解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部 第7章 §4.7.1 ★★★ Schrödinger 方程式に ψ=eiσ/ℏ を入れると、複素数の位相 σ の厳密な方程式(Riccati 型)になる。σ を ℏ/i の冪で展開する
第1部第13章では、波動関数を ψ=AeiS/ℏ(A, S は実数)と書くと Schrödinger 方程式が「量子の補正つきの Hamilton–Jacobi 方程式」と「連続の式」の2本に厳密に分かれ、補正の項 ℏ2A′′/(2mA) を落とした極限で古典の Hamilton–Jacobi 方程式に戻ることを示した(第1部第13章)。第1部第14章では、作用変数 J=2π1∮pdq に Bohr–Sommerfeld の条件 J=(n+21)ℏ を課すとエネルギー準位が出ることを、結果だけ使った(第1部第14章)。この2つの章で後回しにしたものが3つある。転回点で振幅 A∝p−1/2 が発散する問題、21 がどこから出るのかという問題、そして古典的には入れない領域(E<V)で波動関数が何をしているのかという問題である。
この章では、同じ1粒子の Hamiltonian H=p2/(2m)+V(x) を選び、Schrödinger 方程式を ℏ の冪で展開する WKB 近似を、第1部の道具を当てる形で組み立て直す。最低次は Hamilton–Jacobi 方程式そのもので、位相は特性関数 W(x,E) になる。次の次数は確率の流れの保存で、振幅は古典の粒子がその場所に滞在する時間の平方根になる。転回点での破綻は、相空間の曲線 H(x,p)=E を x 軸に射影するときだけ起きる見かけの特異点であり、運動量表示へ移れば消える。運動量表示から位置表示へ戻す Fourier 変換を停留位相で評価すると、位相の関数は Legendre 変換で移り変わり、転回点ごとに −π/2 の位相が残る。この位相を1周分数えたものが Bohr–Sommerfeld の条件の 21 であり、壁があれば 43 や 1 に変わる。最後に、古典的に入れない領域では運動量が虚数になり、トンネルの確率の指数は「虚数の時間の中の古典運動」の作用で決まることを示す。
この章では WKB の数学的な正当化(漸近展開としての意味・Airy 関数による接続の導出)を繰り返さず、第V巻(近似の数理 第7章)へ送る。この章では、そこで出てくる式の1つ1つが解析力学のどの量なのかを示す。
選ぶ Hamiltonian
選ぶのは、第1部から使ってきた1自由度の Hamiltonian
H(x,p)=2mp2+V(x)(4.7.1)
である。この章では1次元の座標を x と書く。量子化は第4部第1章の規則どおり p^=−iℏdxd とし(第4部第1章)、エネルギー E の定常状態 ψ(x,t)=ψ(x)e−iEt/ℏ を考えると、
−2mℏ2ψ′′(x)+V(x)ψ(x)=Eψ(x)(4.7.2)
を解く問題になる。古典的に入れる領域(E>V(x))での局所的な運動量を
p(x)=2m(E−V(x))>0(4.7.3)
と書く。これは古典の粒子がエネルギー E で位置 x を通るときの運動量の大きさで、等エネルギーの曲線 H(x,p)=E の上側の枝に当たる。
位相の厳密な方程式
ψ がどこでも 0 にならない範囲で、ψ(x)=exp(iσ(x)/ℏ) と書く。ここで σ は複素数の値を取る関数で、実部が位相を、虚部が振幅の対数を受け持つ。ψ′=(iσ′/ℏ)ψ、ψ′′=((iσ′/ℏ)2+iσ′′/ℏ)ψ を式 (4.7.2) に入れて 2mψ で割ると、
(σ′)2+iℏσ′′=p(x)2(4.7.4)
を得る。−iℏ=ℏ/i を使った。ここまで近似は入っていない。式 (4.7.4) は σ′ についての1階の非線形方程式(Riccati 型)で、2階の線形方程式 (4.7.2) と同じ内容を持つ。
ℏ→0 では第2項が消え、(σ′)2=p2 が残る。これは時間に依らない Hamilton–Jacobi 方程式
H(x,∂x∂W)=2m1(∂x∂W)2+V(x)=E
で、σ の最低次が特性関数 W(x,E) であることを示している(第1部第13章)。そこで、σ を小さいパラメータ ℏ/i の冪で展開する。
σ=σ0+iℏσ1+(iℏ)2σ2+⋯.(4.7.5)
冪の変数を ℏ でなく ℏ/i に取るのは、式 (4.7.4) の第2項の係数がちょうど ℏ/i なので、次数ごとの式から i が消えるためである。
次数ごとの方程式
式 (4.7.5) を式 (4.7.4) に入れ、(ℏ/i)k の係数をそろえると、
(ℏ/i)0:(ℏ/i)1:(ℏ/i)2:(σ0′)2=p2,2σ0′σ1′+σ0′′=0,2σ0′σ2′+(σ1′)2+σ1′′=0(4.7.6)(4.7.7)(4.7.8)
となる(検算 scripts/verify_ch4-07.py)。式 (4.7.6) から σ0′=±p、すなわちσ0=±∫xpdx′=±W(x,E) である。式 (4.7.7) は σ1′=−σ0′′/(2σ0′)=−p′/(2p) を与え、積分して σ1=−21lnp となる。これを ψ=exp(iσ/ℏ) に戻すと、
ψ=exp(±ℏiW+σ1+iℏσ2+⋯)=p1e±iW(x,E)/ℏ(1−iℏσ2+⋯)
である。最初の2項で打ち切ったもの
ψWKB(x)=p(x)C+exp(ℏi∫xpdx′)+p(x)C−exp(−ℏi∫xpdx′)(4.7.9)
を WKB 近似の波動関数と呼ぶ。2つの符号は、等エネルギーの曲線の上の枝(右へ進む粒子、p>0)と下の枝(左へ進む粒子、p<0)に対応する。式 (4.7.2) は線形なので、2つの枝の波を足し合わせてよい。
打ち切りが意味を持つのは、捨てた補正 ℏσ2 が 1 に比べて小さいときである。σ2 を具体的に求めると、条件の中身が分かる。
例題 4.7.1 一様な力の中の補正 ℏσ2 ★★
オリジナル一様な力の中の粒子 V(x)=Fx(F>0)を考え、E>Fx の領域で次の問いに答えよ。
- (1) σ1′ と σ2′ を p(x) で表せ。
- (2) σ2 を求め、補正の大きさ ℏ∣σ2∣ を局所的な de Broglie 波長 λ(x)=2πℏ/p(x) の変化率 ∣dλ/dx∣ で表せ。
- (3) 中性子(m=1.675×10−27kg)が地上の重力(F=mg、g=9.81ms−2)の中を速さ v=1ms−1 で動くときの ℏ∣σ2∣ を求めよ(ℏ=1.055×10−34Js)。
解答
(1) p=2m(E−Fx) から p′=−mF/p。式 (4.7.7) より σ1′=−p′/(2p)=mF/(2p2)。これを微分すると σ1′′=−mFp′/p3=m2F2/p4。式 (4.7.8) に入れて
σ2′=−2p(σ1′)2+σ1′′=−2p1(4p4m2F2+p4m2F2)=−8p55m2F2.
(2) 積分変数を x から p に替える。dx=dp/p′=−pdp/(mF) なので
σ2=∫(−8p55m2F2)(−mFp)dp=85mF∫p−4dp=−24p35mF
(積分定数は ψ 全体の定数倍に吸収される)。一方 dλ/dx=−2πℏp′/p2=2πℏmF/p3 なので、
ℏ∣σ2∣=24p35ℏmF=48π5dxdλ.
補正は「1波長進むあいだに波長がどれだけ変わるか」に比例する。波長がゆっくり変わる所ほど WKB はよい。
(3) F=mg、p=mv を入れると ℏ∣σ2∣=245mv3ℏg=245×1.675×10−27×131.055×10−34×9.81≈1.3×10−7 で、補正は無視できる(検算 scripts/verify_ch4-07.py)。ただし ℏ∣σ2∣∝p−3 は転回点 p→0 で発散する。第1部第13章の総合問題で求めた古典極限の条件 ℏg/(mv3)≪1 と同じ組み合わせが、ここでは ℏσ2 の係数として現れている。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの ℏ∣p′∣/p2→0(局所的な de Broglie 波長が1波長のあいだにほとんど変わらない) | 証明 条件付き(ポテンシャルが滑らかで、転回点が孤立していること。転回点のまわりの幅 ℏ2/3 の層では展開が使えず、接続が要る) | 行き先 近似の数理 第7章
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com