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多電子問題の設定と変分原理

2026年10月9日7分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第5章 Hartree–Fock の変分構造
目次
  1. ハミルトニアンと反対称な波動関数
  2. 変分原理は任意の部分集合で成り立つ
  3. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

近似の数理 第5章 §5.1 ★★ 以後の議論の土台。変分原理が任意の部分集合で成り立つことを確認する

物理で「平均場近似」と呼ばれるものには、数学的に見ると2つの顔がある。1つ目は、多体波動関数を Slater 行列式という特別な形に制限して変分をとる操作である。この見方では Hartree–Fock 法は A 型(解を探す集合を狭める近似)の一員であり、数学が保証するのはエネルギーの上界である。2つ目は、粒子数 N→∞N\to\infty で相互作用を 1/N1/N に弱めた極限、あるいは原子番号 Z→∞Z\to\infty の極限で、多体問題の解が1体方程式の解に近づくという極限定理である。こちらは B 型であり、第6章で扱う。

この章は1つ目の顔だけを扱う。ただし第4章の Rayleigh–Ritz 法とは決定的に違う点がある。第4章では解を探す集合が線型部分空間だったので、Céa の補題(Galerkin 解の誤差は最良近似誤差の定数倍で抑えられる)や、固有値の interlacing(部分空間を広げると近似固有値が単調に下がる)が使えた。Slater 行列式の集合は線型空間ではなく、曲がった集合(多様体)である。そのため線型理論の道具は使えず、何が残り何が失われるかを1つずつ確かめる必要がある。結論を先に書くと、上界性は残り、Euler–Lagrange 方程式として非線型固有値問題(Hartree–Fock 方程式)が現れ、さらに交換項の符号のおかげで「曲がった集合」の問題を「凸集合」上の問題へ緩和しても答えが変わらない(Lieb の変分原理)。一方で、誤差(相関エネルギー)を小さくする仕組みはこの枠組みの中には含まれていない。

単位は原子単位(ℏ=me=e=4πε0=1\hbar=m_e=e=4\pi\varepsilon _0=1、エネルギーの単位は hartree =27.2114 eV=27.2114\,\mathrm{eV})を用いる。

ハミルトニアンと反対称な波動関数

電子の位置 r∈R3\bm{r}\in\mathbb{R}^3 とスピン σ∈{↑,↓}\sigma\in\{\uparrow,\downarrow\} を組にして x=(r,σ)x=(\bm{r},\sigma) と書き、xx についての積分 ∫dx\int\mathrm{d} x は「r\bm{r} についての積分とスピンについての和」∑σ∫R3dr\sum_\sigma\int_{\mathbb{R}^3}\mathrm{d}\bm{r} を意味するものとする。∣x−y∣|x-y| と書いたら空間部分の距離 ∣r−r′∣|\bm{r}-\bm{r}'| を表す。

核電荷 Z1,…,ZKZ_1,\dots,Z_K の原子核を位置 R1,…,RK\bm{R}_1,\dots,\bm{R}_K に固定し(Born–Oppenheimer 近似。第7章)、NN 個の電子を考える。ハミルトニアンは

HN=∑i=1Nhi+∑1≤i<j≤N1∣xi−xj∣,h=−12Δ+V(r),V(r)=−∑k=1KZk∣r−Rk∣(5.1)H_N=\sum_{i=1}^N h_i+\sum_{1\le i<j\le N}\frac{1}{|x_i-x_j|},\qquad h=-\frac12\Delta+V(\bm{r}),\quad V(\bm{r})=-\sum_{k=1}^K\frac{Z_k}{|\bm{r}-\bm{R}_k|}\tag{5.1}

である(hih_i は ii 番目の電子に作用する1体演算子、核間反発は定数なので省いた)。総核電荷を Z=∑kZkZ=\sum_k Z_k と書く。

電子はフェルミ粒子なので、波動関数 Ψ(x1,…,xN)\Psi(x_1,\dots,x_N) は任意の2変数の入れ替えで符号を変える(反対称)。2乗可積分な反対称関数の全体を HN\mathcal{H}_N と書く。HN\mathcal{H}_N は内積 ⟨Ψ, Φ⟩=∫Ψ‾ Φ dx1⋯dxN\langle \Psi,\,\Phi\rangle =\int\overline{\Psi}\,\Phi\,\mathrm{d} x_1\cdots\mathrm{d} x_N をもつ線型空間で、完備(Cauchy 列が必ず収束する)である。こういう空間をヒルベルト空間と呼ぶ(第3章)。基底状態エネルギーは

EN=inf⁡{⟨Ψ, HNΨ⟩ : Ψ∈HN, ∥Ψ∥=1, 運動エネルギー有限}(5.2)E_N=\inf\bigl\{\langle \Psi,\,H_N\Psi\rangle \ :\ \Psi\in\mathcal{H}_N,\ \lVert \Psi\rVert =1,\ \text{運動エネルギー有限}\bigr\}\tag{5.2}

で定義される。inf⁡\inf(下限)と書くのは、最小値を実現する Ψ\Psi が存在するかどうかがこの時点では分からないからである。

変分原理は任意の部分集合で成り立つ

(5.2) は下限なので、HN\mathcal{H}_N の正規化された元からなるどんな部分集合 M\mathcal M をとっても

EN≤inf⁡Ψ∈M⟨Ψ, HNΨ⟩E_N\le\inf_{\Psi\in\mathcal M}\langle \Psi,\,H_N\Psi\rangle

が成り立つ。証明は「小さい集合の下限は大きい集合の下限以上」という一行で終わる。M\mathcal M が線型部分空間である必要はまったくない。これが Hartree–Fock 法に残る唯一の無条件の保証であり、この章の後半で何度も戻ってくる。

上界は「近い」ことを意味しない

上界 EN≤EME_N\le E_{\mathcal M} は誤差の符号を教えるが、大きさについては何も言わない。第4章の線型理論では、部分空間を広げる列 V1⊂V2⊂⋯V_1\subset V_2\subset\cdots が全体で稠密なら誤差が 0 に収束することまで言えた。Slater 行列式の集合には「広げていく列」が組み込まれていないので、この種の収束の主張はそもそも立てられない。

例題 5.1 ガウス関数1個で水素原子を測る ★★

オリジナルN=1N=1、Z=1Z=1(水素原子)で、試行関数をガウス関数 gα(r)=(2α/π)3/4e−αr2g_\alpha(\bm{r})=(2\alpha/\pi)^{3/4}\mathrm{e}^{-\alpha r^2}(α>0\alpha>0)の集合 M={gα:α>0}\mathcal M=\{g_\alpha:\alpha>0\} に制限する(スピンは固定する)。⟨gα, (−12Δ)gα⟩=32α\langle g_\alpha,\,(-\frac12\Delta)g_\alpha\rangle =\frac32\alpha、⟨gα, (−1/r) gα⟩=−22α/π\langle g_\alpha,\,(-1/r)\,g_\alpha\rangle =-2\sqrt{2\alpha/\pi} を使ってよい。厳密な基底エネルギーは E1=−12E_1=-\frac12 である。

  1. M\mathcal M に定数倍を許した集合 {c gα}\{c\,g_\alpha\} も線型空間でないことを、g1+g2g_1+g_2 を例に確かめよ。
  2. M\mathcal M 上の下限 EME_{\mathcal M} を求め、E1≤EME_1\le E_{\mathcal M} を確かめよ。
  3. 1点だけの部分集合 {g1}\{g_1\} での値と比べ、集合の包含とエネルギーの大小の関係を述べよ。また (2) の上界だけから誤差の大きさが分かるかを述べよ。
解答

(1) f=c gαf=c\,g_\alpha なら ln⁡∣f∣\ln|f| は r2r^2 の1次式で、−dln⁡∣f∣/d(r2)=α-\mathrm{d}\ln|f|/\mathrm{d}(r^2)=\alpha は rr によらない定数である。一方 f=g1+g2f=g_1+g_2 では、gαg_\alpha の係数を cα=(2α/π)3/4c_\alpha=(2\alpha/\pi)^{3/4} として

−dln⁡fd(r2)=1⋅c1e−r2+2⋅c2e−2r2c1e−r2+c2e−2r2-\frac{\mathrm{d}\ln f}{\mathrm{d}(r^2)}=\frac{1\cdot c_1\mathrm{e}^{-r^2}+2\cdot c_2\mathrm{e}^{-2r^2}}{c_1\mathrm{e}^{-r^2}+c_2\mathrm{e}^{-2r^2}}

となる。これは指数 1 と 2 の重みつき平均で、重みが rr とともに変わるので、r=0r=0 での値 (c1+2c2)/(c1+c2)(c_1+2c_2)/(c_1+c_2) から r→∞r\to\infty での値 1 へ動く。定数でないので g1+g2g_1+g_2 はどの c gαc\,g_\alpha とも一致しない。和で閉じていないので線型空間ではない。

(2) E(α)=32α−22α/πE(\alpha)=\frac32\alpha-2\sqrt{2\alpha/\pi}。E′(α)=32−2/(πα)=0E'(\alpha)=\frac32-\sqrt{2/(\pi\alpha)}=0 より α∗=89π≈0.2829\alpha^*=\frac{8}{9\pi}\approx0.2829。このとき 32α∗=43π\frac32\alpha^*=\frac{4}{3\pi}、22α∗/π=216/(9π2)=83π2\sqrt{2\alpha^*/\pi}=2\sqrt{16/(9\pi^2)}=\frac{8}{3\pi} なので

EM=43π−83π=−43π≈−0.42441 ≥ −12.E_{\mathcal M}=\frac{4}{3\pi}-\frac{8}{3\pi}=-\frac{4}{3\pi}\approx-0.42441\ \ge\ -\frac12 .

M\mathcal M は線型部分空間でないが、変分原理の不等式はそのまま成り立っている。

(3) α=1\alpha=1 では E(1)=32−22/π≈−0.09577E(1)=\frac32-2\sqrt{2/\pi}\approx-0.09577。{g1}⊂M⊂{正規化された全関数}\{g_1\}\subset\mathcal M\subset\{\text{正規化された全関数}\} なので、下限は集合が小さいほど大きく、−0.0958≥−0.4244≥−0.5-0.0958\ge-0.4244\ge-0.5 の順に並ぶ。EME_{\mathcal M} の誤差は 0.07560.0756(15%)だが、この値が分かるのは厳密値 −12-\frac12 を別に知っているからである。上界 EME_{\mathcal M} だけからは「厳密値はこれより下にある」という向きしか分からず、どれだけ下にあるかは分からない(直前の注意)。(検算スクリプト)

木下の勉強ステータス

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