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Euler–Lagrange 方程式と自己無撞着場

2026年10月9日13分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第5章 Hartree–Fock の変分構造
目次
  1. Hartree–Fock 方程式の導出
  2. 自己無撞着場(SCF)は不動点
  3. SCF 反復は振動しうる
  4. ヘリウムの SCF 計算
  5. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

近似の数理 第5章 §5.5 ★★★ 「平均場の方程式」の正体は制約つき変分の停留条件であり、その解法は不動点反復である

Hartree–Fock 方程式の導出

Slater 行列式の範囲で EHF\mathcal E^{\mathrm{HF}} を最小化する。軌道 φ1,…,φN\varphi_1,\dots,\varphi_N に正規直交性の制約 ⟨φi, φj⟩=δij\langle \varphi_i,\,\varphi_j\rangle =\delta_{ij} がかかっているので、Lagrange 乗数 Λij\Lambda_{ij}(Λji=Λij‾\Lambda_{ji}=\overline{\Lambda_{ij}})を導入して

L=EHF−∑i,jΛji(⟨φi, φj⟩−δij)\mathcal L=\mathcal E^{\mathrm{HF}}-\sum_{i,j}\Lambda_{ji}\bigl(\langle \varphi_i,\,\varphi_j\rangle -\delta_{ij}\bigr)

の停留点を探す。φk→φk+ε η\varphi_k\to\varphi_k+\varepsilon \,\eta と動かしたとき、展開 (5.8) の1次の項から EHF\mathcal E^{\mathrm{HF}} の変化は 2εRe⁡⟨η, Fγφk⟩2\varepsilon \operatorname{Re}\langle \eta,\,F_\gamma\varphi_k\rangle である(δ=ε(∣η⟩⟨φk∣+∣φk⟩⟨η∣)+O(ε2)\delta=\varepsilon (| \eta \rangle \langle \varphi_k |+| \varphi_k \rangle \langle \eta |)+\mathcal{O}(\varepsilon ^2))。任意の η\eta について停留する条件は

Fγφk=∑jΛjkφj(k=1,…,N)F_\gamma\varphi_k=\sum_j\Lambda_{jk}\varphi_j\qquad(k=1,\dots,N)

である。これは「FγF_\gamma が占有空間 V=Ran⁡γV=\operatorname{Ran}\gamma を自分自身に写す」こと、同値に [Fγ, γ]=0\left[F_\gamma,\,\gamma\right]=0 を意味する。

EHF\mathcal E^{\mathrm{HF}} と FγF_\gamma は γ\gamma だけで決まり、VV の中での正規直交基底の取り替え(ユニタリ変換)で不変である。そこで VV の中で Λ\Lambda を対角化する基底を選べば、

 Fγφi=εiφi,γ=∑i=1N∣φi⟩⟨φi∣ (5.13)\boxed{\ F_\gamma\varphi_i=\varepsilon _i\varphi_i,\qquad \gamma=\sum_{i=1}^N| \varphi_i \rangle \langle \varphi_i |\ }\tag{5.13}

を得る。これが(正準な)Hartree–Fock 方程式で、Lagrange 乗数の固有値 εi\varepsilon _i が軌道エネルギーである。

(5.13) は見かけは固有値問題だが、演算子 FγF_\gamma が求めたい φi\varphi_i 自身を通じて決まるので、非線型の固有値問題である。第4章の線型固有値問題の理論(min-max、interlacing)はそのままは適用できない。

軌道エネルギーの和は全エネルギーではない

εi=⟨φi, Fγφi⟩=hii+∑j(Jij−Kij)\varepsilon _i=\langle \varphi_i,\,F_\gamma\varphi_i\rangle =h_{ii}+\sum_j(J_{ij}-K_{ij}) なので、∑iεi=∑ihii+∑i,j(Jij−Kij)\sum_i\varepsilon _i=\sum_ih_{ii}+\sum_{i,j}(J_{ij}-K_{ij}) となり、(5.7) と比べて電子間相互作用を2回数えている。正しくは EHF=∑iεi−12∑i,j(Jij−Kij)\mathcal E^{\mathrm{HF}}=\sum_i\varepsilon _i-\frac12\sum_{i,j}(J_{ij}-K_{ij})。

自己無撞着場(SCF)は不動点

(5.13) の解き方として自然なのは、「γ\gamma を仮定 → FγF_\gamma を作る → その下から NN 個の固有関数を占有 → 新しい γ\gamma」という反復である。FγF_\gamma の下から NN 個の固有関数への射影を Φ(γ)\Phi(\gamma) と書くと(FγF_\gamma のスペクトル射影 1(−∞,εN](Fγ)\mathbf 1_{(-\infty,\varepsilon _N]}(F_\gamma))、解は写像

γ ⟼ Φ(γ)\gamma\ \longmapsto\ \Phi(\gamma)

の不動点 γ=Φ(γ)\gamma=\Phi(\gamma) である。これを自己無撞着場(self-consistent field, SCF)と呼ぶ。名前は「仮定した場(FγF_\gamma)が、その場の中で電子が作る場と一致する」ことに由来する。基底関数で展開した有限次元版は Roothaan 反復と呼ばれ、量子化学の計算で使われる標準手法である。

ここで注意すべき点が2つある。第一に、Φ\Phi を定義するには εN<εN+1\varepsilon _N<\varepsilon _{N+1}(NN 番目と N+1N+1 番目の固有値の間に隙間がある)ことが要る。縮退していると「下から NN 個」が決まらない。第二に、不動点は Euler–Lagrange 方程式の解、つまり停留点であって最小点とは限らない。Hartree–Fock 方程式には無限個の解(臨界点)があることが Lions によって示されており、方程式を解いただけでは最小解に当たったかどうかは分からない。

SCF 反復は振動しうる

Roothaan 反復は、毎回「現在の FγnF_{\gamma_n} に関する1次近似 EHF(γn)+Tr⁡[Fγn(γ−γn)]\mathcal E^{\mathrm{HF}}(\gamma_n)+\operatorname{Tr}[F_{\gamma_n}(\gamma-\gamma_n)] を最小にする γ\gamma」に跳ぶ操作である。2次の項 Q\mathcal Q を無視しているので、歩幅が大きすぎて最小点を飛び越え、2つの状態の間を往復することがある。Cancès と Le Bris は、Roothaan 反復が(ある仮定のもとで)収束するか、2つの状態の間を振動するかのどちらかになることを示し、エネルギーが必ず下がる最適減衰法(optimal damping algorithm, ODA)を提案した。ODA の考え方は次のとおりである。

γn+1=(1−λn)γn+λnΦ(γn),λn=arg min⁡λ∈[0,1]EHF((1−λ)γn+λΦ(γn)).\gamma_{n+1}=(1-\lambda_n)\gamma_n+\lambda_n\Phi(\gamma_n),\qquad \lambda_n=\operatorname*{arg\,min}_{\lambda\in[0,1]}\mathcal E^{\mathrm{HF}}\bigl((1-\lambda)\gamma_n+\lambda\Phi(\gamma_n)\bigr).

内分 γn+1\gamma_{n+1} は一般に射影でないが、凸集合 GN\mathcal G_N には入っている。Lieb の変分原理(定理 5.8)があるので、GN\mathcal G_N 上で最小化を進めて構わない。しかも EHF\mathcal E^{\mathrm{HF}} は λ\lambda の2次式なので、λn\lambda_n は閉じた式で求まる。曲がった集合上の反復を凸集合上の反復に置き換えたことで、「エネルギーが単調に下がる」という性質を持った反復が作れたのである。

例題 5.6 2準位模型での SCF の振動と減衰 ★★

オリジナル1粒子空間を C2\mathbb{C}^2(基底 e1,e2e_1,e_2)、粒子数を1とし、γ=(pccˉ1−p)\gamma=\begin{pmatrix}p&c\\\bar c&1-p\end{pmatrix} の上のエネルギー

E(γ)=Tr⁡[hγ]+U2(γ112+γ222),h=(000δ),0<δ<U\mathcal E(\gamma)=\operatorname{Tr}[h\gamma]+\frac U2\bigl(\gamma_{11}^2+\gamma_{22}^2\bigr),\qquad h=\begin{pmatrix}0&0\\0&\delta\end{pmatrix},\quad 0<\delta<U

を考える(各サイトに Hartree 型の自己反発だけがあり、交換項がない玩具模型)。Fock 行列は Fγ=h+Udiag⁡(γ11,γ22)F_\gamma=h+U\operatorname{diag}(\gamma_{11},\gamma_{22}) である。

  1. γ0=∣e1⟩⟨e1∣\gamma_0=| e_1 \rangle \langle e_1 |(p=1p=1)から Roothaan 反復(FγnF_{\gamma_n} の最低固有ベクトルを占有)を行うと、p=1,0,1,0,…p=1,0,1,0,\dots と振動することを示せ。
  2. E\mathcal E の G1\mathcal G_1 上の最小を求めよ。U=2, δ=1/2U=2,\ \delta=1/2 では p∗p^* と最小値はいくらか。
  3. ODA を p0=1p_0=1 から1回行うと p∗p^* に到達することを示せ。固定の減衰率 λ\lambda を使うとどうなるか。
  4. 最小点で FF の2つの固有値はどうなっているか。Hartree–Fock では何が違うか。
解答

(1) p=1p=1 のとき F=diag⁡(U,δ)F=\operatorname{diag}(U,\delta)。δ<U\delta<U なので最低固有ベクトルは e2e_2 で、p1=0p_1=0。すると F=diag⁡(0,δ+U)F=\operatorname{diag}(0,\delta+U) で最低は e1e_1、p2=1p_2=1。以下この繰り返しである。不動点になる純粋状態は無い。e1e_1 を占有したまま不動であるには F11≤F22F_{11}\le F_{22}、つまり U≤δU\le\delta が要り、e2e_2 では δ+U≤0\delta+U\le0 が要るが、どちらも仮定に反する。

(2) hh も相互作用も対角成分しか見ないので、E\mathcal E は pp だけで決まる。E(p)=δ(1−p)+U2(p2+(1−p)2)\mathcal E(p)=\delta(1-p)+\frac U2\bigl(p^2+(1-p)^2\bigr)、E′(p)=−δ+U(2p−1)=0\mathcal E'(p)=-\delta+U(2p-1)=0 より p∗=U+δ2Up^*=\frac{U+\delta}{2U}。U=2, δ=12U=2,\ \delta=\frac12 では p∗=58p^*=\frac58、E(p∗)=12⋅38+(2564+964)=2332=0.71875\mathcal E(p^*)=\frac12\cdot\frac38+\bigl(\frac{25}{64}+\frac9{64}\bigr)=\frac{23}{32}=0.71875。端点の値 E(1)=1\mathcal E(1)=1、E(0)=32\mathcal E(0)=\frac32 より低い。

(3) p0=1p_0=1 で Φ(γ0)\Phi(\gamma_0) は p=0p=0。線分 p=(1−λ)⋅1+λ⋅0p=(1-\lambda)\cdot1+\lambda\cdot0 上で E\mathcal E を最小化すると、p∗=5/8p^*=5/8 が線分上にあるので λ0=3/8\lambda_0=3/8 で p1=p∗p_1=p^* に到達する。固定の λ\lambda では pn+1=(1−λ)pn+λqnp_{n+1}=(1-\lambda)p_n+\lambda q_n(qnq_n は pn<p∗p_n<p^* なら 1、pn>p∗p_n>p^* なら 0)となり、pnp_n は p∗p^* の両側を行き来しながら幅 λ\lambda 程度の範囲で揺れ続ける(λ=0.1\lambda=0.1 で 200 回反復しても揺れが残ることを数値で確かめた)。減衰を小さくしても振幅が小さくなるだけで、収束はしない。

(4) p∗p^* では F11=Up∗=U+δ2=δ+U(1−p∗)=F22F_{11}=Up^*=\frac{U+\delta}2=\delta+U(1-p^*)=F_{22} で、FF は単位行列の定数倍になる。占有軌道と非占有軌道のエネルギーが縮退しており、電子は2つの軌道に分数占有で分かれている(満たされない殻)。Roothaan 反復はこの縮退点の近くでは必ずどちらかの端に跳ぶので、たどり着けない。本物の Hartree–Fock では、次節の定理 5.9 がこの状況(最小点での縮退)を禁じる。玩具模型で縮退が起きたのは交換項(自己相互作用の相殺)を持たないからである。ただし本物の HF でも、最小点に隙間があるからといって Roothaan 反復が収束する保証にはならず、振動が実際に起こる。(検算スクリプト)

ヘリウムの SCF 計算

実際に SCF を回してみる。ヘリウムの 1s21s^2 閉殻を、空間軌道を nn 個の s 型ガウス関数 e−αkr2\mathrm{e}^{-\alpha_kr^2}(αk=α0βk\alpha_k=\alpha_0\beta^k、even-tempered 基底)の線型結合に制限して解く。ガウス関数の重なり・運動・核引力・電子間反発の積分はすべて閉じた式で書ける(核引力と電子間反発には F0(t)=12π/t erftF_0(t)=\frac12\sqrt{\pi/t}\,\mathrm{erf}\sqrt t が現れる)。初期値は電子間相互作用を無視した hh の固有関数とし、α0,β\alpha_0,\beta はエネルギーが最小になるように選んだ。

表 5.1 ヘリウムの RHF エネルギー(自作 SCF、even-tempered s 型ガウス nn 個)。HF 極限 EHF=−2.861680E^{\mathrm{HF}}=-2.861680 との差も示す。
nnα0\alpha_0β\betaEnE_n [hartree]En−EHFE_n-E^{\mathrm{HF}}
10.767–−2.300987-2.3009875.6×10−15.6\times10^{-1}
20.5327.70−2.747066-2.7470661.1×10−11.1\times10^{-1}
40.3194.60−2.852538-2.8525389.1×10−39.1\times10^{-3}
60.2343.58−2.860581-2.8605811.1×10−31.1\times10^{-3}
80.1893.07−2.861507-2.8615071.7×10−41.7\times10^{-4}
100.1602.76−2.861647-2.8616473.3×10−53.3\times10^{-5}

表 5.1 の n=1n=1 の値は閉じた式 −(33−82)/(3π)-(33-8\sqrt2)/(3\pi) で書ける。基底を増やすと値は単調に下がり、HF 極限に近づく(検算スクリプト)。この収束は第4章の線型理論の範囲の話である。軌道の空間(1粒子空間の部分空間)を広げているだけで、Slater 行列式への制限は固定されているからである。ガウス関数は原点で滑らかなので、原子核の位置での波動関数の尖り(cusp)を再現できず、収束が遅くなる。これは第4章で述べた「収束の速さは解の正則性で決まる」の一例である。

図 5.2 は n=10n=10 での SCF 反復の収束を示す。誤差は反復ごとにほぼ一定の比(およそ 1/231/23)で縮む1次収束である。エネルギーの誤差は密度の誤差の2乗で決まる(停留点では1次の変化が消える)ので、密度の誤差は1回の反復でおよそ 0.210.21 倍になっている。ヘリウムは占有軌道と非占有軌道の軌道エネルギーの隙間が大きく、Roothaan 反復が素直に収束する例である。

図

図 5.2 ヘリウム RHF(even-tempered ガウス 10 個)の SCF 反復ごとのエネルギー誤差。初期値は相互作用を無視した hh の固有関数(E0=−2.75002E_0=-2.75002)。直線的な減少は1次収束を表す(scripts/gen_ch05.py)。

木下の勉強ステータス

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