解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部 第7章 §4.7.2 ★★★ 位相 σ0 は特性関数 W(x,E)、振幅 ∣A∣2∝1/p は古典の粒子の滞在時間の密度。WKB の波は1本の軌道でなく、等エネルギーの曲線全体に対応する
最低次:特性関数
前節の最低次の式 (4.7.6) は、時間に依らない Hamilton–Jacobi 方程式であった。第1部第13章で示したように、Hamilton の主関数を S(x,t)=W(x,E)−Et と分離すると ∂t∂S=−E、∂x∂S=∂x∂W=p となる。時間因子 e−iEt/ℏ を戻すと、WKB の波の位相は
ℏ1(W(x,E)−Et)=ℏS(x,t)
で、主関数そのものである。位相が一定の面(1次元では点)は S の等値面で、第1部第13章で見たとおり古典の軌道はこの面に直交して進む。波の位相速度と粒子の速度は違うが、波の「進む向き」は古典の運動量 p=∂x∂W の向きと一致する。
次の次数:確率の流れの保存
式 (4.7.7) の意味は、σ1=lnA と書いて確率の流れを計算すると分かる。WKB の波 ψ=AeiW/ℏ(A=p−1/2)の確率の流れは
j=mℏIm(ψ∗ψ′)=m∣A∣2∂x∂W=m∣A∣2p
で、式 (4.7.7) は (∣A∣2p)′=0、すなわち j が一定であることと同じである(検算 scripts/verify_ch4-07.py)。第1部第13章で ψ=AeiS/ℏ から厳密に出した連続の式 ∂t∣A∣2+∂x(∣A∣2∂xS/m)=0 の、定常な場合である。
∣A∣2∝1/p には古典的な意味がある。古典の粒子が位置 x のまわりの幅 dx を通過するのにかかる時間は dt=dx/∣x˙∣=mdx/p である。束縛された運動で、周期 T(E) のあいだに粒子は各点を行きと帰りの2回通るので、時間で平均した古典の確率密度は
Pcl(x)=T(E)2p(x)m(4.7.10)
になる。WKB の波の ∣ψ∣2 を、波長より長く束縛の幅より短い範囲で平均したもの(2つの枝の干渉の縞を均したもの)は、この Pcl に比例する。振幅の p−1/2 は、「遅く通る場所ほど見つかりやすい」という古典の滞在時間の平方根である。
多自由度に広げると、式 (4.7.7) は ∇⋅(∣A∣2∇S)=0 になり、その解は第1部第13章の完全解 S(q,α,t) を使って ∣A∣2∝∣det(∂2S/∂qi∂αj)∣ と書ける(Van Vleck の行列式)。これは、初めの条件 α を少し変えた軌道の束が位置 q でどれだけ密に詰まっているかを表す量で、1次元の 1/p はその特別な場合である。軌道の束が1点に集まる所(火線)でこの行列式は発散し、WKB の振幅も発散する。1次元の転回点はその最も簡単な例で、次の節の主題である。
WKB の波は等エネルギーの曲線全体に対応する
WKB の波 (4.7.9) を相空間で見ると、上の枝 p=+p(x) と下の枝 p=−p(x) の2つの波の和で、2つの枝はつながって等エネルギーの曲線 ΛE={(x,p)∣H(x,p)=E} を作っている。WKB の波は、1本の軌道の上の1つの点でなく、ΛE 全体に、その上を一様な速さで(角変数 θ が一様に増える速さで)回る粒子の集団に対応している。これは第1部第14章の作用角変数の絵そのもので、ΛE は作用変数 J が一定の曲線、∣A∣2dx∝dt∝dθ は角変数についての一様な密度である。多自由度で可積分なら ΛE は不変トーラスになり、このように「p=∇W で与えられる相空間の部分集合」を Lagrange 部分多様体と呼ぶ。
2つの古典極限
第4部第1章では、波束の中心の期待値 ⟨x^⟩, ⟨p^⟩ が Ehrenfest の定理によって古典の運動方程式に(2次以下のポテンシャルでは厳密に)従うことを見た。これは「1つの軌道」の古典極限である。WKB はそれと別の古典極限で、定常状態は1本の軌道でなく、エネルギー E の曲線全体に一様に広がった粒子の集団(相空間の分布)に対応する。どちらも ℏ→0 の極限だが、前者は時間に依存する狭い波束、後者はエネルギーの固有状態という別の対象についての極限である。
例題 4.7.2 調和振動子の古典の密度と n=20 の固有状態 ★★
オリジナル調和振動子 V=21mω2x2 のエネルギー E の古典運動の振幅を xmax=2E/(mω2) とする。
- (1) 式 (4.7.10) から古典の確率密度 Pcl(x) を求め、∫−xmaxxmaxPcldx=1 を確かめよ。
- (2) 粒子が ∣x∣<xmax/2 に見つかる古典の確率を求めよ。
- (3) 量子の第 n 準位 En=(n+21)ℏω について、同じエネルギーの古典の振幅 xmax を使って ∣x∣<xmax/2 に見つかる確率を n=20 で数値的に求めると 0.344 になる。(2) と比べて何が言えるか。
解答
(1) p=mωxmax2−x2、T=2π/ω なので
Pcl(x)=2π/ω2mωxmax2−x2m=πxmax2−x21.
x=xmaxsinu と置くと ∫Pcldx=π1∫−π/2π/2du=1。密度は転回点 x=±xmax で発散するが、積分は有限である。
(2) ∫−xmax/2xmax/2Pcldx=π2arcsin21=31。
(3) 量子の確率 0.344 は古典の 1/3 に 3% の差で近い(検算 scripts/verify_ch4-07.py。Hermite 関数を数値積分した)。∣ψ20∣2 は x について細かく振動しているが、その振動を均した包絡は Pcl に近づいていく。残る差は、干渉の縞が積分の端で打ち消し切れない分と、転回点の近く(ℏ2/3 の層)で WKB が使えない分である。量子数が大きいほど差は小さくなる。定常状態の古典極限が、1本の軌道でなく、軌道の上で時間平均した分布であることを示す例になっている。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com