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Hardy の不等式と Kato–Rellich の定理

2026年10月9日14分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第3章 量子力学の作用素論:自己共役性とスペクトル
目次
  1. Hardy の不等式
  2. 相対有界性:クーロンポテンシャルの相対限界は0
  3. Kato–Rellich の定理と加藤の結果
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

近似の数理 第3章 §3.3 ★★★ 原子・分子のハミルトニアンが自己共役であることの証明。クーロン特異性が「弱い」ことの定量化

ハミルトニアン (3.1) は、自己共役な H0=∑i(−12Δi)H_0=\sum_i(-\tfrac12\Delta_i) に、原点(原子核・電子の衝突点)で発散するクーロンポテンシャル VV を足したものである。VV は有界作用素でないので、和が自己共役である保証は自明でない。鍵は「VV の特異性は運動エネルギーで抑え込める」という定量的な不等式で、その出発点が Hardy の不等式である。

Hardy の不等式

定理 3.12(Hardy の不等式(3次元) ★★★)

ψ∈H1(R3)\psi\in H^1(\mathbb{R}^3) について

∫R3∣ψ(x)∣2∣x∣2 dx ≤ 4∫R3∣∇ψ(x)∣2 dx.(3.5)\int_{\mathbb{R}^3}\frac{\lvert \psi(\bm{x})\rvert ^2}{\lvert \bm{x}\rvert ^2}\,\mathrm{d}\bm{x}\ \le\ 4\int_{\mathbb{R}^3}\lvert \nabla\psi(\bm{x})\rvert ^2\,\mathrm{d}\bm{x}.\tag{3.5}

定数 44 はこれ以上小さくできない。

証明

滑らかで台がコンパクトな ψ\psi について示せば、H1H^1 の稠密性と両辺の連続性から一般の場合が従う。ベクトル場 F(x)=x/∣x∣2\bm{F}(\bm{x})=\bm{x}/\lvert \bm{x}\rvert ^2 を考える。r=∣x∣r=\lvert \bm{x}\rvert として∇⋅F=∇⋅(x/r2)=3/r2−2x⋅x/r4=1/r2\nabla\cdot\bm{F}=\nabla\cdot(\bm{x}/r^2)=3/r^2-2\bm{x}\cdot\bm{x}/r^4=1/r^2(3次元で一般に (d−2)/r2(d-2)/r^2)。そこで

∫∣ψ∣2r2 dx=∫∣ψ∣2 ∇⋅F dx=−∫F⋅∇∣ψ∣2 dx=−2Re⁡∫xr2⋅ψˉ ∇ψ dx.\int\frac{\lvert \psi\rvert ^2}{r^2}\,\mathrm{d}\bm{x}=\int\lvert \psi\rvert ^2\,\nabla\cdot\bm{F}\,\mathrm{d}\bm{x} =-\int\bm{F}\cdot\nabla\lvert \psi\rvert ^2\,\mathrm{d}\bm{x} =-2\operatorname{Re}\int\frac{\bm{x}}{r^2}\cdot\bar\psi\,\nabla\psi\,\mathrm{d}\bm{x}.

部分積分の境界項は、原点を半径 ε\varepsilon の球でくり抜いて評価すると ∣ψ∣2∣F∣×(面積)∼ε−1⋅ε2→0\lvert \psi\rvert ^2\lvert \bm{F}\rvert \times(\text{面積})\sim\varepsilon ^{-1}\cdot\varepsilon ^2\to0 である。右辺を Cauchy–Schwarz の不等式で評価すると、∣x/r2∣=1/r\lvert \bm{x}/r^2\rvert =1/r より

∫∣ψ∣2r2 ≤ 2(∫∣ψ∣2r2)1/2(∫∣∇ψ∣2)1/2.\int\frac{\lvert \psi\rvert ^2}{r^2}\ \le\ 2\Bigl(\int\frac{\lvert \psi\rvert ^2}{r^2}\Bigr)^{1/2}\Bigl(\int\lvert \nabla\psi\rvert ^2\Bigr)^{1/2}.

両辺を (∫∣ψ∣2/r2)1/2(\int\lvert \psi\rvert ^2/r^2)^{1/2} で割って2乗すれば (3.5) を得る。定数が最良であることは、r−1/2r^{-1/2} に近い関数で比が 11 に近づくこと(例題 3.2 と表 3.1)で分かる。

Hardy の不等式が言っていること

∣ψ∣2/r2\lvert \psi\rvert ^2/r^2 の積分が大きいのは、ψ\psi が原点の近くに集中しているときである。ところが原点の近くの狭い領域に閉じ込めると、不確定性によって勾配が大きくなる。Hardy の不等式は「原点への集中の度合い」が「運動エネルギー」で上から抑えられることを、定数まで込めて述べた不確定性原理である。Δx Δp≥12\Delta x\,\Delta p\ge\tfrac12 という分散の不等式とは違い、平均からのずれではなく原点からの距離そのものを測っている点が、ポテンシャルの評価に使える理由である。

相対有界性:クーロンポテンシャルの相対限界は0

定義 3.13(相対有界)

自己共役作用素 AA と作用素 BB について、D(A)⊂D(B)\mathcal{D}(A)\subset\mathcal{D}(B) で、ある a,b≥0a,b\ge0 について

∥Bψ∥≤a∥Aψ∥+b∥ψ∥(ψ∈D(A))\lVert B\psi\rVert \le a\lVert A\psi\rVert +b\lVert \psi\rVert \qquad(\psi\in\mathcal{D}(A))

が成り立つとき、BB は AA に相対有界であるという。このような aa の下限を相対限界という。

相対限界は「BB の大きさのうち、AA に比例する部分の係数」である。bb はいくら大きくてもよく、問題は aa のほうである。aa が小さいことは、高エネルギー(∥Aψ∥\lVert A\psi\rVert が大きい)の状態で BB が AA に比べて無視できることを意味する。

命題 3.14(クーロンポテンシャルの相対限界は0 ★★★)

L2(R3)L^2(\mathbb{R}^3) で V(x)=Z/∣x∣V(\bm{x})=Z/\lvert \bm{x}\rvert とする。任意の a>0a>0 について、全ての ψ∈H2(R3)\psi\in H^2(\mathbb{R}^3) で

∥Vψ∥≤a∥Δψ∥+Z2a∥ψ∥.(3.6)\lVert V\psi\rVert \le a\lVert \Delta\psi\rVert +\frac{Z^2}{a}\lVert \psi\rVert .\tag{3.6}

証明

Hardy の不等式より ∥Vψ∥=Z∥ψ/r∥≤2Z∥∇ψ∥\lVert V\psi\rVert =Z\lVert \psi/r\rVert \le2Z\lVert \nabla\psi\rVert。部分積分と Cauchy–Schwarz により∥∇ψ∥2=⟨ψ, −Δψ⟩≤∥ψ∥∥Δψ∥\lVert \nabla\psi\rVert ^2=\langle \psi,\,-\Delta\psi\rangle \le\lVert \psi\rVert \lVert \Delta\psi\rVert。相加相乗平均 uv≤ηu+v/(4η)\sqrt{uv}\le\eta u+v/(4\eta)(η>0\eta>0)をu=∥Δψ∥u=\lVert \Delta\psi\rVert、v=∥ψ∥v=\lVert \psi\rVert に使うと ∥∇ψ∥≤η∥Δψ∥+∥ψ∥/(4η)\lVert \nabla\psi\rVert \le\eta\lVert \Delta\psi\rVert +\lVert \psi\rVert /(4\eta)。合わせて∥Vψ∥≤2Zη∥Δψ∥+Z2η∥ψ∥\lVert V\psi\rVert \le2Z\eta\lVert \Delta\psi\rVert +\frac{Z}{2\eta}\lVert \psi\rVert。a=2Zηa=2Z\eta とおけば Z/(2η)=Z2/aZ/(2\eta)=Z^2/a となる(検算スクリプト)。

aa をいくら小さくしても成り立つ代わりに、b=Z2/ab=Z^2/a が大きくなる。物理的には、クーロンポテンシャルは「低エネルギーでは強いが、高エネルギー(短い波長)では運動エネルギーに比べて取るに足らない」ということである。1/r1/r は長さの −1-1 乗、運動エネルギーは −2-2 乗なので、短距離では運動エネルギーが必ず勝つ。次元の数え方としてはこれだけのことだが、それを定数つきの不等式にしたのが (3.6) である。

多電子系への拡張は次のとおりである。L2(R3N)L^2(\mathbb{R}^{3N}) で xi\bm{x}_i についての項 Z/∣xi−R∣Z/\lvert \bm{x}_i-\bm{R}\rvert は、他の変数を止めて xi\bm{x}_i について (3.6) を使い、残りの変数で積分すれば∥(Z/∣xi−R∣)ψ∥≤a∥Δiψ∥+(Z2/a)∥ψ∥\lVert (Z/\lvert \bm{x}_i-\bm{R}\rvert )\psi\rVert \le a\lVert \Delta_i\psi\rVert +(Z^2/a)\lVert \psi\rVert を得る。フーリエ変換すると∣ki∣2≤∑j∣kj∣2\lvert \bm{k}_i\rvert ^2\le\sum_j\lvert \bm{k}_j\rvert ^2 なので ∥Δiψ∥≤∥Δψ∥\lVert \Delta_i\psi\rVert \le\lVert \Delta\psi\rVert(Δ=∑jΔj\Delta=\sum_j\Delta_j)。電子間反発 1/∣xi−xj∣1/\lvert \bm{x}_i-\bm{x}_j\rvert は、相対座標 u=xi−xj\bm{u}=\bm{x}_i-\bm{x}_j と重心座標 w=(xi+xj)/2\bm{w}=(\bm{x}_i+\bm{x}_j)/2 に変数変換するとu\bm{u} についての1体のクーロンポテンシャルになり、∇u=(∇i−∇j)/2\nabla_{\bm{u}}=(\nabla_i-\nabla_j)/2 のフーリエ表示∣(ki−kj)/2∣2≤(∣ki∣2+∣kj∣2)/2\lvert (\bm{k}_i-\bm{k}_j)/2\rvert ^2\le(\lvert \bm{k}_i\rvert ^2+\lvert \bm{k}_j\rvert ^2)/2 から同じ形の評価が出る。有限個の項の和なので、(3.1) のポテンシャル部分全体 VV も H0H_0 に対して相対限界0をもつ。

Kato–Rellich の定理と加藤の結果

定理 3.15(Kato–Rellich ★★★)

AA を自己共役、BB を対称作用素とし、D(A)⊂D(B)\mathcal{D}(A)\subset\mathcal{D}(B) かつある a<1a<1, b≥0b\ge0 で∥Bψ∥≤a∥Aψ∥+b∥ψ∥\lVert B\psi\rVert \le a\lVert A\psi\rVert +b\lVert \psi\rVert(ψ∈D(A)\psi\in\mathcal{D}(A))とする。このとき A+BA+B は D(A)\mathcal{D}(A) 上で自己共役である。さらに AA が下に有界なら A+BA+B も下に有界である。

証明

A+BA+B が D(A)\mathcal{D}(A) 上で対称であることは明らか。判定法(定理 3.8、±i\pm\mathrm{i} を ±iμ\pm\mathrm{i}\mu に置き換えても同じ証明が通る)により、μ>0\mu>0 を大きくとって Ran⁡(A+B∓iμ)=H\operatorname{Ran}(A+B\mp\mathrm{i}\mu)=\mathcal{H} を示せばよい。AA は自己共役なので A−iμA-\mathrm{i}\mu は全単射で、(3.4) より ∥A(A−iμ)−1∥≤1\lVert A(A-\mathrm{i}\mu)^{-1}\rVert \le1、∥(A−iμ)−1∥≤1/μ\lVert (A-\mathrm{i}\mu)^{-1}\rVert \le1/\mu。よって任意の ϕ\phi について

∥B(A−iμ)−1ϕ∥≤a∥A(A−iμ)−1ϕ∥+b∥(A−iμ)−1ϕ∥≤(a+bμ)∥ϕ∥.\lVert B(A-\mathrm{i}\mu)^{-1}\phi\rVert \le a\lVert A(A-\mathrm{i}\mu)^{-1}\phi\rVert +b\lVert (A-\mathrm{i}\mu)^{-1}\phi\rVert \le\Bigl(a+\frac b\mu\Bigr)\lVert \phi\rVert .

μ>b/(1−a)\mu>b/(1-a) なら K=B(A−iμ)−1K=B(A-\mathrm{i}\mu)^{-1} は ∥K∥<1\lVert K\rVert <1 を満たし、1+K1+K は Neumann 級数 ∑n(−K)n\sum_n(-K)^n で逆をもつ。

A+B−iμ=(1+K)(A−iμ)A+B-\mathrm{i}\mu=(1+K)(A-\mathrm{i}\mu)

の右辺は二つの全射の合成なので全射である。+iμ+\mathrm{i}\mu も同様。下に有界性は第 3.4 節の後の注意で扱う。

定理 3.16(加藤敏夫(1951) ★★★)

原子・分子のハミルトニアン (3.1) は D(H)=H2(R3N)\mathcal{D}(H)=H^2(\mathbb{R}^{3N}) 上で自己共役であり、下に有界である。反対称な関数の部分空間に制限しても同じことが成り立つ。

証明は、H0H_0 が H2H^2 上で自己共役(フーリエ変換で実数値関数 ∑i∣ki∣2/2\sum_i\lvert \bm{k}_i\rvert ^2/2 の掛け算になる)であることと、命題 3.14 の多電子版で a<1a<1 を選べることを、Kato–Rellich の定理に入れるだけである。反対称化は HH と交換するので部分空間に制限しても自己共役性は保たれる。この結果が、量子化学の全ての計算に「計算している対象が数学的に存在する」という保証を与えている。しかも定義域は自由粒子と同じ H2H^2 であり、クーロン特異性は波動関数の正則性を2階微分の2乗可積分性の水準では落とさない。波動関数が原子核の位置で尖る(カスプをもつ)ことは、この H2H^2 の範囲に収まる現象である。カスプは第4章でガウス基底の収束が遅くなる理由として再び現れる。

例題 3.2 Hardy の不等式の具体的な関数での確認 ★★

オリジナル[標準的な題材を自作] R3\mathbb{R}^3 の球対称な関数 ψ(x)=f(r)\psi(\bm{x})=f(r) について、比Q[f]=∫∣ψ∣2/r2 dx4∫∣∇ψ∣2 dx\displaystyle Q[f]=\frac{\int\lvert \psi\rvert ^2/r^2\,\mathrm{d}\bm{x}}{4\int\lvert \nabla\psi\rvert ^2\,\mathrm{d}\bm{x}} を考える(Hardy の不等式は Q≤1Q\le1)。

  • (1) f=e−rf=\mathrm{e}^{-r} のとき QQ を求めよ。
  • (2) f=e−r2f=\mathrm{e}^{-r^2} のとき QQ を求めよ。
  • (3) QQ が 11 に近づくのは ff がどのような形のときか。不等式の証明の等号条件から答えよ。
解答

球対称なので ∫∣ψ∣2/r2 dx=4π∫0∞f2 dr\int\lvert \psi\rvert ^2/r^2\,\mathrm{d}\bm{x}=4\pi\int_0^\infty f^2\,\mathrm{d} r、∫∣∇ψ∣2 dx=4π∫0∞f′2r2 dr\int\lvert \nabla\psi\rvert ^2\,\mathrm{d}\bm{x}=4\pi\int_0^\infty f'^2r^2\,\mathrm{d} r。

(1) ∫0∞e−2r dr=12\int_0^\infty\mathrm{e}^{-2r}\,\mathrm{d} r=\frac12、∫0∞e−2rr2 dr=223=14\int_0^\infty\mathrm{e}^{-2r}r^2\,\mathrm{d} r=\frac{2}{2^3}=\frac14。よって Q=1/24⋅1/4=12Q=\frac{1/2}{4\cdot1/4}=\frac12。

(2) ∫0∞e−2r2 dr=12π/2\int_0^\infty\mathrm{e}^{-2r^2}\,\mathrm{d} r=\frac12\sqrt{\pi/2}。f′=−2re−r2f'=-2r\mathrm{e}^{-r^2} より∫0∞4r4e−2r2 dr=4⋅38⋅22π/2=38π/2\int_0^\infty4r^4\mathrm{e}^{-2r^2}\,\mathrm{d} r=4\cdot\frac{3}{8\cdot 2^2}\sqrt{\pi/2}=\frac38\sqrt{\pi/2}(∫0∞r4e−αr2dr=38α2π/α\int_0^\infty r^4\mathrm{e}^{-\alpha r^2}\mathrm{d} r=\frac{3}{8\alpha^2}\sqrt{\pi/\alpha} で α=2\alpha=2)。よってQ=12π/24⋅38π/2=13Q=\frac{\frac12\sqrt{\pi/2}}{4\cdot\frac38\sqrt{\pi/2}}=\frac13。

(3) 証明で使った不等式は Cauchy–Schwarz だけなので、等号は ∇ψ\nabla\psi と (x/r2)ψ(\bm{x}/r^2)\psi が比例するとき、すなわち f′=−crff'=-\frac{c}{r}f のときである。積分すると f=r−cf=r^{-c} で、Cauchy–Schwarz の両辺を一致させると c=1/2c=1/2 を得る。f=r−1/2f=r^{-1/2} は両辺の積分がどちらも対数発散して不等式の外にあるが、これを原点近傍と遠方で切り落とした関数、あるいは f=(1+r2)−sf=(1+r^2)^{-s} で s↓14s\downarrow\frac14 とした列で Q→1Q\to1 になる(表 3.1。検算スクリプト)。

表 3.1 f=(1+r2)−sf=(1+r^2)^{-s} での Hardy の比 QQ(数値積分)。s↓1/4s\downarrow1/4 で最良定数 Q=1Q=1 に近づく。
ss110.750.750.50.50.40.40.30.30.270.270.260.26
QQ0.5000.5000.5560.5560.6670.6670.7500.7500.8890.8890.9510.9510.9740.974

木下の勉強ステータス

木下はまだこの記事を勉強していません。

AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com

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