近似の3つの型
AI 生成・木下が未勉強
近似の数理 第1章 §1.2 ★★★ 巻の骨格となる分類
元の問題の解を とし、近似解を とする。物理で使われる近似の多くは、 の作り方によって次の3つの型に分かれる。
定義 1.1(近似の3つの型)
- A型 (射影) は関数の空間 の元である。 の中の扱いやすい部分集合 を選び、 の中で元の方程式(またはそれと同値な変分問題)を「できるだけ満たす」元として を決める。 を大きくしていく列 を考えることができる。
- B型 (極限)元の問題がパラメータ を含む族 の一員であり、 で の解 がある別の問題 の解 に近づく。 の解を近似 として使う。
- C型 (閉じる)元の問題を、ある未知の量 が分かれば閉じる形に書き直し、 を既知の量の関数 で置き換える。置き換えの正しさを保証する小さいパラメータも部分空間の列も無い。
3つの型は、正当化の形が違う。
A 型では、近似の誤差は「 が をどれだけうまく近似できるか」で抑えられる。 が線型空間で問題が線型なら、Céa の補題(第4章)が
を与え、固有値問題なら min-max 原理(第3章)が近似固有値が真の固有値の上界になることを保証する。右辺の がどれだけ速く 0 に近づくかは、 の滑らかさ(正則性)で決まる。したがって A 型の近似の良し悪しは、解の正則性の理論に帰着する。
B 型では、誤差は「 がどれだけ小さいか」で抑えられる。数学が与えるのは、極限 が存在するという定理、それがどういう意味の収束か(エネルギーだけが収束するのか、関数として各点で収束するのか、平均としてしか収束しないのか)、そして収束の速さ である。現実の物理系では は 0 でなく固定された値(電子と核の質量比、Knudsen 数、微細構造の周期と系の大きさの比)なので、B 型の近似を使うことは「この系はその極限に十分近い」と判断することにあたる。
C 型には、近似の内部に誤差を抑える仕組みが無い。正しさは、厳密に解ける場合との一致、満たすべき厳密な条件、実験や数値計算との比較で外から評価するしかない。
物理的直観は何をしているか
A 型で物理的直観が担うのは、良い部分空間を選ぶことである。原子軌道の線型結合という選択は「分子の中の電子も、核の近くでは孤立原子の軌道に似ているはずだ」という直観の表現で、数学はこの選択が良いかどうかを教えない。数学が教えるのは「選んだ部分空間の中で最良の近似から定数倍しか悪くならない」ことと「固有値は上から近づく」ことまでである。
B 型で物理的直観が担うのは、小さいパラメータを見つけることである。「核は重いので止まって見える」「分子の平均自由行程は流れの長さに比べて短い」という直観は、それぞれ質量比 と Knudsen 数 という無次元量を見つけ、それを 0 に送った極限を考えることにあたる。
同じ名前の近似が、見方によって別の型に入ることがある。いちばん重要な例は平均場近似である。Hartree–Fock 法は、多体波動関数を Slater 行列式という特別な形に制限した変分法(A 型)だと見ることもできるし、粒子数 で相互作用を に弱めた極限で厳密になる理論(B 型)だと見ることもできる。前者からは「エネルギーの上界」しか得られないが、後者からは「その極限では平均場が正しい」という定理が得られる。第5章と第6章はこの2つの顔をそれぞれ扱う。
例題 1.2 2行2列の行列で A 型と B 型を比べる ★★
オリジナル として、行列 の最小固有値 を考える。
- (1) を厳密に求めよ。
- (2) A 型の近似として、試行ベクトルを の張る1次元部分空間に制限した値 を求め、 を示せ。
- (3) B 型の近似として、 についての展開の2次までの値 を求めよ。 で (1)〜(3) の値を比べ、誤差の符号について何が言えるかを述べよ。
解答
(1) 固有方程式 を解くと 。
(2) 。 なので 。実対称行列の最小固有値は の最小値なので、どの試行ベクトルでもこの不等式が成り立つ。これが第3章の min-max 原理の最も簡単な形である。
(3) より 。 では
の誤差 は常に正で、これは の大きさに依らない定理である。 の誤差 は小さいが負で、次の4次の項 を足すと (誤差 )と符号が変わる。B 型が保証するのは「誤差が 」という大きさの評価だけで、どちら側から近づくかは保証しない。A 型の上界と B 型の誤差の次数は、別の種類の情報である。
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