この章のまとめ
AI 生成・木下が未勉強
近似の数理 第2章 §2.9 ★★★ 4つの道具と、それを使う章の対応表
| 道具 | 中身(この章の該当箇所) | 主に使う章 |
| 誤差評価(Grönwall 型) | 残差と安定性から真の解と近似解の距離を抑える(定理 2.6、エネルギー法) | 第6章(平均場極限)、第7章(断熱・特異摂動)、第8章 |
| 適切性 | 存在・一意性・連続依存(定理 2.4、2.19)、アプリオリ評価による大域存在(定理 2.9) | 第3章(自己共役性と時間発展)、第8章(流体方程式) |
| 弱形式と射影 | 弱解・Riesz の表現定理・射影定理(定理 2.13、2.18)、エネルギー誤差の恒等式 (2.7) | 第4章(Galerkin・Rayleigh–Ritz) |
| コンパクト性 | 有界列の弱コンパクト性、Rellich の定理(定理 2.21、2.22)、直接法(定理 2.23) | 第3章、第5章(Hartree–Fock の最小元)、第6章 |
| 弱収束 | 平均としての収束、逃げる・振動する・集中する型、非線形項と弱極限の非可換性 | 第5章、第6章(経験分布)、第9章(均質化・乱流の閉じ) |
この章の要点
- 「解けない」には「閉じた式で書けない」と「解が無い」の二つがあり、近似の正当化に必要なのは後者の否定、すなわち Hadamard の適切性(存在・一意性・連続依存)である。
- ODE の解は縮小写像の不動点として作られ(Picard–Lindelöf)、Lipschitz 性が破れると非一意性や有限時間爆発が起こる。
- Grönwall の不等式は「真の解と近似解の距離 (データの差+残差) 増幅率」という誤差評価の原型を与え、系の構造を使うと増幅率を大きく下げられる。
- 保存量・減少するエネルギーによるアプリオリ評価があれば、局所解は大域解に延びる。
- 偏微分方程式では関数をノルムで測り、完備な空間(ヒルベルト空間 、)に置く。完備性は近似列の極限が空間に残ることを保証する。
- 弱形式に書き直すと、Riesz の表現定理で弱解の存在・一意性・連続依存が一度に出る。弱形式は Galerkin 近似の出発点である。
- 無限次元では有界列から強収束部分列は取れないが、弱収束部分列は取れる。弱収束の失敗には「逃げる」「振動する」「集中する」型があり、有界領域で勾配が有界なら Rellich の定理が強収束を回復する。
- 変分法の直接法(最小化列→有界性→弱極限→下半連続性)は、基底状態の存在を問う論法そのものである。
第1章の3型の分類に照らすと、この章で用意したものは次のように働く。A 型(射影)の近似については、射影定理と弱形式が「Galerkin 近似は有限次元部分空間への直交射影であり、その中で最良である」ことを示し、エネルギー誤差の恒等式 (2.7) と直接法が変分原理による上界と最小元の存在を正当化した。具体的な収束の速さは第4章で正則性と結びつける。B 型(極限)の近似については、Grönwall 型の誤差評価が「極限方程式の解と元の方程式の解の距離」を測る標準的な手段であり、コンパクト性と弱収束が「極限が存在するか、どの意味で収束するか」を論じる言葉を与えた。特に、弱極限と非線形項が交換しないことは、極限方程式に新しい項(有効係数)が現れる理由であり、それを閉じた形で書けない場合が C 型(閉じる)の近似の出発点になる。乱流の Reynolds 応力がその典型で、これを弱極限の言葉で述べられるところまでは数学が案内するが、その未知項をどう置き換えるかについては、ここで用意した道具は保証を与えない。
例題 2.9 ロジスティック方程式で適切性の3条件を確かめる ★★
オリジナル初期値問題 、 を考える。
- は 全体では Lipschitz でないが、解が局所的にただ一つ存在することを示せ。
- 解が存在する限り であることを示し、解が全時刻で存在することを結論せよ。
- 初期値 と の二つの解について、Grönwall 型の評価で時刻 の差を上から抑え、厳密解から求めた実際の差と比べよ。評価が粗くなる理由も述べよ。
解答
(1) なので、 の範囲では Lipschitz 定数 がとれる。 全体では に上限が無いので大域的な Lipschitz 定数は無いが、定理 2.4 は初期値のまわりの有界な長方形 での Lipschitz 性しか使わないので、局所解はただ一つ存在する。
(2) と はどちらも解である。 の解がある時刻 で に達したとすると、時刻 を初期時刻とみれば、その解と は同じ初期値をもつ二つの解になり、一意性から一致する。すると となって矛盾する。 についても同じなので、解は区間 から出られない( なら解は定数)。これは解を求めずに得たアプリオリ評価 であり、 は各有界集合上で Lipschitz なので、定理 2.9 により解は全時刻で存在する。
(3) 二つの解はどちらも に留まり、そこでは なので、解の通る範囲に限れば Lipschitz 定数は である。定理 2.6 の証明は解の通る範囲での Lipschitz 性しか使わないので、 として
を得る。一方、変数分離で解くと で、、、差は約 である(検算スクリプト)。実際の差は初期の差 より小さくなっており、評価はおよそ 倍粗い。Grönwall 型の評価は という大きさの情報しか使わず、 の符号を見ない。解が近づいていく では で、近くの解どうしはむしろ縮まる。例題 2.3 で反対称性を使って評価を改善したのと同じく、系の構造(ここでは安定な平衡点への収縮)を使わない限り、評価は指数関数的な増幅を見込んでしまう。この方程式一つで、存在・一意性(Picard–Lindelöf)、大域存在(アプリオリ評価)、連続依存(Grönwall)という表2.1の「適切性」と「誤差評価」の行がすべて使われている。
総合問題 係数つき Poisson 方程式で、射影による近似と極限による近似を比べる ★★★
オリジナル区間 で、 を定数として境界値問題
を考え、その解を と書く。 の解は である(例題 2.8)。 は のノルムとする。
- (1) とおく。 を示し、弱形式 (すべての )の解がただ一つ存在することを示せ。(使う道具:第2章 §弱解とソボレフ空間 の Poincaré 不等式と Riesz の表現定理)
- (2) を試行関数 に制限して最小化し、最適な と最小値を の式で求めよ。(使う道具:第2章 §変分法の直接法、第1章 §近似の3つの型 の A 型)
- (3) を求め、 で と (2) の最小値を比べよ。差が に等しく、したがって正であることを示せ。(使う道具:第2章 §変分法の直接法 のエネルギー誤差の恒等式)
- (4) について を示し、 で実際の と比べよ。(使う道具:第2章 §Grönwall の不等式とデータへの連続依存 の「残差と安定性」の型、§偏微分方程式へ のエネルギー法)
- (5) (2) と (4) の近似は、それぞれ第1章の3つの型のどれに当たるか。誤差を何が保証しているかを比べ、 では (4) の近似が使えなくなる一方で (2) の近似は使えることを数値で確かめよ。(使う道具:第1章 §近似の3つの型)
解答
(1)(第2章 §弱解とソボレフ空間) で、 から左の不等式が出る。Poincaré 不等式(定理 2.16、) から で、右の不等式が出る。 は対称な双線形形式で、左の不等式から なら 、境界条件から なので内積である。二つの不等式により、そのノルムは の内積 のノルムと同等なので、 は についても完備なヒルベルト空間である。右辺 は を満たす有界線形汎関数なので、Riesz の表現定理(定理 2.18)により を満たす がただ一つ存在する。
(2)(第2章 §変分法の直接法、第1章 A 型)、、 より
で微分して とおくと 、最小値は である。 では例題 2.8 の 、 に戻る。 では最小値は約 である。
(3)(第2章 §変分法の直接法) で
とおくと、、 で和は 、 で になる。弱形式で とおくと なので で、
では 、 で、試行関数の値 のほうが約 高い(相対誤差 )。差の式は次のように出る。任意の について
で、弱形式 を代入して整理すると になる。これは (2.7) の内積を に替えたものそのもので、 なら正である。 で を直接積分した値も に一致する(検算スクリプト)。
(4)(第2章 §Grönwall の不等式とデータへの連続依存、§偏微分方程式へ) の弱形式は である。 の弱形式から引くと 、 を代入して
を得る。 は「残差 を外力とする同じ型の方程式」の解である。 とおき、Cauchy–Schwarz と Poincaré 不等式を使うと
で、 である。 なので上界は で、 では約 になる。実際の値は で、上界は実際の値の約 倍に収まっている(検算スクリプト)。評価の形は定理 2.6 と同じく「残差の大きさ 」×「増幅率 」で、増幅率を与えているのが Poincaré 不等式である。
(5)(第1章 §近似の3つの型)(2) は解を1次元の部分空間 の中で探す A 型(射影)の近似である。(3) で示したとおり、試行関数は の内積で測った の最良近似になり、エネルギーは必ず上界で、誤差はエネルギーノルムの2乗で決まる。小さいパラメータは要らず、保証するのは部分空間が解をどれだけ表せるかである。(4) は を含む問題の族の の極限問題の解 を使う B 型(極限)の近似で、誤差は に比例し、保証するのは が小さいことである。
では、(4) の上界は で、 自身の大きさ を超えてしまい、評価は何も言わない。実際の も約 で、 の半分に達しているので、 は の近似として役に立たない。一方 (2) の近似は でも最小値 が厳密値 に対して相対誤差 で、なお有効である(検算スクリプト)。A 型の近似は「解が部分空間で表せるか」という形の情報にしか依らないので の大きさを問わず、B 型の近似は「パラメータが小さいか」にしか依らないので部分空間の選び方を問わない。保証の出どころが違うので、同じ問題でも使える範囲が違う。どちらにも誤差の保証があるので、C 型(閉じる)に当たる近似はこの問題には現れない。
木下の勉強ステータス
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