等号 χ=lnd には2つの条件が要る。ρˉ が完全に混ざった状態 1/d であることと、ρ^x が純粋状態であることである。さらに I(X;Y)=lnd まで届かせるには、定理 3.7.3 の等号条件から、状態が交換する(すなわち d 個の直交する状態を一様に送る)必要がある。古典の d 値の文字を送るのと同じ使い方が最善で、量子の重ね合わせは送れる情報の量を増やさない。
超高密度符号との関係
超高密度符号(第3部第6章)では、送り手 A と受け手 B があらかじめ最大にもつれた状態 ∣Φ+⟩=(∣00⟩+∣11⟩)/2 を分け持ち、A は自分の量子ビットに4つの Pauli 演算 1,X,Z,XZ のどれかを当てて B に送る。B は2量子ビットを Bell 基底で測り、2ビットを受け取る。1量子ビットを送って2ビットが届くので、式 (3.7.10) の ln2 と食い違って見える。
食い違いは、式 (3.7.10) の d が「受け手が測る系の次元」であることで解ける。B が最後に測るのは、もともと手元にあった1量子ビットと届いた1量子ビットの2量子ビットで、d=4 である。4つの状態は互いに直交する4つの Bell 状態なので、ρˉ=1/4 で χ=ln4、上限はちょうど2ビットになる。逆に、B が手元の量子ビットを持たずに届いた1量子ビットだけを測るなら、その状態は4つの文字のどれでも 1/2 なので χ=0 で、何も読めない。送った1量子ビットそのものは情報を運んでおらず、あらかじめ分け持ったもつれと組み合わさって初めて2ビットが読める。送った量子ビットの数だけを資源と数えると話が合わず、事前のもつれも資源に数える必要がある。
例題 3.7.3 雑音の入ったもつれで超高密度符号 ★★
オリジナルA と B が分け持つ状態が、∣Φ+⟩ を確率 F、残りの3つの Bell 状態を確率 (1−F)/3 ずつで混ぜた ρ^F であるとする。A は確率 1/4 ずつで 1,X,Z,XZ を自分の量子ビットに当てて送る。
B の2量子ビットの4つの状態 ρ^x と平均 ρˉ を求め、χ=2ln2−H(F,31−F,31−F,31−F) を示せ。
Bell 基底で測ると I(X;Y)=χ になることを示せ。
もつれを使わずに1量子ビットを送るときの上限 ln2 を超えるのは F がいくつより大きいときか。F=0.9 の χ も求めよ。
解答
(1) A の側の Pauli 演算は4つの Bell 状態を互いに入れ替える(X⊗1 は ∣Φ±⟩↔∣Ψ±⟩、Z⊗1 は ∣Φ+⟩↔∣Φ−⟩、∣Ψ+⟩↔∣Ψ−⟩ を位相を除いて入れ替える)。したがって ρ^x は Bell 基底で対角で、固有値の組は (F,31−F,31−F,31−F) の並べ替えになり、S(ρ^x)=H(F,31−F,31−F,31−F) は x によらない。4つを平均すると各 Bell 状態の重みは 41(F+3⋅31−F)=41 で、ρˉ=1/4、S(ρˉ)=2ln2。差を取って示す式を得る。
(2) ρ^x はすべて Bell 基底で対角なので互いに交換する。定理 3.7.3 から、共通の固有基底(Bell 基底)での測定で等号が成り立つ。