量を 0 にすることはできない。
(3) [b^1,b^1†]=∣t∣2=0.3 で、1 にならない。真空の入口の項 r′a^2 を足すと ∣t∣2+∣r′∣2=1 に戻る。
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