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遮蔽・イオン化・最大イオン化

2026年10月9日5分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第3章 量子力学の作用素論:自己共役性とスペクトル

AI 生成・木下が未勉強

近似の数理 第3章 §3.8 ★★ 化学の「イオン化エネルギー」「遮蔽」が作用素論で何に当たるかの対応表

ここまでの結果を、化学の言葉に翻訳しておく。

イオン化エネルギー。HVZ 定理から EN≤EN−1E_N\le E_{N-1} が常に成り立つので、イオン化エネルギー IN=EN−1−ENI_N=E_{N-1}-E_N は非負である。IN>0I_N>0 は「基底エネルギーが真性スペクトルの下端より真に下にある」ことで、そのとき基底エネルギーは離散固有値であり、L2L^2 の固有関数(束縛された基底状態)が存在する。IN=0I_N=0 なら、基底エネルギーは閾値に一致し、一般には固有関数が存在しない(電子が1個、閾値ぎりぎりで束縛されずに漂う)。「イオン化エネルギーが正」と「原子が NN 個の電子を束縛する」は同じ主張である。Zhislin の定理は N≤ZN\le Z でこれを保証する。

遮蔽。(3.15) の Z−N+1Z-N+1 は、化学で言う「外殻電子が感じる有効核電荷」の漸近的な極限値である。内殻の電子分布が遠方で指数関数的に減衰するので、十分遠くの電子には内殻の電子がちょうど N−1N-1 個の点電荷として見える。アルカリ原子の Rydberg 準位が水素に似た系列(量子欠損で補正された −1/{2(n−δ)2}-1/\{2(n-\delta)^2\})をとるのは、この漸近形の帰結である。近い距離では遮蔽は不完全で、それが量子欠損 δ\delta に現れる。ヘリウムの変分(例題 3.7)で得た ζ=27/16\zeta=27/16 は、二つの電子が同じ距離にいるときの「平均的な」遮蔽を表し、漸近極限の Z−N+1=1Z-N+1=1 とは別物である。

最大イオン化。原子が束縛できる電子数の最大値を Nc(Z)N_c(Z)(EN<EN−1E_N<E_{N-1} となる最大の NN)とする。Zhislin の定理は Nc≥ZN_c\ge Z を言う。上からの評価として、Lieb は Nc<2Z+1N_c<2Z+1 を証明した。証明の骨格は、固有方程式に ∣xi∣\lvert \bm{x}_i\rvert を掛けて内積をとり、電子間反発の対称化(∣xi∣+∣xj∣)/∣xi−xj∣≥1(\lvert \bm{x}_i\rvert +\lvert \bm{x}_j\rvert )/\lvert \bm{x}_i-\bm{x}_j\rvert \ge1(三角不等式)を使うというものである。さらに Z→∞Z\to\infty で Nc/Z→1N_c/Z\to1 となることも証明されている(Lieb, Sigal, Simon, Thirring)。一方「Nc≤Z+1N_c\le Z+1(あるいは Z+2Z+2)」というイオン化予想は未解決である。束縛電子数の上限という素朴な問いが、シュレディンガー方程式を「解かずに」調べる理論の未解決問題として残っている。

例題 3.8 ナトリウムの量子欠損と最大イオン化の上限 ★★

オリジナルナトリウム原子(Z=11Z=11、N=11N=11)の 3s3s 電子のイオン化エネルギーは 5.1395.139 eV、3s→4s3s\to4s の励起エネルギーは 3.1913.191 eV である(1 hartree =27.211=27.211 eV)。

  • (1) 最外殻の電子が遠方で感じる漸近的な電荷 Z−N+1Z-N+1 を求めよ。3s3s の束縛エネルギーを −1/{2(3−δ)2}-1/\{2(3-\delta)^2\} と書いたときの量子欠損 δ\delta を求めよ。
  • (2) (1) の δ\delta を 4s4s にもそのまま使って 4s4s の束縛エネルギーを予言し、実測値と比べよ。
  • (3) Lieb の上界 Nc<2Z+1N_c<2Z+1 と Zhislin の定理、例題 3.7 (3) の結果を合わせて、水素(Z=1Z=1)の NcN_c を決めよ。
解答

(1) Z−N+1=11−11+1=1Z-N+1=11-11+1=1。内殻の10個の電子が原子核の電荷11のうち10を遮蔽し、遠方の電子には水素と同じ電荷1が見える。イオン化エネルギーは I=5.139/27.211=0.18886I=5.139/27.211=0.18886 hartree で、I=1/{2(3−δ)2}I=1/\{2(3-\delta)^2\} を解くと

3−δ=12I=1.6271,δ=1.3729.3-\delta=\frac{1}{\sqrt{2I}}=1.6271,\qquad \delta=1.3729.

有効主量子数 1.6271.627 が 33 よりずっと小さいのは、ss 電子が原点付近まで入り込み、遮蔽の不完全な内側で電荷11に近い引力を受けるからである。本文で述べたとおり、近い距離での不完全な遮蔽は量子欠損に現れる。

(2) 4s4s の束縛エネルギーの予言は

−12(4−1.3729)2=−12×6.9017=−0.07245 hartree=−1.971 eV.-\frac{1}{2(4-1.3729)^2}=-\frac{1}{2\times6.9017}=-0.07245\ \text{hartree}=-1.971\ \text{eV}.

実測は 5.139−3.191=1.9485.139-3.191=1.948 eV の束縛で、差は 0.0230.023 eV(約 1.2%)である。δ\delta が nn によらずほぼ一定なのは、量子欠損を決めるのが内殻の近くでの波動関数の位相のずれで、そこでの運動エネルギーは束縛エネルギーよりはるかに大きく、束縛エネルギーが nn とともに少し変わっても位相のずれはほとんど変わらないからである。遠方の漸近形が電荷1のクーロンであることが系列の形 −1/{2(n−δ)2}-1/\{2(n-\delta)^2\} を決め、内側の事情は δ\delta という1つの数に押し込められている(検算スクリプト)。

(3) Zhislin の定理から Nc≥Z=1N_c\ge Z=1。例題 3.7 (3) の Chandrasekhar の試行関数は、2電子の E2E_2 が閾値 E1=−12E_1=-\frac12 より真に下にあることを示したので、E2<E1E_2<E_1 すなわち Nc≥2N_c\ge2。一方 Lieb の上界は Nc<2Z+1=3N_c<2Z+1=3 なので Nc≤2N_c\le2。よって Nc(1)=2N_c(1)=2 で、水素負イオン H−\mathrm{H}^- は束縛され、H2−\mathrm{H}^{2-} は束縛されない。イオン化予想(Nc≤Z+1N_c\le Z+1)が証明されている数少ない場合が Z=1Z=1 で、それは Lieb の上界がちょうど Z+1Z+1 に一致するからである。

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