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当てる道具:生成子と括弧の代数

2026年10月15日8分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第4部 第1章 Poisson 括弧から交換子へ
目次
  1. 交換子も同じ代数を満たす
  2. Leibniz 則を保つ括弧は交換子に限られる
  3. 定数 を決める:並進の生成子
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部 第1章 §4.1.2 ★★★ 交換子は Poisson 括弧と同じ代数を満たし、Leibniz 則を保つ括弧は交換子の定数倍に限られる。並進の生成子が運動量であることから定数が iℏ\mathrm{i}\hbar に決まる

交換子も同じ代数を満たす

第1部第11章では、Poisson 括弧の性質として次の3つを示した。

{A,B}=−{B,A}(反対称性),{A,BC}={A,B}C+B{A,C}(Leibniz 則),{A,{B,C}}+{B,{C,A}}+{C,{A,B}}=0(Jacobi 恒等式).\begin{align*}&\{A,B\}=-\{B,A\}\quad(\text{反対称性}),\tag{4.1.4}\\&\{A,BC\}=\{A,B\}C+B\{A,C\}\quad(\text{Leibniz 則}),\tag{4.1.5}\\&\{A,\{B,C\}\}+\{B,\{C,A\}\}+\{C,\{A,B\}\}=0\quad(\text{Jacobi 恒等式}).\tag{4.1.6}\end{align*}

この3つがあるので、括弧の計算を偏微分に戻さずに進めることができた。交換子 [A^, B^]=A^B^−B^A^\left[\hat A,\,\hat B\right]=\hat A\hat B-\hat B\hat A も、積の順序を保ったまま同じ3つを満たす。反対称性は定義から明らかで、Leibniz 則は

[A^, B^C^]=A^B^C^−B^C^A^=(A^B^−B^A^)C^+B^(A^C^−C^A^)=[A^, B^]C^+B^[A^, C^](4.1.7)\left[\hat A,\,\hat B\hat C\right]=\hat A\hat B\hat C-\hat B\hat C\hat A=(\hat A\hat B-\hat B\hat A)\hat C+\hat B(\hat A\hat C-\hat C\hat A)=\left[\hat A,\,\hat B\right]\hat C+\hat B\left[\hat A,\,\hat C\right]\tag{4.1.7}

と確かめられる。Jacobi 恒等式は、3つの交換子を展開すると12個の積 A^B^C^\hat A\hat B\hat C などが現れ、それぞれが符号違いで2回ずつ出て打ち消し合うことから従う。古典の Leibniz 則 (4.1.5) では {A,B}C\{A,B\}C と C{A,B}C\{A,B\} の区別が無いが、交換子では [A^, B^]C^\left[\hat A,\,\hat B\right]\hat C と C^[A^, B^]\hat C\left[\hat A,\,\hat B\right] は一般に違う。式 (4.1.7) の順序(B^\hat B は左、C^\hat C は右に残る)を守ることが、量子力学で括弧の代数を使うときの唯一の注意になる。

Leibniz 則を保つ括弧は交換子に限られる

逆向きの問いを立てる。非可換な積を持つ演算子の集まりの上に、反対称で、順序を保った Leibniz 則(両方の引数で)を満たす括弧 {⋅,⋅}q\{\cdot,\cdot\}_{\mathrm q} があったとする。この括弧はどういう形をしているか。Dirac(1925)はこの問いに次の計算で答えた1P. A. M. Dirac (1925), Proc. R. Soc. Lond. A 109, 642–653.下の脚注へ。

{u1u2,v1v2}q\{u_1u_2,v_1v_2\}_{\mathrm q} を2通りに展開する。先に第1引数を Leibniz 則で分けると

{u1,v1}qv2u2+v1{u1,v2}qu2+u1{u2,v1}qv2+u1v1{u2,v2}q,\{u_1,v_1\}_{\mathrm q}v_2u_2+v_1\{u_1,v_2\}_{\mathrm q}u_2+u_1\{u_2,v_1\}_{\mathrm q}v_2+u_1v_1\{u_2,v_2\}_{\mathrm q},

先に第2引数を分けると

{u1,v1}qu2v2+u1{u2,v1}qv2+v1{u1,v2}qu2+v1u1{u2,v2}q.\{u_1,v_1\}_{\mathrm q}u_2v_2+u_1\{u_2,v_1\}_{\mathrm q}v_2+v_1\{u_1,v_2\}_{\mathrm q}u_2+v_1u_1\{u_2,v_2\}_{\mathrm q}.

2つは等しくなければならない。中央の2項は共通なので、残りを比べて

{u1,v1}q (u2v2−v2u2)=(u1v1−v1u1) {u2,v2}q(4.1.8)\{u_1,v_1\}_{\mathrm q}\,(u_2v_2-v_2u_2)=(u_1v_1-v_1u_1)\,\{u_2,v_2\}_{\mathrm q}\tag{4.1.8}

を得る。u1,v1u_1,v_1 と u2,v2u_2,v_2 は互いに無関係に選べるので、この式が成り立つためには

{u,v}q=k (uv−vu)=k[u, v](4.1.9)\{u,v\}_{\mathrm q}=k\,(uv-vu)=k\left[u,\,v\right]\tag{4.1.9}

で、kk はどの演算子とも交換する定数でなければならない。古典の積は可換なので式 (4.1.8) の両辺はどちらも 00 になり、括弧の形は決まらない。積が可換でなくなったことで、括弧の形が交換子に決まる。

定数 kk を決める:並進の生成子

残るのは定数 kk の値である。第1部第9章では、量子力学の無限小変換を U^(ϵ)=e−iϵG^/ℏ\hat U(\epsilon)=\mathrm{e}^{-\mathrm{i}\epsilon\hat G/\hbar} と書き、δA^=U^†A^U^−A^=ϵ[A^, G^]/(iℏ)\delta\hat A=\hat U^\dagger\hat A\hat U-\hat A=\epsilon\left[\hat A,\,\hat G\right]/(\mathrm{i}\hbar) が古典の δA=ϵ{A,G}\delta A=\epsilon\{A,G\} に対応することを見た。ここでは逆に、「運動量は並進の生成子である」という古典の事実を量子力学でも要請し、そこから kk を決める。

確率を保つ変換はユニタリ U^†U^=1^\hat U^\dagger\hat U=\hat 1 で、パラメータ ϵ\epsilon について連続な変換は U^(ϵ)=e−iϵG^/ℏ\hat U(\epsilon)=\mathrm{e}^{-\mathrm{i}\epsilon\hat G/\hbar} の形に書ける。ここで G^\hat G がエルミートであることと U^\hat U がユニタリであることは同値で、指数の i\mathrm{i} はそのために要る。ℏ\hbar は ϵG^\epsilon\hat G(並進なら長さ×運動量)を無次元にするための作用の次元の定数である。並進 U^(a)=e−iap^/ℏ\hat U(a)=\mathrm{e}^{-\mathrm{i} a\hat p/\hbar} が位置を aa だけずらす、つまり U^(a)†q^ U^(a)=q^+a\hat U(a)^\dagger\hat q\,\hat U(a)=\hat q+a を要請し、aa の1次で比べると

q^+iaℏ[p^, q^]+⋯=q^+a⟹[q^, p^]=iℏ(4.1.10)\hat q+\frac{\mathrm{i} a}{\hbar}\left[\hat p,\,\hat q\right]+\cdots=\hat q+a\quad\Longrightarrow\quad \left[\hat q,\,\hat p\right]=\mathrm{i}\hbar\tag{4.1.10}

となる。古典の {q,p}=1\{q,p\}=1 と比べれば k=1/(iℏ)k=1/(\mathrm{i}\hbar) である。

kk が純虚数になる理由は次のように読める。エルミートな A^,B^\hat A,\hat B の交換子は [A^, B^]†=[B^, A^]=−[A^, B^]\left[\hat A,\,\hat B\right]^\dagger=\left[\hat B,\,\hat A\right]=-\left[\hat A,\,\hat B\right] で反エルミートなので、実数値の関数 {A,B}\{A,B\} に対応させるには i\mathrm{i} で割ってエルミートに戻す必要がある。ℏ\hbar の値そのものは理論からは決まらない。2019年の SI の改定以降、Planck 定数は h=6.62607015×10−34 J sh=6.62607015\times10^{-34}\,\mathrm{J\,s} と定義値で定められ、ℏ=h/(2π)≈1.055×10−34 J s\hbar=h/(2\pi)\approx1.055\times10^{-34}\,\mathrm{J\,s} である。

例題 4.1.2 運動量の関数との交換子と有限の並進 ★★

オリジナル[q^, p^]=iℏ\left[\hat q,\,\hat p\right]=\mathrm{i}\hbar だけを使う。

  1. (1) 自然数 nn について [q^, p^n]=iℏ np^n−1\left[\hat q,\,\hat p^n\right]=\mathrm{i}\hbar\,n\hat p^{n-1} を示し、冪級数で書ける ff について [q^, f(p^)]=iℏf′(p^)\left[\hat q,\,f(\hat p)\right]=\mathrm{i}\hbar f'(\hat p) を導け。古典の {q,f(p)}\{q,f(p)\} と比べよ。
  2. (2) U^(a)=e−iap^/ℏ\hat U(a)=\mathrm{e}^{-\mathrm{i} a\hat p/\hbar} について U^(a)†q^ U^(a)=q^+a\hat U(a)^\dagger\hat q\,\hat U(a)=\hat q+a を、展開を打ち切らずに示せ。
解答

(1) n=1n=1 は仮定そのもの。nn で成り立つとすると、Leibniz 則 (4.1.7) から[q^, p^n+1]=[q^, p^n]p^+p^n[q^, p^]=iℏnp^n+iℏp^n=iℏ(n+1)p^n\left[\hat q,\,\hat p^{n+1}\right]=\left[\hat q,\,\hat p^n\right]\hat p+\hat p^n\left[\hat q,\,\hat p\right]=\mathrm{i}\hbar n\hat p^{n}+\mathrm{i}\hbar\hat p^n=\mathrm{i}\hbar(n+1)\hat p^n。f(p^)=∑ncnp^nf(\hat p)=\sum_nc_n\hat p^n なら項ごとに足して [q^, f(p^)]=iℏ∑nncnp^n−1=iℏf′(p^)\left[\hat q,\,f(\hat p)\right]=\mathrm{i}\hbar\sum_nnc_n\hat p^{n-1}=\mathrm{i}\hbar f'(\hat p)。古典では {q,f(p)}=f′(p)\{q,f(p)\}=f'(p) なので、規則 {⋅,⋅}→[⋅, ⋅]/(iℏ)\{\cdot,\cdot\}\to\left[\cdot,\,\cdot\right]/(\mathrm{i}\hbar) はこの組では補正なしで成り立つ。

(2) (1) を f(p)=e−iap/ℏf(p)=\mathrm{e}^{-\mathrm{i} ap/\hbar} に当てると [q^, U^]=iℏ⋅(−ia/ℏ)U^=aU^\left[\hat q,\,\hat U\right]=\mathrm{i}\hbar\cdot(-\mathrm{i} a/\hbar)\hat U=a\hat U、すなわち q^U^=U^(q^+a)\hat q\hat U=\hat U(\hat q+a)。左から U^†\hat U^\dagger を掛けて U^†q^U^=q^+a\hat U^\dagger\hat q\hat U=\hat q+a。展開の2次以降の項は [[q^, p^], p^]=0\left[\left[\hat q,\,\hat p\right],\,\hat p\right]=0 のためすべて 00 で、有限の aa でも厳密に成り立つ。位置表示では U^(a)ψ(x)=ψ(x−a)\hat U(a)\psi(x)=\psi(x-a) で、これは e−a d/dx\mathrm{e}^{-a\,\mathrm{d}/\mathrm{d} x} の Taylor 級数そのものである(第1部第9章の Lie 級数で、並進の生成子が pp であることに対応する)。

1 P. A. M. Dirac (1925), Proc. R. Soc. Lond. A 109, 642–653.

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