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下に有界であること:第一種の安定性

2026年10月9日10分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第3章 量子力学の作用素論:自己共役性とスペクトル
目次
  1. 水素型原子の正確な下界
  2. 多電子系の下界
  3. 下に有界でない例と、変分原理が意味を失う理由
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

近似の数理 第3章 §3.4 ★★★ 「下に有界」でなければ変分原理も基底状態も意味を失う。原子が崩壊しない理由の数学的な形

水素型原子の正確な下界

命題 3.17(水素型原子の下界 ★★★)

ψ∈H1(R3)\psi\in H^1(\mathbb{R}^3) について

⟨ψ,(−12Δ−Zr)ψ⟩ ≥ −Z22∥ψ∥2(3.7)\Bigl\langle\psi,\Bigl(-\frac12\Delta-\frac{Z}{r}\Bigr)\psi\Bigr\rangle\ \ge\ -\frac{Z^2}{2}\lVert \psi\rVert ^2\tag{3.7}

が成り立ち、等号は ψ=c e−Zr\psi=c\,\mathrm{e}^{-Zr} のときに限る。

証明

完全平方 ∫∣∇ψ+Zx^ψ∣2dx≥0\int\lvert \nabla\psi+Z\hat{\bm{x}}\psi\rvert ^2\mathrm{d}\bm{x}\ge0(x^=x/r\hat{\bm{x}}=\bm{x}/r)を展開する。

0≤∫∣∇ψ∣2+Z2∫∣ψ∣2+2ZRe⁡∫x^⋅ψˉ∇ψ=∫∣∇ψ∣2+Z2∫∣ψ∣2+Z∫x^⋅∇∣ψ∣2.0\le\int\lvert \nabla\psi\rvert ^2+Z^2\int\lvert \psi\rvert ^2+2Z\operatorname{Re}\int\hat{\bm{x}}\cdot\bar\psi\nabla\psi =\int\lvert \nabla\psi\rvert ^2+Z^2\int\lvert \psi\rvert ^2+Z\int\hat{\bm{x}}\cdot\nabla\lvert \psi\rvert ^2.

最後の項を部分積分すると、∇⋅x^=2/r\nabla\cdot\hat{\bm{x}}=2/r(3次元)より −Z∫∣ψ∣2(2/r)-Z\int\lvert \psi\rvert ^2(2/r)。したがって∫∣∇ψ∣2−2Z∫∣ψ∣2/r≥−Z2∥ψ∥2\int\lvert \nabla\psi\rvert ^2-2Z\int\lvert \psi\rvert ^2/r\ge-Z^2\lVert \psi\rVert ^2 で、両辺を2で割れば (3.7)。等号は ∇ψ=−Zx^ψ\nabla\psi=-Z\hat{\bm{x}}\psi、すなわち ∂rψ=−Zψ\partial_r\psi=-Z\psi かつ角度方向の微分が0のときで、ψ=c e−Zr\psi=c\,\mathrm{e}^{-Zr} に限る。

この証明は、不確定性原理による「Δr∼1/Z\Delta r\sim1/Z だから E∼−Z2E\sim-Z^2」という見積もりと違い、定数まで正確である。しかも等号を与える関数が L2L^2 に入るので、−Z2/2-Z^2/2 は実際に基底エネルギーである。(3.7) は、Hardy の不等式と同じく「完全平方が非負」という一手で出ている点に注意してほしい。変分法が試行関数から上界を出すのに対し、完全平方の方法は下界を出す。両者が一致すれば答えが確定する。

多電子系の下界

(3.1) の電子間反発は正なので捨てると HH は小さくなる。核が KK 個あるとき、運動エネルギーを−12Δi=∑k=1K(−12KΔi)-\tfrac12\Delta_i=\sum_{k=1}^K(-\tfrac{1}{2K}\Delta_i) と KK 等分し、各片を一つの核への引力と組にする。−12KΔ−Z/r=1K(−12Δ−KZ/r)-\tfrac{1}{2K}\Delta-Z/r=\tfrac1K(-\tfrac12\Delta-KZ/r) に (3.7) を使うと下界 −1K(KZ)2/2=−KZ2/2-\tfrac1K(KZ)^2/2=-KZ^2/2 を得るので、

H ≥ −NK2∑k=1KZk2(3.8)H\ \ge\ -\frac{NK}{2}\sum_{k=1}^KZ_k^2\tag{3.8}

(作用素の不等式 A≥cA\ge c は全ての ψ\psi で ⟨ψ, Aψ⟩≥c∥ψ∥2\langle \psi,\,A\psi\rangle \ge c\lVert \psi\rVert ^2 の意味)。これは粗い評価だが、有限であることが重要である。このように HH が有限の下界をもつことを第一種の安定性という。これに対し、下界が粒子数に比例すること(E0≥−CNE_0\ge-CN、物質がバルクとして安定であること)を第二種の安定性といい、証明には Pauli の排他原理が本質的に必要になる(Dyson と Lenard、のちに Lieb と Thirring による)。第二種の安定性は第6章の平均場極限で、エネルギーが粒子数に比例するというスケーリングの前提として使われる。

Kato–Rellich の定理からも下界が出る

A≥0A\ge0 で ∥Bψ∥≤a∥Aψ∥+b∥ψ∥\lVert B\psi\rVert \le a\lVert A\psi\rVert +b\lVert \psi\rVert(a<1a<1)なら A+B≥−b/(1−a)A+B\ge-b/(1-a) である。実数 μ<0\mu<0 について∥A(A−μ)−1∥≤1\lVert A(A-\mu)^{-1}\rVert \le1、∥(A−μ)−1∥≤1/∣μ∣\lVert (A-\mu)^{-1}\rVert \le1/\lvert \mu\rvert なので、定理 3.15 の証明と同じ評価で∥B(A−μ)−1∥≤a+b/∣μ∣\lVert B(A-\mu)^{-1}\rVert \le a+b/\lvert \mu\rvert となり、μ<−b/(1−a)\mu<-b/(1-a) では Neumann 級数で A+B−μA+B-\mu が逆をもつ。水素型原子に当てはめると、∥(Z/r)ψ∥≤a′∥H0ψ∥+(2Z2/a′)∥ψ∥\lVert (Z/r)\psi\rVert \le a'\lVert H_0\psi\rVert +(2Z^2/a')\lVert \psi\rVert(H0=−12ΔH_0=-\frac12\Delta)から下界 −2Z2/{a′(1−a′)}-2Z^2/\{a'(1-a')\} を得て、a′=1/2a'=1/2 で最良の −8Z2-8Z^2 になる。正しい値 −Z2/2-Z^2/2 の16倍も緩く、一般論の下界は存在を保証するだけで定量的ではない。原子・分子では (3.8) のほうが直接的である。

下に有界でない例と、変分原理が意味を失う理由

ポテンシャルを 1/r1/r から 1/r21/r^2 に変えると事情が変わる。ψλ(x)=λ3/2ψ(λx)\psi_\lambda(\bm{x})=\lambda^{3/2}\psi(\lambda\bm{x}) とスケールすると∥ψλ∥=∥ψ∥\lVert \psi_\lambda\rVert =\lVert \psi\rVert のまま

⟨ψλ, −Δψλ⟩=λ2⟨ψ, −Δψ⟩,⟨ψλ,1r2ψλ⟩=λ2⟨ψ,1r2ψ⟩,⟨ψλ,1rψλ⟩=λ⟨ψ,1rψ⟩\langle \psi_\lambda,\,-\Delta\psi_\lambda\rangle =\lambda^2\langle \psi,\,-\Delta\psi\rangle ,\qquad \Bigl\langle\psi_\lambda,\frac{1}{r^2}\psi_\lambda\Bigr\rangle=\lambda^2\Bigl\langle\psi,\frac1{r^2}\psi\Bigr\rangle,\qquad \Bigl\langle\psi_\lambda,\frac{1}{r}\psi_\lambda\Bigr\rangle=\lambda\Bigl\langle\psi,\frac1r\psi\Bigr\rangle

となる。クーロンでは λ→∞\lambda\to\infty(原点への収縮)で運動エネルギー ∝λ2\propto\lambda^2 がポテンシャル ∝λ\propto\lambda に勝つので、収縮すると損をする。これが原子が崩壊しない理由の数学的な形である。一方 −Δ−c/r2-\Delta-c/r^2 では両者が同じ λ2\lambda^2 で増えるので、一つでも ⟨ψ, (−Δ−c/r2)ψ⟩<0\langle \psi,\,(-\Delta-c/r^2)\psi\rangle <0 となる ψ\psi があれば、λ→∞\lambda\to\infty でエネルギーは −∞-\infty に落ちる。Hardy の定数 44 が最良であることは「c>1/4c>1/4 ならそのような ψ\psi がある」と同値なので、−Δ−c/r2-\Delta-c/r^2 は c≤1/4c\le1/4 で下に有界、c>1/4c>1/4 で下に有界でない。これが古典力学の「中心への落下」に対応する量子力学の現象である。

下に有界でない HH では、Rayleigh 商 ⟨ψ, Hψ⟩/∥ψ∥2\langle \psi,\,H\psi\rangle /\lVert \psi\rVert ^2 の下限が −∞-\infty なので「基底状態」が存在せず、試行関数を改良するとエネルギーがいくらでも下がる。第4章の Rayleigh–Ritz 法は「下限に上から近づく」方法なので、下限が有限であることを前提にしている。原子・分子でこの前提が成り立つことを保証するのが (3.8) である。

例題 3.3 逆2乗ポテンシャルの崩壊とクーロンの安定性 ★★

オリジナル[標準的な題材を自作] R3\mathbb{R}^3 で規格化された試行関数 ψα(x)=(α3/π)1/2e−αr\psi_\alpha(\bm{x})=(\alpha^3/\pi)^{1/2}\mathrm{e}^{-\alpha r}(α>0\alpha>0)を考える。

  • (1) ⟨ψα, −12Δψα⟩\langle \psi_\alpha,\,-\frac12\Delta\psi_\alpha\rangle、⟨ψα, r−1ψα⟩\langle \psi_\alpha,\,r^{-1}\psi_\alpha\rangle、⟨ψα, r−2ψα⟩\langle \psi_\alpha,\,r^{-2}\psi_\alpha\rangle を求めよ。
  • (2) Hc=−12Δ−c/r2H_c=-\frac12\Delta-c/r^2 について ⟨ψα, Hcψα⟩\langle \psi_\alpha,\,H_c\psi_\alpha\rangle を求め、c>1/4c>1/4 なら α→∞\alpha\to\infty で −∞-\infty に発散することを示せ。(この試行関数で発散を示せる範囲と、Hardy の最良定数から決まる真の境界 c=1/8c=1/8 を比較せよ。HcH_c では運動エネルギーに 12\frac12 がついている点に注意。)
  • (3) H=−12Δ−Z/rH=-\frac12\Delta-Z/r について ⟨ψα, Hψα⟩\langle \psi_\alpha,\,H\psi_\alpha\rangle を α\alpha について最小化せよ。
解答

(1) ψα′=−αψα\psi_\alpha'=-\alpha\psi_\alpha なので ⟨ψα, −12Δψα⟩=12∫∣∇ψα∣2=α22\langle \psi_\alpha,\,-\frac12\Delta\psi_\alpha\rangle =\frac12\int\lvert \nabla\psi_\alpha\rvert ^2=\frac{\alpha^2}{2}。⟨ψα, r−1ψα⟩=α3π4π∫0∞re−2αrdr=4α3⋅14α2=α\langle \psi_\alpha,\,r^{-1}\psi_\alpha\rangle =\frac{\alpha^3}{\pi}4\pi\int_0^\infty r\mathrm{e}^{-2\alpha r}\mathrm{d} r=4\alpha^3\cdot\frac{1}{4\alpha^2}=\alpha。⟨ψα, r−2ψα⟩=4α3∫0∞e−2αrdr=2α2\langle \psi_\alpha,\,r^{-2}\psi_\alpha\rangle =4\alpha^3\int_0^\infty\mathrm{e}^{-2\alpha r}\mathrm{d} r=2\alpha^2。

(2) ⟨ψα, Hcψα⟩=α22−2cα2=α2(12−2c)\langle \psi_\alpha,\,H_c\psi_\alpha\rangle =\frac{\alpha^2}{2}-2c\alpha^2=\alpha^2\bigl(\frac12-2c\bigr)。c>1/4c>1/4 で係数が負になり、α→∞\alpha\to\infty で −∞-\infty に発散する。真の境界は、Hardy の不等式 ∫∣ψ∣2/r2≤4∫∣∇ψ∣2\int\lvert \psi\rvert ^2/r^2\le4\int\lvert \nabla\psi\rvert ^2 を12∫∣∇ψ∣2≥18∫∣ψ∣2/r2\frac12\int\lvert \nabla\psi\rvert ^2\ge\frac18\int\lvert \psi\rvert ^2/r^2 と書き直して c=1/8c=1/8 である。この試行関数では Hardy の比 Q=1/2Q=1/2(例題 3.2)なので、示せるのは c>1/4c>1/4 だけで、1/8<c≤1/41/8<c\le1/4 の崩壊を見るには r−1/2r^{-1/2} に近い試行関数が必要になる。試行関数の選び方によって「見える」不安定性の範囲が変わる。

(3) E(α)=α22−ZαE(\alpha)=\frac{\alpha^2}{2}-Z\alpha。E′(α)=α−Z=0E'(\alpha)=\alpha-Z=0 より α=Z\alpha=Z、E(Z)=−Z22E(Z)=-\frac{Z^2}{2}。これは命題 3.17 の下界と一致するので、−Z2/2-Z^2/2 が正確な基底エネルギーである(Z=1Z=1 で −1/2-1/2。検算スクリプト)。

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