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1つの問題で3つの型を比べる

2026年10月9日10分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第1章 序章:近似を数学の言葉で見る
目次
  1. A型その1:線型部分空間への射影(Ritz法)
  2. A型その2:曲がった集合への制限(ガウス変分)
  3. B型:小さいパラメータについての展開(摂動級数)
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

近似の数理 第1章 §1.3 ★★★ 3つの型の振る舞いの違いを、厳密値の分かる問題で数値として見る

3つの型の違いを、厳密値が数値的に求まる1次元の問題で見ておく。非調和振動子

H=p22+x22+λx4,p=−iddx(ℏ=m=ω=1)(1.1)H=\frac{p^2}{2}+\frac{x^2}{2}+\lambda x^4,\qquad p=-\mathrm{i}\frac{\mathrm{d} }{\mathrm{d} x}\quad(\hbar=m=\omega=1)\tag{1.1}

の基底エネルギー E(λ)E(\lambda) を、λ=0.1\lambda=0.1 で求める。λx4\lambda x^4 が入ると Hψ=EψH\psi=E\psi は閉じた形では解けない。調和振動子の固有関数を大量に(120個)使った対角化で得た値

E(0.1)=0.559146327⋯E(0.1)=0.559146327\cdots

を「厳密値」として基準にする(検算スクリプト)。

A型その1:線型部分空間への射影(Ritz法)

調和振動子の固有関数 ϕ0,ϕ1,…\phi_0,\phi_1,\dots のうち、基底状態と同じ偶パリティの ϕ0,ϕ2,…,ϕ2K−2\phi_0,\phi_2,\dots,\phi_{2K-2} の KK 個が張る部分空間 VKV_K に試行関数を制限し、HH の期待値を最小化する。これは K×KK\times K 行列 (⟨ϕ2i∣H∣ϕ2j⟩)\bigl(\langle \phi_{2i} | H | \phi_{2j} \rangle \bigr) の最小固有値を求めることと同じである(第4章で示す)。K=1K=1 では ⟨ϕ0∣H∣ϕ0⟩=12+34λ=0.575\langle \phi_0 | H | \phi_0 \rangle =\frac12+\frac34\lambda=0.575 となり、これは1次摂動の値と一致する。

A型その2:曲がった集合への制限(ガウス変分)

試行関数を幅だけが可変なガウス関数 ψs(x)∝exp⁡(−x2/4s)\psi_s(x)\propto \exp(-x^2/4s) に制限する。⟨x2⟩=s\langle x^2 \rangle =s、⟨p2⟩=1/(4s)\langle p^2 \rangle =1/(4s)、⟨x4⟩=3s2\langle x^4 \rangle =3s^2 なので

EG(s)=18s+s2+3λs2.E_{\mathrm{G}}(s)=\frac{1}{8s}+\frac{s}{2}+3\lambda s^2 .

これを ss で最小化する。ガウス関数の全体は線型空間ではない(2つのガウス関数の和はガウス関数でない)。この制限の仕方は、多体波動関数を Slater 行列式に制限する Hartree–Fock 法と同じ構造をもつ。変分原理により EG≥EE_{\mathrm G}\ge E は保証されるが、集合を大きくしていく列が無いので、誤差を 0 に近づける手段が無い。λ=0.1\lambda=0.1 での最小は s=0.40943⋯s=0.40943\cdots、EG=0.560307⋯E_{\mathrm G}=0.560307\cdots である。

B型:小さいパラメータについての展開(摂動級数)

λ\lambda を小さいパラメータとみなして E(λ)=∑kckλkE(\lambda)=\sum_k c_k\lambda^k と展開する。Rayleigh–Schrödinger 摂動論で係数を厳密に計算すると

E(λ)=12+34λ−218λ2+33316λ3−30885128λ4+916731256λ5−655184011024λ6+⋯E(\lambda)=\frac12+\frac34\lambda-\frac{21}{8}\lambda^2+\frac{333}{16}\lambda^3-\frac{30885}{128}\lambda^4+\frac{916731}{256}\lambda^5-\frac{65518401}{1024}\lambda^6+\cdots

となる(検算スクリプト で6次まで再計算)。係数の比 ∣ck+1/ck∣\lvert c_{k+1}/c_k\rvert は kk とともに増え続け、実際この級数の収束半径は 0 である(Bender と Wu が係数の増え方 ck∼(−1)k+1 定数⋅3k Γ(k+12)c_k\sim(-1)^{k+1}\,\text{定数}\cdot 3^k\,\Gamma(k+\tfrac12) を求めた)。

表 1.1 非調和振動子 λ=0.1\lambda=0.1 の基底エネルギー(厳密値 0.55914632720.5591463272)。誤差は近似値−-厳密値
A型:Ritz(偶関数基底 KK 個)B型:摂動級数の部分和
KK近似値誤差次数部分和誤差
10.5750000000+1.6×10−2+1.6\times10^{-2}00.500000−5.9×10−2-5.9\times10^{-2}
20.5595649110+4.2×10−4+4.2\times10^{-4}10.575000+1.6×10−2+1.6\times10^{-2}
40.5591659502+2.0×10−5+2.0\times10^{-5}20.548750−1.0×10−2-1.0\times10^{-2}
60.5591466072+2.8×10−7+2.8\times10^{-7}30.569562+1.0×10−2+1.0\times10^{-2}
80.5591463324+5.3×10−9+5.3\times10^{-9}40.545434−1.4×10−2-1.4\times10^{-2}
100.5591463274+2.1×10−10+2.1\times10^{-10}50.581243+2.2×10−2+2.2\times10^{-2}
140.5591463272+2.2×10−13+2.2\times10^{-13}60.517261−4.2×10−2-4.2\times10^{-2}
A型(曲がった集合):ガウス変分 EG=0.5603073711E_{\mathrm G}=0.5603073711、誤差 +1.2×10−3+1.2\times10^{-3}(これ以上改善する手段が無い)
図

図 1.1 非調和振動子(λ=0.1\lambda=0.1)での3つの近似の誤差。Ritz は基底を増やすと指数的に誤差が減る。摂動級数は2〜3次で誤差が最小になり、その先は悪化する。ガウス変分は1点で止まる

表1.1と図1.1から、3つの近似の性格の違いが読み取れる。

線型部分空間への射影(Ritz法)は、すべての近似値が厳密値より大きく(上界)、基底を増やすと単調に下がり、誤差はおよそ指数的に 0 へ近づく。上界性と単調性は min-max 原理(第3章)から、速い収束は基底状態の波動関数が非常に滑らか(実解析的)であることから来る(第4章)。分子の計算でガウス型基底の収束がこれよりずっと遅いのは、真の波動関数が原子核や電子どうしの衝突点で尖っていて(Kato のカスプ)、滑らかなガウス関数ではその尖りを表せないためである。

曲がった集合への制限(ガウス変分)は上界を与えるが、基底を2個にした Ritz(誤差 4.2×10−44.2\times10^{-4})よりも悪い。ガウス関数の集合をどう広げれば厳密解に近づくかという手順が、この集合自体には含まれていない。Hartree–Fock 法の誤差(相関エネルギー)が、計算をどれだけ精密にしても消えないのと同じ構造である(第5章)。

摂動級数は、λ=0.1\lambda=0.1 では2〜3次で打ち切ると誤差 10−210^{-2} 程度で、それ以上次数を上げると悪化する。これは級数が漸近級数であることの現れで、各次数 kk について λ→0\lambda\to 0 で E(λ)−∑j≤kcjλj=O(λk+1)E(\lambda)-\sum_{j\le k}c_j\lambda^j=\mathcal{O}(\lambda^{k+1}) は成り立つが、λ\lambda を固定して k→∞k\to\infty とすると発散する。実際 λ=0.01\lambda=0.01 では3次までの部分和の誤差は 2.1×10−62.1\times10^{-6} まで小さくなる(検算スクリプト)。B 型の近似は、パラメータが十分小さいときには極めて正確だが、パラメータを固定したまま精度を上げる手段は持たない(第7章)。

「近似を上げれば正確になる」とは限らない

A 型の線型版だけが「計算量を増やせば必ず厳密解に近づく」という性質をもつ。曲がった集合への制限は改善の手段を持たず、漸近級数は次数を上げると悪化しうる。物理の近似で「次の次数まで計算すれば良くなるはず」と考えるときは、それがどの型の近似かを確認する必要がある。

例題 1.3 基底2個の Ritz 法を手で解く ★★

オリジナル非調和振動子 (1.1) で、調和振動子の固有関数 ϕn\phi_n について次の行列要素が成り立つ(x=(a+a†)/2x=(a+a^\dagger)/\sqrt2 から計算できる)。

⟨ϕ0∣x4∣ϕ0⟩=34,⟨ϕ2∣x4∣ϕ2⟩=394,⟨ϕ0∣x4∣ϕ2⟩=322,⟨ϕ0∣x4∣ϕ4⟩=62.\langle \phi_0 | x^4 | \phi_0 \rangle =\frac34,\qquad \langle \phi_2 | x^4 | \phi_2 \rangle =\frac{39}{4},\qquad \langle \phi_0 | x^4 | \phi_2 \rangle =\frac{3\sqrt2}{2},\qquad \langle \phi_0 | x^4 | \phi_4 \rangle =\frac{\sqrt6}{2}.

  • (1) K=2K=2(ϕ0,ϕ2\phi_0,\phi_2 の2個)の Ritz 法の 2×22\times2 行列を書き、λ=0.1\lambda=0.1 での最小固有値を求めて表1.1の値と比べよ。
  • (2) その最小固有値を λ\lambda について2次まで展開し、厳密な2次の係数 −218-\tfrac{21}{8} と比べよ。足りない分は ϕ4\phi_4 からの寄与であることを確かめよ。
解答

(1) ⟨ϕn∣H∣ϕn⟩\langle \phi_n | H | \phi_n \rangle の調和振動子部分は n+12n+\tfrac12 なので、

H2=(12+34λ322λ322λ52+394λ).H_2=\begin{pmatrix}\tfrac12+\tfrac34\lambda & \tfrac{3\sqrt2}{2}\lambda\\[2pt] \tfrac{3\sqrt2}{2}\lambda & \tfrac52+\tfrac{39}{4}\lambda\end{pmatrix}.

λ=0.1\lambda=0.1 では対角成分が a=0.575a=0.575、d=3.475d=3.475、非対角成分が b=0.212132b=0.212132 で、最小固有値は

a+d2−(d−a2)2+b2=2.025−2.1025+0.045=0.5595649⋯\frac{a+d}{2}-\sqrt{\Bigl(\frac{d-a}{2}\Bigr)^2+b^2}=2.025-\sqrt{2.1025+0.045}=0.5595649\cdots

となり、表の K=2K=2 の値 0.55956491100.5595649110 と一致する。

(2) 2×22\times 2 行列の最小固有値は、非対角成分について2次まで a−b2/(d−a)+⋯a-b^2/(d-a)+\cdots である。d−a=2+O(λ)d-a=2+\mathcal{O}(\lambda)、b2=92λ2b^2=\tfrac92\lambda^2 なので、λ\lambda の2次までで

12+34λ−94λ2.\tfrac12+\tfrac34\lambda-\tfrac94\lambda^2 .

厳密な係数との差は −218+94=−38-\tfrac{21}{8}+\tfrac94=-\tfrac38。2次摂動は −∑n≥1∣⟨ϕ0∣x4∣ϕn⟩∣2/n-\sum_{n\ge1}\lvert \langle \phi_0 | x^4 | \phi_n \rangle \rvert ^2/n で、偶パリティで ϕ0\phi_0 とつながるのは ϕ2\phi_2 と ϕ4\phi_4 だけである。ϕ4\phi_4 の項は −(6/2)2/4=−38-(\sqrt6/2)^2/4=-\tfrac38 で、ちょうど足りない分に一致する。部分空間 V2V_2 に入っていない ϕ4\phi_4 の方向の寄与が欠けた分だけ、Ritz の値は厳密値より上に残る。−94-\tfrac94 は例題「ガウス変分のエネルギー」で得た係数と同じで、どちらの試行関数も x2x^2 の方向にしか形を変えられないことを反映している(検算スクリプト)。

木下の勉強ステータス

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