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ヒルベルト空間と非有界作用素

2026年10月9日8分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第3章 量子力学の作用素論:自己共役性とスペクトル
目次
  1. 波動関数の住む空間
  2. 有界作用素と非有界作用素
  3. ソボレフ空間:微分が2乗可積分な関数
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

近似の数理 第3章 §3.1 ★★★ 「ハミルトニアンは全空間では定義できない」が以降すべての出発点

多電子原子・分子のシュレディンガー方程式は解析的には解けない。それでも、解けない方程式について「解が存在するか」「時間発展は一意に決まるか」「基底エネルギーは有限か」「束縛状態はいくつあるか」は定理として答えられる。物理の教科書は、ハミルトニアンを「エルミートな演算子」と呼び、その固有値をエネルギー準位と呼んで先へ進む。この章では、その一歩の裏にある数学(無限次元の作用素論)を原理から組み立て、原子・分子のハミルトニアン

H=∑i=1N(−12Δi)−∑i=1N∑k=1KZk∣xi−Rk∣+∑1≤i<j≤N1∣xi−xj∣(3.1)H=\sum_{i=1}^{N}\Bigl(-\frac12\Delta_i\Bigr)-\sum_{i=1}^{N}\sum_{k=1}^{K}\frac{Z_k}{\lvert \bm{x}_i-\bm{R}_k\rvert } +\sum_{1\le i<j\le N}\frac{1}{\lvert \bm{x}_i-\bm{x}_j\rvert }\tag{3.1}

について何が保証されているかを示す。単位は原子単位(ℏ=me=e=4πε0=1\hbar=m_e=e=4\pi\varepsilon _0=1、エネルギーは hartree)で、原子核の位置 Rk\bm{R}_k は固定する(原子核を止めてよい理由は第7章の Born–Oppenheimer 近似で扱う)。

この章で得る結論を先に書いておく。(i) HH は自己共役であり、時間発展 e−iHt\mathrm{e}^{-\mathrm{i} Ht} が一意に決まる(加藤の定理)。(ii) HH は下に有界であり、基底エネルギーが −∞-\infty に落ちない。(iii) HH のスペクトルは、孤立した固有値の集まり(離散スペクトル)と、ある閾値から上の連続的な部分(真性スペクトル)に分かれ、その閾値は「電子を1個無限遠へ飛ばした系の基底エネルギー」である(HVZ 定理)。(iv) 閾値より下の固有値は min-max 原理で特徴づけられ、それが第4章の Rayleigh–Ritz 法の上界の根拠になる。

波動関数の住む空間

定義 3.1(ヒルベルト空間・L2L^2 空間)

複素ベクトル空間 H\mathcal{H} に内積 ⟨ϕ, ψ⟩\langle \phi,\,\psi\rangle(第1引数について反線形、第2引数について線形)が与えられ、ノルム ∥ψ∥=⟨ψ, ψ⟩1/2\lVert \psi\rVert =\langle \psi,\,\psi\rangle ^{1/2} について完備(コーシー列が必ず H\mathcal{H} の中に極限をもつ)であるとき、H\mathcal{H} をヒルベルト空間という。代表例は

L2(Rd)={ψ:Rd→C  ∣  ∫Rd∣ψ(x)∣2 dx<∞},⟨ϕ, ψ⟩=∫ϕ(x)‾ ψ(x) dxL^2(\mathbb{R}^d)=\Bigl\{\psi:\mathbb{R}^d\to\mathbb{C}\;\Bigm|\;\int_{\mathbb{R}^d}\lvert \psi(\bm{x})\rvert ^2\,\mathrm{d}\bm{x}<\infty\Bigr\},\qquad \langle \phi,\,\psi\rangle =\int\overline{\phi(\bm{x})}\,\psi(\bm{x})\,\mathrm{d}\bm{x}

である(ほとんど至る所で等しい関数は同一視する)。

物理での ⟨ϕ∣ψ⟩\langle \phi | \psi \rangle がこの ⟨ϕ, ψ⟩\langle \phi,\,\psi\rangle である。名前は D. Hilbert に由来する。完備性を要求する理由は、近似列(基底を増やした試行関数の列など)がコーシー列になったとき、その極限が空間の外へ逃げないことを保証するためである。第4章の「基底を増やすと真の解に収束する」という主張は、極限が H\mathcal{H} の中にあることを前提にしている。

NN 電子系(スピンを無視)の波動関数は L2(R3N)L^2(\mathbb{R}^{3N}) の元である。電子はフェルミ粒子なので、物理的に許されるのは反対称な関数からなる部分空間 ⋀NL2(R3)\bigwedge^N L^2(\mathbb{R}^3) だが、以下の議論の大部分は反対称性に依らずに成り立つので、必要なところでだけ注意する。

有界作用素と非有界作用素

定義 3.2(有界作用素)

線形写像 A:H→HA:\mathcal{H}\to\mathcal{H} が、ある定数 CC について全ての ψ∈H\psi\in\mathcal{H} で ∥Aψ∥≤C∥ψ∥\lVert A\psi\rVert \le C\lVert \psi\rVert を満たすとき、AA を有界作用素といい、そのような CC の下限を作用素ノルム ∥A∥\lVert A\rVert と書く。

有界作用素は「入力を高々 CC 倍にしか引き伸ばさない」写像であり、有限次元の行列はすべて有界である。ところが量子力学の基本的な作用素は有界でない。

位置と運動量は有界でない

L2(R)L^2(\mathbb{R}) で位置作用素 (Xψ)(x)=xψ(x)(X\psi)(x)=x\psi(x) を考える。区間 [n,n+1][n,n+1] の指示関数を ψn\psi_n とすると∥ψn∥=1\lVert \psi_n\rVert =1 であり、∥Xψn∥2=∫nn+1x2 dx≥n2\lVert X\psi_n\rVert ^2=\int_n^{n+1}x^2\,\mathrm{d} x\ge n^2 となる。nn は任意なので、∥Xψ∥≤C∥ψ∥\lVert X\psi\rVert \le C\lVert \psi\rVert を満たす CC は存在しない。

運動量 P=−i d/dxP=-\mathrm{i}\,\mathrm{d}/\mathrm{d} x についても、滑らかで台がコンパクトな ϕ\phi(∥ϕ∥=1\lVert \phi\rVert =1)を一つ固定し、ψk(x)=eikxϕ(x)\psi_k(x)=\mathrm{e}^{\mathrm{i} kx}\phi(x) とすると ∥ψk∥=1\lVert \psi_k\rVert =1、Pψk=kψk−ieikxϕ′P\psi_k=k\psi_k-\mathrm{i}\mathrm{e}^{\mathrm{i} kx}\phi' なので∥Pψk∥≥∣k∣−∥ϕ′∥→∞\lVert P\psi_k\rVert \ge\lvert k\rvert -\lVert \phi'\rVert \to\infty(k→∞k\to\infty)。速く振動する波ほど運動量は大きく、その上限は無い。

さらに、XX や PP は L2L^2 の全ての元に作用させることすらできない。例えばψ(x)=1/(1+∣x∣)\psi(x)=1/(1+\lvert x\rvert ) は L2(R)L^2(\mathbb{R}) の元だが、xψ(x)x\psi(x) は ∣x∣→∞\lvert x\rvert \to\infty で 11 に近づくので L2L^2 に入らない。滑らかでない L2L^2 関数(指示関数など)には L2L^2 の意味での微分が存在しない。したがって作用素は「どの関数に作用させるか」という集合とセットでしか定義できない。

定義 3.3(作用素と定義域)

H\mathcal{H} 上の作用素 AA とは、部分空間 D(A)⊂H\mathcal{D}(A)\subset\mathcal{H}(定義域)と線形写像 A:D(A)→HA:\mathcal{D}(A)\to\mathcal{H} の組である。D(A)\mathcal{D}(A) が H\mathcal{H} で稠密(任意の ψ∈H\psi\in\mathcal{H} にいくらでも近い元が D(A)\mathcal{D}(A) にある)であるものだけを扱う。二つの作用素は、定義域と作用の両方が一致するときに限り等しい。D(A)⊂D(B)\mathcal{D}(A)\subset\mathcal{D}(B) かつ D(A)\mathcal{D}(A) 上で A=BA=B のときBB を AA の拡大といい A⊂BA\subset B と書く。

「定義域が違えば別の作用素」という約束は形式的に見えるが、次節で示すとおり定義域の違いは境界条件の違い、すなわち物理の違いそのものである。

定理 3.4(Hellinger–Toeplitz ★)

D(A)=H\mathcal{D}(A)=\mathcal{H} で、全ての ϕ,ψ∈H\phi,\psi\in\mathcal{H} について ⟨ϕ, Aψ⟩=⟨Aϕ, ψ⟩\langle \phi,\,A\psi\rangle =\langle A\phi,\,\psi\rangle を満たす作用素 AA は有界である。

証明は閉グラフ定理(関数解析の基本定理の一つ)を使うので省略するが、主張の意味ははっきりしている。物理で「エルミート」と呼ばれる性質(期待値が実数)をもち、しかも有界でない作用素(運動量・ハミルトニアン)は、必ず全空間より狭い定義域をもつ。定義域の問題は避けられない。

ソボレフ空間:微分が2乗可積分な関数

ハミルトニアンの定義域を書くために、微分の大きさをフーリエ変換で測る。ψ^(k)=(2π)−d/2∫e−ik⋅xψ(x) dx\hat\psi(\bm{k})=(2\pi)^{-d/2}\int\mathrm{e}^{-\mathrm{i}\bm{k}\cdot\bm{x}}\psi(\bm{x})\,\mathrm{d}\bm{x} とすると、Plancherel の定理により ∥ψ^∥=∥ψ∥\lVert \hat\psi\rVert =\lVert \psi\rVert であり、微分 ∂j\partial_j は ikj\mathrm{i} k_j を掛ける操作に変わる。

定義 3.5(ソボレフ空間 H1H^1, H2H^2)

H1(Rd)={ψ∈L2: ∣k∣ψ^∈L2},H2(Rd)={ψ∈L2: ∣k∣2ψ^∈L2}.H^1(\mathbb{R}^d)=\{\psi\in L^2:\ \lvert \bm{k}\rvert \hat\psi\in L^2\},\qquad H^2(\mathbb{R}^d)=\{\psi\in L^2:\ \lvert \bm{k}\rvert ^2\hat\psi\in L^2\}.

ψ∈H1\psi\in H^1 なら ∥∇ψ∥2=∫∣k∣2∣ψ^∣2 dk\lVert \nabla\psi\rVert ^2=\int\lvert \bm{k}\rvert ^2\lvert \hat\psi\rvert ^2\,\mathrm{d}\bm{k}、ψ∈H2\psi\in H^2 なら ∥Δψ∥2=∫∣k∣4∣ψ^∣2 dk\lVert \Delta\psi\rVert ^2=\int\lvert \bm{k}\rvert ^4\lvert \hat\psi\rvert ^2\,\mathrm{d}\bm{k} で、これらは「弱い意味の微分」(部分積分で定義した微分)のノルムに一致する。

名前は S. L. Sobolev に由来する。H1H^1 は「運動エネルギーが有限な波動関数」の空間、H2H^2 は「ハミルトニアンを作用させた結果がまた2乗可積分になる」空間と読める。よくある誤解は「H1H^1 の関数は連続」というもので、3次元では H1H^1 の関数が原点で発散してもよい(例:∣x∣−1/4e−∣x∣\lvert \bm{x}\rvert ^{-1/4}\mathrm{e}^{-\lvert \bm{x}\rvert } は H1(R3)H^1(\mathbb{R}^3) に入る)。運動エネルギーの有限性は各点の値を縛らない。

自由粒子のハミルトニアン H0=−12ΔH_0=-\tfrac12\Delta を D(H0)=H2(Rd)\mathcal{D}(H_0)=H^2(\mathbb{R}^d) で定義すると、フーリエ変換でH0H_0 は「∣k∣2/2\lvert \bm{k}\rvert ^2/2 を掛ける」作用素に移る。以下ではこの対応を何度も使う。

木下の勉強ステータス

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