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Slater 行列式の集合は曲がっている

2026年10月9日12分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第5章 Hartree–Fock の変分構造
目次
  1. 1体縮約密度行列
  2. 2つの Slater 行列式の和は Slater 行列式でない
  3. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

近似の数理 第5章 §5.2 ★★★ Hartree–Fock が「射影」でなく「曲がった集合への制限」である理由

定義 (Slater 行列式)

1粒子空間 L2(R3×{↑,↓})L^2(\mathbb{R}^3\times\{\uparrow,\downarrow\}) の正規直交な NN 個の関数(スピン軌道)φ1,…,φN\varphi_1,\dots,\varphi_N に対し

Φ(x1,…,xN)=1N!det⁡[φi(xj)]i,j=1N\Phi(x_1,\dots,x_N)=\frac{1}{\sqrt{N!}}\det\bigl[\varphi_i(x_j)\bigr]_{i,j=1}^N

を Slater 行列式と呼ぶ。行列式は列の入れ替えで符号を変えるので Φ\Phi は自動的に反対称で、正規直交性から ∥Φ∥=1\lVert \Phi\rVert =1 となる。

名前は J. C. Slater による。行列式の形にすることで「同じ状態に2個の電子は入れない」(Pauli の排他律)が自動的に満たされる。φi\varphi_i を V=span⁡{φ1,…,φN}V=\operatorname{span}\{\varphi_1,\dots,\varphi_N\} の中で別の正規直交基底に取り替えると、Φ\Phi は(行列式の性質により)位相因子 det⁡U\det U 倍されるだけである。したがって Slater 行列式は、本質的には「1粒子空間の中の NN 次元部分空間 VV」と1対1に対応する。NN 次元部分空間の全体は Grassmann 多様体と呼ばれる曲がった空間であり、線型空間ではない。

1体縮約密度行列

Slater 行列式かどうかを判定し、さらに Hartree–Fock のエネルギーを簡潔に書くための道具を導入する。

定義 (1体縮約密度行列)

正規化された Ψ∈HN\Psi\in\mathcal{H}_N に対し、

γΨ(x,y)=N∫Ψ(x,x2,…,xN) Ψ(y,x2,…,xN)‾ dx2⋯dxN\gamma_\Psi(x,y)=N\int\Psi(x,x_2,\dots,x_N)\,\overline{\Psi(y,x_2,\dots,x_N)}\,\mathrm{d} x_2\cdots\mathrm{d} x_N

を積分核とする1粒子空間上の作用素 (γΨu)(x)=∫γΨ(x,y)u(y) dy(\gamma_\Psi u)(x)=\int\gamma_\Psi(x,y)u(y)\,\mathrm{d} y を Ψ\Psi の1体縮約密度行列と呼ぶ。対角部分 ρΨ(x)=γΨ(x,x)\rho_\Psi(x)=\gamma_\Psi(x,x) は(スピンつきの)電子密度である。

γ は何を測るか

規格化された1粒子状態 uu に対し ⟨u, γΨu⟩\langle u,\,\gamma_\Psi u\rangle は「状態 uu に何個の電子がいるか」(占有数)である。実際、第二量子化の言葉では ⟨u, γΨu⟩=⟨Ψ, au†auΨ⟩\langle u,\,\gamma_\Psi u\rangle =\langle \Psi,\,a_u^\dagger a_u\Psi\rangle であり、フェルミ粒子では 0≤au†au≤10\le a_u^\dagger a_u\le1 だから 0≤⟨u, γΨu⟩≤10\le\langle u,\,\gamma_\Psi u\rangle \le1 となる。これが Pauli の排他律の、作用素としての表現である。γΨ\gamma_\Psi は1粒子の観測量の期待値をすべて決める(⟨Ψ, ∑iAiΨ⟩=Tr⁡[AγΨ]\langle \Psi,\,\sum_i A_i\Psi\rangle =\operatorname{Tr}[A\gamma_\Psi])。「縮約」の名は、N−1N-1 個の変数を積分して1体の量へ縮めることに由来する。

ここで作用素の用語を確認しておく。1粒子空間上の作用素 AA が 0≤A≤10\le A\le 1 を満たすとは、すべての uu について 0≤⟨u, Au⟩≤∥u∥20\le\langle u,\,Au\rangle \le\lVert u\rVert ^2 が成り立つことをいう。γΨ\gamma_\Psi は自己共役(γΨ(x,y)=γΨ(y,x)‾\gamma_\Psi(x,y)=\overline{\gamma_\Psi(y,x)})で、固有値 λk\lambda_k と正規直交な固有関数 uku_k によって γΨ=∑kλk∣uk⟩⟨uk∣\gamma_\Psi=\sum_k\lambda_k| u_k \rangle \langle u_k | と分解できる(自然軌道と占有数)。0≤γΨ≤10\le\gamma_\Psi\le1 は「すべての λk\lambda_k が [0,1][0,1] に入る」と同じであり、Tr⁡γΨ=∑kλk=∫ρΨ=N\operatorname{Tr}\gamma_\Psi=\sum_k\lambda_k=\int\rho_\Psi=N が成り立つ。

命題 5.3(Slater 行列式の特徴づけ ★★★)

正規化された Ψ∈HN\Psi\in\mathcal{H}_N が Slater 行列式であるための必要十分条件は、γΨ\gamma_\Psi が射影(γΨ2=γΨ\gamma_\Psi^2=\gamma_\Psi)であることである。このとき γΨ\gamma_\Psi は V=span⁡{φ1,…,φN}V=\operatorname{span}\{\varphi_1,\dots,\varphi_N\} への直交射影 ∑i=1N∣φi⟩⟨φi∣\sum_{i=1}^N| \varphi_i \rangle \langle \varphi_i | に等しい。

証明

(必要性)Ψ\Psi が Slater 行列式なら、定義に代入して直交性を使うと γΨ(x,y)=∑i=1Nφi(x)φi(y)‾\gamma_\Psi(x,y)=\sum_{i=1}^N\varphi_i(x)\overline{\varphi_i(y)} を得る(例題 5.3 で N=2N=2 を手で確かめる)。これは VV への射影である。

(十分性)γΨ\gamma_\Psi が射影で Tr⁡γΨ=N\operatorname{Tr}\gamma_\Psi=N なら、それはある NN 次元部分空間 VV への射影である。VV に直交する任意の χ\chi について ⟨χ, γΨχ⟩=0\langle \chi,\,\gamma_\Psi\chi\rangle =0 であり、定義を書き下すと

⟨χ, γΨχ⟩=N∫∣∫χ(x1)‾Ψ(x1,x2,…,xN) dx1∣2dx2⋯dxN=0\langle \chi,\,\gamma_\Psi\chi\rangle =N\int\Bigl|\int\overline{\chi(x_1)}\Psi(x_1,x_2,\dots,x_N)\,\mathrm{d} x_1\Bigr|^2\mathrm{d} x_2\cdots\mathrm{d} x_N=0

となる。よって Ψ\Psi は第1変数の関数として VV に入る。反対称性から他の変数についても同じであり、Ψ\Psi は V⊗⋯⊗VV\otimes\cdots\otimes V の反対称部分に入る。dim⁡V=N\dim V=N のとき、この反対称部分は1次元で、φ1∧⋯∧φN\varphi_1\wedge\cdots\wedge\varphi_N(Slater 行列式)で張られる。

2つの Slater 行列式の和は Slater 行列式でない

和が集合から出る

N=2N=2 とし、正規直交な4つのスピン軌道 φ1,…,φ4\varphi_1,\dots,\varphi_4 から2つの Slater 行列式 Φ12\Phi_{12}(φ1,φ2\varphi_1,\varphi_2 から作る)と Φ34\Phi_{34} を作る。重ね合わせ Ψ=(Φ12+Φ34)/2\Psi=(\Phi_{12}+\Phi_{34})/\sqrt2 の1体縮約密度行列を計算すると、交差項は直交性で消えて

γΨ=12(∣φ1⟩⟨φ1∣+∣φ2⟩⟨φ2∣+∣φ3⟩⟨φ3∣+∣φ4⟩⟨φ4∣)\gamma_\Psi=\tfrac12\bigl(| \varphi_1 \rangle \langle \varphi_1 |+| \varphi_2 \rangle \langle \varphi_2 |+| \varphi_3 \rangle \langle \varphi_3 |+| \varphi_4 \rangle \langle \varphi_4 |\bigr)

となる。固有値が 1/21/2 なので射影ではなく、命題 5.3 により Ψ\Psi は Slater 行列式でない。2つの点を結ぶ線分が集合から外へ出るのだから、Slater 行列式の集合は線型空間でも凸集合でもない。

この事実の帰結を整理する。第4章の Rayleigh–Ritz 法では、HH を部分空間 VnV_n に射影した行列 PnHPnP_nHP_n の固有値問題を解けばよかった。射影は線型写像なので、問題は行列の固有値問題という線型代数に帰着し、min-max 原理から interlacing が出た。Slater 行列式の集合には「射影」に当たる線型写像がない。代わりに出てくるのは、曲がった集合上の最小化問題と、その Euler–Lagrange 方程式としての非線型固有値問題である。具体的には次の違いが生じる。

  • 最小点の一意性は保証されない。局所最小や、対称性を破った解が現れうる(§5.9 の H2_2 の UHF 解)。
  • 方程式を反復で解くとき、反復が収束する保証がない(§5.5)。
  • 部分空間を広げて誤差を 0 に近づける列が無いので、誤差(相関エネルギー)は計算精度を上げても消えない。

それでも上界性は残る。これが「曲がった集合への制限」としての A 型近似の姿である。

図

図 5.1 1粒子空間が2次元、N=1N=1 のときの密度行列の全体(Bloch 球の断面)。0≤γ≤10\le\gamma\le1, Tr⁡γ=1\operatorname{Tr}\gamma=1 を満たす γ\gamma の全体 G1\mathcal G_1 は球体で、その端点(球面)が射影=Slater 行列式の集合 P1\mathcal P_1 である。球面上の2点を結ぶ線分(破線)は球面から外れる。Lieb の変分原理(§5.4)は、Hartree–Fock のエネルギーの最小を球面上で探しても球体全体で探しても同じだと主張する。

例題 5.2 2電子の Slater 行列式を判定する2次式 ★★

オリジナルN=2N=2 とし、正規直交なスピン軌道 e1,…,e4e_1,\dots,e_4 が張る4次元の1粒子空間だけを考える。ei,eje_i,e_j から作った Slater 行列式を Φij\Phi_{ij} と書き、実係数の重ね合わせ Ψ=∑i<jcijΦij\Psi=\sum_{i<j}c_{ij}\Phi_{ij}(∑i<jcij2=1\sum_{i<j}c_{ij}^2=1)を考える。4×44\times4 の反対称行列 AA を Aij=cijA_{ij}=c_{ij}、Aji=−cijA_{ji}=-c_{ij}(i<ji<j)で定める。

  1. γΨ\gamma_\Psi の eie_i 基底での行列が AATAA^{\mathsf T} であることを示せ。
  2. γΨ\gamma_\Psi の固有値が μ12,μ12,μ22,μ22\mu_1^2,\mu_1^2,\mu_2^2,\mu_2^2(μ12+μ22=1\mu_1^2+\mu_2^2=1)の形であることを示せ。実の反対称行列の固有値は ±iμ1,±iμ2\pm\mathrm i\mu_1,\pm\mathrm i\mu_2(μk≥0\mu_k\ge0)の形であることを使ってよい。
  3. det⁡A=(c12c34−c13c24+c14c23)2\det A=(c_{12}c_{34}-c_{13}c_{24}+c_{14}c_{23})^2 を使い、Ψ\Psi が Slater 行列式であるための必要十分条件が c12c34−c13c24+c14c23=0c_{12}c_{34}-c_{13}c_{24}+c_{14}c_{23}=0 であることを示せ。
  4. Ψθ=cos⁡θ Φ12+sin⁡θ Φ34\Psi_\theta=\cos\theta\,\Phi_{12}+\sin\theta\,\Phi_{34}(θ=π/6\theta=\pi/6)と Ψ′=(Φ12+Φ13)/2\Psi'=(\Phi_{12}+\Phi_{13})/\sqrt2 はそれぞれ Slater 行列式か。
解答

(1) Φij(x1,x2)=12(ei(x1)ej(x2)−ej(x1)ei(x2))\Phi_{ij}(x_1,x_2)=\frac1{\sqrt2}\bigl(e_i(x_1)e_j(x_2)-e_j(x_1)e_i(x_2)\bigr) なので、AA の反対称性を使うと

Ψ(x1,x2)=12∑i,j=14Aij ei(x1)ej(x2)\Psi(x_1,x_2)=\frac1{\sqrt2}\sum_{i,j=1}^4A_{ij}\,e_i(x_1)e_j(x_2)

と書ける(i<ji<j の項と i>ji>j の項が組になって Φij\Phi_{ij} を作る)。γΨ(x,y)=2∫Ψ(x,x2)Ψ(y,x2)‾ dx2\gamma_\Psi(x,y)=2\int\Psi(x,x_2)\overline{\Psi(y,x_2)}\,\mathrm{d} x_2 に代入し、x2x_2 の積分で ∫ejel‾=δjl\int e_j\overline{e_l}=\delta_{jl} を使うと

γΨ(x,y)=2⋅12∑i,k(∑jAijAkj)ei(x)ek(y)‾=∑i,k(AAT)ik ei(x)ek(y)‾.\gamma_\Psi(x,y)=2\cdot\frac12\sum_{i,k}\Bigl(\sum_jA_{ij}A_{kj}\Bigr)e_i(x)\overline{e_k(y)}=\sum_{i,k}(AA^{\mathsf T})_{ik}\,e_i(x)\overline{e_k(y)} .

(2) AT=−AA^{\mathsf T}=-A なので AAT=−A2AA^{\mathsf T}=-A^2。AA の固有値が ±iμ1,±iμ2\pm\mathrm i\mu_1,\pm\mathrm i\mu_2 なら、−A2-A^2 の固有値は −(±iμk)2=μk2-(\pm\mathrm i\mu_k)^2=\mu_k^2 で、それぞれ2個ずつ現れる。跡は Tr⁡AAT=∑i,jAij2=2∑i<jcij2=2\operatorname{Tr} AA^{\mathsf T}=\sum_{i,j}A_{ij}^2=2\sum_{i<j}c_{ij}^2=2 なので 2μ12+2μ22=22\mu_1^2+2\mu_2^2=2。これは Tr⁡γΨ=N=2\operatorname{Tr}\gamma_\Psi=N=2 そのものである。

(3) 命題 5.3 により、Ψ\Psi が Slater 行列式であることは γΨ\gamma_\Psi の固有値がすべて 0 か 1 であることと同値である。μ12+μ22=1\mu_1^2+\mu_2^2=1 のもとでは、これは {μ12,μ22}={1,0}\{\mu_1^2,\mu_2^2\}=\{1,0\}、つまり μ12μ22=0\mu_1^2\mu_2^2=0 と同値になる。一方 det⁡A\det A は固有値の積 (iμ1)(−iμ1)(iμ2)(−iμ2)=μ12μ22(\mathrm i\mu_1)(-\mathrm i\mu_1)(\mathrm i\mu_2)(-\mathrm i\mu_2)=\mu_1^2\mu_2^2 だから、条件は det⁡A=0\det A=0、すなわち c12c34−c13c24+c14c23=0c_{12}c_{34}-c_{13}c_{24}+c_{14}c_{23}=0 である。

この条件は係数 cijc_{ij} の2次式が 0 になることを要求している。2次式の零点の集合は一般に平らでなく、2つの解の和は解にならない(和をとると交差項 c12c34′+c12′c34−⋯c_{12}c'_{34}+c'_{12}c_{34}-\cdots が残る)。Slater 行列式の集合が曲がっているという主張を、6個の係数の空間の中の1本の2次方程式として目で見た形がこれである。

(4) Ψθ\Psi_\theta では c12=cos⁡θc_{12}=\cos\theta、c34=sin⁡θc_{34}=\sin\theta、他は 0。2次式の値は cos⁡θsin⁡θ=3/4≠0\cos\theta\sin\theta=\sqrt3/4\ne0 なので Slater 行列式でない。AATAA^{\mathsf T} は対角行列 diag⁡(cos⁡2θ,cos⁡2θ,sin⁡2θ,sin⁡2θ)\operatorname{diag}(\cos^2\theta,\cos^2\theta,\sin^2\theta,\sin^2\theta) で、固有値は 34\frac34 と 14\frac14 が2個ずつである。Ψ′\Psi' では c12=c13=1/2c_{12}=c_{13}=1/\sqrt2、他は 0 で、2次式の各項はどれも 0 を含むので値は 0。実際 Ψ′\Psi' は e1e_1 と (e2+e3)/2(e_2+e_3)/\sqrt2 から作った Slater 行列式に等しい。2つの Slater 行列式の和は、共通の軌道を持てば Slater 行列式のままのことがあり、直前の例のように共通の軌道を持たなければ集合から外へ出る。(検算スクリプト)

木下の勉強ステータス

木下はまだこの記事を勉強していません。

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